弥生賞も無事に終わり、今度は皐月賞に向けての調整になります。他のメンバーのレースもありますが、まず優先すべきなのはスペちゃんの皐月賞でしょう。
スペちゃんにとっての初のG1。それがどのような結果になろうとも悔いは残らないようにしてほしいですからね。私もスペちゃんに指導します。
「え~っと、歩幅……ですか?」
「……そう。ストライド、ともいうけど」
前回の弥生賞を見ていた時に感じていたもの。それはスペちゃんのストライドの幅です。坂を上る時スペちゃんいつもと同じ幅で走っていましたからね。それだとあまりスピードが乗りませんし、何より脚の負担も大きいですから。
「……スペちゃんも、気づいてたんじゃない?少し走りにくいなって」
「そうですね。思ったよりスピードが乗らなくて……」
「……中山の坂は、結構急だから。いつもと同じ歩幅で走ってたら、キツい。だから、いつもより歩幅を小さくして走るのがいいよ」
言うは易く行うは難し。ひとまずは実践してみることにしましょう。坂路のコースに移動します。
「……最初は、軽くでいいよ。歩幅をいつもより小さくすることをイメージして走ってみて」
「分かりました!スペシャルウィーク、頑張ります!」
そう言ってスペちゃんは坂路のコースで坂を上る訓練をすることになりました。
”つってもまぁ、あくまでこれは走りやすくするためのもんだ。劇的に変わるもんじゃねぇ”
「……それでも、だよ。楽に走るのに越したことはないから」
時折スペちゃんに指示を飛ばしながら練習に付き合います。そんな時、後ろから声を掛けられました。
「ねーねー!ファントムー!ボクと併走してよー!」
「……テイオーですか」
声の主はテイオー。私は少し呆れ気味に対応します。なんでって?だってこの子口を開けば私と併走したい併走したいとうるさいんですよ。断り続ける私も悪いですが、今のテイオーと私が走ったら最悪のパターンが起きるかもしれませんし。テイオーの性格的にあり得ないとは思いますが。
もう一人の私もおこですよ。激おこです。そりゃ毎日のようにせがまれたら誰だってキレますよ。
”やかましいな本当!マジで一回黙らせてやろうか!?”
「……ダメだよ。テイオーだって悪気はないんだから」
テイオー的には強いと言われている私の実力が気になる程度のことなんでしょう。私がレースで最後に走ったのは結構前ですし、テイオーがその走りを見ているとは限りませんから。映像を見ているかも分かりませんし。
「……毎回言っているような気がするけど、テイオーと私が走るにはまだ早いよ。もう少し、テイオーが強くなってからね」
「それって何時なのさ~!」
「……それは分からない。でも、少なくとも今じゃない」
「む~!」
テイオーは頬を膨らませて私を睨んでいます。あら可愛い。そんな時。
「いいじゃないかファントム。軽めの併走ぐらいなら許可するから付き合ってやれ」
「……トレーナー」
トレーナーから併走してやれとの指示が出ました。……ふぅ。
”お?やんのか?やっちまうのか!?”
「……トレーナーが言うから、仕方ない。いいよ、テイオー。軽めの併走なら、付き合ってあげる」
「ホント!?やったぁ~!」
テイオーは大はしゃぎしています。可愛いですね。
スペちゃんに一言断りを入れてから私はウォーミングアップをして併走の準備をします。テイオーは……もう準備万端みたいですね。
「よし、2人とも位置に着いたな?それじゃ、よ~い……スタート!」
トレーナーの合図のもと、私とテイオーの併走が始まりました。結果?
