そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

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スピカの夏合宿……の前に主人公のレースをひとつまみ。


追想:亡霊の京都大賞典

 さぁ私の京都大賞典の日がやってきましたよ。なんと私、ここまで無敗です。フフン、どうですか?すごいでしょう?

 

 

”当たり前だろうが。俺様が出走してるんだぞ?負けるはずがねぇ”

 

 

 ま、それはそうなんですけどね。

 

 

”……チッ。俺様と同じ世代の強い塵が集まると聞いていたのに……とんだ期待外れだったぜ、クラシック3冠ってのはよ”

 

 

「……結局どれにも出走しないんでしょ?」

 

 

”当たり前だ。弱すぎんだよあの塵共は。もうちっとマシな強さになってから出走しろや。喰いがいがねぇ”

 

 

「……結局弥生賞だけだね。出たのは」

 

 

 一応皐月賞のトライアルレースらしい弥生賞には出走しましたよえぇ。結果?17バ身差の圧勝です。もう一人の私は終始つまらなさそうに走ってましたけど。

 そんなもんだからもう一人の私はクラシック3冠のレースに出走することを早々に諦めました。どうせこの程度の塵しか集まってこないレースなんてたかが知れてる、とのことらしいです。うーん、傲慢。

 そして私が皐月賞に出走しないということが世間に広まった時はもう大騒ぎでしたよ。どこもかしこも疑問の声で溢れていました。そのあおりを受けるのはトレーナーなんですけどね。私?基本的に取材されないので仕方ないのです。あ、でも一面を飾りましたよ。私、有名人。ちなみにその新聞の見出しですが。

 

 

【亡霊不在の皐月賞は大混戦!予想つかず!】

 

 

【本命不在の日本ダービー。栄光は誰の手に?】

 

 

【クラシック級に敵はいない!?皐月とダービーに出なかった亡霊の真意は!】

 

 

 大体どこもこんな感じでした。ま、真相としては出るレースに拘りがないだけですね。強い相手と闘えればそれでいいので。クラシックレースに関してはもう一人の私が気乗りしないという理由で見送りましたが。

 その結果、私は7戦7勝で京都大賞典を迎えましたよっと。基本的にクラシック級のレースに出てました。G1級には出てませんけど。距離に関しては……とりあえず手当たり次第にレースに出てました。全部大差勝ちしたわけですが。

 そしてこの日が初めてのシニア級との混合レースです。満足してくれるといいのですが。

 

 

”おい。そろそろ代われ”

 

 

「……そうだね。そろそろ代わろうか」

 

 

 んじゃ、後は任せましたよ私……

 

 

「……ハァ。シニア級ならちっとはマシな塵共が出走してくると思っていたが……、クラシック級と何ら変わらねぇじゃねぇか」

 

 

 辺りを見渡して他の塵共を見て、溜息を吐く。これじゃあ1人で走ってる方がマシだ。どいつもこいつも歯ごたえがなさすぎる。

 

 

「……アレが噂の……」

 

 

「……明らかに私達を舐めたような態度をして!……」

 

 

「……分からせてやろうじゃない!どっちが上かってのを!……」

 

 

「……絶対に許さない。アイツのせいで!……」

 

 

 なんか塵共が俺様に向かって言っているが。どうでもいいからさっさと済ませるか。そう思いながら俺様はゲートに入る。しかしいつになっても慣れん。このゲートってのは。スタートダッシュは苦手じゃないが……このゲートだけはどうも苦手だ。ぶち壊してやろうか?

 

 

”……止めてね。絶対に”

 

 

 はいはい。分かってるっての。

 

 

 

 

《天候は晴れ、良バ場と発表されています今回の京都大賞典!注目はやはり7番のファントムでしょう!ここまでのレースを7戦7勝!調子落ちしていた朝日杯以外のレースは全て大差勝ち!その朝日杯も調子落ちとは思えない脚で8バ身差の大楽勝を収めました!》

 

 

《クラシック3冠は確実視されていた彼女。しかしどういうわけか皐月賞と日本ダービーには出走せず。そのことで世間は大賑わいしていましたね。故障を疑われましたが、他のレースには出走していたことから故障ではなかった様子。果たしてどんな意図があるのか?》

 

 

《シニア級との混合レースであるこのレースでも、その大逃げで大差勝ちを収めるのか!非常に気になる一戦であります!》

 

 

 

 

 ゲートが開くのを静かに待つ。そして

 

 

「……んあ?あぁ、やっと開いたか」

 

 

 ゲートが開いた。もう何度目か分からないが俺様は出遅れる。ま、丁度いいハンデだろう。ゆっくりと……いくわけねぇよなぁ!

