そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

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ウイニングライブの練習


亡霊少女と帝王

「それで、スピカのみなさんはライブの件で会長さんに怒られていた……と」

 

 

「……そうですね。私なんて完全にとばっちりですよ」

 

 

 スペちゃんのメイクデビューが終わってからしばらく経った日のお昼。私はカフェテリアでカフェさんとご飯を食べています。いつも通り1人でご飯を食べていたところ、なんとカフェさんに一緒にどうかと言われて相席してもらうことになりました。カフェさん優しい。

 カフェさんの名前はマンハッタンカフェ。私の数少ない友人の1人です。もう一人の私が見える人物でもあります。彼女曰く、もう一人の私は顔は分からないものの存在は認知しているみたいです。私の方もカフェさんのいうお友達の姿は見えています。しかしいつ見てもカフェさんそっくりですね。

 私とカフェさんの共通点は言うまでもありません。お互い普通の人には見えないものが見えるという点です。一般的に言う幽霊との会話も可能であり、私同様に虚空に話しかける姿が度々見受けられているそうです。そのせいもあってか、彼女もまた他の子達からは異質な目で見られています。私と同じですね。

 そんなカフェさんと私が惹かれ合うのは当然でした。なんてったって同士ですからね。私とカフェさんは仲間です。カフェさん・マイ・フレンド。

 そんなカフェさんと話しているのは、スピカの現状についてです。スピカは現在快進撃を続けています。スペちゃんは2勝目、スカーレットとウオッカはそれぞれジュニア級を1勝ずつ、ゴルシも勝利、スズカも勝って連勝街道に乗っています。スピカの先輩として鼻が高いですよ。みんなにヨシヨシしてあげました。……まぁ、ここまではいいんですよ、ここまでは。

 問題はその後でした。なんとスズカを除いて誰一人としてまともにウイニングライブをできていなかったんです。ゴルシはわざとやってるだろうからどうでもいいとしても、これは由々しき事態です。

 

 

『ウイニングライブを疎かにする者は学園の恥だ。分かるか?ファントム』

 

 

『……それ私じゃなくてトレーナーに言ってくれない?少なくとも私はまともにやって来たでしょ?』

 

 

『君はスピカの先輩だろう。監督不行き届きとして君もだ』

 

 

『……解せぬ』

 

 

 そんなわけで私がルドルフに怒られてしまいました。これも全部トレーナーがウイニングライブの練習を怠ったせいです。え?練習しなくてもいいのかって言わなかったお前も悪い?あー、あー。聞こえませーん。

 その話の一部始終を聞いたカフェさんは苦笑いを浮かべています。

 

 

「……そうですね。ご愁傷さまでした、ファントムさん」

 

 

「……ルドルフも何故私に言うのか。これが分からない」

 

 

「ファントムさんは、スピカの先輩ですから……。先輩として、後輩にしっかりとした指導を……という意味合いもあるんじゃないでしょうか?」

 

 

「……そうですかね?」

 

 

 私はご飯を食べながらカフェさんとそんな話をしています。カフェさんのお友達はこの話を聞いて笑っていますね。滅茶苦茶笑顔になってます。もう一人の私?当時のことを思い出して一緒に笑ってますよ。仲いいですねあなたたち。……あ、喧嘩しだした。カフェさんもこの光景が見えているのか苦笑いを浮かべています。

 

 

「……それで、どう対策をするつもりなんですか?スピカのトレーナーさんは」

 

 

「……ダンスの先生を呼ぶんだって。私は、別にダンスが得意ってわけじゃないからね」

 

 

「そうですか。無事に踊れるようになるといいですね……。ライブも、大事な要素ですから」

 

 

「……むしろ、できてない方がおかしいんだけどね」

 

 

 私とカフェさんは楽しく会話しました……。

 

 

”んだテメェ!ガンくれやがって!喧嘩売ってんのか!?あ゛ぁ゛!?”

 

 

”こっちの台詞だ!霊障女のつき纏いが!”

 

 

”テメェだって仮面女のつき纏いだろうが!”

 

 

”テメェみたいな塵と一緒にすんじゃねぇ!”

 

 

””ア゛ァ゛!?””

 

 

 いつまで喧嘩してるんですかあなたたち。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて放課後。私達スピカのメンバーはカラオケ屋にやってきました。何故にカラオケ屋?

 

 

「今日はここでダンスレッスンをするぞ!」

 

 

 まぁきっと何かあるんでしょう。ひとまずトレーナーに先導されるまま私達はカラオケ屋へと入っていきます。そして、目的の部屋に到着しました。さて、トレーナーが呼んだダンスの先生とは誰なんでしょうか?あわよくば仲良くなれたら嬉しいです。

 部屋からは歌が聞こえてきます。どうやらもう歌っているみたいですね。声に聞き覚えはありませんが……すごく上手いですね。少し見えましたが、ダンスも上手です。あ、歌い終わった。得点は……。

 

 

「……凄い高得点だね」

 

 

”テメェじゃ無理だな”

 

 

「……ぐぬぬ」

 

 

 私も別に音痴というわけではないですけどね。あ、向こうがこちらに気づきましたね。う~ん、いい笑顔……だったのに、私を見た瞬間顔を険しくさせました。

 

 

「あ~!キミはファントム!」

 

 

 さんを付けろよデコ助野郎!