「い、一度も、ハァッ、ハァ……ッ、追いつけ、なかった……」
「……お疲れテイオー。スポドリ飲む?」
「しかもファントム全然息切らしてないし!」
私の圧勝ですよ。当たり前ですけど。
それから練習を続けて、いよいよ皐月賞が明日に迫りました。今日はスピカの部室でお披露目会です。何のお披露目かって?そりゃ、G1と言えばアレですからね。
「ホラ、スペシャルウィーク。お前さんの勝負服だ。G1レースは最高峰のレースだからな!いつもとは違う、特別な勝負服で走ることになる!着てみろ!」
「これが……!私の勝負服!」
そう、勝負服です。スペちゃんニッコニコですね。気持ちは分かりますよ。嬉しいですもんね、勝負服。
”俺様にはいまいちわからん。分ける意味もな”
「……特別なレースだから、ね。G1で走るってことは、そういうことだから」
トレーナーを部室から追い出してスペちゃんは着替えます。おぉ、可愛いですね。マ子にも衣装ってやつです。スカーレットとウオッカはまだ勝負服を貰えてないのでスペちゃんを羨ましそうに見ています。
「……スカーレットとウオッカも、いずれ着られるようになる。私が保障するよ」
「ファントム先輩……。はい!アタシ頑張ります!」
「俺も!ぜってーコイツより先に勝負服貰います!」
「ハァ!?アタシが先に決まってんでしょバカウオッカ!」
「誰がバカだ!アホスカーレット!」
2人は今日も仲良しですね。……ん?スペちゃんなんだか様子がおかしいですね?
「……どうしたの?スペちゃん。衣装、何か気になるところが?」
「うぇ!?い、いえ!大丈夫ですよ!ピッタリです!」
「……そう?」
なーんか気になる反応ですけど、まぁいいでしょう。これ以上ツッコむのも野暮な気がしますし。
さてさて、迎えました皐月賞本番です。スペちゃんは今回も大外枠ですね。スペちゃん、大外枠に愛されてるんでしょうか?
そしてスペちゃんが登場しました。おぉ、デビュー戦とは打って変わって奇麗にジャージを翻しましたね。偉いですよ。パチパチ。
「スペ先輩、調子悪くなさそうね」
「そうだねー。スペちゃーん!頑張れー!」
テイオーとスカーレットが応援しています。スペちゃんも、観客の人の応援に応えるように手を振っていますね。そしてそのまま退場しようとして……、うん?スペちゃん、なんだか腰のあたりを気にしていますね。何かあったんでしょうか?
”太って衣装が合わなかったんじゃねぇの?”
「……まさか、そんなこと」
……ないとも言い切れないんですよねぇこれが。スペちゃんって割と食べる方ですし。それにもう一人の私は変に鋭いところがありますから。
パドックでのパフォーマンスも終わったということで、私達はレース場へと向かいます。
《G1レース皐月賞!3冠レースの第一関門を制するのはどのウマ娘か!ステップレースの弥生賞を制した1番人気の18番スペシャルウィークか?弥生賞の雪辱を晴らせるか2番人気の3番セイウンスカイと3番人気12番キングヘイロー!》
スペちゃんは逃げで走るわけじゃないので大外枠が不利に働くことはありません。むしろ、割といい枠番ではないでしょうか?
