《ファン投票で選ばれたウマ娘達が覇を競いあいます夏のグランプリレース宝塚記念!このレースで注目されているのは、やはりスペシャルウィークとグラスワンダーの初対決でしょう!》
《春の天皇賞覇者スペシャルウィークと安田記念で鮮やかな4バ身勝ちを収めたグラスワンダー。これまでの対戦がなかった2人ですからね。好レースを期待したいところ》
《勿論この2人だけではありません!まだまだ注目したいウマ娘は沢山おります!さてさて、夏のグランプリ覇者の座へと輝くのは一体どのウマ娘になるのか!天候は晴れ、芝の状態は良バ場と発表されています!発走の時まで今しばらくお待ちください!》
グラスワンダーの応援ということで、我々リギルのメンバーはここ阪神レース場へと足を運んでいる。そして、そのグラスワンダーは現在出走前のウォーミングアップをしていた。
「グラスー!ファイトデスヨー!」
タイキシャトルの元気いっぱいな応援が飛んでいる。観衆も、それぞれ自身が応援しているウマ娘へと声援を送っていた。そんな折、同じチームのマルゼンスキーから話しかけられる。彼女は楽しそうな笑みを浮かべていた。
「ねぇルドルフ?あなたは誰が勝つと思う?」
「……マルゼンスキーか。そういう君はどうなんだい?」
「そりゃあグラスちゃんよ!当たり前田のクラッカーじゃない!」
フム。私と同じ……というわけか。
「私と同じだな。私も、グラスワンダーには特に注目しているよ」
「あら?それはなんでかしら?」
「そうだね……。彼女の成長には目をみはるものがあるのもそうだし、同じチームだから……という感情もある。だが、一番大きいのは……」
そう、彼女はあるウマ娘からの師事を受けているからかもしれない。
「彼女がファントムとよく自主トレをしているから……だからだね」
「あぁ~。そういえばグラスちゃんはファントムとも仲が良かったわね。うんうん、良いことだわ!」
私はマルゼンスキーの言葉を聞きながら、スペシャルウィークと言葉を交わしているグラスワンダーへと視線を向ける。今の彼女は……見るものが見れば酷く不気味に見えるだろう。
「そうだね。だが、あのファントムからの師事を受けているのであれば……今のグラスの状態にも何か理由があるように思えてならないんだ」
「……そうね。スペちゃんに絶対に勝つって意気込んでいたのに、今は凄く静かだもの。静かに闘志をみなぎらせている感じかしら?どんなレースを見せてくれるのか、お姉さんドキドキしちゃう!」
今のグラスワンダーは非常に落ち着いている。覇気も巧妙に隠しているし、普段と何ら変わらない様子と言われても不思議に思わないだろう。だが、それはあくまで外見上の話だ。おそらくグラスワンダーの内面は、闘志で満ち溢れているだろう。
「さて、ファントムは一体グラスワンダーにどんなことを教えたのか……。奇々怪々な策が飛び出すかもしれないね」
お手並み拝見といこうか、グラスワンダー。ファントムから何を学んだのか……それを見せてもらうとしよう。
宝塚記念出走前。私は入場してきたスペちゃんに話しかけに行きます。あることを確認する、そのために。
「スペちゃん。ようやくこの日が来ましたね」
「あ、グラスちゃん!そうだね……私、負けないよ!」
……外見上は普通。何ら変わりはありません。
「それは、どうしてですか?どうしてスペちゃんは負けたくないんですか?」
「へ?どうしたのグラスちゃん?いきなりそんなこと聞いて?」
「いえいえ、スペちゃんがちょっと緊張している様子でしたので。少し緊張をほぐしてあげようかと」
私は笑みを浮かべて答えます。さて、スペちゃんはどんな回答をするのでしょうか?
「この宝塚記念は、スズカさんも勝ったレースだから!だから、スズカさんみたいに私も勝つんだ!だから負けないよグラスちゃん!」
……成程。一縷の望みにかけてはみましたが。結局は変わりなく……ですか。
良いでしょう。ならば、当初の予定通りに走らせてもらいます。
「……そうですか。スズカさんみたいに。お互い頑張りましょうね、スペちゃん」
「うん!」
心は静かに。涅槃寂静、冷静であることを心がけます。レースは、今この時から始まっているのだから。
今日のスペちゃんは敵じゃありません。それよりも警戒すべきなのは……キングちゃんやフクキタル先輩の末脚、他にも警戒すべき相手は沢山います。ですが……
「勝つのは私です」
そう誓い、ゲートへと私は入りました。出走の瞬間を目を閉じて、心を落ち着かせながら待ちます。
《今回の宝塚記念は2人のウマ娘が評価を二分する形となりました!この評価は不満が残るか?2番人気はグラスワンダー!》
《パドックでもゲートでも、非常に落ち着いた様子を見せていますね。好走が期待できそうです》
《そして1番人気は勿論このウマ娘!春の天皇賞を制したスペシャルウィーク!》
《気合十分といった様子。同じチームの先輩であるサイレンススズカのように勝ちたいとは本人の言葉。どんなレースを見せてくれるのか楽しみですね》
《12人のウマ娘がゲートで発走の瞬間を今か今かと待ちわびています。今……》
ッ!ゲートが開いた。今ッ!
