《な、なんということだ!?残り100を過ぎたところでエルコンドルパサーをモンジューが捉えた!そのままモンジューがエルコンドルパサーを抜き去って今……ゴォォォォルイィィィィィン!凱旋門賞を制したのはモンジューだ!エルコンドルパサーは1/2バ身差の2着!やはり凱旋門賞の壁は高かった!しかし、しかし日本のウマ娘としては最高着順です!お疲れ様エルコンドルパサー!》
エルちゃんの凱旋門賞、後もう少し……あとほんの少しだったのに……ッ!
「エル……」
「やはり、世界の壁は高かったか……!」
リギルのトレーナーさんも、グラスちゃんもがっくりと項垂れています。それだけ、悔しかったんだと思います。本当に、後もう少しだったんですから。
ただ、会長さんは少し怪訝な表情をしていました。
「……ファントム、私の気のせいだったからそれでいいんだが。エルコンドルパサーは最後、不自然に減速しなかったか?」
え?不自然な減速?私は気づかなかったけど……。
「……そうだね。多分、エルは最後の100mで
「凍解氷釈。やはりそうだったか」
え!?そうだったんですか!?
「理由は分かるか?」
「……さすがにそこまでは。でも、もしかしたらエルに何か異常があったのかもしれない」
「エルちゃんに異常!?な、何があったんですか!?」
「……そこまでは分からないよ。あくまで私の推測」
私達がそう話していると、誰かの携帯の着信音が鳴り響きました。持ち主は……リギルのトレーナーさんです。
「……エル?もしもし?あなた、大丈夫なの?」
言いながら、携帯をスピーカーモードにしてみなさんに聞こえるようにしました。
《う~ん……大丈夫と言えば大丈夫なような……大丈夫じゃないような……》
「エル?エルは今どこにいるんですか?」
《グラス?エルなら今フランスの病院デスよ》
「病院!?あ、あなた何かあったの!?」
エルちゃんの言葉に、私達は驚いています。ま、まさかファントムさん達が言っていたように……ッ!
《……》
「答えなさいエル!あなた……凱旋門賞で何があったの!?」
《そ、それは……》
エルちゃんは、凄い言いにくそうにしている。もしかして……すごい大きな怪我をしたんじゃ……ッ!
《失礼。私エルコンドルパサーさんの担当医のものです。あなたは……エルコンドルパサーさんのトレーナーさんですか?》
代わりに聞こえてきたのは、少し年を取った男の人の声。その人は、自分のことをエルちゃんの担当医だって言いました。
「……はい。日本でエルコンドルパサーを担当している、東条ハナと申します」
《そうですか。ではエルコンドルパサーさんの検査結果なのですが……》
全員が固唾を飲んでいるのが分かります。え、エルちゃん……もしかして……。
《脚の骨に軽いひびが入っていますね。ですがそこまで深刻なものではありません。しばらく休めば、また元のように走れるでしょう》
「……え?それだけ、ですか?」
《はい。しばらく安静にする必要はありますが選手生命に関わるような怪我ではありません。それでは、後程こちらの方から詳しい診断結果の方をお送りします》
そう言って担当医の人はエルちゃんに電話を戻してどこかにいったみたいです。それにしても……無事でよかった、エルちゃん……ッ!
「……エル、なんで言いにくそうにしていたのかしら?」
けど、リギルのトレーナーさんはそうは思っていないみたいで。空気が歪んで見えるぐらい怒ってます!?
《えっ!?え~っと……》
「怒らないから、正直に言いなさい?」
《……》
沈黙の後、エルちゃんは明るい口調で答えました。
《え、エル'sサプラ~イズ……なんちゃって》
ブチッ!と、そんな音が聞こえそうな気がしました。そして、リギルのトレーナーさんはエルちゃんに大声で怒鳴ります。
「エルコンドルパサー!帰ったら覚悟しておけ!」
《ケェェェェェェッ!?ご、ごめんなさぁぁぁぁい!》
そこからは、怒っているリギルのトレーナーさんをリギルの人達が何とか宥めて、私とグラスちゃんでエルちゃんの電話の相手をしています。
《グラス……。エルもうそっちに帰りたくないデース……》
「諦めなさいエル。エルの自業自得よ」
「ゴメンエルちゃん。さすがに擁護できない……」
《うん、まぁ……そうデスよね。東条トレーナーもエルを心配してくれていたんデスし……。大人しくお説教を受けるとします……》
まぁ大きな怪我じゃなくて本当に良かったです。
「それでエルちゃん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
《エルにデスか?いいデスよ!どんとこいデス!》
「ファントムさん達が残り100mを過ぎたあたりでエルちゃんが意識的に
《あぁ~……やっぱり、ファントム先輩達には分かってましたか》
タハハと笑ってエルちゃんは続けます。
《そうデスね。残り100mでエルは
「……なら、どうして
《脚が壊れそうだったからデスよ。解いてなかったら、それこそ、スズカさんみたいな大怪我をしていたでしょうね》
スズカさんみたいな大怪我を……エルちゃんが……。想像したくもないです……ッ。
《レースが終わった後落ち着いて、考える時間ができたので分析してみたんデス。どうして脚が折れそうだったのか?その原因を考えてみたんデス。答えは簡単でした。凱旋門賞は不良バ場でしたからね。自分で気づかないうちに脚を消耗していたんでしょう》
「成程……」
《それに、あのまま突っ込んでいっても勝てるかは五分でした。モンジューは……それだけ強いデス。脚を壊してでも不確実な勝利を取るか、それともこれからを見据えて退くか。エルはその二択が迫られました》
「それで、エルちゃんが取ったのは……」
《勿論!これから先を見据えてここは退くことにしました!それだけに悔しい、凄く悔しいデスけど……ッ!今のエルでは、ここが限界なんデス。だから、今以上にもっと強くなって凱旋門賞にリベンジします!次こそはチャンピオンになって帰ってきますよ!》
エルちゃん……、落ち込んでると思ったけど!