 

 

「なんでこんなとこにいるのさ!」

 

 

 悲報。私、初対面の子に滅茶苦茶嫌われてる。

 

 

”おい、なんだこの失礼なクソガキは?ぶっ潰されてぇのか?”

 

 

「……落ち着いて私。面識は、ないよ。知らない子」

 

 

”当たり前だ。俺様はこんなクソガキ見たことねぇからな”

 

 

「……なんで、こんなに敵対心持たれてるんだろ?」

 

 

”知るか。俺様が負かした塵の友達とかじゃねぇのか?”

 

 

「……該当者が多すぎて、絞れないね」

 

 

「ちょっと!さっきから誰と話してるのさ!」

 

 

 歌が上手い見知らぬ子は私に対してそう詰め寄ってきます。まぁ傍から見れば私1人で喋っているようなものですしね。そんな時ウオッカの声が聞こえてきました。

 

 

「なんでテイオーがここにいるんだよ?」

 

 

「俺が呼んだ。歌とダンスの先生だ」

 

 

 テイオー?もしかして……。

 

 

「……トウカイテイオー?」

 

 

”あ~……なんかどっかで聞いた覚えがあんなその名前”

 

 

 トウカイテイオー。その名前はルドルフから聞いたことがあります。自分を目標に頑張っている可愛い後輩だと。レースの実力もあり、彼女のバネは天性のものだって言ってました。後身体がとても柔らかいのだとか。

 

 

「……ルドルフが言ってた子。将来有望だって」

 

 

”そんなこと言ってたな。見た目とこの態度……クソガキとしか思えねぇけどな”

 

 

「……でも、可愛いとは思わない?」

 

 

”で?なんでこいつはこんなに突っかかってくんだ?”

 

 

「……彼女はルドルフを尊敬しているから。ルドルフ以上って言われてる私が気に入らないんじゃない?」

 

 

”ハッ。事実だろうが”

 

 

「……それでも、だよ。尊敬している人よりも上だって言われてる相手がいたら、いい感情は抱かないと思うよ?」

 

 

「だ~か~ら~!さっきから誰と話してるのさ!ボクを無視しないでよ!」

 

 

 おっと。もう一人の私との会話に夢中で反応するのを忘れていました。うっかりです。

 

 

「……ごめんね。別に無視してたわけじゃないんだ。君の話はルドルフからよく聞いてるよ」

 

 

「え!?カイチョーはボクのことなんて言ってるの!?」

 

 

 ルドルフの話をした途端露骨に機嫌を良くしました。あらやだチョロい。

 

 

「……自慢の後輩。いつか自分を継いでくれる子だって、いつも言ってるよ。凄く目にかけてるみたい」

 

 

「フフ~ン!」

 

 

 テイオーは得意げにふんぞり返っています。可愛いですね。

 

 

”しっかし、尊敬ねぇ?”

 

 

「……どうかしましたか?私」

 

 

”いやぁ?お前にもそういう奴はいるのかねと思ってな?”

 

 

「……強いていうなら、理事長達?」

 

 

”そういう意味じゃねぇさ。このクソガキみてぇに小さい頃にレースを見て、尊敬してた奴はいんのか?テメェは?”

 

 

 ……。

 

 

「いるわけないでしょ。そんな相手」

 

 

”ハハッ!そりゃそうか!”

 

 

「……分かってるのにそんなこと聞くの、少し意地が悪いんじゃない?」

 

 

”悪かったな。もうしねぇよ”

 

 

 まぁ、もう一人の私も私をからかうためにこの発言をしたことは分かっています。なので、本気では怒っていません。意地が悪いとは思いますが。

 ふと視線を戻すと、テイオーが不思議そうな表情で私を見ていました。

 

 

「どーしたの?気分でも悪くなった?」

 

 

「……ううん。大丈夫。とにかく、テイオー先生」

 

 

「せ、先生……ッ!フッフーン!何かな~?ファントムく~ん。テイオー先生になんでも聞いてくれたまえ~」

 

 

 分かりやすく気分良くしてますね。

 

 

「……この子達のダンスレッスン、お願いします」

 

 

「任せてくれたまえ~!それに、カイチョーからも言われてるからね!スピカの子達に歌とダンスを教えてやれって!」

 

 

 あぁ、どうして引き受けてくれたと思ったらルドルフが絡んでいたんですね。納得です。

 

 

「……まぁ私とスズカは必要ないんだけどね。頑張って、みんな」

 

 

 そこからテイオーのスパルタダンスレッスンが始まりました。

 

 

「わっ、わっ、わぁっ!?」

 

