そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

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着々と関りが増えていくぅ。


亡霊少女とストーカー?

 それはある日のジョギング中の出来事です。私はいつものように走っていました。

 

 

「……なんか、つけられてる?」

 

 

”だな。後ろにピッタリと、ついてやがる”

 

 

 いつものように走っていたら、誰かにつけられているような感覚がしてるんですよね。ついに私にもストーカーが現れましたか。私はお話ならいつでもウェルカムですよ?

 

 

”絶対ちげぇだろ。話す目的な訳ねぇ”

 

 

「……なんにせよ、誰なんだろうね?」

 

 

”テメェをストーカーするなんて物好きな奴だな”

 

 

 どういう意味ですかね。

 しかしどうしましょうか。いっそ捕まえてみます?私が目的じゃなかったら赤っ恥もいいとこですけど。

 

 

”そこの曲がり角めがけてペースを速めて、待ち構えときゃいいだろ。大抵の奴は引っかかる”

 

 

「……それでいこうか」

 

 

 それなら私が目的かどうかも分かりますし、最善手な気がします。それでは善は急げです。早速作戦を実行しましょう。私はペースを速めます。

 

 

「……ッ!」

 

 

 すると私をつけている相手もペースを速めましたね。フム、やはり私が目的のようです。では、作戦通りにいきましょう。私は曲がり角を曲がって急停止して相手を待ち構えます。それから程なくして……。

 

 

「……捕まえた」

 

 

 私はつけていた相手を捕まえて持ち上げました。にしても……随分小さいストーカーさんですね。ちゃんの方が近いかもしれません。持ち上げられるぐらいですし。

 

 

「ひゃあああぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 そして随分かわいらしい悲鳴ですこと。……いえ、それ以上にこの子の格好……ッ!

 

 

「……私にそっくり。つまりは、私のファン!?」

 

 

”どこをどう解釈したんだテメェは”

 

 

 何言ってるんですか!フードを被ってサングラスをしています!どこか私と似たような恰好……私のファンに違いありません!

 きっと声を掛けるのが恥ずかしかったのでしょう。だから私の格好を真似て気づいてもらえるようにしたはいいものの、やっぱり恥ずかしくて私の後をずっとつけていた……うん、多分きっとそうです。そう解釈しましょう。

 早速私のファンに問いかけてみましょう。さぁ、一杯お話してくれてもいいんですよ!

 

 

「……なんで私の後をつけてたの?」

 

 

「え、えっと……」

 

 

「……恥ずかしがる必要はない。思ったままに言ってみて」

 

 

 少し言い淀んだ後、私のファン?は答えました。

 

 

「ファントムさん速いし、ついていけばライスも強くなれるかなって……」

 

 

 悲報。別にファンではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……つまりは、ライスちゃんは強くなりたくて私の後をつけてたの?」

 

 

「は、はい……」

 

 

 あそこで話すのはなんですし、近くの公園で詳しく話を聞いてみることにしました。……道中色々ありましたけど。

 私をつけていたこの子の名前はライスシャワー。ちょっと引っ込み思案な子なのか私相手にビクビクしています。とは言っても、これは本人曰く普段通りなので気にしないで欲しいとのこと。体躯はかなり小さいですね。私は大柄な方なので余計にそう感じます。後は……右目を前髪で隠していますね。

 そんなライスちゃんですが。私の後をつけていたのは強くなりたいからとのこと。私の強さを知っているから、私の後をつけて走っていれば自分も強くなれる……そう思っているらしく、結構な頻度で私のジョギング中を狙って後をつけていたらしいです。フッ、今日以外全然気づきませんでしたよ。

 

 

”威張ることじゃねぇだろ”

 

 

「……それはそう」

 

 

「ふぇ?な、何が?」

 

 

「……気にしないで。こっちの話」

 

 

「あ、は、はい」

 

 

 しかし強くなりたいですか。

 

 

「……ライスちゃんはどうして強くなりたいの?」

 

