そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

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ファントム達の危惧していること。


亡霊少女と危惧

《春の天皇賞最後の第4コーナーを抜けて最後の直線に入りました!スペシャルウィーク先頭か!?スペシャルウィークが先頭か!セイウンスカイも懸命に粘る!メジロブライトも3番手まで上がってきた!しかしスペシャルウィーク先頭だ!スペシャルウィークがセイウンスカイを躱して先頭に立った!》

 

 

 

 

 春の天皇賞もいよいよ大詰め。最後の直線に入って観客の人達も大盛り上がりでござい。チームのみんなもスペちゃんを懸命に応援していますよ。

 

 

「頑張れー!スペせんぱーい!」

 

 

「気合だー!スペー!」

 

 

「後もうひと踏ん張りよ!スペちゃん!」

 

 

 スペちゃんは現在先頭を走っています。ですが……あまり良くありませんね。

 

 

”嬉しくなさそうだな。せっかく棒立ち娘が勝ちそうだってのに”

 

 

「……理由なんて分かりきってるでしょ?」

 

 

”ま、そうだな”

 

 

 スペちゃんが勝ちそうなのは良いことです。ですが……今の状況的に勝つのはあまりよろしくありません。

 

 

 

 

《残り200を切ってスペシャルウィーク先頭だ!スペシャルウィークが前に出た!リードは1バ身だがメジロブライドが懸命に追う!メジロブライトが懸命に追いかける!しかしその差はつまらない!これはもう決まった!》

 

 

 

 

 しかしまぁ。現実的にはスペちゃんが勝ったわけですが。うーん……。

 

 

 

 

《メジロブライト懸命に追うがその差は詰まらず!スペシャルウィークが今1着でゴールインその差は半バ身!春の盾、栄光を掴んだのは3番のスペシャルウィークです!》

 

 

 

 

 本当に、よろしくありませんねぇ……。

 

 

「おめでとー!スペシャルウィークー!」

 

 

「次のレースも期待しているぞー!」

 

 

 スペちゃんは観客の人達の言葉を受けて照れくさそうに笑っています。

 

 

”……ハァ、興味が失せそうだ”

 

 

 どうしましょうかね本当。そんなことを思いながら私はスペちゃんに拍手をしていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 春の天皇賞から数日後。すでに学園に戻ってきてスピカの部室でございます。練習の前に、スペちゃんの天皇賞の反省会です。とは言っても、勝ったので特に反省するようなことはないのですが。レース内容自体も悪くありませんしね。

 

 

「さて、スペ。お前は年明けから好調を維持して天皇賞を含めた3連勝中だが……まだまだ満足するんじゃねぇぞ?これからも気合入れて勝っていけ!」

 

 

「はい!スズカさんのためにも、一杯頑張ります!」

 

 

「その意気だ!そしてお前の次走だが……宝塚記念を予定している」

 

 

「宝塚記念……!スズカさんが勝ったレース!」

 

 

 宝塚記念。ファン投票で選ばれたウマ娘が出走する二大グランプリレースの1つですね。まぁ出走ぐらいスペちゃんなら余裕でしょう。勝てるかと言われたら……難しいですけど。

 私が感じている不安要素。それはただ1つです。

 

 

「それじゃあ、私はスズカさんのリハビリに付き合いますね!」

 

 

 これですよこれ。スペちゃん、練習の合間を見つけてはスズカのリハビリに付き合っているんです。いやまぁ、別に悪いとは言いませんよ?いいことです。

 ただ……宝塚記念にはおそらくグラスも出走してくるはずなんですよねぇ。本人はようやくスペちゃんと闘えるって闘志をみなぎらせていましたし。自主トレにも力が入っていますよ。私も嬉しくてついつい張り切って面倒を見てあげてます。

 そしてそんなグラスですが。メキメキと強くなっていってるのが分かります。もう目に見えて変わりましたね。この春こそ全休して始動戦は今度の京王杯ですが……問題なく勝てるでしょう。そう思えるぐらいには強くなっています。あ、そういえばエルが海外遠征に行ったという話を聞きましたね。あっちももうすぐ始動戦なんだとか。勝てるといいですね。

 話がちょい逸れましたが、一応、釘はさしておきますか。

 

 

