そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

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不思議な夢から始まるいつもの日常


亡霊少女といつもの日常

 

 

『──、──ッ!』

 

 

『──ッ!』

 

 

 ──これは、なんでしょうか?目の前に見えるのは、赤黒い髪のウマ娘と、オレンジ色の髪のウマ娘が言い合っている……というには、とても仲睦まじく見える景色でした。

 オレンジ色の髪のウマ娘だけじゃありません。他にもいろんな子がいました。その中心にいるのは赤黒い髪のウマ娘……小さい私です。

 

 

(……これは、小さい頃の私の記憶?それにしては)

 

 

 なんというか、不思議な夢ですね。

 小さい頃の私?はみんなを先導するように走っています。ただ、場面が切り替わったと思ったら今度は親らしいウマ娘に叱られていました。

 

 

『──ッ!』

 

 

『──、──!』

 

 

 会話の内容は分かりません。変なノイズが掛かっています。

 次々と場面は切り替わっていきます。色々な景色が見えていました。

 

 

『──ッ、──!』

 

 

 レースで勝っている姿

 

 

『──?──!』

 

 

 誰かの相談に乗っている姿

 

 

『──、──』

 

 

 楽しそうに遊んでいる姿。様々な場面が映し出されました。

 

 

(う~ん……これが……昔の私?なんでしょうか?全く記憶にないですね)

 

 

 というか、割と最近の記憶までありますね多分。背格好が今とそんなに変わらない場面もあります。

 ──ただ、幸せそうな景色からだんだんと暗雲が立ち込めてきました。場面が切り替わるごとに、なんというか……夢の中の私の表情に負の感情が見え隠れするようになりました。

 そして最後……。小さい頃から一緒だったであろうオレンジ色の髪のウマ娘と、今と背格好がそこまで変わらない私が相対して……オレンジ色の髪のウマ娘が、私に……こちらに向かって何かを叫びました。

 

 

『──ッ!』

 

 

 聞こえないはずなのに、それを聞いた瞬間私の中で何かが崩れるような音が聞こえた気がします。それと同時に、視界がどんどん黒に塗りつぶされていって──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんぞ?この夢」

 

 

 気づいたら私はベッドの上で寝ていました。あたりを見渡すと生活感のある部屋が目に入ったので寮の私の部屋ですね。なんせお面がありますから。後ゲーム機。ついでに同室の子もいません。

 いやー、それにしても不思議な夢でしたね。なんせ……アレ?

 

 

「……上手く思い出せない。なんだっけ?」

 

 

”あん?何の話……って、うおっ!?どうした!涙なんか流しやがって!”

 

 

「……あ、おはよう。……え?涙?」

 

 

 もう一人の私に言われるがまま目元に手をやると……なんとビックリ。いつの間にか涙を流していました。え?本当になんで?もしかしてさっきの夢の影響です?

 

 

”おい!何があった!?”

 

 

「……夢、見てたと思うんだけど」

 

 

”夢?……夢でなんかあったのか?”

 

 

「……それが、よく思い出せない。ただ、覚えているのは」

 

 

”覚えてんのは?”

 

 

「……見終わった後、悲しくなるような……そんな夢だったんだと思う」

 

 

 上手く言えないですけど……胸が締め付けられるような、そんな気持ちになりました。

 

 

”……ハァ?なんだそりゃ。心配して損したわ”

 

 

「……心配してくれたの?」

 

 

”あーはいはい。心配でした心配でした。ほら、目が覚めたんだからさっさと起きろ”

 

 

 これがツンデレというやつでしょうか?……いや、止めときましょう。さっさと起きて行動しましょうそうしましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝起きて外に出て。私がすることと言えば!

 

 

”結局いつものボランティアじゃねぇか”

 

 

「……しょうがない。練習休みになったし」

 

 

 ボランティアですね。さぁ、キリキリ働いていきますよっと。

 

 

”しかしまぁ、あの凡愚も急に何を言い出すかと思えば”

 

 

「……スペちゃんは隠れて練習してたっぽいしね。秋のG1に向けて、今は休養期間を設けようとしているのかも」

 

 

”……ま、棒立ち娘に関しては明らかに気負い過ぎだったからな。アリっちゃアリか”

 

 

 ちなみにスペちゃんは今実家に帰省中です。いやぁ、この前の出来事が今でも思い出せますよ。あれはそう、エルが日本に帰国して学園に戻ってきた日のことです……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『エルコンドルパサー!ただいまトレセン学園に戻ってまいりました!』

 

 

『お疲れ様、エルコンドルパサー』

 

 

『惜しいレースだったわね。次こそはリベンジよ!』

 

 

『勿論デース!』

 

 

 学園に戻ってきたエルを出迎える我々リギルとスピカのメンバー。スペちゃんは笑顔でエルを出迎えていました。

 

 

『エルちゃんお帰り!カッコよかったよ!』

 

 

『あっ、スペちゃん!ただいまデース!それと……見ましたよ?この前の京都大賞典』

 

 

『うぐっ!?』

 

 

 エルはスペちゃんにそう切り出しました。スペちゃんとしてはあまり思い出したくないのか、いい顔はしてませんでしたね。

 

 

『まぁ調子の悪い時は誰にだってありますから!7着でも気に落とさないでくださーい!たとえ7着でも!』

 

 

『ギクギクッ!?』

 

 

『ダメな時はダメなんですから!さっさと忘れるに限りますよ!』

 

 

『ギクギクギクッ!?』

 

 

『それよりも、京都大賞典は見事な太鼓腹……』

 

 

『グハァッ!?』

 

 

 エルによる言葉攻めでスペちゃん戦闘不能!勝者、エル!

