そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

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単発第3弾はとあるお話。前半は童話風にしようと思って全部ひらがなで書いていましたが滅茶苦茶読みにくかったので普通に書きました。


三女神を継ぐもの

 むかしむかし、ひとりのウマ娘の少女がいました。

 

 

 少女は、見た目こそほかのウマ娘とかわりません。しかし少女は、他の誰よりも速かったのです。

 

 

「またわたしがいちばんだね!」

 

 

 その速さは、他の子達よりも抜きんでていました。それこそ、大人にだって勝っちゃうほどに少女は速かったのです!

 少女はいいました。

 

 

「わたしはだれよりもはやいウマむすめになる!」

 

 

 そんな夢をもって、少女は学園へ入学しました。

 学園に入学した後も、少女はずっと勝ち続けました!相手が年上でも関係ありません。すべてのレースで、自分以外の子を大きく引き離して勝っちゃうのです!

 

 

「わたしはさいきょう!だれでもかかってこーい!」

 

 

 でも、そんな日々も長くは続きませんでした。次第に、みんな少女を遠ざけるようになったのです。

 

 

「ねぇ、わたしとはしろうよ!」

 

 

 少女がそう言うと、他の子は決まって嫌な顔をします。

 

 

「やだよ。だってかてっこないもん」

 

 

 その言葉を聞くと、少女はとても悲しい気持ちになりました。

 

 

「どうしてわたしとはしってくれないの?」

 

 

 別の子にも聞きました。別の子も嫌な顔をします。

 

 

「まけたらいやだもん。あなたにはかてっこないし」

 

 

 その子の言葉に、少女は答えます。

 

 

「でも、わたしははしれるだけでたのしいよ?」

 

 

 そういうと、少女は怒られてしまいました。

 

 

「あなたはたのしくてもわたしはたのしくないの!どっかいって!」

 

 

 少女はまた悲しい気持ちになりました。

 少女はただ走れるだけで満足です。本当は、勝ち負けなんて二の次でした。誰よりも速いウマ娘になるという言葉も、そうすればみんな一杯走ってくれるから!そんな、純粋な願いから出た言葉でした。

 でも現実は、誰も彼もが少女から遠ざかっていきます。次第に少女は、1人で走るようになりました。

 

 

「ひとりではしっても、ぜんぜんたのしくない……」

 

 

 ある日少女は、三女神像に問いかけました。

 

 

「めがみさま、どうしてみんなはわたしとはしってくれないんですか?」

 

 

 誰もいないはずの場所で、少女はそう尋ねます。するとどうしたことでしょう!目の前に女神様が現れたのです!

 女神様は驚いている少女の言葉に答えます。

 

 

「それは、あなたが速すぎるからです」

 

 

 少女はさらに問いかけます。

 

 

「じゃあ、どうしてわたしはこんなにはやいんですか?」

 

 

 女神様はさらに答えます。

 

 

「あなたの速さは全てのウマ娘を導くため。常に先頭に立って、他のウマ娘を導くためにあなたの速さはあるのです」

 

 

 女神様は続けます。

 

 

「──。我らの意思を受け継ぐ可愛い子。これからは、私達に代わってあなたたちが先頭に立ってウマ娘達を導くのです」

 

 

 少女は女神様に尋ねます。

 

 

「わたしたちって?」

 

 

 女神様は答えます。

 

 

「あなたと同じく、私達の意思を受け継ぐものがいます。その子達と協力して、ウマ娘のよりよい未来のために尽力するのです」

 

 

 それは、三女神様からのお告げでした。三女神様は全てのウマ娘を愛しています。誰もが憧れる三女神様。そんな三女神様からのお願いとあれば、少女は断る気はありません。むしろ、嬉しい気持ちでいっぱいになりました!

 

 

「わかりました!わたしたちがめがみさまにかわってほかのこたちをみちびきます!」

 

 

 少女の言葉に、女神様は満足そうに頷きました。

 そこから少女は2人の少女と出会います。それは、女神様の言っていた自分と同じ、三女神様の遺志を受け継ぐウマ娘の少女達です。

 

 

「わたしたちでほかのこたちをみちびこう!」

 

 

「うん!めがみさまたちにかわって!」

 

 

「みんながたのしくはしれるように!」

 

 

 それから3人の少女達は、力を合わせてウマ娘の未来のために尽力していきました。

 

 

『王冠の女神』の遺志を継ぐウマ娘、ヘロド

 

 

『海の女神』の遺志を継ぐウマ娘、マッチェム

 

 

そして『太陽の女神』の遺志を継ぐウマ娘、エクリプス

 

 

 3人の少女は、ウマ娘達がより楽しく走れるように尽力し続けました。その功績が認められて、彼女達はウマ娘のみならず人々からも感謝され続けました。

 3人の少女達が遺した功績は計り知れません。ウマ娘も人々も、彼女達を讃え続けました。そしてその功績を忘れることがないよう、肖像画や石像として彼女達の姿を残すことで後世まで語り継ぐことにしたのです。

 人々とウマ娘達は彼女達にいつまでもいつまでも──感謝し続けました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある宮殿。その宮殿では、1人のウマ娘が歩を進めていた。

