そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

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秋の天皇賞開幕。特殊タグ使ってみようと思いましたけど今更感あるので止めました。


逃亡者と天皇賞

 ついに迎えました、天皇賞・秋!スピカのみなさんで、応援に来ています!東京レース場も、たくさんの人で溢れかえっています!心なしか、いつもより多くの人がいる気がします!それくらい多いです!

 

 

 

 

《迎えました11月1日東京レース場第11R、秋の天皇賞!トゥインクル・シリーズでもまずお目にかかることはなかった2人の大逃げウマ娘の激突!やはり注目すべきは大逃げウマ娘の1人、1枠1番1番人気のサイレンススズカでしょう!》

 

 

《こんなに1が並ぶと、運命的な何かを感じますね。無敗の亡霊を抑えての1番人気、ファンの支持に答えることはできるか?》

 

 

 

 

 スズカさんが1番人気なんですね。やっぱり、スズカさんは凄いです!

 

 

「スズカ先輩が1番人気なのね」

 

 

「実績的にファントムが1番人気でもおかしくなさそうだけどね~」

 

 

 確かに、テイオーさんの言う通りこれまでの勝ち数的にファントムさんが1番人気だと思ってました。トゥインクル・シリーズ無敗ですし。ただ、テイオーさんの言葉にトレーナーさんが反応しました。

 

 

「スズカに期待を込めての1番人気だろう。今まで圧倒的な強さでレースを制してきたファントムに、並び立てるかもしれねぇウマ娘が現れたんだ。そりゃあ期待もしたくなるってもんさ」

 

 

 秋の天皇賞、一体どうなるんでしょうか?エルちゃんも出走するって行ってましたし、誰が勝つのか予想がつきません。

 そんな時、一際大きな歓声が東京レース場に響きました。入場してきたのは……ッ!スズカさんです!

 

 

 

 

《さぁ今!東京レース場のターフにサイレンススズカが姿を現しました!会場からは割れんばかりの大歓声!〈異次元の逃亡者〉が〈ターフの亡霊〉の無敗伝説にピリオドを打つのか!?非常に気になる一戦です!》

 

 

 

 

 す、すごい人気です!あ、そうだ!

 

 

「スズカさ~ん!」

 

 

 私が名前を呼んだら、スズカさんも気づいてこちらに来ました。ちょっと不思議そうな表情をしています。私はポケットの中からダービーの時にみなさんから貰ったクローバーの押し花をスズカさんに渡します。

 

 

「スズカさん!これ、持っていってください!」

 

 

「これは……スペちゃんの、ダービーの時の?」

 

 

「はい!ご利益あるかなって思って!」

 

 

 私も元気を貰えましたし、スズカさんにも元気のおすそ分けです!ただ、私がスズカさんに渡した時にみんなが楽しそうな表情を浮かべていました。な、なんでしょうか?

 

 

「へ~、スペはやっぱりスズカを応援すんのか。姉御悲しむだろうな~」

 

 

「うぇっ!?べ、別にそんなつもりじゃあ……」

 

 

「え~?じゃあどんなつもりだったのさスペちゃん?」

 

 

「あ~あ、ファントム先輩可哀想だな~」

 

 

 でも、声からしてみなさん揶揄っているような感じがします。

 

 

「も、もう!みなさん揶揄わないでくださいよ!」

 

 

「「「アハハハハ!」」」

 

 

 そうやってみなさんで笑っていると、もう一度大きな歓声が響き渡りました。多分……。

 

 

 

 

《最後に入場してきたのは秋の天皇賞2番人気!13番、大外枠のファントムがその姿を現しました!》

 

 

《彼女が最後にレースに出走してから大分経ちましたね。レース場で彼女の姿を見るのは久しぶりではないでしょうか?》

 

 

《これまでのレース成績は17戦17勝!無敗の亡霊ファントム!サイレンススズカ同様大逃げで圧倒的な差を見せつけてきました!朝日杯以来のG1出走、彼女の勝負服姿を見るのもこれが2回目です!》

 

 

 

