秋の天皇賞から早いもので、もうジャパンカップ当日です。スピカからはスペちゃんが出走します。私は天皇賞に出走したので見送りました。元からそうするつもりだったので。
さて、そんなスペちゃんですが……。不安しかありませんね。練習自体は真面目に取り組んでいましたが毎日のようにスズカのお見舞いに行っていましたから。別に悪いとは言いませんがレースが控えているのにほぼ毎日お見舞いに行くのはどうかと思いますよ。それとレース前の言葉。
『スズカさんと走るはずだったジャパンカップ……ッ!絶対に勝たなきゃ!スズカさんのために!』
レースだというのに、他のことに現を抜かすとは。あまり感心しませんよ?
「スペちゃん!ダービーの借りはここで返しますよ!」
「エルちゃん……。私も負けないよ!絶対に、このレース勝つんだから!」
ターフの上でスペちゃんはエルとそんな会話をしていました。どっちも調子は良さそうですね。さてさて、どう転ぶのやら。
《今最後のウマ娘がゲートに入りました。今年も錚々たる顔ぶれとなりましたジャパンカップ。海外のウマ娘との混合戦を制するのは一体どのウマ娘か?人気上位3人のウマ娘は日本勢が独占しておりますジャパンカップ。今……スタートです!》
お、スタートしましたね。スペちゃんがんばえ~。
調子は好調、展開も上々!現在は第3コーナーを抜けて第4コーナーに入ろうかというところ。エルにとって理想の展開で進んでいますね。ですが油断はしません。油断で負けるなんてゴメンデスからね。おまけに、今回のジャパンカップにはスペちゃんも出走しています。
(日本ダービーは負けました……。だから、このジャパンカップはワタシが貰いますよスペちゃん!)
けど、敵はスペちゃんだけじゃありません。海外勢もそうですが、同じチームからエアグルーヴ先輩も出走しています。〈女帝〉の異名を持つエアグルーヴ先輩は時折併走をしてもらっていますので、その実力は十二分に分かっています!スペちゃんへのマークに集中して他を疎かにするのはバッドデス。
《さぁ逃げる逃げる!第4コーナーに入って後続に7から8バ身差をつけております13番が逃げる展開ジャパンカップ!その後ろ2番手の位置に14番そして3番手に11番エルコンドルパサーが控えます!1番人気スペシャルウィークは5番手2番人気エアグルーヴが6番手の位置にいます!さぁそろそろ先頭との差を詰めていきたいところ!》
展開としては縦長。13番の単騎逃げ。ですが、直近でヤバい逃げをする先輩方と走ってきたので全然脅威に感じません!悪いデスけど!
第4コーナーの中盤。ここでエルはじりじりと差を詰めていきます。13番もそれに気づいて必死に粘っていますが思ったようにスピードが出ていないみたいですね。これならじきに落ちるでしょう。
そして迎えました第4コーナーを抜けての最後の直線。他の子達もペースを上げてきました。その中にはスペちゃんと、エアグルーヴ先輩もいます。
「負けない!絶対に、勝つんだから!」
スペちゃんいい気合ですね!デスが……。
「さぁ!ここからがアタシの、エルコンドルパサーの見せ場デース!」
エルは集中力を限界まで高める。同時に目の前の景色が一変しました。前回は塗りつぶされましたが……今回はそうはいきません!エルのフルパワーで走りますよ!
目の前に広がるのは大海原。イメージするのはその上を走る自分。先導するように飛んでいるマンボ。エルはその後ろ、ではなく下を走るように駆ける。先導してもらうんじゃない、エルとマンボ、2人でともに!行きましょうマンボ!アタシ達の勝利に向かって
「これが世界への……第一歩!エルコンドルパサー、飛んでいきますよ!」
かっ飛ばします!
《さぁ最後の直線に入って先頭は13番!しかし13番さすがにちょっと厳しいか!?13番粘るがここでエルコンドルパサーだ!エルコンドルパサーが上がってきた!残り400を切って先頭はエルコンドルパサー!しかしそのすぐ後ろにエアグルーヴだエアグルーヴも来ている!スペシャルウィークも飛んできた!ジャパンカップは日本勢での戦いになるか!?》
デスが、そう簡単には勝たせてくれないようで。エアグルーヴ先輩がすぐ後ろに控えています!引き離すのは……かなり厳しいデスね!
「甘いなエルコンドルパサー!私とて、そう易々と負けてやるわけはいかん!」
「フフン!残念ですけど……勝つのはエルデース!たとえエアグルーヴ先輩相手でも、エルは負けませんよ!」
「……フッ!いいだろう!
そう言ったのと同時、エアグルーヴ先輩からのプレッシャーが跳ねあがりました!並のウマ娘なら、気圧されるでしょう。ですが、エルは並のウマ娘じゃありません!余裕で耐えてみせます!……いや、割と、若干、それなりに効いてますけど問題はありません!
