そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

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しっかり食べて大きくなるんやで。後記念すべき第50話。


亡霊少女と新年会

 というわけで買うもんかったので新年会の会場へと向かいました。今は会場兼スピカの部室でみんな寛いでますよ。テレビではウィンタードリームトロフィーの様子が放送されています。あ、ルドルフですね。がんばえー。

 

 

「ったく、なんで俺だけで準備しなくちゃいけないのか」

 

 

 お、トレーナーが愚痴を言いながら鍋の具材を運んできましたね。

 

 

「新年会は任せろって言ったのはトレーナーの方じゃーん」

 

 

「メジロ家では使用人の仕事です。当たり前ですわ」

 

 

「エプロン結構似合ってるわよ」

 

 

「はいはい。お前らに家庭的なことを期待した俺がバカだったよ」

 

 

「「「なんだと(なんですって)ー!」」」

 

 

 あ、トレーナーがテイオー達に関節決められてる。そしてちゃっかりテイオーはちゃんと鍋の具材を守っていますね。偉いですよ。トレーナーの心配?まぁ大丈夫でしょう。ウマ娘に蹴られてもピンピンしているような方ですし。

 

 

「スズカさん、寒くありませんか?」

 

 

「大丈夫よスペちゃん」

 

 

 こっちはこっちで会話してますし。あ、トレーナーがテイオー達から解放されましたね。

 

 

「さて、じゃあ準備もできたし食べるぞー!トレーナー様特製鍋だ!沢山食べろよー!」

 

 

「「「おぉー!」」」

 

 

”ほう?普通に美味そうじゃねぇか”

 

 

「……そうだね」

 

 

 トレーナーが料理できるのは知ってましたけど、凄く美味しそうですね。いやぁ、どれを食べるか悩むってもんですよ。

 

 

「それでは早速……ッ!」

 

 

 マックイーンが高級そうなエビから手を取りましたね。

 

 

「また太るぞ?マックイーン」

 

 

「なっ!ま、またってなんですのまたって!」

 

 

 ゴルシ、それは禁句ですよ。さて、私も適当に食べますか。

 そうしてみんなでお鍋をつついていると。

 

 

「あ、みんな!そろそろWDT始まるよ!」

 

 

 テイオーがそう言ってみんなテレビにくぎ付けになりました。さてさて、今回は誰が勝ちますかね?ちょっと興味はあります。さてさて、レースの様子はっと。

 

 

「……普通にルドルフが勝ったね」

 

 

「やはりルドルフ会長は強いですわね。レースに絶対はありませんが、ルドルフ会長の走りには絶対があると言われる所以が分かります」

 

 

「やっぱりカイチョーはカッコいいなー!」

 

 

 テレビではライブの中継も行われています。そんな映像を見て、みんな羨ましそうに見てますね。私?普通です。レース自体に拘りはありませんので。走って勝つ。どのレースでも、どんなレースでもそれは変わりませんから。ただ、WDTは強いウマ娘しかいませんからね。そういう意味ではもう一人の私にとっては最良の舞台なのでしょう。……今はまだ、移籍する気はありませんが。

 

 

「トレーナー!俺達もドリームトロフィーに出たいです!」

 

 

「お、良い目標だなウオッカ。だがそのためにはトゥインクル・シリーズで結果を出す必要がある」

 

 

「そうですわね。わたくし達も、しっかりと結果を残さないといけませんわね」

 

 

「わ、私も出たいです!会長やスズカさん達と、一緒に走ってみたいです!」

 

 

 スペちゃんもやる気に溢れていますね。良きことです。

 

 

「そうだな。やる気があるのは良いことだ。だがスペ、ノってる時のお前は確かに速い。けど正直ムラがありすぎる。今後はそのムラをなくせるように頑張れ!」

 

 

「はい!」

 

 

「ウオッカ、スカーレット。同じチームに競い合うライバルがいるっていうのは良いことだ。だが、相手には絶対に負けねぇって気概を忘れるなよ?」

 

 

「当たり前よ!コイツには絶対負けないんだから!」

 

 

「俺だって!お前にはぜってー負けねぇ!」

 

 

「テイオー。お前の才能は確かに凄い。だが、その才能に甘んじるな。才能の向こう側……その先へ行くことを目標にしろ」

 

 

「……うん。分かったよトレーナー」

 

 

「マックイーン。お前はあの名門、メジロ家の令嬢だ。だからといって泥臭く努力することを忘れるんじゃねぇぞ?その名を知らしめるためには、時には泥臭い努力も必要だ」

 

 

「フッ、言われなくとも分かっていますわ」

 

 

 おぉ、トレーナーが珍しく良いこと言ってますね。これは私も何か言われるんでしょうか?