 

 

「なっ!?」

 

 

「嘘ッ!?」

 

 

 俺様は一気に先頭に躍り出る。造作もないことだ。

 

 

 

 

《京都大賞典が幕を開けました!7番ファントムはやはり出遅れた!出遅れたがしかし爆発的な加速で一気に先頭に躍り出ます!7番のファントムがやはり先頭に立つ!ここから亡霊の逃亡劇が始まります!亡霊を捕まえることのできるウマ娘は現れるのでしょうか!?》

 

 

《おっと、これは……!》

 

 

《な、なんと!抜け出したファントムを追って1人、また1人とウマ娘達がファントムへとついていく!さながら行列のようだ!ファントムを先頭に全員がハイペースで飛ばしている!これは最後まで持つのか!?》

 

 

 

 

 ……ほう。控えるんじゃなくて、ついてくるのか。

 

 

「あなたの好きにはさせないわ!亡霊!」

 

 

 成程ねぇ。しかし、良いのか?俺様に持久力勝負を挑んで。……まぁいい。

 

 

「俺様の前を走る塵は誰であろうと許さん。俺様の後ろを……這いつくばってるんだな塵共が!」

 

 

 俺様は走る。後ろに15人のウマ娘を引き連れて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勝負はすでに第3コーナーに入ろうかというところ。依然として俺様が先頭だ。後続は……多分7から8バ身ぐらいだな。この感じだと。全く期待外れだ。第1コーナーまでは威勢が良かったものの……結局は抑えて走るんだからな。

 

 

 

 

《先頭のファントムが第3コーナーへと入りました!先頭は依然としてファントム!そこから7バ身遅れて2番手に11番が続きます!ファントムの逃げは今日も炸裂するのか!?》

 

 

《しかしいつみても不思議ですねぇ。彼女のスタミナは無尽蔵なのでしょうか?》

 

 

《後続もそろそろ仕掛けたいところ!そろそろ仕掛けなければ今までのウマ娘のようにターフに沈められることとなる京都大賞典!ファントムが快調に逃げております!》

 

 

 

 

 落胆していると、遠くの方から声が聞こえてきた。この感じだと多分……2番手の塵か?詳しくは分からん。

 

 

「絶対に負けられないんだ……ッ!アイツに負けて学園を去っていったあの子のためにも……、あたしは絶対に負けられない!ファントムに、勝ってやるッ!」

 

 

 ……おーおー、青くせぇこって。他の塵の敵討ちって奴かぁ?必死だなぁ、おい!叶いもしねぇ理想を抱いてよぉ!

 

 

「だったら……分からせてやるとするか」

 

 

”……!ここで仕掛ける気!?”

 

 

「うるせぇ。黙ってみてろ」

 

 

 第3コーナーの半ば……ま、十分持つだろ。何の問題もねぇ。頭を大きく振りかぶって、いつものスパートのフォームを取る。本来ならスパートのフォームじゃねぇ、これが俺様の普通の走りだ。いうなれば、俺様はいつも制限して走っていると言ってもいいだろう。理由?別にねぇ。あえて理由づけるなら……遊びだ。俺様に追いつける塵がいるかどうかの……な。

 

 

「大変だなぁ弱い奴ってのはよぉ」

 

 

 勝つために色々と考えて、試行錯誤して。

 

 

「俺様にとって勝利は勝ち取るもんじゃねぇ」

 

 

 強い奴の対策をして、必死に練習を重ねて。ご苦労なこった。だが……その程度の努力で俺様に勝とうなんざ100年はえぇんだよ。その程度の努力でなんとかなると思ってんだったら……

 

 

「走ってりゃ勝手についてくるもんだ」

 

 

 身の程を分からせてやろうじゃねぇか……ッ!テメェらがどれだけ甘い理想を抱いているのか、俺様とテメェら塵共の……隔絶とした差を!

 

 

「テメェもその後輩とやらのもとに送ってやるよ!」

 

 

 ぶちのめしてやるよ塵が!

 

 

 

 

《さぁそろそろ第3コーナーを抜けようかというところで……ッ!?な、なんとファントムがここでスパートをかけたのか!?あの独特なフォームを取っている!あのフォームでグングン加速している!?これは暴走か!暴走なのか!?》

 

 

《ただでさえペースの早い逃げでスタミナを消費しているはずなのにまだ800mはありますよ!?持つわけがありません!》

 

 

《しかし止まらない止まらない!ファントムが徐々に加速していっている!このまま亡霊が逃げ切るのか!?それとも他の子達が追いつくのか!?》

 

 

 

 

 追いつけるわけねぇだろバカが。スタミナはまだまだある。800m程度余裕だ。

 

 

”……グ、グ、ゥ、グゥ……!”