”さて、どう転ぶか……見ものだな”
「……そうだね。誰が、勝つと思う?」
”セイウンスカイ”
「……根拠は?」
”弥生賞を捨て石に使ったんだったら……無論棒立ち娘と他の奴らの対策を講じてくるはずだ。アイツは頭がキレるんだろ?そんまま逃げ切る可能性が高い”
それにスペちゃん微妙に様子がおかしかったですからね。一応、前回と違ってストライドを縮める歩法を教えてあげましたがあくまで付け焼刃。どこまでできるのか……見ものです。
そう考えているとゲートが開いてスタートしました。スペちゃんは後方の良い位置につけましたね。スカイは……おや?先頭ではありませんね。2番手に控えるみたいです。キングは前目につけていますね。3番手の位置です。
「弥生賞と同じような展開だな」
「って、ことは最後の坂を上り切った後の直線勝負ね」
「またあの追い込みが見られるのかな~?頑張れスペちゃ~ん!」
……フム。
「……どう思う?」
”なんか企んでる、ってみるのが当たり前だな”
「……だね」
どうなることやら。
レースは終盤、第4コーナーのカーブを曲がり終わるところです。スペちゃんがペースを上げていきましたね。弥生賞と全く同じ……ですが。
《各ウマ娘が第4コーナーのカーブを曲がる!1番人気スペシャルウィークが上がってくるが、おぉっと!?今日は控えたセイウンスカイが一気に抜け出した!セイウンスカイが先頭に代わる!》
やっぱりこのタイミングですか。スカイが抜け出して一気に先頭に立ちましたね。
「アイツいつの間に!?」
トレーナーが驚いたように声を上げます。まぁビックリしますよね。急に出てきましたし。スピカのメンバーはスペちゃんを応援していますが、私はただ冷静にレースを見守ります。
”決まったな”
「……まだ分からないよ?坂を上り切ったら」
”思ってもねぇこと言ってんじゃねぇよ。テメェも察しがついてんだろ?あの棒立ち娘はもう勝てねぇってことに”
「……」
私はスペちゃんを見守ります。坂を上っていますね。……うん、私が教えた歩幅を縮める走り方、ちゃんとできていますね。あれなら後には響かないでしょう。坂を上り切りました。スペちゃんは前を走るスカイとキングに追いつこうと必死になっています。
けど、スカイは余力を残している。残り100mで挽回できるかと言われたら……。
”無理な話だ。棒立ち娘の末脚は確かに速い。だが、余力を残している相手に追いつけるほどじゃねぇ。スピードも、いまいち乗ってねぇしな。せめて後100もありゃあ話は違ったが……”
もう一人の私の言うように、スペちゃんは前を走る2人に追いつくことができずにゴールしました。
《セイウンスカイが粘って粘ってゴールイン!3冠レースの第一関門皐月賞を制したのは3番のセイウンスカイだ!セイウンスカイの作戦勝ちです!2着は1/2の差でキングヘイロー!1番人気スペシャルウィークは3着に敗れました!》
スピカのメンバーは悔しそうに声を上げます。
「クッソー!弥生賞と同じ展開だったのに!」
「……弥生賞と同じ展開、だからだよ」
ウオッカの言葉に私はそう答えます。みんながこっちを見ますね。私、大注目。
「どーいう意味だよ?弥生賞と同じだからって」
ゴルシがそう聞いてきます。私は自分の考えをみんなに伝えることにしました。
「……セイウンスカイは、弥生賞での敗戦を踏まえて作戦を変えてきた。先頭に立って走るんじゃなく、最後まで余力を残すために控えて走っていた」
「そう言えば、今日は先頭に立って走ってなかったですね」
「……確かにスペちゃんの末脚は光るものがある。でも、余力を残している相手にはさすがに勝てない。これは、セイウンスカイの作戦勝ち」
”後は、思ったようにスピードも乗らなかったしな。アイツマジで太ったんじゃねぇの?”
「……太ったかどうかは知らない」
「えっ!?スペ先輩太ったんですか!?」
「……いや、それは知らない。スズカは?同室だから知ってるんじゃない?」
「さ、さすがに分からないわ。でも、スペちゃんの実家から送られてくる人参が減るペースは、速かったかも……」
……これ、マジで太ったんじゃないですか?筋肉が付いたとかじゃなくて。
スペちゃん初挑戦のG1レース皐月賞。スペちゃんにとっては、とても悔しい結果になる3着になりました。そして、スペちゃんにとっての初の黒星です。
”ここでどうなるか、だな”
「……スペちゃん、立ち直れるといいけどね」
ターフで顔を俯かせているスペちゃんを見ながら、私はそう呟きました。
今更ながら主人公ちゃんのスペックを。
ファントム
身長:173cm
体重:不明(そもそも生きてる?)
スリーサイズ(B/W/H):93/56/87
髪色:不明(尻尾の色からおそらく赤黒い色?)
常にパーカーのフードとお面で顔を隠しているウマ娘。その正体を知るのはごく一部の人のみである。