時は放課後。今日も一日トレーニング頑張りまっしょい。その前に今日のニュースをポチッとな。
「……あ、モンジューのニュースだ」
”あん?どんなニュースだ?”
「……公開練習の様子だって」
さてさて、凱旋門賞ウマ娘はどんな練習をしているんでしょうか?
《ここ連日、モンジューの公開練習が行われているのですが……あまり調子が良さそうではありませんね。軽く流して、時折タイムを測ったかと思えばすぐに止める……そんな動作を繰り返しています》
《モンジューさん。先程から何を確かめているのでしょうか?》
《……ちょっとね。芝の状態の確認を》
《昨日も確認してなかったでしょうか?》
《万全を期すために、何度でも確認をしているのさ。勝つためにね。後は私の脚の状態を確認している。本番前に怪我をするわけにはいかないからね。せっかく日本の猛者と競いに来たのに怪我で出走できませんでした、なんてことになったら私自身悔やみきれないからね》
へー、案外慎重派なんですね。ちょっと意外かもしれません。どう思います?私。
”……あ?まぁ意外と繊細なんだろ、アイツもな”
「……やっぱり意外に感じるよね」
こう、なんていうか大胆なタイプだと思っていたので。あんなに芝の状態を確認しているとは……それだけ勝ちに来てるということでしょうか。
”……ま、本当に芝と足の状態を確認しているんだったら、な”
「……どういう意味?」
なんか楽しそうですけど。
”別にぃ?深い意味はねぇよ……クックック”
なーんか怪しいですね。ま、追及する気はありませんけど。楽しそうで何よりです。
さてと、そろそろ練習に向かいますかね。我らがスピカは気合が入ってますよ。スペちゃんのジャパンカップに、なんとスズカの復帰レースも決まったのですから。ドンドンパフパフ。
そして練習場。全員集まってますよ。
「よーしっ!お前ら集まってるな!今日も気合入れて練習していくぞ!」
「「「はい!」」」
「ファントムさん!今日は模擬レースをお願いできますか!?」
いつも通り練習しようと思っていた私にスペちゃんがそう声を掛けてきました。気合十分ですね。
「……いいよ」
「あ、じゃあボクもボクも!今日こそはファントムをぎゃふんと言わせてやる!」
「……ぎゃふん」
「そうじゃないよ!そんな余裕でいいのかな~?ファントム。今日こそは勝っちゃうからね!」
あらまあ。テイオーも気合十分ですね。でも。
「91連敗してんのにどっから湧いてくんだよその自信」
「うるさいよゴルシ!だから今日こそは勝つって言ってんの!」
テイオーは現在連敗記録更新中です。さて、92連勝目指して頑張りますか。
スズカは今度の復帰レースに向けて調整を頑張っています。タイムも上向きになっていますし、この調子なら全盛期の走りを取り戻すのも時間の問題といったところでしょうか。いいですねいいですね。やっぱりチームの仲間としても友達としても、また走れるようになるっていうのは嬉しいです。パーリナイです。そう思いませんか?私。
”笑わせんな。……まぁ、また立ち向かってくるなら叩き潰すだけだ。何度でも……な”
いつもの調子ですね。
ちなみにスペちゃんとテイオーとの模擬レースですが……
「ゼェ……ゼェ……うっぷ、き、キツい……」
「ま、負けた……」
「……あいあむうぃなー」
「これでテイオーの連敗記録は92に更新な」
「うるさいよゴルシ!クッソー!次こそ絶対に勝ってやるー!」
「その台詞も91回目ですわね」
「マックイーンもそっちにつかないでよ!」
私の勝ちです。これで92連勝ですね。
こうして我らがスピカはとても順調に日々を過ごしています。とは言っても、順調なのはスピカだけじゃありません。同じくジャパンカップに出走する、グラスも順調ですね。特に怪我をすることもなくトレーニングをしています。
「……いいね、グラス。最近は私の惑わしにも対応するようになってきた」
「ありがとうございます、ファントム先輩。……しかし、まだ現状に満足するわけにはいきません。ジャパンカップ……そこで勝利を収める為にも」
うーん向上心の塊。良きことですね。よしよししてあげましょう。
「わぷっ、ふぁ、ファントム先輩?」
「……気を張るのは良いけど、自分を追い込み過ぎないようにね。怪我をしたら元も子もないから」
「……フフッ、存じておりますよ。大丈夫です、東条トレーナーが私に最適なメニューを組んでくれているおかげで、ジャパンカップには万全の状態で臨むことができそうですから」
「……それは良かった」
ジャパンカップに出走できないーなんてことになったら有マまで待たないといけませんからね。まぁジャパンカップから1ヶ月後くらいですけど有マ。
「ステータス『応援』。ふれーふれーグラスさん」
「ら、ライスも応援するよ!がんばれ~グラスさ~ん……ッ!」
「ブルボン先輩もライス先輩もありがとうございます。ジャパンカップでは、お二方の応援に恥じない走りをご覧に入れましょう。無論……ファントム先輩にも」
あらやだ嬉しい。しかしグラスは真面目な表情で私に尋ねてきました。なんでっしゃろ?