《スタートしました!夏のグランプリ宝塚記念、栄光を掴み取るのはどのウマ娘か!注目の一戦が今始まりました!》
好調な滑り出しですね。私が取るべき位置は……スペちゃんの真後ろです。スペちゃんが5番手なので……私は6、7番手といったところでしょうか。
スペちゃんは今回の1番人気。このレースに置いて、最も警戒されているウマ娘と言っても過言ではないでしょう。ならば私は、それを利用します。
私はスペちゃんにプレッシャーを与え続ける。位置的に私の姿はスペちゃんから見えないでしょう。スペちゃんは見えない相手からのプレッシャーを食らい続けることになる。後ろからの圧を受けて、スペちゃんが取るべき行動は……。
「……ッ!」
ペースを上げる。その一択です。さぁ、覚悟してくださいスペちゃん。あなたの好きなようには走らせません。あなたのレースに対するその姿勢……
(私が、一刀のもとに切り伏せる!)
そう誓い、私は私のレースを貫きます。ここにいる誰よりも速く駆け抜けてゴールするために。
さてさて、グラスの作戦は順調にいってますね。うまくハマっています。
《さぁ宝塚記念最初の1000mを通過しました!最初の1000mは59.6秒!ペースとしてはやや平均的といったところでしょうか!順位は変わらず先頭に立って逃げる12番、そこから少し離れた位置に2番、1番、そして10番キングヘイロー。キングヘイローの後ろ5番手の位置にスペシャルウィーク1番人気スペシャルウィークはこの位置だ!そしてそのスペシャルウィークをピッタリとマークしている5番グラスワンダー!》
《やはり初の対戦ということもあって意識しているように見えますね。グラスワンダーはスペシャルウィークを標的に定めたようです》
《さぁ相手をこれと決めた時のグラスワンダーは恐ろしいぞ!スペシャルウィークはどう対応するか!……おっと?スペシャルウィークが辺りを見渡しているぞ!グラスワンダーはすぐ後ろだ!》
うんうん。いい調子ですね。スペちゃんは……っと。おや、辺りを見回していますね。
「スペ先輩、焦ってる?」
「無理もないですわ。おそらく、グラスワンダーさんから常にプレッシャーを浴びせられているのですから」
「しかも、スペの位置だとグラスワンダーは見えねぇ。スペは誰からプレッシャーを当てられているのかすら分からん状態だ」
そりゃ不安にもなるでしょう。ま、不安になっている時点でまだまだですよスペちゃん。グラスのプレッシャーも相当なものですけど、これぐらいのプレッシャーには慣れてもらわないと。
……?おや、スペちゃん早々に仕掛けましたね。まだ第3コーナーですが。それに合わせるようにグラスも進出を開始しましたね。……さて。
「……対スペちゃん用の策、お披露目の時だね」
”さぁ、面白くなってきたぜぇおい!”
もう一人の私のテンションもうなぎのぼりですよ。フィーバータイムです。
宝塚記念、スズカさんが走ったレース!私は今向こう正面を走っています!もうすぐ第3コーナーです。
(スズカさん、見ていますか?今私、スズカさんが走ったレースを走ってますよ)
スズカさんがこのレースを観ている。だから、今日のレースは絶対に勝つ!勝って、スズカさんに近づくために……ッ!
(ッ!ま、また!?)
けど、それには不安なことが一つあります。それは、レースの最初からぶつけられ続けているこのプレッシャーです……ッ!常にプレッシャーを当ててくるのではなく、要所要所で、私が一番嫌なタイミングで当ててきてます。私のことを、熟知しているように。正直言って、かなり走りづらい!
加えてこのプレッシャーをぶつけている相手が誰なのか分かりません。少なくとも私の後ろを走っている子なのは間違いないんですけど……。そういえば、グラスちゃんはどこを走っているんだろう?レースの最初の方からずっと姿が見えないけど……。
正直、弱気になりそうです。でも、その度に私は奮起します!
(スズカさんならきっと、意に介さずに走るはず!だから私も……ッ!)
このプレッシャーの中でも走ってみせます!スズカさんのように!
