さて、寒い日が続く2月です。まだまだお布団が恋人状態が抜け出せない人が多いんじゃないでしょうか?そんな私は今自主トレをしています。ですが1人ではありません。
「今日もお願いします、ファントムさん」
「よろしくお願いいたします、ファントム先輩」
「……うん、よろしく」
ブルボンとグラスも交えてのトレーニングですよ。グラスも河川敷での一件以来、私とブルボンの自主トレに混ざるようになりました。なんか弟子が増えたみたいで嬉しいですね。道場開きますか道場。弟子入り募集中ですよ。
「……じゃあ、いつものアップから始めようか」
「「分かりました」」
このウォーミングアップ兼筋トレの時間は雑談の時間に充ててたりします。黙々とやるよりもモチベは上がりますからね。その分体力を消費しますけど。
「……へぇ、ブルボンはどんな風に走るのか決まったんだ」
「はい。マスターと相談して、私に最適な戦法をインプットしました」
「よろしければお聞きしてもよろしいでしょうか?ブルボン先輩はどんなレースを展開するのか」
「構いません。私は、逃げで走るつもりです」
ほう、逃げですか。
「私に適した走り方があると。常に正確なラップを刻み続ける逃げ、精密な機械のように最速のラップを刻み続ける逃げが私には合っていると。努力と根性で辿り着ける、私だけの逃げの形があると仰っていました」
そう考えるとブルボンには合っていますね。ごちゃごちゃとした作戦を考えるのではなく、常に最速のラップを刻み続ければ理論上どのレースにも、どんな相手にだって勝てますから。たまに例外が発生しますけど。
「そのために必要なのは、まずスタミナ。そして、何事にも動じないメンタルが必要だと。マスターはそう仰っていました」
「……何事にも動じないメンタル」
それならいい練習方法がありますね。今日はそれをやってみましょうか。それにメンタル強化はグラスが強くなるのにも必要ですし、丁度いいかもしれません。
「……精神力を鍛えるのに、良いトレーニングを知っている。今日はそれをやろうか」
「まぁ。それは楽しみですね。一体どのようなトレーニングなのでしょうか?」
「……見てからのお楽しみ」
ウォーミングアップをしながら私はお面の下でほくそ笑みます。楽しみですね。ワクワクが止まりません。
「ステータス『疑問』。何故ファントムさんの部屋に?」
「1人部屋なんですね。お面のことを考えたら当然かもしれませんが……どうして室内に?」
「……今、準備する」
私は棚からあるものを取り出します。そのあるものとは……!
「……メンタルトレーニングに最適な練習は、コレ」
ゲーム機です!そして、ソフトには鬼畜ゲーと名高いゲームをピックアップしてあります!
「ゲーム、ですか。メンタルトレーニングに適しているとは思いもしませんでしたが……」
「……ここにあるゲームは、ネットでも難易度が高いと噂のゲームばかりを集めた。2人にはこのゲームの完全クリアに挑んでもらう」
「完全クリア、とは?」
「……実績を解除するごとに獲得できるトロフィー。それをコンプリートしてもらう」
ちなみに私は全部クリア済みです。え?お前にそんな時間あったのかって?もう一人の私にメンタルトレーニングだと言えば許可してくれましたよ。なので私のメンタルトレーニングはもっぱらゲームです。特に最近のゲームの中にはかなり難易度が高いのも混じっているので鍛えられますよ。
「精神を鍛えるトレーニングと思っていたので……。てっきり滝行をするのかと思いました」
「……この時期に滝行は洒落にならないから止めようね」
ソースは私です。確かに精神的に鍛えられますけど、本当に洒落にならないので覚悟を持って挑みましょう。
ブルボンがゲーム機に手を伸ばして……え?なんかボンッて音鳴ったんですけど?後なんか煙噴いてません?私のゲーム機。
「……ステータス『故障』。ゲーム機がクラッシュしました」
「私のトロコンペル〇ナァァァァァァァァ!?!?!?」
”俺様のトロコン地〇防衛軍がぁぁぁぁぁぁぁ!?!?”
ちょ、なんてことしてくれたんですか!?せっかくのトロコンデータがオジャンになったんですけど!?
「ファントム先輩。最近のゲームはデータがアカウントに紐づけされているのでアカウントがある限りトロコン?とやらの情報は残ったままだと思いますよ?」
あ、そうですか。なら安心です。いやぁよかったよかった。あのデータがパァになってたら軽く引きこもってしまうところでしたよ。引きこもる理由?そんなもんもう一度トロコンするために決まってるじゃないですか。
しかし前にもこういったことがありましたね。もしかしてブルボンってゲーム類がダメなタイプなんでしょうか?