 

 

「ゴルシとファントムは……まぁ好きなように走れ」

 

 

 悲報。私、あまりにも扱いが雑。

 

 

「おっけー」

 

 

「……うん」

 

 

「最後に、スズカ。俺はお前に夢を見させてもらった。けど、まだまだ足りねぇ!もっと俺に夢を見せてくれ!まずはリハビリだが、頑張ってまた走れるようになるぞ!」

 

 

「はい、トレーナーさん」

 

 

「今年のスピカはリギルを越えるぞ!気合で負けんじゃねぇぞー!」

 

 

「「「おー!」」」

 

 

 うんうん、いい返事です。これからもみんなの成長が楽しみです。

 ……そろそろお菓子が無くなってきましたね。ここは先輩としていっちょ買いに行きますか。

 

 

「……トレーナー、お菓子無くなってきたから買ってくるね」

 

 

「ん?あぁ分かった。気をつけていって来いよ」

 

 

「……うん。みんなはゆっくりしてて」

 

 

 現在時刻は19時ですか。まぁ1時間もあれば帰ってこれるでしょう。早速向かいますよっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ファントムさんが買い出しに行った後、みんな部室で待つことになりました。WDTの中継は終わっちゃったので新年スペシャルのような番組を見ています。今は……丁度世界で起きた不思議な出来事特集?みたいなのをやっています。

 

 

《……続いての映像はこちら!アメリカのグランドキャニオン、崖から転落したものの奇跡の生還を果たした男性のお話です!》

 

 

「そういえばさー」

 

 

「どうしたんですの?テイオー」

 

 

 みんなでテレビを見ていたら、テイオーさんがふと呟きました。どうしたんでしょうか?

 

 

「ファントムってどうやってあんなに強くなったんだろうね?」

 

 

「そりゃテイオーオメー。トレーニングして強くなったんじゃねぇの?姉御って毎日かなりの量のトレーニングを積んでるし」

 

 

「それはそうなんだけどさ。でも、トレーニングをいっぱいしただけで強くなれたら誰も苦労しないんじゃない?」

 

 

「確かにそうですわね。……やはり、才能という面も大きいのではないでしょうか?」

 

 

「そうだな。マックイーンの言う通りだ」

 

 

 トレーナーさんがテイオーさん達の会話に口を挟むように言いました。

 

 

「ファントムは才能がある上で、とんでもない量のトレーニングを自分に課している。しかも、ただトレーニングを積むだけじゃない。自分にとって最適なトレーニングをすることで無駄なく効率的なトレーニングをしているんだ」

 

 

「自分にとって最適なトレーニング……ですか」

 

 

「そうだスズカ。どんなに才能があっても、鍛え方を間違えたら宝の持ち腐れだ。自分を深く理解してトレーニングをすることで、無駄のない鍛え方をしている。俺が基本的にファントムのトレーニングに口を出さないのはそういうことだ。……まぁさすがに合宿所から走って帰るなんていうバカな真似はさせたくなかったんだが」

 

 

 あ、アハハ……。確かに合宿所から走って帰ってましたねファントムさん。

 

 

「じゃあ、ファントム先輩ってトレーニングいつから始めたんでしょうね?」

 

 

 スカーレットさんの何気ない質問。けどその瞬間、部屋の中に沈黙が訪れました。テレビの声だけが聞こえています。

 

 

《続いてはこちら!オーストラリアの水族館で起きた悲劇、飼育員同士の連携が光るお話です!今回は水族館のスタッフもお呼びして……》

 

 

「……分からん。アイツの過去については、何も分かってねぇからな」

 

 

「姉御自分からも話さねぇからなー」

 

 

「結局、素顔を隠す理由も分からず仕舞いですものね……」

 

 

 そんな時、ウオッカさんの呟きが聞こえます。

 

 

「俺達、信用されてないんすかね……」

 

 

「「「……」」」

 

 

