なんだかんだ秋の天皇賞が後1週間に迫りました。練習にも熱が入るってもんです。今は正門前にみんなで集まってます。トレーナーは車に乗り込んでますね。なんです?車と併走でもさせるんですか?……というか、スペちゃん。
「……ねぇ、スペちゃん」
「はい?どうしたんですか?ファントムさん」
いや、何か不思議そうな表情してますけど。
「……また太った?」
「ぎ、ギクッ!?」
スペちゃんはお腹を押さえて後ずさります。隠しても無駄ですよ。そのぽっちゃりお腹は隠せません。
「……負けたストレス太り?」
「ギクギクッ!?」
図星ですか。私は見に行けませんでしたけど、スペちゃん菊花賞負けたみたいですからね。勝ったのはスカイだったみたいで。後で映像を見るとしますか。どれだけ成長したのか気になりますし。
さて、それはともかく一体どんなトレーニングを積むのやら。
「よ~しお前ら、ちゃんと外泊届は出したな?」
「出しましたけど……」
「どっか泊まりに行くの?」
マックイーンとテイオーが当然の疑問をぶつけています。まぁ外泊届を出させるということは間違いなくどこかに泊まるということですからね。
「ならOKだ。じゃあゴルシ、ほいこれ」
「んあ?なんの紙だこれ?」
ゴルシに渡された紙をみんなで覗き込みます。……地図?ですかね?旅館って書いてありますけど。
「ゴールはその旅館だ」
「ゴール、つったってよ……」
「随分山の中にありますのね」
「何時間かかるの?これ」
成程この旅館まで走れってことですか。いいこと考えますね。楽しそうです。
「いいか?これは坂の特訓だ。それに秋のG1戦線を勝ち抜くには当然体力が必要になる。特に、この前菊花賞で負けた奴がいるからな」
「うぐぅっ!?」
あ、スペちゃんが被弾しました。仕方ないと言えば仕方ないですけど。トレーナーが時計を確認しながら車を発進させますね。
「いいかー!今は15時だ!18時までに旅館に着かなかったら飯抜きだからなー!」
「「「えー!?」」」
あらまぁご飯抜きですか。これは気合を入れないといけませんね。トレーナーはさっさと先に行っちゃいました。時間もありませんし、私達もさっさと向かいましょう。ゴルシから地図を奪って、と。すたこらさっさと。おや?考えることは一緒だったのかスズカも来ましたね。
「……あれ?ゴルシ、地図はどうしたのよ?」
「へ?それなら手元に……ねぇ!?」
「みんな見て!スズカとファントムが先に行っちゃったよ!?」
「ちょ!?誰かあの2人を止めてくださいまし!あの2人が先頭だと、わたくし達確実に迷子になりますことよ!?」
「ま、待ってくださいよファントム先輩、スズカ先輩!」
「ま、待ってくださーい!」
さぁキリキリ走りましょー。
「……みんな、頑張って着いてきてね」
「ファントム、負けないわ」
「……これ、勝ち負け関係ある?」
”喧嘩売られた以上負けられるか!もっとスピード上げろ!”
するわけないでしょ。スペちゃん達迷子になっちゃいますって。
もう日が落ちて完全に暗くなりましたが。なんとか旅館にたどり着きました。いやぁ大冒険でしたね。みんなもそう思いませんか?