「……ブルボンって小さい時からこうなの?」
「はい。私が触った機械はもれなく故障してしまいます」
どういう能力ですかそれ。
しかし困りましたね。これではゲームでのメンタルトレーニングができません。
「……練習場、行こうか。確か今日はどこも使ってないはずだし」
「ステータス『同意』」
「これだと……そうするしかなさそうですね」
……仕方ないので普通に練習しましょう。
改めて練習しに来ました練習場です。しかしこれだと私の部屋に行った意味がまるでありませんね。
今やっているのは併走トレーニングです。とは言っても、ちょっと特殊な併走トレーニングですけど。
「……どんなに差をつけられても我慢してね。我慢して忍耐力を鍛えるよ」
「ステータス『了解』。心してミッションに臨みます」
「泰然自若。不動の心で挑みます」
やっていることと言えば、私が常に前を走り続けて2人を揺さぶるので、2人はどんな場合でも我慢してもらうというものです。決して焦らず、決して心動かされずに走り続けることを2人には意識して走ってもらいますよ。
「……ブルボンの走りにも、グラスの走りにも必要なのは忍耐力。というわけで、私が2人の前で揺さぶり続けるからしっかり我慢してね」
2人は頷きます。さて、早速走り……おや?あれは。
「……ブライアン?」
「え?……あぁ本当ですね。ブライアン先輩です」
生徒会の仕事はどうしたんでしょうか?なんかジャージ姿で手持ち無沙汰にしてますけど。練習を始める前に軽く声を掛けますか。
「……やっほー、ブライアン」
「うん?……あぁ、アンタか」
「……何してるの?」
私の疑問にブライアンは困り顔で答えます。しかし童顔ですね。
「本来はアマさんと併走する約束だったんだが……肝心のアマさんが急遽来れなくなってしまってな。仕方なく1人でトレーニングをしようと思っていたところだ」
ふむ。ではブライアンも誘ってみますか。1人でやるみたいですし、多分受けてくれるでしょう。
「……じゃあ、私達と一緒に併走」
「受けよう。早くウォームアップをするぞ」
ブライアンはそのまま歩いてブルボン達のところに行きました。せっかちさんですね。とはいえ、ブライアンには一応忠告しておきますか。
「……言っとくけど、今回はあくまでグラス達の特訓。それを忘れないでね?」
「……分かっているさ」
ちょっと。私の目を見て答えなさいよ。
ウォーミングアップも済ませてスタート位置に着きます。さて、それでは始めましょう。合図は……コインを投げて落ちてからにしますか。
「……じゃあ、このコインが地面に落ちたらスタートね」
「あぁ、分かった」
では投げましょう。ポイっとな。私達はコインが地面に落ちるのを待ちます。そして……
「「「……ッ!」」」
全員、コインが落ちた瞬間一斉にスタートしました。しかし僅かに私が速かったですね。なんなく先頭に立ちます。そのすぐ後ろにブルボン、ブルボンから半バ身程遅れてブライアン、3バ身後ろにグラスといった感じでしょうか。さて、では当初の予定通りいきましょうか。
「……」
「クッ……」
私は後続を乱すように走ります。プレッシャーを弱めたり、強めたり。時にペースを上げて焦らせたり、かと思えばペースを落として自分の位置取りを困惑させたり。それを随所随所で、的確なタイミングで挟んでいきます。
「ちょこまか……と!」
「……ステータス『困惑』」
グラスとブルボンはものの見事に引っかかっていますね。まぁ、結構巧妙に仕組んでいるので分かりづらいかもしれませんが。対してブライアンはさすがと言うべきか。全く動揺した様子を見せません。
残り400ですか。ブルボンは後退して3番目、ブライアンが2番手に来ました。後は変わりません。このままペースを維持して……
「……ッ!フッ!」
と、思いましたけど。ブライアンがプレッシャーを強めましたね。この場にいる全員を喰らわんとしようとしています。……ハァ。レース前にあくまでグラス達の特訓だといったのに。お痛はいけませんよ?ブライアン。
「……ッ!」
「ッ!フッ……大人しく引き下がっておくとしよう」
私はブライアンに対してプレッシャーを強めます。すると向こうはあっさりと引きましたね。というか、大人しく引き下がるも何もグラス達の特訓と言ったでしょうに。
結果的に私、ブライアン、グラス、ブルボンの順番でゴールしました。私はブライアンに抗議しますよ。
「……最初に言ったよね?グラス達の特訓だって」
「悪いな。つい昂ってしまった」
全然悪びれた様子を見せませんねこの子。
「……ぶーちゃん」
「おい、それは止めろ」
「……まぁいいよ。それならこっちにも考えがある」
「考えだと?」
ブライアンがいることですし、丁度いいでしょう。
「……グラスとブルボンはそのまま休憩ね。この後は、レースを見学してもらう」
「ハァ……ハァ……。見学、ですか?」
「……ステータス『疑問』。どのレースを?」
そんなの決まってるじゃないですか。私はブライアンに向き直ります。
「……じゃあ、やろうかブライアン。私と併走を」
「……ほう?」
ブライアンは獰猛な笑みを見せますね。うーん好戦的。いいですね。
「一体どういう風の吹きまわしだ?私はまだ、未熟な果実ではなかったのか?」
「……考えが変わった。それと、グラスとブルボンの後学のために学ばせる必要がある」
「成程。アマさんが来れなくなった時は不運だと思っていたが……どうやら逆だったらしい。あの亡霊と一戦交えることができるとは!」
さて、ブライアンと併走をするその前に。私は電話を掛けます。ピッポッパっと。ブライアン達は怪訝な表情を浮かべていますね。
「……もしもし?ルドルフ」
《どうしたのかな?ファントム。私に何か用かい?》
「……ルドルフは今暇?」
《フム……。時間が空いているといえば空いているが。それがどうかしたのかい?》
「……私とブライアンと、併走する気はない?」
《……驚天動地。いや、そんなことを言っている場合ではないな。すぐに向かおう》
その言葉を最後に電話は切れました。さて、これで準備は整いましたね。
「……ハハッ。あの亡霊だけではなく、皇帝サマとも戦えるとは!今日は最高の一日だ!」
「……あくまでも目的はブルボンとグラスの為。それを忘れないでね」
「分かっているさ」
後はルドルフが来るのを待つだけです。ブルボン達は……
「「……」」
あ、口を開けてポカーンとしてますね。とりあえずルドルフを待つがてら待っときましょうか。
次回 亡霊VSシャドーロールの怪物VS皇帝の併走