「望むところデス!」
エルはエアグルーヴ先輩と競り合います!……そういえば、スペちゃんはどうしたんでしょうか?全然圧を感じませんけど。
《そろそろ坂を上り終わろうかというところ13番はここで力尽きたズルズルと後退していく!代わって先頭に立ったのはエルコンドルパサーとエアグルーヴ!チームリギルの2人が先頭で競り合います!外からはチームスピカのスペシャルウィークが上がってきた!そして坂を上り切った!先頭はエルコンドルパサーだ!内からエアグルーヴ外からスペシャルウィークも上がってきている!しかしスペシャルウィークはちょっと苦しいか思ったより伸びてこない!》
さぁさぁ!まだまだエルは加速しますよ!
「クッ……!確かに速い。だが、負けんぞエルコンドルパサー!」
「上等!エルの本気は、まだまだここからデース!」
あの秋の天皇賞以降、エルは進化しましたから!それを証明するように
まだまだいけますよ!さぁ、着いてこれますか、エアグルーヴ先輩!
「バカな!?まだ上がるだと!?」
「今のエルは、誰にも負ける気がしません!勝利に向かって、エル飛翔デース!」
エルはエアグルーヴ先輩を突き放しにかかりました!
《ここでエルコンドルパサー!エルコンドルパサーだ!エルコンドルパサーがエアグルーヴを突き放す!これはもう決まった!凄まじい末脚エルコンドルパサー!スペシャルウィークは苦しいか!?しかしなんとか3番手をキープしている!》
最後の1分1秒まで油断はしません!エルは全力で駆け抜けます!行きますよマンボ。エアグルーヴ先輩も、スペちゃんも突き放しましょう!そして
「優勝!快勝!エルコンドルパサー圧勝デース!」
エルは誰よりも早くゴール板を駆け抜けました!
《決まった決まった!エルコンドルパサーが今ゴールイン!クラシック級の〈怪鳥〉がジャパンカップでNHKマイル以来の勝利を飾りました!これは凄い走り!》
《リギルのトレーナーによると、彼女は海外挑戦を見据えているのだとか。これからが期待できるウマ娘ですね》
《秋の天皇賞で一皮むけたか!2着エアグルーヴに4バ身差をつけました!3着スペシャルウィークはエアグルーヴの半バ身差まで迫りましたがそこまで!上位3着を日本勢が独占しましたジャパンカップ!》
走り終わってエルはクールダウンします。考えるのは今後のことデス。
(年明けは海外挑戦……。海外で走って、もっと強くなって……。いつかはリギルの先輩達を越えて、そして……ッ!)
ファントム先輩を越える。それがエルの最終的な目標デス!そのためにも、まずは目の前の目標を越えるとこから始めますか。
直近の目標をどうするかを考えていると、エアグルーヴ先輩がこちらに近づいてきました。
「エル、見事な走りだった。完敗だ」
「いえ、エアグルーヴ先輩もお見事でした!一瞬たりとも気が抜けませんでしたよ!」
「フッ、それは勝者の余裕……というやつか?」
「ケッ!?ち、違いますよ!エルは純粋に……ッ」
すると、エアグルーヴ先輩は悪戯っぽい笑みを浮かべて
「冗談だ。優勝おめでとうエル。次は負けんぞ」
そう言ってきました。じょ、冗談にしても質が悪いですよ本当……。
「はい!次もエルが……」
勝ちます、と言おうとしたところでエルの言葉を遮るように誰かの泣いている声が聞こえてきました。
「うわぁぁぁぁん!」
その発信源は、スペちゃんでした。余程悔しかったのか人目も憚らずに泣いています。スペちゃんに何か言おうと思いましたけど……それは後日に回すことにしました。さすがに、あんな状態のスペちゃんに話しかけにいくような勇気はエルにはありませんし。
さて、ジャパンカップも優勝して、対ファントム先輩に向けて順調な滑り出しです!このままの勢いで、海外のレースでもエルの名前を刻みますよ!
ふむ、エルが勝ちましたか。にしても、エルはさらに成長していますね。嬉しいんじゃないですか私。
”知らん。負かした奴に興味はねぇつってんだろ”
あらやだ冷たい態度。まぁいいですけど。スペちゃんはターフの上で大泣きしています。それだけ悔しかったみたいですね。
「残念ですわね、スペシャルウィークさん……」
「やっぱ強いねリギルは。ボクも負けていられないや」
「大丈夫かな?スペ先輩。人目も気にしないで泣いてっけど……」
「スペせんぱーい!次は勝ちましょーう!」
「切り替えてけースペー!」
スピカのメンバーは思い思いの言葉を口にしています。スペちゃんも、今後はどうなるでしょうか?行く末が気になるところです。この悔しさをバネに、強くなっていって欲しいですね。
”そうなってもらわねぇと困るんだよ。喰いがいがねぇからな”
「……そうだね」
ジャパンカップ、スペちゃんにとっては苦い経験となりました。
史実よりも差が開いたジャパンカップでした。それだけエルが成長しているということで。