 

 やっぱり、ファントムさんが入場してきました!ファントムさんの勝負服姿、初めて見ます。

 一昔前の軍人さんを思い出させるような、赤を基調とした服に、黒色の外套を羽織っていつもみたいにフードで顔を隠しているスタイル。下は女の子らしいベージュ色のスカートなんですけど、左足は黒色、右足は白色のハイソックスを履いていて靴もそれぞれに合わせた色をしています。

 ……ただ、それ以上に感じるのはファントムさんから発せられる荒々しい雰囲気です。いつもの優しいファントムさんからは想像もできない、まるで別人のような雰囲気を纏っています。ドクロのお面をつけているので顔は分からないんですけど……まるで、周囲を睨みつけているかのような雰囲気を感じます。率直に言うと、凄く怖いです。これが、レースでのファントムさん……ッ!

 

 

「……ファントム先輩も、気合十分ってことね」

 

 

「あぁ。こっからでも、アイツの気迫が伝わってくる……ッ!」

 

 

 ウオッカさん達が応援の声を飛ばしてますけど……ファントムさんは無反応です。いつものファントムさんなら反応してこっちに来そうなものなのに……。

 レースだと、こんなにも違うんですね。ファントム先輩。一体、どんなレースを見せてくれるんでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「楽しんできます、トレーナーさん」

 

 

 トレーナーさんとハイタッチを交わして、私はターフに戻ります。向かう先は、ファントムのところ。ただ。

 

 

(凄く、荒々しい雰囲気……。これが、レースでのあなたなのね)

 

 

 普段の態度とは180°違う、ファントムの雰囲気。少し物怖じしたけど私は話しかけます。

 

 

「ファントム、お互い頑張りましょう」

 

 

「……」

 

 

「それがあなたの勝負服なのね。とても似合ってるわ」

 

 

「……」

 

 

 ファントムは、無反応。ちょっと寂しいけど、これだけは言っておきましょう。

 

 

「先頭は譲らないわ。例え、あなたが相手でも」

 

 

「……」

 

 

「それじゃあ、私はもう……」

 

 

「喰らう。ここにいる奴ら全員」

 

 

 それまで無言だったファントムが、言葉を発しました。ただ……、普段の彼女よりも低い声で。

 

 

「……ファントム?」

 

 

 彼女の名前を思わず呟いたけど、言いたいことは言ったとばかりに彼女は去っていきました。……なんでしょう、いくら何でも違い過ぎないかしら?まるで、別人のような……。

 

 

「考えても仕方ないわね。ゲートに行きましょう」

 

 

 ゲートの前で待っていると、今度はエルさんから話しかけられました。

 

 

「スズカさん!今日はよろしくデース!」

 

 

「エルさん。うん、私の方こそよろしくね」

 

 

 笑顔から一転、エルさんは真面目な表情で私に相対します。

 

 

「スズカさん、エルは大逃げの対策を積んできました。毎日王冠は逃げ切られましたけど……スズカさんもファントムさんも、今日は逃がしませんよ!今日のレースを勝って、エルは凱旋門賞にチャレンジするんデスから!」

 

 

「……フフッ、追いつけるかしら?」

 

 

「逃がしません!」

 

 

 そうして話している間に、ゲートインの時間がやってきました。私は、ゲートに入ります。

 

 

 

 

《13人のウマ娘がゲートに入りました!最注目はやはり2人の大逃げウマ娘!異次元の逃亡者(サイレンススズカ)ターフの亡霊(ファントム)の逃げウマ娘頂上決戦でしょう!ともに規格外の強さを見せてきた2人の逃げウマ娘が雌雄を決する時です!》

 

 

《やはり前走からかなりのブランクがあるからか、今回は2番人気に推されたファントム。しかし、1番人気サイレンススズカとの差は僅かです。それに2人だけではありません。毎日王冠2着のエルコンドルパサーも気合十分ですよ》

 

 

 

 

 ゲートが開くその時を待ちます。

 

 

 

 

《逃げウマ娘2人を捉える子は出てくるのか?G1レース天皇賞・秋が今……》

 

 

 

 

 ……ッ!今ッ!