 部屋の中に、また沈黙が訪れました。重苦しい空気が支配しています。そうは思いたくはない。でも、私達はファントムさんのことを何も知りません。それは信用されていないからだと考えると……胸がキュウってなります。

 

 

「そんなことはないわ、ウオッカ」

 

 

 そんな時です。スズカさんがウオッカさんの呟きにそう答えました。

 

 

「あの子がそんな子じゃないって、知っているでしょう?」

 

 

「それは、そうッスけど……。でも、話してくれないってことは信用されてないのかなってどうしても考えちゃって……」

 

 

「そうね。あの子は確かに自分のことを話したがらないわ。でも、私は聞いたことがあるの。ファントムの小さい頃ってどうだったの?って」

 

 

 その言葉に私達は一斉にスズカさんの方を見ます。す、スズカさん聞いたことあるんですか!?

 

 

「そ、それで!?ファントムはなんて言ってたの!?」

 

 

「早く教えてくださいまし!」

 

 

 スズカさんは、首を横に振って答えます。

 

 

「ファントムは小さい頃のことは覚えてないって言ってたわ。嘘でも何でもなくて、本当に覚えてないみたい」

 

 

 スズカさんの言葉に、トレーナーさんが真っ先に反応しました。

 

 

「あー……そういうことか。覚えてねぇことは、確かに言えねぇわな……」

 

 

「だから、ファントムが思い出したら改めて聞いてみましょう?大丈夫よ、あの子が私達を嫌っているなんてことは絶対にないわ」

 

 

 スズカさんはそう言いました。……そうですよね、スズカさんの言う通りです!

 

 

「……そうっすね!俺の考えすぎですよね!」

 

 

「そうだよ!素顔を明かさないのも、きっと面白がってだろうし!」

 

 

「あり得そうですわね、それ」

 

 

 さっきの重苦しい空気から一変して、今度は楽しい雰囲気になりました!和気藹々としています!

 

 

《続いてのお話はこちら!10年前にイギリスのホテルで起きた火災からなんと大きな怪我もなく生還した少女のお話です!特別ゲストとして当時の消防隊員の……》

 

 

 テレビを見て、テイオーさんが反応しました。

 

 

「うわっ、凄い火事。これで無傷ってホントに奇跡だね」

 

 

「そうですわね。まぁ多少は誇張も入っているのでしょうが」

 

 

「おいおい、そういうのは分かってても黙ってるもんだぜマックイーン」

 

 

「うっ、確かにそうですわね」

 

 

 和やかな雰囲気になりながらも、テレビでは映像が流れています。

 

 

《それでは、Sun Brigadeさんは不思議な出来事を目にしたと?》

 

 

《そうですね。今当時のことを思い出しても不思議な体験だったと思います。……いえ、不思議で済ませていいものじゃありませんね。あれは、異常な体験でした。自分の頭がおかしくなったのかと思いましたから》

 

 

《当時の消防隊員が病院で目にした衝撃の出来事とは!?続きはCMの後!》

 

 

 そうやって話していると、部屋の扉を開けて誰かが入ってきます。

 

 

「……ただいま。お菓子買ってきたよ」

 

 

 ファントムさんが帰ってきました!

 

 

「お、帰ってきたかファントム。じゃあ早速向かうか」

 

 

「へ?どこに?」

 

 

 トレーナーさんは外に出る準備をしながら答えます。

 

 

「神社だよ神社。お参り行くぞ!」

 

 

 トレーナーさんの言葉に、私達も外に出る準備をしました。お参り、楽しみです!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《それではSun Brigadeさんは病院で何を見たんでしょうか?》

 

 

《……自分が、助けたと思った少女が別人のようになっていたんです。それに、世間では私が少女を助けたと言われていますが……、逆です。私が少女に助けられたんです。信じられないことかもしれませんが》

 

 

《え?それはどういう……》

 

 

《……すいません、今でも当時の記憶は曖昧で。詳しくは覚えていないんです。ただ確かなのは、助けた少女が別人のようになっていた、という事実だけ。もしかしたら、最初っから容姿は変わってなくて、あの時助けた少女は元からあの姿だったのかもしれませんけど》

 

 

《それは確かに不思議な体験ですねぇ……。お話ありがとうございました!》




ちなみにスズカさんはタキオン経由でファントムの過去のことを聞きました。情報共有は大事。

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