 

 

『エルッ!それ以上スペちゃんを滅多刺しにするのは止めなさい!たとえ本当のことでも言っていいことと悪いことがあるでしょう!』

 

 

 そしてスペちゃんは完全に沈黙しました。グラスが止め差しましたよっと。

 

 

『グラス、その言葉がスペちゃんに止め差しましたよ?後、宝塚記念のこと考えるとエル以上に滅多刺ししてるじゃないですかグラス』

 

 

『……知りませぬ』

 

 

『なんですかその口調。ま、スペちゃんあまり気を落とさないでください!まだまだこれからデスから!それでは、アディオース!』

 

 

 そう言ってエル達は去っていきました。その後、トレーナーが虫の息状態のスペちゃんに告げます。

 

 

『終わったことをいつまでも考えてんじゃねぇぞスペ。確かに負けちまったが……あと少しで秋の天皇賞、それが終わったらジャパンカップだ!』

 

 

『う、うぅっ……そ、そうだ。秋の天皇賞……!次こそは絶対に勝たないと……ッ!』

 

 

『……うぅん。スペ、お前隠れてトレーニングしてたりしてないか?他のヤツらもだ』

 

 

 トレーナーの言葉にみんなが動揺した様子を見せました。どうやら心当たりがあるみたいで。ま、私はいつものことなので動揺なんてしませんけど。

 

 

『うぇ!?そそそそ、そんなことしてませんよ!?』

 

 

『その反応が答えみたいなもんだろ。……よしっ!じゃあしばらくお前ら休養だ!焦っても仕方ないし、練習を休んでリフレッシュしてこい!特にスペ!お前は久しぶりに実家に顔を出してきたらどうだ?親御さんに元気な顔を見せてこい!』

 

 

『『『えぇ~っ!』』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……と、まぁ。こんな感じでスピカの練習休みが決まりました。あっちでスペちゃんは元気にやってますかね?

 ちなみに他のみんなも思い思いの休日を過ごしてるんじゃないでしょうか。私もボランティア活動に精を出しますよ。

 

 

”……さて、メンバーも集まりつつあるな”

 

 

「……そうだね。エルがあそこまでやれて、嬉しいんじゃない?」

 

 

”抜かせ。一度絶望させてやっても足らねぇんだったら……また同じ地獄に叩き落してやるだけだ”

 

 

 もう一人の私は愉しそうに言い放ちます。ただ、目的のためのメンバーが着々と集まりつつありますね。

 

 

「……スペちゃんも、後もう少しって感じはする」

 

 

”そうだな。しっかしまあ、初めはどういうつもりだと思ったが……テメェの言う通りにやった方が良いかもしれんな”

 

 

「……そうでしょ?そうした方が、私も楽しいんじゃない?」

 

 

”だな。弱い塵共をいたぶるよりも……成長を促させて成長したところを刈り取る。成程、思いつかんかったことだ”

 

 

 そうでしょうそうでしょう……あ、空き缶発見。誰ですか捨てたのは?ポイ捨てはいかんですよ。

 

 

”ま、その調子で引き続き頼むぜ?俺様のために……な”

 

 

「……勿論。そのためにも……ッ!」

 

 

 道路に子供が!それに、車が突っ込んできてますね!車もクラクションを鳴らしながらブレーキを踏んでいますが……ッ!アレは間に合いません!私はゴミ袋を放り出して全速力で駆け出します!あの子を守るためにッ!

 

 

「……間に合えッ!」

 

 

 子供までもう少し!そして……ッ!

 

 

「……しっかり掴まって!」

 

 

「わあっ!?」

 

 

「うわっ!?な、なんだぁっ!?」

 

 

 ギリギリ間に合いました……ッ!子供は……何とか無事ですね。良かったです。着地にも成功して、私も五体満足ですよっと。

 車を運転していたお兄さんが慌てた様子で車から降りてきました。その表情には心配しているのが見てとれます。

 

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

 

「……私は大丈夫。君は?」

 

 

「う、うん……。だいじょうぶ……」

 

 

 見たところ、怪我らしい怪我もありません。ふぅ……本当に良かったです。

 

 

「あ、あの!ありが……」

 

 

 子供が何かを言おうとした矢先、母親らしき人物が慌てた様子でこっちに走ってきましたね。

 

 