 

「ちょ、ちょっと!?大丈夫?スペちゃん!」

 

 

「うぅ~……上手くいきませ~ん……」

 

 

 ターンに失敗したスペちゃんを心配したり。

 

 

「ホラ!ちゃんとリズムを感じ取って!ダンスはリズム感が大事なんだから!」

 

 

「う、う~ん……やってみるけどよぉ」

 

 

「やらないとダメなんだから!ホラ!頑張って!」

 

 

 ウオッカにメトロノームを利用してリズム感を教えたり。

 

 

「ここはこう!指を真っ直ぐに、ピーンって!」

 

 

「こ、こうかしら……?」

 

 

「違うよ!もっと、こう!」

 

 

 スカーレットに振付のポージングを教えたり。

 

 

「で、ここはこうステップを踏んで……って、なにしてるの?」

 

 

「座禅」

 

 

「真面目にやってよ!誰のためにやってると思ってんのさ!」

 

 

 なぜか座禅を組んでいるゴルシに注意したりと。テイオーは熱心に教えてくれました。意外と面倒見は良いタイプなんですね、彼女。私とスズカは盛り上げ役に徹します。私達は普通にライブできますからね。私の格好?そこにツッコむのは野暮ってもんですよ。

 そんなわけで今日は一日中、ダンスのレッスンに励みました。……私とスズカの練習にはなってませんねコレ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダンスレッスンを終えてカラオケ屋から出ました。すでに夕焼け空ですね。私達はみんなで仲良く帰っています。テイオーも最初の敵対心むき出しの態度はどこへいったのやら、普通に私に接しています。スペちゃん達は口々にテイオーに感謝の言葉を口にしていますね。

 

 

「ウチに来たら可愛がってやるぞ~?」

 

 

 ゴルシが冗談交じりにそう言いました。テイオーは苦笑いを浮かべていますね。

 

 

「ま、テイオーにはテイオーの考えがあるさ。俺としては、テイオーにはのびのびとした環境でやって欲しいね」

 

 

 おや珍しい。勧誘しないんですね。しかしテイオーがスピカにですか……。可愛い後輩が増えて私としては嬉しいですね。それに、ルドルフが目にかけている子……強いことは間違いありません。

 

 

「さて、勝つ準備もできたことだ。スペシャルウィーク!」

 

 

「はい。なんでしょう?トレーナーさん」

 

 

「3冠ウマ娘、取るぞ!」

 

 

 おぉ、大きく出ましたね。スペちゃんは驚いた表情を浮かべています。気持ちは分からないでもないですけど。

 

 

「お前はこの中で唯一、今年の3冠ウマ娘の挑戦権がある」

 

 

「私が……3冠ウマ娘……」

 

 

「そうだ。スペシャルウィーク、お前の目標はなんだ?」

 

 

「それは……日本一のウマ娘です」

 

 

「皐月賞、日本ダービー、菊花賞……クラシック級のウマ娘しか出走を許されないこのレースを全て制したウマ娘にだけ許される称号、3冠ウマ娘……。お前が目標にしている日本一のウマ娘になるための最短ルートと言っても過言ではない」

 

 

「カイチョーは、それを無敗で成し遂げたんだ!凄いでしょ!」

 

 

 そう考えるとルドルフってすごいですね。3冠制覇するまで無敗だったんですから。

 

 

「チャンスがあるなら、挑戦してみるのもいいんじゃないかしら?スペちゃん」

 

 

 スズカが後押ししてますね。でも、スペちゃんはまだ難しい表情をしています。

 

 

「でも……、ファントムさんでもできなかったんですよね?」

 

 

「あ、あ~……まぁ確かにファントムは3冠ウマ娘じゃねぇけどよ……」

 

 

 トレーナーは露骨に困った表情をしていますね。ちょっと、私の方見ないでくださいよ。

 

 

「……私はそもそも、クラシック3冠のどのレースにも出走していない。だから、3冠ウマ娘じゃないのは当たり前」

 

 

「えぇ!?ど、どうしてですか!1回しか出走できないのに!」

 

 

「……秘密」

 

 

 私は人差し指を立ててそう言います。他のみなさんは納得いってない表情をしてますね。ふふん、どうですかこの謎多き女ムーブ。いい線いってると思うんですけど。

 

 

”知らねぇよ。つーか、出なかったレースのことなんざどうでもいい”

 

 

 まぁそうですよね。私もあまり興味がありませんし。

 トレーナーは1つ咳払いをして話を戻します。

 

 

「とにかくだ!まずは皐月賞のステップレース、弥生賞を取るぞ!スペシャルウィーク!」

 

 

「は、はい!」

 

 

 そうしてスピカのみんなで笑いあいます。テイオーは、少し離れた位置で

 

 

「……うん。決めた!」

 

 

そんなことを言っていました。これは……もしかするかもしれませんね。




もう1個の方投稿できてなくてホントすみません……。アイディアが出てこないんです……。

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