 

「つ、強くなりたい理由?」

 

 

「……そう。なんとなく、気になったから」

 

 

 ライスちゃんは黙ったままですが、意を決したように口を開きました。

 

 

「ライスはみんなに喜んで欲しいの。ライスの名前、ライスシャワーのような祝福を届けたい。そのためにはレースで勝たないといけないから……だからライスは、強くなりたい」

 

 

 ふむ、みんなに祝福を……ですか。何とも立派な志ですね。私、涙。よっしゃ、ここは一丁その志のために、私も手伝ってあげましょう。

 

 

「……ライスちゃんは強くなりたいと。だったら、私から提案がある」

 

 

「な、何ですか?」

 

 

「……私は週に何回か他の子達と一緒に自主トレをしている。ライスちゃんもその自主トレに参加する気はない?」

 

 

「え?……でも……」

 

 

「……私は歓迎する」

 

 

 ブルボンとグラスは分かりませんけど、歓迎するでしょう。良い子達ですから。

 でも、どうやらライスちゃんは乗り気じゃないご様子で。何か不安要素でもあるんですかね?

 

 

「……ごめんなさい。お誘いは嬉しいけど、遠慮します」

 

 

「……なんで?さっきも言ったように私は歓迎する。それに、他の子達もライスちゃんを歓迎すると思うよ?」

 

 

「そうじゃないんです。理由は別にあって……」

 

 

 ふむぅ、理由は別にあると。一体どんな理由なんですかね?少し言い淀んだ後ライスちゃんは答えます。

 

 

「……ライスはみんなを不幸にするから。ライスがいたら、みんな不幸になっちゃうから。きっと自主トレに参加しているみんなを嫌な思いにさせちゃう。だから、ファントムさんの誘いはありがたいけど、受けれません」

 

 

 ライスちゃんがいると不幸にですか。

 

 

「……別にそんなことはないと思うけど」

 

 

 まぁ強いていうなら

 

 

「……確かに公園に来るまでの信号は必ず赤だったし鳥の糞が目の前に落ちてきたりして驚いてのけ反ったし小さい子とぶつかって小さい子が持っていたソフトクリームを台無しにして泣かせてしまいましたし私のジャージが汚れましたしソフトクリームを新しく買うことになりましたけど、それぐらいのことじゃない?」

 

 

”ありゃ酷かったな。珍しく悪いことが立て続けに起きた”

 

 

「……まぁこんな日もあるでしょ。大したことじゃない」

 

 

「ライス的には大したことだと思うな……」

 

 

 なんかドン引かれてますね。なんでや。

 

 

「……まぁ私は特に気にしてない。こんな日もあるでしょ」

 

 

「で、でもライスがいなかったらファントムさんは不幸な目には……」

 

 

「……それは、解釈次第でしょ。確かに悪いことが立て続けに起こったけど、単純にそんな日もあったってだけ。別にライスちゃんのせいじゃない」

 

 

「けど……」

 

 

「……あんまり悪く考えるのは良くないよ。それに、良いこともあったからね」

 

 

「い、良いこと?」

 

 

 ライスちゃんはキョトンとしていますが、あなたのことですよライスちゃん。

 

 

「……こうしてライスちゃんと会えた。人の出会いは一期一会っていうし、この出会いを大事にしなきゃ」

 

 

「ライスと会えたのが、良いこと?」

 

 

 そうですよ。私は頷いて肯定します。出会い方はアレですけど、結果的にライスちゃんと知り合えたわけですから。トントンです。

 私の言葉にライスちゃんは考え込んでいるのか俯いています。私はライスちゃんの回答を待つことにしました。

 しばしの沈黙。それを破るようにライスちゃんが答えます。

 

 

「……ちょっと、考えさせて。答えが出たら、ファントムさんのとこに行くね」

 

 

「……うん。私達はいつもこの日に自主トレをしている。決心がついたらいつでも来ていいよ。私達は歓迎する」

 