 ゲートが開いたその瞬間、私は迷わずハナを取るために走ります。最内の私は有利、大外のファントムはかなりの不利を受ける。だからこそ、私は難なくハナを取ることに成功し……ッ!?

 

 

 

 

《スタートです!ゲートが開きました!1番のサイレンススズカが絶好のスタートを切りました!……が、対称的に13番大外のファントムはやはり出遅れた!しかしこのウマ娘に出遅れなんてものは関係ない!大外から一気に先頭へと躍り出ようとしている!》

 

 

 

 

 やっぱり……

 

 

「来たわねッ、ファントム!」

 

 

「……」

 

 

 外から私に並び立つようにファントムが襲い掛かってきました。そして、ハナを取ろうとしてきます。

 

 

(ッ!させない!)

 

 

 そんなファントムに合わせるように、私もスピードを上げます。どっちが速いか……、白黒つけましょうか!ファントム!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は、タキオンさんと一緒に、ファントムさんを応援するために東京レース場に来ました。ただ、私もタキオンさんも、少しげんなりしています。

 

 

「カフェ~、人が多すぎるよぉ。なんとかしておくれよぉ」

 

 

「……無茶、言わないでください。それに、予想できてたことでしょう?」

 

 

 今回の天皇賞は、かなり注目されていますから。スズカさんと、ファントムさん。普通でもめったにお目にかかれない、大逃げという戦法を取る2人のウマ娘が、対決するのですから。しかも、お2人ともかなり強いですし。

 ファントムさんは、2番人気。多分、ファントムさん自身が長くレースを走ってないブランクと、彼女の不敗神話が終わりを告げるのを期待しての、スズカさんの1番人気でしょう。

 レースは、すでに始まっています。

 

 

 

 

《さぁやはりこの2人の争いになった!1番サイレンススズカと13番ファントム2人の一騎打ちだ!すでにこの2人のマッチレースの様相を呈しているぞ!》

 

 

 

 

 やはり、ファントムさんとスズカさんが先頭争いをしています。ですが……。

 

 

「速い、ですね」

 

 

「そうだねぇ。後のことを考えてないぐらい飛ばしてるねぇあの2人は」

 

 

 おそらく、あの2人はスピードの絶対値が高いタイプです。他の人にとってはハイペースでも、あの2人にとってはノーマルペース。そんなところでしょうか。

 ……にしても。

 

 

”カフェ。ファントムの様子、なんかおかしくない?いつものあの子らしくないっていうか……”

 

 

「そう、ですね。普段の彼女とは、雰囲気がまるで別人です。どちらかといえば……」

 

 

 もう一人の、ファントムさんのような。そんな雰囲気を纏っていました。今も、レース前も。

 

 

「確かにそうだねぇ。ゲートに入る前も、他のウマ娘を威嚇するようにプレッシャーを放っていたし……普段の彼女とはまるで別人のようだった」

 

 

 そう言って、タキオンさんは続けます。

 

 

「まぁ、彼女はレースになるとそういうスイッチが入るタイプなんだろう。あまり気にすることじゃないのかもしれない」

 

 

「……ですね」

 

 

 私は、レースを見守ります。ファントムさんの近くには、いつものようにもう一人のファントムさんが追走するように、浮いています。いつも通り、ですね。

 ……もう一人のファントムさん。タキオンさんとの議論で、ファントムさんの亡くなってしまった姉妹という結論が出ました。その線が、高そうですから。見た目と背格好、そして尻尾の色が同じ。ヘアスタイルに関しては、フードを被っているので分かりませんが、多分、色も含めて一緒でしょう。

 ……しかし、何でしょうか?この、違和感は。今走っているのは、本当にファントムさんなのでしょうか?

 

 

「ファントム、さん……」

 

 

 言いようのない不安を抱きながら、私はファントムさんを見ています。果たして、どういう結末を迎えるのでしょうか?




違和感を抱くスズカとカフェ。

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