「……スペちゃん、スズカのリハビリに付き合うのもいいけど、自分の練習も忘れないでね」

 

 

「はい!両立できるように頑張ります!」

 

 

 スペちゃんは元気よくそう返事しました。うんうん、元気が良くて何よりですよ。

 

 

”言わなくていいのか?このままだと、棒立ち娘は間違いなく負けんぞ”

 

 

「……その時はその時。それに、言ったところで改善はされないでしょ」

 

 

 スペちゃんとグラスの実力は拮抗しています。実力が拮抗している2人が戦った時、勝敗を分けるのは精神力の差です。

 

 

「……スペちゃん、私のリハビリに付き合ってくれるのは嬉しいんだけど、スペちゃんにも自分のレースがあるんだから。いざとなったらそっちを優先してね?」

 

 

「大丈夫ですよスズカさん!今の私、すっごく調子が良いので!」

 

 

 うーん……スズカの助言にもあまり聞く耳もたずですか。

 現時点で戦った場合どうなるか?今の会話を聞いたらもう明白ですね。スペちゃんとの戦いに闘志をみなぎらせているグラスと、他のことに目を向けているぐらいに気持ちが浮ついているスペちゃん。下手したら滅茶苦茶差をつけられて負けますよこれ。しかもスペちゃん最近リハビリ関連の本を読んでるってデジタル情報で聞きましたし。加えて結構な量だとか。なんです?リハビリトレーナーでも目指してるんですかスペちゃん。

 

 

”ハッ。口を開けばスズカさんスズカさんかよ”

 

 

「……スペちゃんにとっての憧れだしね、スズカは」

 

 

”バカバカしい”

 

 

 もう一人の私、滅茶苦茶不機嫌。気持ちは分からんでもないですけど。

 ぶっちゃけ、これが懸念点だったんですよね。春の天皇賞で負けていればまた話は違ったかもしれませんが。スペちゃん勝ったので。加えて年明けから負けなしの3連勝。そりゃ気持ちも浮つきますよね。勝って兜の緒を締めて欲しいんですが。

 

 

「……」

 

 

 そして、それはトレーナーさんも同じだったみたいで。険しい表情でスペちゃんを見ています。考えてることは、多分一緒ですかね?

 そんなこんなでミーティングも終わり。スペちゃん達は練習に行きました。私はトレーナーに呼び止められて1人居残りです。なんですかね?大体想像つきますけど。

 

 

「さて、と。ファントム、お前にだけ残ってもらったのには理由がある」

 

 

「……何?」

 

 

「今のスペを見て、グラスワンダーに勝てると思うか?」

 

 

 やっぱり、その質問ですか。

 

 

「……なんで私に聞くの?」

 

 

「お前はグラスワンダーとよく一緒に自主トレをしているだろ?だからグラスワンダーの実力を知っていると思ってな。……で、スペとグラスワンダーを比較して、どっちが勝つと思う?」

 

 

「……同じチームの後輩だから奇麗に着飾るのと、厳しい現実を突きつけられるの、どっちがいい?」

 

 

「構わん。現実を突きつけてくれ」

 

 

 だったら、正直に言いますか。

 

 

「今のスペちゃんじゃ100%勝てないよ」

 

 

 トレーナーはやっぱりか、といった表情をしています。溜息も吐いてますね。

 

 

「今のスペは確かにノっている。だが、それ以上に……」

 

 

「……気持ちが浮ついている。目の前のレースのことじゃなくて、他のことに目を向けている」

 

 

「そうだ。だから本音をいやぁスズカのリハビリには付き合ってほしくないんだがなぁ」

 

 

 トレーナーさんは頭を掻いていますね。ま、気持ちは分かりますよ。

 

 

「……スズカ本人に言われても大した効果がなかったんだから、どうしようもないんじゃない?」

 

 

「そうだよなぁ……」

 

 

「……スペちゃんに教えてあげれば?今のままだとグラスに勝てないぞって」

 

 

 私の言葉にトレーナーは渋い表情をしています。これもまた、私と同じ意見ですかね?

