そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

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シラオキ様のありがた~いお告げ


逃亡者とお告げ

 

 

「ス、スズカさん!秋の天皇賞でファントムさんと走るとは真ですか!?」

 

 

「う、うん。そのつもりだけど……。それがどうかしたの?フクキタル」

 

 

 午前中の授業が終わってカフェテリアで食事を取っている時。フクキタルにそう詰め寄られました。そ、そんなに大変なことかしら……?それに、フクキタルの声に呼ばれるようにエアグルーヴとタイキもこっちに来たわ。

 

 

「オゥ、フクキタル。どうしたんデスカ?そんなに血相を変えて」

 

 

「そんなに驚くことでもなかろう。まぁ確かにインタビューでの宣戦布告は度肝を抜かれたが」

 

 

 そうかしら?私は宣戦布告をしたつもりはないのだけれど……。ただ、ファントムと一緒に走りたいって言っただけで。けど、ニュースを見る限り私の言葉は宣戦布告と取られていたみたいです。

 フクキタルはまだ慌てた様子ね。

 

 

「ややや、止めといたほうがいいですよぉ!今度の秋の天皇賞、スズカさんの運勢は凶も凶!大凶です!」

 

 

 フクキタルの言葉にエアグルーヴは呆れたように溜息を吐いてる。フクキタルの言葉は今に始まったことじゃないから、またいつものが始まった程度に思っているのかもしれないわね。

 

 

「そう言われても……。私はファントムと一緒に走ってみたいし」

 

 

「そうは言いますがスズカさん!」

 

 

 私の言葉にフクキタルはさらに詰めよってきました。ずずいっと。あ、圧が凄いわね。

 

 

「今度の秋の天皇賞……ッ!何か良くないことが起こるというお告げが出ています!それも、スズカさんにとって何か重大な危機が迫っていると!」

 

 

「フクキタル。それはいつものシラオキ様の言葉か?」

 

 

「はい!シラオキ様のお告げです!」

 

 

 あ、エアグルーヴがまた溜息を吐いてる。気持ちは分からないでもないけど……。タイキは逆に、気になっているのか興味津々といった感じの態度をしているわ。

 

 

「重大な危機って……例えば?」

 

 

「そ、それは~……え~っとぉ……」

 

 

 露骨に目を逸らさないでくれるかしらフクキタル。

 

 

「でも、ジューダイな危機ってことはスズカが危ないってことデスカ?でしたら、ワタシが守りマース!」

 

 

「タイキ、お前は秋の天皇賞に出ないだろう」

 

 

「オゥ!そうデシタ!」

 

 

 タイキはあっけらかんと笑っているわ。エアグルーヴはもう何度目か分からない溜息ね。割といつも通りなんだけど……フクキタルはうんうん唸ってるわ。そんなに重大な危機が迫っているのかしら?

 

 

「ちなみになんだけど……それにファントムは関係あるのかしら?」

 

 

「は、はい!ファントムさんも関係大有りです!」

 

 

「だとすると……ファントムにつき纏っている、あの話が関係しているのかしら?」

 

 

「あぁ、アレか」

 

 

 ファントムにつき纏っている話。それはファントムと同じレースに出走して2着になったウマ娘は例外なく学園を辞めているというもの。辞めていく理由は定かではないのだけれど……噂ではファントムが何かしたのだとか言われているわ。そんな子じゃないのに。失礼な噂ね、全く。

 

 

「フクキタル。お前はあの噂を信じているのか?ファントムが自分のレースで2着になったウマ娘に対して何かをやったという噂を」

 

 

 エアグルーヴは厳しい目をフクキタルに向けてるわね。けど、フクキタルは首を横に振ったわ。

 

 

「そんな滅相もない!ファントムさんがそんなウマ娘でないのは十分知っておりますので!私の占いにも良く来てくれますし!常連客です!」

 

 

「ウソでしょ……」

 

 

「珍しいデスネ!フクキタルの占いの常連客だナンテ!」

 

 

「どーいう意味ですかタイキさん!?」

 

 

 フクキタル、心外そうな表情をしているけど否定できないと思うわ……。

 

 

「そうだ。ファントムがそんな奴ではないということは私も知っているからな。地域のボランティアにも積極的に参加しているようだし、私も花壇の手入れを手伝って貰ったことがある。とても他の生徒に危害を加えるような奴には見えん」

 

 

「たまにゴールドシップと結託して何かやってるけどね……」

 

 

「……たまには羽目を外したくなる時もあるんだろう。アイツにもな」

 

 

 心当たりがあるのかエアグルーヴは伏し目がちに答えます。タイキの方に目を向けると、頬を膨らませていました。

 

 

「ム~!みんなズルいデース!ワタシはファントムとあまり接点がないのに!ワタシもファントムと一緒にパーティしたいデース!」

 

 

「誘えば行くと思うわよタイキ。今度誘ってみたら?」

 

 

「そうしマース!あわよくば、ファントムのフェイスを見てみたいデース!」

 

 

 それは無理だと思うわタイキ。ファントムはかなりガード固いもの。ただ、今度はフクキタルが神妙な顔つきで私達を見ているわ。どうしたのかしら?