「ハァ……ハァ……。や、やっと着いた……」
「今ほど明かりが嬉しいと思ったことはないわ……」
「というか、なんで、ファントムはそんなに平気そうなのさ……?」
「息整うの早過ぎだろ姉御……」
まぁ確かに疲れはしましたが。それでも楽しいもんだと思いますけどね。肝心のトレーナーは外で涼みながら待ってました。温泉に入ったのか浴衣姿で。
「おせーぞお前ら。早く風呂入って、汗流してこい!」
「い、言わなくても行きますよ!ったく……」
「ですが、その前に……」
おや?マックイーンがトレーナーに歩み寄ってますね。怖い顔で。
「お礼は……たっぷりとさせてもらいますわ!」
「いだだだだだ!?」
おぉバ○スペシャル。これは完全に決まってますね。お見事です。さて、アレは無視してさっさとお風呂行きましょうお風呂。あ、ちなみにお風呂でも私はお面をつけますよ。防水仕様です。これがあるから私はプール授業も受けられますからね。……余談ですが、お風呂に入っている間スズカやマックイーンからの視線が痛かったです。その視線は主に胸に向けられてました。
「ファントム、そんな重りをつけてると邪魔じゃないかしら?」
「……いや、別に」
「そんなことありませんわ!きっと邪魔なはず!わたくし達に分けてくださってもいいんですのよ!」
「どうやって分けるのよマックイーン」
「しっかし、姉御スタイルいいよなぁ」
「ゴルシも大概でしょ」
「は~っ。お風呂気持ちいいべ~」
お風呂上りにはスズカが海外遠征をすること。日本でのラストランをジャパンカップに決めていることをみんなに打ち明けました。それにしてもジャパンカップがラストランなんですね。……え?じゃあ秋の天皇賞で対決する意味なくないです?ジャパンカップまで待てばいいじゃないですか。なして宣戦布告したんですか?そう主張したら、
「だって、ファントムと早く一緒に走りたかったから……」
そう返されました。うーん、文句を言いづらい。
お風呂に入った後はご飯ですご飯。どうせトレーナーの金ですからね。食べ放題ですよひゃっほい。主にスペちゃんが。トレーナーは嘆いていますがみんな無視してます。根に持ってるんですかね?旅館まで走らされたこと。
そんな時スペちゃんがトレーナーさんに詰め寄ってました。どうしたんですかね?
「トレーナーさん!私、ジャパンカップで走りたいです!」
「……それはアレか?スズカと走りたいっていうアレか?」
「はい!」
スペちゃんは元気よく答えました。まぁ、スペちゃんがジャパンカップで走りたいっていうのは分かっていたことですが。スペちゃんはスズカをすごく尊敬していますし、尊敬している相手が遠くに行っちゃうってなったらそりゃあ一緒にいるうちにレースで走りたいって思いますよね。
「お願いします!トレーナーさん!」
「……チーム的には、どちらかが負けるなんてことは避けたいんだがなぁ。今度の天皇賞だって、本当は取り止めたいぐらいなんだが……ま、いいだろう」
スペちゃんはジャパンカップに参戦決定ですか。頑張ってください。
「ただし、スズカが天皇賞負けたら分からないぞ~?そのまま海外遠征に行っちまうかもしれないな」
「スズカが負けるわけ……って言いたいけど……」
「そうね。今度の天皇賞は、ファントム先輩も出走する……」
みんなが私の方を見ますね。いやん。
「常識破りの大逃げ対決……。どちらが勝つのか全く分かりませんわね……」
「無敗の亡霊VS異次元の逃亡者。どっちが勝つか俺にも予想がつかん。ただ、とんでもねぇレースになることは間違いねぇ」
”俺様に決まってんだろ凡愚が”
はいはい。
「スズカさんにも勝って欲しいけど……!ファントムさんも応援しないとだし……!う、うぅ~!」
「……まぁ、私はただ走るだけ。それは変わらないよ」
たとえそれがどのような結果になろうとも、です。
「そうね、ファントム。楽しいレースにしましょう?きっと、素晴らしいレースになると思うわ」
……えぇ。そうだと、良いですね。
”……クックック。安心しろ、俺様がちゃ~んと、喰らってやるよ”
「……」
”特にこのぱっつん緑は素晴らしいからなぁ。極上の餌だ”
「……そうだね」
”これからもその調子で頼むぜ?他の奴らも、な”
……さて、ご飯を食べますか。それに、私は信じていますよ。スズカ達なら、乗り越えてくれるって。
時刻は深夜。みんな寝静まっている旅館の一部屋で、私は目を覚ましました。
「……う~、変な時間に起きちゃった」
でも、眠気も来ませんし、寝直すこともできませ~ん。……温泉、確かこの時間でもやってるらしいからお風呂にでも入りましょうか。
「ハァ……っ?あれ、テイオーさん?」
「スペちゃん?スペちゃんも温泉に?」
部屋を出た私を待っていたのはテイオーさんでした。苦笑いを浮かべています。考えることは一緒だったみたいですね。
「はいぃ。なんか変な時間に起きちゃって。眠気も来ないから、温泉でリラックスしようかと」
「アハハ。ボクもお手洗いで起きたら眠気がなくなっちゃって。じゃあ一緒に行こうか」
「そうですね」
というわけで、私達は温泉に行くことになりました。道中他愛もない話をしながら、浴場に着きます。おっふろ~おっふろ~。……あれ?