 

 

「……ッ!」

 

 

 暗めの茶色、鹿毛の髪を武骨なショートカットにした軍人を思わせるような風貌のウマ娘。その耳は絞られており、大きい音を鳴らしながら歩いている。誰が見ても、彼女は怒っている。そう思わせるような雰囲気をしていた。

 鹿毛のウマ娘はやがて扉に辿り着く。その扉を、鹿毛のウマ娘は乱暴に開いた。大きな音が宮殿内に鳴り響き、掃除や給仕をしていた者たちが一様に驚いた表情を浮かべる。

 しかしそれに気にした様子を見せることなく、鹿毛のウマ娘は部屋の中にいるであろう人物に向かって叫んだ。怒りをにじませた声で、鹿毛のウマ娘は部屋の中にいるウマ娘の名前を呼ぶ。

 

 

「エクリプスッ!」

 

 

 叫ぶようにそう言うと、部屋の中でソファに寝転んでいた赤黒い髪の栗毛をウルフカットにし、額には炎のように揺らめいている流星を持ったウマ娘──エクリプスは気だるげに反応する。

 

 

「……何の用だヘロド。そんな乱暴に開くんじゃねぇようるせぇな」

 

 

 エクリプスはソファに寝転びながら鹿毛のウマ娘──ヘロドにめんどくさそうな反応を示す。その態度を見て、ヘロドは叫ぶようにエクリプスに尋ねた。

 

 

「貴様ッ、また他のウマ娘に対してレースを仕掛けたな!?」

 

 

「それがなんだよ。別にいいだろ、遊ぶぐらい」

 

 

「お前は、自分の走りが他者にどういう影響を及ぼすのか分かっているだろう!?これでまたスクールの子が辞めていったぞ!もう何度目だ!お前が他のウマ娘を退学に追いやるのは!」

 

 

 ヘロドの言葉に、エクリプスはめんどくさそうな態度を崩さずに答える。

 

 

「知るか。俺様に負けて辞めるようなウマ娘だっただけの話だろうが。それを大げさに言いやがって……めんどくさいことこの上ねぇな」

 

 

「あぁそうだな。並のウマ娘だったら、普通のウマ娘が起こしたことだったら貴様の言う通りだろう」

 

 

 エクリプスの言葉に、ヘロドは理解を示したようにそういった。しかし、次の瞬間、またも怒気を孕んだ声でエクリプスに問いかける。

 

 

「だが!貴様は普通ではない!三女神様に選ばれた特別なウマ娘だ!貴様の領域(ゾーン)は他のウマ娘とは違う特別なものが掛かっている!それが他のウマ娘にどういった影響を及ぼすか……貴様なら分かっているだろうが!」

 

 

 エクリプスはヘロドの言葉に、怒りを滲ませる。ヘロドに敵意を向けていた。しかし、表情は笑顔である。

 

 

「おーおーなんだ?テメェのお気に入りが辞めちまって、それで俺様に当たってんのか?ギャハハ!笑っちまうなぁおい!」

 

 

 ヘロドを小バカにしたように笑うエクリプス。しかし、その言葉を聞いたヘロドが見せた感情は……。

 

 

「違う!……私は貴様が心配なんだ」

 

 

 同情、憐憫だった。

 

 

「……あ゛ぁ゛?」

 

 

「……とにかく!これ以上無駄にレースを仕掛けるのは止めろ!このままだと貴様は……本当に孤立するぞ!」

 

 

「ハッ!嫌だね!なんでテメェの言うことを聞かなきゃならねぇんだよ!」

 

 

 エクリプスとヘロドの口論がヒートアップする。周りの人々は困惑するだけだった。2人の口論が最高潮に達しそうな、その時……。

 

 

「──騒がしいですね。何事ですか?」

 

 

 全てを包み込む海を想起させる青色の髪をウェーブがかったロングヘアにしたウマ娘──マッチェムが部屋の中を訪れた。エクリプスとヘロドは口論を止め、マッチェムへと視線を向ける。

 マッチェムはこの3人の中では一番年上である。そのため、この3人の中でも発言権は特に大きかった。何より彼女は全てを見透かしているように話す。それは、他人の心の内すらも。下手なことを言えば自分が不利になる。だからこそ、エクリプスとヘロドはこれ以上口論を続けるのは得策ではないと判断した。

 マッチェムはヘロドへと視線を向ける。

 

 

「ヘロド、今度は何があったのですか?」

 

 

「マッチェム。……また、エクリプスとレースをした子がスクールを辞めていきました」

 

 

 ヘロドの言葉に、マッチェムは深いため息をつく。今度はその双眸がエクリプスを捉える。全てを見透かすような目だった。

 

 

「エクリプス。あなたには勝手な私闘をすることを禁じていたはずです。何故、決まりを破ったのですか?」

 

 

 エクリプスはマッチェムの言葉に、飄々とした態度で答える。

 

 

「知るかよ。なんでテメェらの言うことを聞かなきゃならねぇ。俺様は俺様の走りたい時に走る。それだけだ」

 

 

「そうですか……」

 

 

