トレーナーさんに言われるがまま北海道に帰ってきました私スペシャルウィーク。帰っている間は走ることも、他のトレーニングも禁止されていましたしちょっぴり不満でしたけど……久しぶりにお母ちゃんと会えて本当に嬉しかったし、とてもリフレッシュできました!
それに、お母ちゃんから大切なものを貰いました。
「スペ、アンタにこれを渡しておくよ」
お母ちゃんが渡してきたのは、木箱です。中身はなんでしょうか?
「コレは?」
「開けてみな」
お母ちゃんに言われるがまま私は木箱を開けます。中に入っていたのは……。
「コレ、蹄鉄?」
「そ。私の手作りだよ。よ~く見てみな」
お母ちゃんの手作り!?それに、よ~く見てみると……蹄鉄には文字が書いてあります!
「【目指せ日本一】……ッ!凄い、凄いよお母ちゃん!」
「使ってくれるかい?スペ」
「うん!絶対に使う!今度の天皇賞で、絶対に使うね!」
お母ちゃんとそう約束して、次の日私は北海道を後にしました。
「お母ちゃんが作ってくれたこの蹄鉄で、私は絶対に日本一のウマ娘になるべー!」
「その意気だべスペ!それじゃあ、思いっきり走っておいで!」
「うん!」
そしてトレセン学園に帰ってきて、秋の天皇賞に向けて猛特訓の日々になりました!今度は食べ過ぎないように注意しないと……ッ!
「目指せ秋天優勝ぅぅぅぅぅ!」
「そうだスペー!気合入れろよー!ただし、気合を入れすぎるんじゃねぇぞー!」
「わっかりましたー!」
スズカさんが勝てなかったレース、私が勝ってみせます!
そして迎えました秋の天皇賞!今はもう最後の局面……第4コーナーを曲がり終わろうかというところ。
(……まだ我慢、我慢です。切るのはここじゃありません)
最後の直線に入って……、前の子を抜いて……ッ!今です!
「やぁぁぁぁぁ!」
私は集中力を高めて
(ッ!でも、まだまだこれじゃあダメ!これじゃあ、グラスちゃん達にはきっと追いつけない!)
まだ、まだ足りない気がします!私の基礎が足りないのか、はたまた別の要因なのかは分からない……。多分、別の要因が絡んでいるとは思いますけど、今は関係ありません!ただ、1着になる為にゴールする!それだけです!
《残り200を切ってスペシャルウィークがグングン上がってきた!スペシャルウィークが上がっていく!前の子達も必死に粘っているが……ッ!スペシャルウィークだスペシャルウィークが外から躱してきた!》
私はもう負けない!グラスちゃんに負けない強い自分でいるためにも……スズカさんと並んで走っても恥じない自分であるためにも、そして何より……お母ちゃん達と誓った、日本一になる夢の為にも!私は……ッ!
「負けられませんッ!勝つのは私です!」
その時、一瞬だけ風景が切り替わったように幻視しましたけど……?
(あれ?今一瞬視界の景色が変わったような……?でも、
疑問はつきませんけど、正直、色々考えるよりもこのまま1着になることが重要です!手は抜きません!
《6番が懸命に粘る!しかしスペシャルウィークスペシャルウィークだ!スペシャルウィークが最後先頭に代わったゴォォォォルイン!スペシャルウィーク逆襲のラン!最後はスペシャルウィークがまとめて躱した先頭1着!そして勝ち時計はッ!なんとレコードだ!レコードタイムで勝利を収めたスペシャルウィーク!》
な、なんとか勝てましたぁ。息も絶え絶えに、私はガッツポーズを作ります。
「ハァ……ッ、ハァ……ッ!よ、よしッ!」
正直、反省すべき点は沢山あります。けど、今は
「おめでとうスペシャルウィーク!」
「カッコよかったよー!次も頑張れー!」
「よくやったスペー!このまま勝ち続けるぞー!」
「みなさーん!ありがとうございまーす!」
勝利の余韻に浸っても良いですよね?