「何やってるの!?う、ウチの子がすいません!そ、それじゃあ私達はこれで……」

 

 

「お、おかあさん……おれい……」

 

 

「何言ってんの!?早く離れないと、アンタも呪われちゃうわよ!あぁ全く、相変わらず不気味なウマ娘だわ……ッ!」

 

 

 おやおや。随分な言い草で。まぁ慣れてるので気にしてませんけど。でも、車を運転していたお兄さんはそうじゃなかったみたいで。

 

 

「おいアンタ!自分の子供を助けてもらったのになんだよその言い草!」

 

 

 その言葉を聞いて母親も頭に血が上ったのか、口論になってしまいました。

 

 

「ハァッ!?そもそもあなたがちゃんと前を見て運転してないのが悪いんでしょうが!そうじゃなきゃ、ウチの子は事故に遭いそうにもならなかったし、アイツに関わるなんてことはなかったのに!」

 

 

「た、確かにそうだけど……ッ!ちゃんと子供を見てないアンタも悪いだろ!」

 

 

 そこから母親とお兄さんの口論はヒートアップしていきました。……こんなつもりはなかったんですけどねぇ。

 

 

”ケッ。醜い争いだな。あぁやだやだ”

 

 

「……?ん?」

 

 

 ふと視線を落とすと子供が泣きそうになっていましたね。

 

 

「ふぇ……」

 

 

 あ、ヤバいですねこれは。決壊寸前です。仲裁しましょうそうしましょう。私は母親とお兄さんの間に割って入ります。

 

 

「……そこまで」

 

 

「なによあんた!どきなさい!」

 

 

「どうして止めるんだ!?普通、もっと怒ってもいいんじゃないか!?」

 

 

 かなり頭に血が上ってますね。冷静な判断ができなくなっているのかもしれません。息を入れるタイミングがあるといいのですが。

 

 

「……私はそこまで気にしてません。だからそれ以上は止めてあげてください。それからお母さんも、今度からは子供から目を離さないようにお願いします」

 

 

「フンッ!あなたに言われなくても分かってるわよ!ホラ、帰るわよ!」

 

 

 そう言って母親は子供の手を無理矢理引っ張っていきました。去り際、子供がこちらの方を向いて……。

 

 

「ありがとう!かめんのおねえちゃん!」

 

 

「コラ!だからアンタも呪われるわよ!さっさと帰りましょう!」

 

 

 お礼を言ってくれました。さて、次はお兄さんの方ですね。こちらは幾分か落ち着きを取り戻したようです。

 

 

「……お兄さんも落ち着きましたか?」

 

 

「あ、あぁ……。しっかし、なんだあの母親は!自分の子供を助けてもらったのにあの言い草!」

 

 

「……さっきも言ったように、私は気にしてませんから。これからはお兄さんも、事故を起こさないように運転してくださいね?」

 

 

「……そうだな。君が気にしてないのに俺が気にしすぎるのもおかしな話だよな。こんな話はさっさと忘れるに限る!ファントムさんも、早く忘れてくださいね、あんな母親の言葉!」

 

 

「……私のこと知ってるの?」

 

 

 私の言葉にお兄さんは苦笑いを浮かべていますね。

 

 

「いや……そりゃあファントムさん有名人ですし。後、俺あなたのファンなんです!これからもレース、応援してます!」

 

 

 あらやだ嬉しいこと言ってくれるじゃありませんか。

 

 

「……あんまりレースには出ないけど、これからも頑張る。応援よろしくね」

 

 

「はい!それじゃあファントムさんもお元気で!」

 

 

 そう言ってお兄さんも帰っていきました。さてさて、ボランティアの続きでもやりますかねっと。

 

 

”……毎度毎度、あんな反応されるのによく助ける気になれるなテメェは。俺様には全く理解できん”

 

 

「……でも、子供もお礼を言ってたしお兄さんも良い人だった」

 

 

”たまたまだろうが。今まで何度もこういうことがあって……その内の8割があのガキの母親みてぇな反応だったろうが”

 

 

「……2割はお兄さん達みたいな人だった。それも事実だよ」

 

 

”そうかい。だが……疎まれ、蔑まれ、挙句の果てには関わるだけで不幸になる呪いのウマ娘だの……。そう言われてんのによく助ける気になれんな”

 

 

 そりゃあそうですよ。前にも言った気がしますけど。

 

 

「……見返りなんて求めないもの。今回は、私が行動することで助かる命があった。それだけで満足」

 

 

”……それでテメェがどれだけ傷つくことになってもか?”

 

 

「……うん」

 

 

”……クソが。さっさとボランティアを再開しろ。もうすぐ終わんぞ”

 

 

 あ、本当ですね。さっさと終わらせねば。

 そうしてボランティアも終わって。久しぶりにショッピングなんかもしちゃって。中々充実した休日を過ごせましたよ。いつも通りの日常ってのも悪くありませんね。




ファントムの休日の過ごし方でした。大抵ボランティアか練習してます。
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