 

 

 そして、コイツは相変わらずの自己犠牲と。本当に変な奴だぜコイツは。自分だって苦しいはずなのに、それ以上に他の塵が苦しむ姿を見るのが気に入らんらしい。……なんかムカつくな。

 後ろでは悲鳴にも似た叫びが聞こえてきやがったな。大方、あの光景でも見せられてんだろ。

 

 

「ち、違うの……ッ!あたしは、あたしはあなたのために……ッ!や、止めて!引きずり込もうとしないで!嫌、いや……ッ、いやぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 ……クハハハ!笑いが止まらねぇなおい!許さないだのなんだの言っておいて、結局はその程度の覚悟しか持ってなかったってわけだ!……ま、俺様の領域(ゾーン)を食らって無事だった奴なんてコイツぐらいしか知らんし、これから先も現れないだろうがな。

 最後の直線に入ったが……結局はクラシック級の塵共と変わらん。退屈で、つまらんレースだったな。速度を維持し続けて俺様は最後の直線を駆け抜ける。

 

 

 

 

《止まらない止まらない!最後の直線に入ってもファントムが止まらない!やはりこのウマ娘は強い!最早文句のつけようがない強さだ!》

 

 

《う、嘘……でしょう?今まで長くレースを観てきましたが……彼女のようなウマ娘は初めてです。本当に、彼女は何者なんでしょうか?》

 

 

《後続との差をさらに広げる!その差はすでに11バ身を越えています!やはり大差!やはり大差です!これはもう完全に決まった!番狂わせは起きなかった!クラシック級のウマ娘はおろか、シニア級のウマ娘相手でも変わらず!圧倒的な差を見せつけた!》

 

 

 

 

 そして、俺様はゴール板を駆け抜けた。

 

 

 

 

《そして今7番のファントムがゴールイン!やはり強い!皐月賞とダービーを回避した彼女を負けるのを恐れた臆病者と揶揄する方もいましたが……これはもう文句のつけようがありません!シニア級のウマ娘相手に圧倒的強さを見せつけました!〈ターフの亡霊〉ファントム!これからも彼女はどんなレースを見せてくれるのでしょうか!1着のファントムから遅れること16バ身差で2着がゴールイン!2着は11番です!》

 

 

 

 

 ……全く。今回もつまらんレースだったな。強い塵もいねぇし何も面白みがねぇ。シニア級でもこの程度かよ。こんなんだったらあの三日月娘と併走でもしたいもんだぜ。……まぁ、コイツがそれを許さないんだが。何でも闘う時はここじゃないってよ。

 

 

「おい、無事か?」

 

 

”……何とか、ね”

 

 

「毎度毎度ご苦労なこった。そんなに大事か?こんな塵共が」

 

 

”……たとえ誰であっても、変わらない。私は私のできる精一杯のことをやるだけ”

 

 

「そうかよ。……まぁいい、代わるぞ」

 

 

”……うん、そうしようか”

 

 

 そうして身体の主導権をコイツに返す……

 

 

「……今回は16バ身、か。大差勝ちだね」

 

 

”フン。クラシック級だがシニア級だがなんだか知らんが、結局は変わり映えもしない塵だ”

 

 

「……そう」

 

 

 だからといってG1出走はあまりしたくないんですよねぇ。強くなってくれる子がいるかもしれませんし。その芽を摘み取るのだけは勘弁ですから。

 さてさて、2着の子は……っと。

 

 

「や、止めて……止めて……。お願いだから……ッ!」

 

 

 頭を抱えて懺悔するように呟いています。……ダメ、でしたか。

 

 

”分かってたことだろうが。そもそも、あの塵の心が弱いから折れた。それだけの話だ。テメェの気にすることじゃねぇ”

 

 

「……それでも、だよ。やっぱり気には病むし、何とかしてあげたいって思う」

 

 

”……勝手にしろ”

 

 

 11番の彼女は遅かれ早かれ学園を去るでしょう。どうなるかなんて分かっていたとはいえ、やっぱり心が痛みます。……それでも、私は走るしかないんです。

 京都大賞典、16バ身の大差勝ち。これからも頑張っていきますか。




次回からは夏合宿ですよ。
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