 

 私はメモ帳を取り出して自主トレをしている曜日を書いてライスちゃんに渡します。ライスちゃんはそれを受け取りました。

 

 

「うん。それじゃあ、ライスは帰るね」

 

 

「……またね、ライスちゃん」

 

 

 手を振ってライスちゃんと別れます。いやぁ、来てくれますかね?ライスちゃん。……いえ、きっと来てくれますね。そう考えましょう。

 さて、トレーニングを再開しましょうか。キリキリ頑張りましょー。

 

 

”で、実際のとこはなんで誘ったんだ?”

 

 

「……分かってるくせに」

 

 

”なぁに。テメェの口から改めて聞いておこうと思ってなぁ?なんで、あの不幸娘を自主トレに誘ったのか……その本当の理由をな”

 

 

 ……別に、深い理由なんてもんはありませんよ。

 

 

「……ライスちゃんに強くなって欲しいから。ライスちゃんの素質はかなりのモノ、それは見ただけでも分かったんじゃない?だから、それだけ」

 

 

”あぁそうだな。強くなって欲しいよな?”

 

 

 もう一人の私はとても愉快そうに答えます。

 

 

”俺様が喰らう相手として……な”

 

 

「……」

 

 

”弱い塵を喰らっても楽しくねぇ。相手が強ければ強いほど極上の餌になる……分かってるよな?”

 

 

「……分かってなかったら、こうしてみんなに成長は促さないよ」

 

 

”ハハハッ!そりゃそうだな!そいつは悪かった!”

 

 

 うーん愉快そうに笑っていますね。お気に召したようで何より。

 しかし笑い声から一転して、今度は真面目な声になりました。おぉっと、何を言われるんですかね?私。

 

 

”一応釘を刺しておくが……俺様を裏切ろうだなんて考えんじゃねぇぞ”

 

 

「冗談でも笑えない」

 

 

 質の悪い冗談ですね全く。

 

 

「私がもう一人の私を裏切るなんてことは絶対にない。私はいつだって、もう一人の私のために行動している」

 

 

 その行動原理は分かりません。ですが、私の心の中……とも言うべきでしょうか?そこには確かに刻まれています。

 もう一人の私の助けになれ、と。いつから思っていたことなのかそれは分かりません。私の昔の記憶は虫食い状態ですからね。ほっとんど覚えてませんよ。思い出そうとは思わないのか?別に思いませんね。不自由はしてませんし。

 ですが、私はいつだってもう一人の私のために行動します。それがどんな行動であれ……変わることは決してありません。結果的にどうなろうとも。

 私の答えに満足したのか、もう一人の私はとても満足げな態度です。

 

 

”なぁに、一応確認程度に……な。悪かったよ”

 

 

「……ま、別に気にはしてないよ」

 

 

”嘘つけ。いつもより語気を強めてたくせに”

 

 

「……気のせいでござんす」

 

 

”なんだその口調は。……まぁいい。さっさとトレーニングに戻るぞ”

 

 

「……ういうい」

 

 

 トレーニングに戻りますよっと。さてさて、ライスちゃんは私の提案を受けてくれるのでしょうか?受けてくれたら嬉しいですね。ライスちゃんはきっと強くなりますから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして後日。自主トレをしている私達のもとにライスちゃんが現れました。

 

 

「ふぁ、ファントムさん!これからよろしくお願いしましゅ!」

 

 

 あ、噛みましたね。めっちゃ顔を赤くしています。可愛いですね。思わず撫でたくなります。

 

 

「……うん、これからよろしく。ライスちゃん」

 

 

「ステータス『歓迎』。一緒に頑張りましょう、ライスさん」

 

 

「ともに頑張りましょう、ライス先輩」

 

 

「は、はい!」

 

 

 ファントム道場、着々と人数増えてますよ。頑張って強くなって欲しいですね。




ライスシャワーが 仲間に 加わった!▼

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