「ファントム先輩。スペちゃんの様子はいかがですか?」
あぁ、スペちゃんの様子ですか。ふっふっふ。
「……すこぶる順調。宝塚記念のようにはいかないよ」
私の言葉を聞いてグラスは不敵な笑みを浮かべていますね。いや、これは……戦うのを楽しみにしている目ですね。私には分かります。
「フフッ、それはそれは……、相まみえる時が楽しみですね。ようやく、ようやくあなたと本気で戦える日が来ましたかッ」
「……スペちゃんにばかり気を取られて、他の子の注意を疎かにしないようにね」
「無論、存じておりますとも」
ま、グラスに関してその辺は心配してませんけど。しかし、スペちゃんとグラスの本気ですか……。
私の見たところ、実力に関してはほぼ互角でしょう。ですが、スペちゃんにはまだ迷いがある。その迷いの原因は……スペちゃんの走る理由。
”まだ見つかってねぇみてぇだな。こんままだと……”
「……そうだね、スペちゃんは勝てないかもしれない」
展開や、手札の切り方を考えれば勝てるかもしれないでしょう。ですが、私の幻惑逃げにも対応できるようになった今のグラスに生半可な惑わしは効きませんし、今から
”ここが棒立ち娘にとっての分かれ目だ。ここで負けるようなら……アイツは切り捨てろ。即座に喰らうプランに切り替える”
「……分かった」
頑張ってくださいねスペちゃん。今のグラスは……かなりの強敵ですよ。それにグラスだけじゃありません。凱旋門賞ウマ娘のモンジューだっています。彼女もまた強敵です。スペちゃんにとって、今までで一番厳しい戦いになるでしょう。
ですが私はあなたなら大丈夫って信じてますよスペちゃん。頑張ってくださいね。
「……それじゃあ、自主トレ再開しようか」
「「「はい!」」」
グラスも順調です。あ、勿論グラスだけじゃありませんよ。ブルボン達もデビューに向けて順調です。みんなで頑張りましょー。
……記者達は行ったか。ならば。
「『トレーナー。頼めるか?』」
「『あぁ。準備はできている』」
私は自身のトレーナーに計測をお願いする。合図とともに私は走り出す。
(……まだ800。ここまでは大丈夫だ)
ファントム。エルコンドルパサーが世界最強と謳ったウマ娘との勝負。あの日以降、私はある現象に見舞われていた。それは……。
(残り600……ッ!ここでッ!?)
スパートをかけようとした私に、突如として襲い掛かる悪寒。次いで幻視するのは……あの日見た、亡霊の景色。何もない荒野と迫りくる闇。その闇に私はなすすべもなく塗りつぶされた。
私に対する恨みつらみが頭に響いてくる。私を非難する声、糾弾する声、罵倒する声、嘲笑する声が頭に響いてくる。目障りだ、不快だ。そう思っても、その声は止まらない。
”クスクス”
”足掻いてる。無駄なのにね”
”お前は弱いウマ娘”
”諦めちゃいなよ?”
(チィッ!)
私は不愉快に思いながらもその闇を何とかして振り切った。そして自分の現在位置を確認してみると……。
「『……いつの間にかゴールしていたみたいだね』」
「『あぁ。タイムに関しては問題ない。だが……やはり、あの景色を幻視したか?』」
「『……ご明察さ。また、あの景色を見せられたよ』」
「『突然君の走りが乱れたからな。しかし……なんて恐ろしさだ。一緒に走っただけで、モンジューをここまで追い詰めるとは』」
日本のウマ娘達は
勿論私にもそれはある。そして、ファントムとのレースでも使った。だが……あの日私の切り札はファントムに塗りつぶされた。そしてその日以降だろう。私が……おそらく彼女のものであろう切り札の景色を見るようになったのは。
(切り札を使おうとする度にこの景色を見せられる。それだけならまだしも、酷い時はただ走っている時も見えてしまう。あの日振り切ったはずなのに、何度も何度も振り切ったはずなのに……何故かいまだに私を蝕み続けている)
記者の人にこんな醜態を晒すわけにはいかない。だからこそ、これは私とトレーナーの2人だけが知っていることだ。
「『……情けないことこの上ないな。まさか、私がここまで恐怖することになるとは』」
こうなっては切り札は使えないものとして考えた方が良い。影響は大きいが……あの景色を見せられてまで使おうなどとは思えない。
恐怖で呼吸は乱れ、ペースは崩れ、フォームも乱れてしまう。いっそ走らない方が幸せかもしれないだろう。もっとも、走らないという選択肢は私の中にないのだが。
ここで思い出すのは、ファントムのことを教えてくれたエルコンドルパサーのことだ。
「『エルコンドルパサーは、よくファントムの切り札を克服したね。天皇賞で一度対戦していると聞いていたが……今も彼女は問題なく走れている』」
「『……彼女に聞いてみるか?どうすれば今の状態を脱却できるかと』」
「『必要ない』」
トレーナーの提案を、私は断る。我ながら速い反応だった。それもそうだろう。
「『私はモンジュー。凱旋門賞を制したウマ娘だ。この程度のことで立ち止まる気はない。……ジャパンカップを勝つのは私だ』」
正直、虚勢にも等しい言葉だ。ファントムと戦ったあの日、自分の走りを否定されたあの日、今まで積み重ねてきた努力は無駄だったと思い知らされたあの日、自分が死んだような感覚を覚えた。その時の恐怖は、今も私を蝕んでいる。彼女の切り札の景色をいまだに見ているのがなによりの証拠だ。
だが、それでも私は立ち止まる気はない。私は凱旋門賞を制したモンジューだ。ありがたいことに日本には私が来ることを楽しみにしていたファンもいる。そんなファンの方々に、恐怖に震えている情けない姿を見せるわけにはいかない。私は……私の強さを見せつけるだけだ。そう心を奮い立たせる。
「『……そうか。なら止めない。勝つぞ、モンジュー』」
「『あぁ。任せてほしいトレーナー。私はきっと、この壁を乗り越えてみせるさ』」
トレーニングを切り上げる。ジャパンカップまでもう日はない。今のうちに、打てるだけの手は打っておこう。
順調なスペグラ。対してモンジューはヤバそう。