「この時間に、私達以外の利用客がいますね?」
「へ?……ホントだ。珍しいね」
こっちを向いていないので分かりませんけど、1人温泉に入っているウマ娘の方がいました。珍しいですね?私達と一緒で、眠れなかったのでしょうか?
何となく気になって、私達はその人の向かい側に座るように温泉につかります。湯気が晴れて、ウマ娘の方の顔が判明しました。
「……わ、すっごい美人」
「ですね……」
その方は、赤黒い髪を肩まで伸ばしていて、額には丁度真ん中の位置に揺らめいている炎のように白い部分の髪があります。そして、スタイルも抜群だというのが温泉につかっていても分かります。ですが、それ以上に感じたのは……。凄く、荒々しい雰囲気を纏っているということでしょうか?まるで、こちらに噛みつかんばかりの……。浴場も、それに合わせるように凄い緊張感があります。
そうやってマジマジと見ていると、向こうが目を開けてこちらを睨んできました……ッ!ひ、ヒィ!?滅茶苦茶怖いべ!?圧も、凄い増してます!
「……なんだ。人の顔をジロジロ見やがって。そんなに面白れぇか?あ゛ぁ゛?」
猛禽類のような鋭い目つきで、金色の双眸が私達を睨みつけています!?とんでもない圧です!と、とにかく謝りましょう!
「ご、ごめんなさい!ま、まさかこんな時間に私達以外に利用者がいると思わなくって!」
「そ、そうなんだよね!ごめんねー、ジロジロ見ちゃって!」
けど、意外なことにその人はあまり気にした様子もなくそのまままた目を閉じました?
「……フン。まぁいい。温泉につかって気分が良いからな。特別に許してやる」
よ、良かった。どうやら許されたようです。にしても……。
「凄いねスペちゃん。滅茶苦茶怖かったよ……」
「は、はいぃぃぃ……」
蛇に睨まれた蛙のような気分を味わいましたよぉ。向こうは特に気にした様子もなく、鼻歌を歌ってますけど……。何の曲かさっぱりです。しかも鼻歌を歌っていてもこっちは緊張感が凄いですし。
にしても、凄い方ですね。なんていえばいいんでしょう?野性味あふれるというか……。
「おい。テメェには学習能力がねぇのか?なんでまたジロジロと見てやがる?」
また目を開けてこちらを睨んできました!?や、やっぱり怖いべ!?
「すすすすいません!カッコいいというか、美人な方だな~って思いまして……」
「……そうかい」
それだけ言ってまた目を瞑りました。も、もう見ないようにするべ……と思っていたら、その方は急に立ち上がりました。わっ、やっぱりすごいスタイル……。それに、一目見ただけで分かります。この人は、圧倒的に強いと。
「さて、上がるとするか。にしても、温泉ってのはいいな。今度アイツにもっとくるように言っておこう」
そう言って、謎のウマ娘さんは去っていきました。それと同時に、場を支配していた緊張感が一気になくなります。は、はぁ~……。
「凄いウマ娘さんだったべ……」
「そ、そうだねスペちゃん。あの人に睨まれた時、ボク生きた心地がしなかったよ……」
「同感です……」
それぐらい、恐ろしい雰囲気を纏っていました。
「にしても誰だったんだろうね?」
「わ、分かりません。他の利用者の方じゃないですか?」
「まぁそうだろうね~。にしても、凄く強そうだったな~」
「そうですね」
その後はゆっくり温泉につかって眠りにつきました。あのウマ娘さん、誰だったんでしょうか?
【速報】スペちゃんとテイオー、図らずもファントムの素顔を見る。なお、あまりにも雰囲気が違いすぎてファントムだと気づかんかった模様。