秋の天皇賞が終わってからしばらく経って。私は悩んでいます……っ、凄く、凄く悩んでいます!
「スペちゃんがうんうん唸ってますね。グラス、今度は何をやったんデスか?」
「エル?まるで私がスペちゃんにいつも何かやっている風に言うのは止めてもらえますか?」
実は私、宝塚記念の後にファントムさんに言われたことが頭に引っかかっているんです。それは、私が走る理由。その走る理由を見つけることが、私が次のステージに行くために必要なことだって、ファントムさんは言ってました。
だから、色々考えてはいるんですけど……。
(実家に帰って、何となく見つけた気になっていたけど……やっぱり、まだ分からない。私の走りの原点)
私自身が何のために走るのか?宝塚記念が終わった後、心に迷いのようなものがある。
「さてさて、そろ~っと、そろ~っと……」
「凄いセイちゃん!次で4冊目だよ!」
「コラ!スカイさんもツルマルさんもスペシャルウィークさんで遊ぶのはおよしなさいな!」
確か……ファントムさんが言うには絶対に負けたくない相手と競っている時や自分の走りを貫き通す時
(自分をしっかりと理解すること……。だから、私の走りの原点を見つける必要がある。それが、次のステージに行くための鍵)
その時ふと、秋の天皇賞で一瞬だけ幻視した風景のことを思い出します。軽くですけど、
(う~ん、あの時何考えて走ってたんだっけ~!?思い出せないよ~!?)
そこまで考えて、私は考えるのを止めて立ち上がり……ッ!うわっ、なんか本が頭の上から降ってきたべ!?
「あ、スペちゃん帰ってきた。ちぇ、もう少しで7冊目だったのに~」
「人の頭で遊ばないでよセイちゃん!」
セイちゃんにまた本を積まれていました。あ、みんないるから……せっかくだし聞いてみようかな?
「そうだ、みんなに聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「お?何々~?」
「いいデスよ!なんでも聞いてくださーい!」
「構いませんよ。スペちゃんの悩んでいること、教えてください」
「どんな質問にも答えてこそ一流の務め!なんでも相談しなさいな!」
「いいよ!私でよければ!」
「みんなはさ、何のために走るのかなって」
私がそう尋ねると、みんな驚いたような表情を浮かべてました。そ、そんなにおかしいこと聞いたかな?
「スペちゃんが哲学的なことを聞いてきた……。これは天変地異の前触れかな~?」
さすがに酷くないかなセイちゃん!?
「失礼でしょスカイさん!……で、何のために走るか、だったかしら?」
「う、うん」
「勿論!私が一流のウマ娘であることを証明するためよ!おーほっほっほっほ!」
「キングはぶれませんねぇ」
「それがキングちゃんの良いところだよ!」
「見てなさい!秋の天皇賞ではしてやられたけど……次のレースではこのキングが勝利して見せるわ!」
ほうほう、キングちゃんは一流のウマ娘になる為……。
「私は、己と向き合うため……でしょうか?自分と向き合って、研鑽を重ねて……いつか超えるべき頂へと至る為。そのために私は走っています」
グラスちゃんは頂へと至る為……。ひいては自分の為、ですかね?
「セイちゃんは~あんまり意識したことはないかな~?でもでも、相手が罠に掛かった時は面白いよね~。その時はレースを面白く感じてるかな?」
「私は憧れのルドルフ会長に追いつくため!そのためにツヨシ、頑張るぞー!おー!……ゲホッ、ゲホッ!」
「大丈夫かしら!?ツルマルさん、急に大声出すから……」
「つ、ツヨシ猛省~」
セイちゃんは相手を罠にかける為?ツルちゃんは会長さんに追いつくため……。
「もっちろんエルは!エル自身が世界最強のウマ娘であることを証明するためデース!」
エルちゃんは、普段から言っているように自分が世界最強のウマ娘であるために。
みんなの話を総合すると……やっぱり自分の為になるんでしょうか?じゃあ、私の走る理由は……。
(みんなに負けたくないから……それも勿論あるけど。多分違う。何となくだけど、そう思う)
ひとまず、みんなにお礼を言わなきゃ!