 

 

「私はファントムさんは信頼しています。ですが!ファントムさんには何か良くないものが憑いているとお告げがありました!シラオキ様も警戒していますし、きっと悪霊の類です!」

 

 

「ゴーストデスカ?」

 

 

「まぁ確かにファントムは良く誰もいないところで会話をしているけど……」

 

 

「それはいつものことだろう。今更どうしたという話でもあるまい」

 

 

「話はそう単純ではありません!ファントムさんにとり憑いているものは、とびっきり強力な力を持った霊です!」

 

 

「それを言われてもそうなのね、としか返せないのだけど……」

 

 

 フクキタルは私の言葉に一瞬怯んだけど、また私に警告するように言ってきたわ。

 

 

「と、とにかく!今度の秋の天皇賞はスズカさんにとって何か良くないことが起こるとお告げが出ているので、心してかかってください!絶対ですよ!」

 

 

「ま、まぁフクキタルが私を心配しているのはよく分かったわ」

 

 

 その気持ちはありがたいのだけど、私は出走を辞めるつもりはないわ。だって、本当に楽しみなんだもの。ファントムと一緒に走れるのが。

 内心ウキウキしていると、エアグルーヴが不思議そうな表情で私を見ているのに気づきました。どうしたのかしら?

 

 

「スズカ。そんなにファントムと一緒に走るのが楽しみなのか?」

 

 

「?えぇ」

 

 

「一応、理由を聞いてもいいか?そこまでファントムに固執する理由が見当たらなくてな」

 

 

 そうね。強いていうなら……。

 

 

「ファントムは速いでしょう?」

 

 

「まぁ無敗だからな。確かに速いだろう」

 

 

「私も、速いでしょう?」

 

 

「……まぁ、そうだな。そう言われているな」

 

 

「じゃあ、私の方が速いってことを証明するしかないじゃない?」

 

 私の言葉を聞いてエアグルーヴが今日一の溜息を吐いたわ。タイキとフクキタルも苦笑いを浮かべてる。心外ね。普通そう思うでしょう?

 

 

「そうだった……。スズカはこうだったな……」

 

 

「いつも通りデース」

 

 

「あ、あはは……」

 

 

 そんなに変なことかしら?当たり前のことだと思うのだけれど。

 

 

「それでは!最後にもう一度スズカさんを占って進ぜましょう!」

 

 

 フクキタルが水晶玉を取り出してそう言ってきました。どこから取り出したとか疑問は多々あるのだけれど……。

 

 

「いえ、別にいいのだけれど……」

 

 

「そんな遠慮なさらずに!張り切って占いますよ~!」

 

 

「まぁ……なら、お願いするわ」

 

 

「お任せを!ふんにゃか~はんにゃか~。かしこみかしこみ~……むむむ~!」

 

 

「フンニャカー、ハンニャカー!」

 

 

 タイキがフクキタルを真似るようにそう言いました。思わず笑みが零れますが……どんな結果になったのかしら?ちょっと楽しみ。

 占いが終わったのか、フクキタルが唸るのを止めました。ただ……難しい顔をしてる?一体どんな結果になったのかしら?

 

 

「う、う~ん……一応、結果は出ましたけどぉ……」

 

 

「どうしたんだフクキタル。そんなに変な結果だったのか?」

 

 

「い、いえ。それが……どうにも要領を得なくて……」

 

 

「どーいうことデスカ?」

 

 

「と、とりあえず結果だけ言いますね?」

 

 

 フクキタルは深呼吸を1つした後、お告げ?の結果を私に伝えます。

 

 

「スズカさんは、秋の天皇賞で重大な選択を迫られることとなる。ただ、己が信じる道を往け……っと」

 

 

「重大な選択……?」

 

 

「確かにそれは……要領を得んな……」

 

 

「う~ん……サッパリデース……」

 

 

 選択って、何を迫られるのかしら私。

 

 

「あ、それともう一つありまして。スズカさんは重大な何かを知ることになると」

 

 

「何かって……何?」

 

 

「さ、さすがにそこまでは分からないです」

 

 

「あ!それならワタシ分かりマース!」

 

 

 タイキが手を上げていいました。かなり自信満々なようで、鼻息を荒くしています。

 

 

「重大なシークレット……そして!ファントムが出走するならば答えは1つデース!」

 

 

「……何を言いたいか想像はつくが、言ってみろタイキ」

 

 

「きっとスズカはファントムのフェイスを見ることになりマース!間違いないデース!」

 

 

「た、確かに!?ファントムさんの素顔は重大な秘密……!それを知ることは、重大な何かと言っても過言ではないでしょう!」

 

 

「さすがに過言だと思うわ」

 

 

「同感だ。……まぁ、フクキタルのお告げは話半分に聞いているのが良いだろう」

 

 

 まぁそうね。お告げ自体当たるも八卦当たらぬも八卦、ぐらいの心構えでいるのが一番な気がするから。

 

 

「なんにせよ!次の秋の天皇賞がスズカさんにとっての転機となるでしょう!応援してますよ、スズカさん!」

 

 

「相手は強大だ。頑張れよ、スズカ」

 

 

「応援してマスヨ!スズカ!」

 

 

「えぇ。みんなありがとう。私、頑張るわ」

 

 

 みんなからの激励の言葉を受けて、私は決意を新たにします。食事もとり終わったから、みんなと教室に戻ります。帰っている途中、私は考えます。考えるのは、ファントムのこと。

 

 

(ファントム。あなたは、どんな景色で走っているのかしら?……心優しいあなたのことだから、きっと青空の広がる草原だったり、走っているだけでとても気持ちのいい景色で走っているのかもしれないわね)

 

 

 叶うことならば見てみたい。彼女は、どんな景色を思いながら走っているのか。凄く気になる。でも、私はその景色を見ることができないのが残念でならない。領域(ゾーン)とはそういうものだから仕方ないのだけれど。

 

 

(フフッ。天皇賞、楽しみだわ。後はスペちゃんの菊花賞も。応援に行けないから激励の言葉を贈りましょうか)

 

 

 ウキウキ気分で私は教室に帰りました。




スズカさんウキウキ気分で天皇賞に思いを馳せる。

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