 

 

「分かってて言ってるだろ?俺から言ってもアイツは成長しないってな。そして、それは他のヤツらも同様だ」

 

 

「……そうだね。スペちゃんの成長を考えるなら、ここは」

 

 

「黙って見守る。それ一択だ。こればっかりは自分で気づかないといけないことだからな」

 

 

 ま、痛い目を見てもらうしかないですよね。スペちゃんのこれからを考えると。ここは心を鬼にしましょう。

 

 

「それともう一つ、スズカのことなんだが……」

 

 

「……スズカがどうかしたの?」

 

 

 なんか凄い言いにくそうにしてますけど。そんなに深刻なんです?

 

 

「……医者が言うには、レースへの復帰は絶望的らしい。秋の天皇賞の骨折は、スズカにとっては間違いなくトラウマになっているだろうからな」

 

 

「……頭では分かっていても、身体は覚えてるからね。私骨折したことないからよく分かんないけど」

 

 

「そりゃそうか。……お前はどう見てる?スズカは、復帰できると思うか?」

 

 

”無理に決まってんだろ。期待するだけ無駄だ”

 

 

 こらこら。そんなこと言うもんじゃありませんよ。

 

 

”うるせぇ。……俺様はもう期待しねぇんだよ。怪我をした塵のことなんてよ”

 

 

 そうですか。……まぁ、詳しくは聞きませんよ。

 

 

「……まぁ、医者の人が言うんだったら普通は無理じゃない?」

 

 

「……お前はそう思うか?」

 

 

 んな訳ないでしょうに。

 

 

「……それはあくまで一般論。私は、スズカは復帰するって思ってるよ」

 

 

”……あ゛ぁ゛?”

 

 

「……根拠は?」

 

 

 トレーナーにそう聞かれますが

 

 

「……根拠なんてないよ。ただ、私が復帰して欲しいと思っているだけ」

 

 

「……」

 

 

「……でも、それで十分でしょ。そもそも、絶望的なだけで0じゃないんだから諦める必要はないんじゃない?」

 

 

 それに、復活してもらわないと個人的に困りますし。大変困ります。

 部屋の中を沈黙が支配します。うーん気まずい。そう思っていたらトレーナーが口を開きましたね。

 

 

「……そうだな。悪い!少し気弱になってたみてぇだ」

 

 

「……そう」

 

 

「けど、おかげで方針は定まった。ありがとよファントム」

 

 

「……私が言わなくても、トレーナーなら勝手に復活してたと思うけどね」

 

 

 私の言葉にトレーナーは苦笑いを浮かべています。薄々自分でもそう思っていたみたいですね。

 

 

”……ケッ。勝手にしろ”

 

 

 はい、勝手にしますよ。それに、不機嫌にはなってないみたいですしね。

 そうだ、この機会に聞いておきましょうか。前から気になっていたことを。

 

 

「……そういえば、トレーナーは私の出走に関して何も言わないけど、なんとも思わないの?」

 

 

「あん?どういう意味だ?」

 

 

「……そのままの意味。普通、もっとレースに出ろーとか、さっさとドリームトロフィーに行ってこーいとか、言うもんじゃない?」

 

 

「あー……まぁ、確かに思わんことはないな。なんでお前さんがいまだにトゥインクル・シリーズに登録したままなのか、なんでレースへの出走をしなくなったのか。気にはなる」

 

 

 やっぱりそうですよね。確かに思いますよね。でも、トレーナーはニッと笑って続けました。

 

 

「けど、お前にも考えがあって決めてることだろ?だったら、俺から言うことは何もねぇよ。お前の好きなようにやれ。俺はそれを全力でサポートするだけだ」

 

 

 あらやだいいこと言うじゃないですか。

 

 

「……そう、ありがとう」

 

 

「気にすんな。それよりも、お前もそろそろ練習に行った方がいいんじゃないか?」

 

 

「……そうする」

 

 

 そうして私は練習へと向かいます。さてさて、今日も練習頑張りますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お願いがあります、ファントム先輩。いつも以上に厳しいトレーニングを積ませてください。宝塚記念で、スペちゃんに勝利するために」

 

 

「……Why?」

 

 

 ある日の自主トレ。ブルボンとライスちゃんもいる中唐突にグラスにそう言われました。2人ともビックリしています。何せグラスが修羅の如きオーラを纏っていますから。背後に阿修羅が見えますよ。いや、ホントなして?何があったんです?




グラスに何が起こったのか?
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