「うん、ありがとうみんな!教えてくれて!」
「気にしないでください。それで、答えは見つかりましたか?スペちゃん」
グラスちゃんの言葉に、私は黙って首を横に振ります。
「まだ、見つかってない。でも……ジャパンカップまでには見つけてみせるよ!グラスちゃんは、ジャパンカップ出走できそう?」
「フフッ、問題ありませんよ。体調も万全、身体に異常もありませんし。毎日王冠も完勝できましたから」
それに、と前置きしてグラスちゃんは続けます。
「スペちゃんがどれほど成長したのか……とても気になりますので。ジャパンカップでいざ尋常に……勝負ですよ?スペちゃん」
ッ。グラスちゃんの圧……凄い!前よりも強くなっているのが分かります!だからこそ分かる、このままだと……ッ!
(私は、勝てない!)
けど、だからこそ挑みがいがあります!
「勿論!私だって……負けないよ、グラスちゃん!」
「2人ともアツアツデスねー!その調子でエルの敵討ち頼みますよー!」
「敵討ち?どういうことかしら?エルさん」
「ケッ!?さ、さぁ~何のことでしょうか~?」
エルちゃん、口笛吹けてないよ……。
グラスちゃんに勝つためにも、もう負けないためにも。私は自分が走る理由を見つける必要がある。そう、強く思いました。
いやぁ、秋の天皇賞が終わってしばらく経って。ちょっとした平和な日常ですねぇ。あ、勿論トレーニングは怠りませんよ。そこはキッチリすべきですから。
ま、その前にテレビでも点けますか。ポチッとな。
《……速報です。開催が迫っているジャパンカップに、凱旋門賞ウマ娘モンジューが出走することが発表されました。これは驚きのニュースですね。ここからは会見の様子をどうぞ》
《モンジューさん。ジャパンカップに出走するというのは本当でしょうか?》
お、ちゃんと翻訳されているのが出てますね。親切設計です。
”当たり前だろ。じゃねぇと普通の連中はなんて言ってるのか分からんからな”
「……それはそう」
さてさて、なんて言ってるのやら。
《はい。私はジャパンカップに出走するつもりです》
《おぉ~。凱旋門賞覇者であるあなたが、何故ジャパンカップに?》
《……私と覇を競い合ったエルコンドルパサーから日本の話を聞いて興味を持ったのが1つ。そして、そこには彼女が世界最強と謳うウマ娘がいるらしい。そのウマ娘に興味が出てきてね》
へ~。そんな子がいるんですね。私の知っている子でしょうか?
「世界最強の……」
「ウマ娘……」
なんかみんなから凄い見られてるんですけど。なんですか?私の顔になんかついてます?お面しかついてないですよ?
《世界最強のウマ娘……。そのウマ娘と競い合うために日本に来たと?》
《そう。そして……エルコンドルパサーを通してまだ見ぬ強敵達が世界にはいることを知った。彼女の言う世界最強のウマ娘だけではない。彼女の同期でジャパンカップに出走予定だというグラスワンダーとスペシャルウィーク……彼女達にも、俄然興味が湧いている》
はぇ~。
《今回のジャパンカップは、私自身チャレンジャーの気持ちで行かせてもらうよ。きっと、熱いレースになるだろう。私は、そう予見している》
まぁなんにせよこのモンジューはジャパンカップに出走すると。ま、私は出ないんですけどね。スペちゃんを応援しましょうか。
「す、すいません!スピカさん、ファントムさん!今お時間よろしいでしょうか!?」
おや、たづなさんが慌てた様子で転がり込んできましたね。どうしたんでしょうか?
「どうしたんですかたづなさん?そんなに慌てて」
「そ、それがですね……」
息を整えてたづなさんは用件を告げました。
「モンジューさんが今学園に来てまして……。是非、ファントムさんにお会いしたいと」
……あん?どゆこと?
モンジュー、トレセン学園に緊急参戦!