「あなたはもう次を見据えているのね、エル」
《はい!まだまだ勝ちたい相手や闘いたい相手は沢山いますから!グラスとスペちゃん、それにキングもセイちゃんもツルちゃんもその1人デスよ!まぁスペちゃんとグラス以外はここにいませんけど》
「アハハ!キングちゃん達にもそう伝えておくね!」
《お願いしまーす!後はそう……ファントム先輩にも勝ちたいデスからね!というか、ファントム先輩に勝つことが大目標デスから!》
「フフ、それは並大抵のことじゃありませんよ、エル」
《覚悟の上デース!エルは最速!最高!世界最強のウマ娘を目指してますからね!望むところデース!》
私たちは笑い合います!エルちゃんもそうだけど……私も次のレース頑張らなきゃ!
《そうだ!スペちゃんとグラス達にお願いがあるんデス!》
「お願い?エルちゃんが、私達に?」
「何でしょうかエル?」
《今回の凱旋門賞を勝ったモンジューは、次はジャパンカップを目標にしているみたいなんデス。だから、近いうちに日本に来ると思います。あ、コレ本人からオフレコで聞いたことなので黙ってくださいね?》
ッ!エルちゃんに勝ったウマ娘が、ジャパンカップに来る……ッ!
「……それで、エル。お願いというのは何ですか?」
《簡単デスよ!エルの敵討ちをお願いします!エルはジャパンカップには出走できないでしょうし、2人はジャパンカップに出走するんデスよね?だから、エルが勝てなかった代わりに、スペちゃん達にお願いします!あ、勿論エルもモンジューにリベンジしますよ!でも、その前にスペちゃん達がエルの敵討ちをお願いします!》
「……承ったわ、エル。それに、凱旋門賞を制したその実力……如何程のものか興味がありますから」
「私も!エルちゃんの悔しさ……私が晴らしてみせるよ!」
《はい!それじゃあエルはこの辺で!東条トレーナーやみんなにもよろしくお願いしまーす!》
それだけ言って、エルちゃんは電話を切りました。
……今回の凱旋門賞でエルちゃんを倒したウマ娘さんが、今度のジャパンカップに出走する。その事実が、私をさらに奮起させました!
「グラスちゃん」
「はい。スペちゃん」
「……勝とう!絶対に!」
「……無論です。元より、負けるつもりは毛頭ありませんから。スペちゃんも、次のレース頑張ってくださいね?」
「うん!」
私の次走、トレーナーさんが京都大賞典って言ってました!京都大賞典まではもうすぐです!だから……。
「練習練習ー!」
「お、スペのヤツ気合入ってんな!その調子だスペ!秋の緒戦、絶対に勝つぞ!」
いっぱい練習して!
「モグモグ!ガツガツ!」
「いい食べっぷりだね~スペちゃん。いつも以上に張り切ってるじゃん。こりゃ、セイちゃんもまけてらんないね~」
いっぱい食べて!
「スピカー!ファイトー!」
「頑張れー!スペちゃーん!京都大賞典はもうすぐだよー!」
いっぱい練習して!
「パクパク!アムアム!」
「……ちょっと食べ過ぎじゃない?スペシャルウィークさん」
いっぱい食べて!本番に備えます!一に練習、二に食事!三、四も食事で五に練習です!
「……うん。私も、さすがにアレは食べ過ぎだと思う。お腹出てない?」
ファントムさんがそんな風に言ってましたけど……スペシャルウィーク、頑張ります!
……そして迎えた京都大賞典の日、何ですけどぉ……。
《今ツルマルツヨシがゴォォォルイン!京都大賞典を制したのはツルマルツヨシ!強豪達をねじ伏せて、見事京都大賞典を勝利で飾りました!見事なレースっぷり!1番人気スペシャルウィークは7着の惨敗です!一体彼女になにがあったのか!?》
《気合十分で臨んだこの京都大賞典、しかしこれは気合が入り過ぎましたね。空回りしていました》
《宝塚記念に続いて京都大賞典でも大敗!スペシャルウィークはこれから大丈夫でしょうか!?そして、スペシャルウィークをマークしていたテイエムオペラオーも沈んでいきました!》
私は、気合が空回りしちゃって7着に沈んじゃいましたぁ……。いや、原因それだけじゃないですけどぉ。
「気合入れすぎだバカやろォォォォォォ!?」
「これは……見事なまでに空回りしていましたわね……」
「というか、原因それだけじゃないでしょどう考えてもさ。スペちゃん明らかに太ってるじゃん」
「す、スペちゃん……」
「……見事なまでの太鼓腹」
ウワァァァァン!言わないでくださいよぉぉぉぉ!私だって食べ過ぎたって思ってるんですからぁぁぁぁ!
さらっと流される京都大賞典。こんな調子で大丈夫?スペちゃん。