ファントム君の案内で訪れたスズカ君の病室。部屋には今私とカフェ、そしてスズカ君がいる。
……さて、ファントム君は病室から去っていった。これならば、心置きなく本題に入れるというものだろう。私は早速本題を切り出すことにした。
「さて、スズカ君。早速だが君に聞きたいことがあるんだ」
「……そうね。私とあなた達は何も接点がなかった。それがこうして、あなた達は私の病室に訪れている。だから、何か聞きたいことがあるんじゃないかって思ってたわ」
ふぅム。やはりバレていたようだ。まぁあからさまだからねぇ。分かりきっていたことだ。
「安心してください、スズカさん。変なことを聞いたら、私が止めますので」
「酷い言い草だねぇカフェ。スズカ君、聞きたいことがあるとは言ったが……答えにくいことだったら答えてくれなくても構わない。無理に聞き出す気はないからね」
「……分かったわ」
本人からの了承も貰えたことだ。早速聞くことにしよう。まずは……これからいくか。
「君は、自分が骨折した原因を分かっているかい?」
おっと、カフェからすごい睨まれている。だが、私は臆するわけにはいかない。
自分が最低な質問をしているのは分かっている。骨折した相手の傷を抉るようなもの。だが、この反応次第で今後の予定が変わってくるんだ。だから、臆するわけにはいかない。
スズカ君は……思いの外、あっさりとしているねぇ?あんまり気にしていないようだ。
「分かってるわ。限界を越えようとした代償……でしょう?」
「ほう?それは、誰が?」
「何となく、よ。あの日は凄く調子が良かったもの。だから、知らずのうちに自分の限界を越えようとした。その結果骨折に繋がった……私は、そう考えてるわ」
スズカ君は特に気にした様子もなく答える。……成程。分かっているようだ。
「スズカ君。次の質問だ。私の噂を、聞いたことぐらいはあるだろう?」
「……そうね。いつも変な実験をやっては生徒会に怒られている変わり者。アグネスタキオンさん……でしょう?」
「概ねその認識で合っているよ。不本意だがね」
「事実、でしょう」
失敬だね。私は自分のやりたいようにやっているだけさ。……っと、それは別にいい。
「私は、ウマ娘が出せる速度の果て……スピードの限界を追求してみたいんだ。そのために、頑丈な身体を作るための研究を主にやっている。私自身、身体が強い方ではないからね」
「……あなたの言いたいこと、大体分かったわ」
「察しが良いね。助かるよ。スズカ君、私の実験に協力する気はないかい?」
カフェからの視線がさらに強くなる。だが、私は敢えて無視する。大事なのは、スズカ君がどう答えるかだ。
「一応、聞いておきましょうか。どうして私なのかしら?」
「理由は単純。君は天皇賞で規格外のスピードで駆け抜けようとしていた。だが、身体の方が保たなかった。その光景を見た時、私自身と君を重ねてみたのさ」
「私と、タキオンを?」
「あぁ。さっきも言ったように、私は身体が強い方じゃない。だから、本気を出して走ることができないのさ。本気を出したら、君と同じように脚を壊してしまうからね」
「……」
「だから、同じ悩みを持つ者同士協力してくれるんじゃないかと思ってね。理由はそれだけさ」
「そう……」
スズカ君は考え込むような素振りを見せる。相変わらずカフェからの視線が痛いが……。
「……1つ、いいかしら?」
「なんだい?答えられる範囲だったら構わないよ」
「危ない実験はしないわよね?ドーピングとか」
「するわけがないだろう。そもそも私はドーピングが嫌いだ。一時的な肉体強化に何の意味がある?」
「……そうね。愚問だったわ」
スズカ君はそう言った後、意を決したように答える。
「いいわ。私でよければ協力させて」
「……スズカさん!?」
「……ふむ。我が事ながらいいのかい?今更取り消しはできないよ?」
「えぇ、構わないわ。その代わり、1つ条件があるの」
条件?一体なんだろうか?少し気になる。
「その条件とは何だい?」
少しの沈黙。緊張しているのだろうか?そして、スズカ君が口を開いた。
「ファントムのことを調べるのを手伝って欲しいの」
それは、あまりにも意外な条件だった。
私と、タキオンさんは、思わず口を開けて呆けています。理由は、スズカさんがタキオンさんの実験に協力する代わりに提示した、条件。その条件とは。
「ファントム君のことを調べるのを、手伝って欲しい?」
「えぇ。その条件を呑んでくれるのなら、私はタキオンの実験に協力するわ」
「うぅん……」
タキオンさんは、唸っています。気持ち、分かります。私も、驚いているので。
「ダメ、かしら?なら実験に協力するという話はなかったことに……」
「いや、違う。そう言うわけじゃないんだ。ただ、少し意外だっただけで」
「意外?そんなに意外だったかしら?」
「そう、ですね。少し、意外でした。まさか、ファントムさんの調査を手伝って欲しい、なんて条件だったとは」
実際今も、驚きを隠せないでいます。ただ、このままだと話が進まないので、私は、聞くことにしました。その理由を。
「何故、ファントムさんの調査に協力して欲しいと?」
「そうね……。まず第一に、あなた達はファントムと普段から仲良くしているのでしょう?」
「そうだねぇ。基本的に彼女は私達と行動を共にすることが多い」
「ですね。大切な、お友だちです」
「だから、ファントムのことをよく知ってるんじゃないかって。そう思ったのが1つ」
「まだ理由があるのかい?」
「えぇ。むしろ、こっちが本題かしら」
一拍おいて、スズカさんは続けました。それは、驚くべき内容でした。
「私は、ファントムの中にもう一人のファントムがいることを教えてもらったわ。そして、私はそのもう一人のファントムを信用していない。だからこそ知りたいの。ファントムが何者なのか。そして、もう一人のファントムの目的は何なのか?それを知るために、あなた達には協力して欲しい」
……開いた口が塞がりません。まさか、スズカさんがもう一人のファントムさんを知っているとは、思いもしませんでしたから。
もう一人のファントムさんは、霊体という都合上、霊感がないと視えません。学園で視えるのは、おそらく私ぐらいでしょう。そして、もう一人のファントムさんの存在を知っているのは、おそらく私とタキオンさんの2人だけ。だからこそ、とても驚きました。
もう一つ驚いたのが、スズカさんはもう一人のファントムさんを信用していないということ。一体、何があったのでしょうか?