第3コーナーに入ろうかという時、急に身体が軽くなったような感覚になります。気づけばそのプレッシャーはなくなりました。まるで、今まで当てられてきたのが嘘のように私の気持ちは軽くなります。これは……ッ!今がチャンスです!
《各ウマ娘第3コーナーへと入りました!そしてここでスペシャルウィークが上がってきた!スペシャルウィークが仕掛けたぞ!それに続くようにグラスワンダーも上がってくる!グラスワンダーはスペシャルウィークのピッタリ後ろ!スペシャルウィークを徹底マークする形を継続している!》
《グラスワンダーはかなり徹底していますね。これが彼女なりの作戦なのでしょうか?》
私は1人、また1人と抜いていきます。
(スズカさんならここで……ッ!集中……、集中!)
ファントムさんに教えてもらった
徐々に見えてきました!私だけの景色が……そう思った瞬間
意識が吹っ飛びそうなほどの殺気を、今までとは段違いのプレッシャーを当てられました。例えるなら、心臓を刃物で貫かれたような感覚が私を襲います。それと同時に私の
「……あ、っ、え?」
な、なんで!?プレッシャーは消えたはずじゃ!?ど、どうして!?
「あっ……」
前へと視線を向けると、そこにはグラスちゃんの姿が見えました……ッ。
《スペシャルウィークが先頭……ッ!いや違う!外からグラスワンダー!外からグラスワンダーが襲い掛かってきた!外からグラスワンダーがスペシャルウィークに並んでッ!?並ばない並ばない!グラスワンダーがスペシャルウィークをあっという間に躱した!》
(い、今はとにかく走らないと!速く走って、スズカさんみたいに!)
勝たなきゃダメなのに!スズカさんに近づくには、スズカさんが勝ったこのレースを勝たないとダメなのに!でも、でも……!
(ぜ、全然追いつけない!?な、なんで!?)
ファントムさん言ってたのに!私とグラスちゃんにそこまでの差はないって!なんで、どうして!?
(やだ……やだ、やだやだやだ!ここで負けちゃったら……ッ!スズカさんも、このレースを観てるのに!)
スズカさんには、追いつけない。でも、私のスピードは上がっていくどころかむしろ落ちていってます。私が抜かした子達が、今度はどんどん私を追い抜いていく。
《な、なんとスペシャルウィークは早々に力尽きたかズルズルと後退していく!第4コーナーを抜けて最後の直線に入りました!先頭はグラスワンダー、グラスワンダーだ!グラスワンダーが後続を突き放す!グラスワンダーとは対極的にスペシャルウィークはまた1人、また1人と抜かされている!》
《こ、これは一体どうしたことでしょうか?スペシャルウィークは春の天皇賞を走り切るだけのスタミナがあります。スタミナ切れとは考えにくいですが……》
《一体どうしたことかスペシャルウィーク!このままだとしんがり負けになるぞ!?》
私は、必死に脚を動かしています。
(なんで……ッ、なんで!?なんで追いつけないの!?)
もう、無理だ。先頭のグラスちゃんとの差は歴然。今からだと、どうあがいても追いつけない。
(スズカさん、ごめんなさい。私……)
スズカさんに謝りながらも、私は脚を必死に動かしています。一縷の望みにかけて。
私は、最後の直線でファントム先輩とのやり取りを思い出します。
『……1分1秒を争うレースにおいて、この技術はとても役に立つ。
《グラスワンダーが後続を突き放す!その差を3バ身!4バ身!……ッ!?まだまだ開く!恐ろしい強さだ!やはり怖かったグラスワンダー!》
しかし、この技術はあくまで発動タイミングをずらすだけ。ファントム先輩達のような上位層の方々はそこからすぐさま
「士道不覚悟。その程度の覚悟でこのレースに挑んできたとは……到底許せる所業ではありません」
私はそう呟きながらゴール板を駆け抜けました。
《そして今グラスワンダーがゴールイン!恐ろしい強さを見せつけた!〈不死鳥〉グラスワンダー!そしてグラスワンダーから遅れることおよそ10バ身でしょうか!?2着はキングヘイロー!なんとグラスワンダー、G1級レースで10バ身差のKO勝ちを収めました!10バ身差の圧勝劇!》
《いやぁ……もう、言葉が出ませんね。お見事という他ありません》
《そしてなんと1番人気スペシャルウィークは9着!春の天皇賞を制したスペシャルウィークは思うような末脚を発揮することができずに掲示板外に沈みました!これからのレースに暗雲が立ち込めますスペシャルウィーク!》
ちゃっかり2着に食い込んでるキング。スペちゃんは掲示板外に沈みました。そしてグラスはG1レースの最大着差を更新する事態に。確かグレード制導入以降の最大着差は9バ身だったはずなので。