「……驚いた。まさか、我々以外にももう一人のファントム君について知っているものがいるとは」
「……ということは、タキオン達も知っているの?もう一人のファントムのこと」
「知っている、とは言っても私は見たことがないよ。存在しているのを知っているぐらいだ。カフェは視えているらしいが」
スズカさんが、驚いた表情で私を見てきました。私は、頷きながら答えます。
「はい。私には、もう一人のファントムさんの姿が視えています。私は、幽霊といったものが視えるので」
「そう……。つまり、もう一人のファントムは幽霊なのかしら?」
「そう、なります」
スズカさんは、確認するように聞いた後、納得したように頷きました。そして、改めて聞いてきます。
「……それで、受けてくれるのかしら?ファントムを調査する件は」
なんと、言えばいいのでしょうか?迷っていると、タキオンさんが答えます。
「受ける……というよりも、私からその提案をするつもりだったんだ。ファントム君の調査に興味はないかい?ってね」
「……え?」
今度は、スズカさんが呆けたような表情をします。
「実は、我々もファントム君の調査をしているんだ。だから、君の提案は願ったり叶ったり……というわけだねぇ」
「ウソでしょ……」
「今からでも、実験に協力するのはなかったことにしますか?」
スズカさんは、考え込んだ後答えます。
「……いえ、実験には協力するわ。目的が同じだったとしても、私のやりたいことを手伝ってくれるわけだから」
「成程ね。なら、交渉成立だ。これからよろしく頼むよ、スズカ君」
「変なことされそうになったら、すぐに私を呼んでください。お灸を、据えますので」
「あまりにも信用がないねぇ!?」
「えぇ。その時は頼むわ。これからよろしくね。タキオン、カフェ」
こうして、ファントムさんを調査するメンバーが増えました。
話が纏まったところで、私は気になっていることをスズカさんに尋ねます。
「そう言えば、もう一人のファントムさんを信用していないと、仰りましたが……何があったんですか?」
”あの野郎になんかされたんじゃないの?”
その線は、ないかと。もう一人のファントムさんは、どうもファントムさんがいないと私達に干渉できないようなので。
スズカさんは、神妙な顔つきで答えます。
「……あまり上手く言えないのだけれど、凄く、嫌な感じがするの。もう一人のファントムは。それに、私の友達が言っていたわ。もう一人のファントムは、凄く強い力を持った悪霊だって」
悪霊、ですか。それは、なんとも言えませんね。
”何言ってんの。悪霊だよ悪霊。あんな奴はさ”
あまり、そういうのは良くありませんよ。例え誰が相手であっても。
「悪霊……か。まぁ詳しい話は追々していこう。まだスズカ君は退院していないからね。邪魔になるのもいけないし、我々はそろそろお暇することにするよ」
「えぇ。ありがとね、わざわざお見舞いに来てくれて」
「いえ。一日でも早い快復を、祈っています」
そう言って、私達はスズカさんの病室を後にします。すれ違いで、スピカの子らしきウマ娘が病室に入っていきました。
学園へと帰る道中、タキオンさんと成果について話します。
「しかし、スズカ君もファントム君の調査を考えていたとは……同じことを考える同士は案外近くにいるものだねぇ」
「……タキオンさんの同室の子、誘ってみたらいいんじゃないですか?情報収集能力が凄い子って、前に仰ってましたよね?」
確か、アグネスデジタルさん。
「デジタル君か……。まぁ、声を掛けてみるのも良いかもしれない。人手は多い方がいいからねぇ」
「手掛かりは、ほぼありませんから。今は、少しでも多くの情報と、人手が欲しいですから」
「違いない。さて、頑張っていこうじゃないか!」
「はい」
こうして、色々と驚いたスズカさんのお見舞い訪問は、終わりました。
アグネスのやべー奴に仲間フラグが立つ。