 マッチェムはそれだけ言った。最早諦めているのかもしれない。エクリプスのこの性格は、マッチェムがエクリプスに初めて会った時からそうだったのだから。

 

 

「エクリプス。何故、他の子を辞めさせるような走りをするのですか?」

 

 

「……何が言いてぇ?」

 

 

 マッチェムの言葉に、エクリプスは怒りを隠さずに聞き返す。マッチェムは、それを気にすることもなく答えた。

 

 

「簡単ですよ。あなたが何を思って他の子を辞めさせているのか……それを聞きたいだけです」

 

 

 エクリプスは鼻で笑う。

 

 

「ハッ!どうせ分かってるくせに、わざわざ言葉にする意味はあんのか?」

 

 

「あなたの口から直接聞きたいのです。あなたが他の子達にレースを仕掛ける、本当の理由を」

 

 

 マッチェムの言葉に、エクリプスは声高に答える。

 

 

「決まってる!全てのウマ娘は俺様を楽しませるために存在している!俺様を走りで楽しませられねぇウマ娘なんざ……必要ねぇんだよ!」

 

 

 あまりにも傲慢な物言い。全てのウマ娘を見下しているかのようにエクリプスはそう答える。それに対するマッチェムの答えは……。

 

 

「──哀れですね、エクリプス」

 

 

 憐憫だった。その双眸に、深い悲しみの色を滲ませながらマッチェムはエクリプスを見つめる。

 それを受けて、エクリプスは殺気を放つ。周りの人々はあまりの圧に腰を抜かしていた。しかし、マッチェムとヘロドは涼し気な表情をしている。

 

 

「……どういう意味だ?マッチェム」

 

 

「言葉通りの意味ですエクリプス。あなたを哀れんでいるのですよ」

 

 

 マッチェムは余裕な態度を崩さずに続ける。

 

 

「自らの本心を騙り、傲慢な物言いで敵を作る……。いい加減、子供のような駄々は止めたらどうですか?」

 

 

「……んだと……ッ!」

 

 

 殺気を膨れ上がらせるエクリプス。それでもマッチェムの表情は変わらない。

 

 

「あなたは誰よりも走ることを楽しんでいる。一人ではなく、誰かと走ることに固執している。それはきっと、競い合うことが楽しいから。普通のウマ娘と同じように、誰かと一緒に走りたい。違いますか?」

 

 

「……」

 

 

「ですが、今のままだと他の子達はあなたから離れていくでしょう。それは我らも、あなたも望むことではありません」

 

 

「……まれッ」

 

 

「エクリプス。このままだと貴様は本当に孤立するぞ?走る相手が誰もいなくなってしまう。貴様はそれで……」

 

 

「黙れ……ッ!」

 

 

 エクリプスは、もう我慢できないとばかりにそういった。そして、エクリプスの怒りが爆発する。それは、子供のような駄々だった。認めたくない事実から目を逸らすように、エクリプスは乱暴に言い放つ。

 

 

「テメェら如きが……俺様のことを分かった風に言ってんじゃねぇ!」

 

 

「エクリプス。あなたはこのままだと……」

 

 

「黙れッ!負けてスクールを去るような奴なんざ、その程度の存在だ!そんな奴……必要ねぇんだよ!」

 

 

 エクリプスは扉へと手をかける。マッチェムの制止する声が響いた。

 

 

「どこへ行く気ですか?エクリプス。話は……」

 

 

「うるせぇ!俺様に指図してんじゃねぇ!」

 

 

 そのままエクリプスは扉を乱暴に閉めてどこかへと行ってしまった。マッチェムとヘロドは嘆息する。

 

 

「……いけませんね、このままだと」

 

 

「そうだなマッチェム。エクリプスも意固地になっている。元より他者の意見を聞くような奴ではなかったが……最近特に酷くなってきているな」

 

 

 マッチェムは思案する。考えるのは、エクリプスが持つ特異な力……領域(ゾーン)のことだ。

 

 

「エクリプスの領域(ゾーン)は他のウマ娘とは違います。元来の強力さに加えて、三女神様の加護がついている。本来であれば、それは祝福として作用するはずでした。全てのウマ娘を導くための、導として。ですが……」

 

 

「エクリプスはその力を呪いとして使っている。恐怖を増長させ、他のウマ娘を絶望に叩き落し、走るのを止めるように使っている。だが、恐怖を乗り越えることができれば、今以上の強さを手に入れることができるだろう。元は祝福なのだからな。しかし……」

 

 

「エクリプスの領域(ゾーン)は非常に強力です。それゆえに、乗り越えられるウマ娘はあまりにも少ない」

 

 

 マッチェムは言葉を続ける。それは、彼女達が一番危惧していること。

 

 

「エクリプスは恐れられています。その恐れが肥大化しすぎると……誰もが彼女を遠ざけるようになるでしょう。それは、我らの望むところではありません」

 

 

「エクリプス……。貴様は、どこで歪んでしまったんだ……?」

 

 

 マッチェムは他人の心を見透かせる。そんなマッチェムから、エクリプスが心の内に望んでいる本当の願いをヘロドは聞いたことがある。そしてその願いは、ヘロド自身も感じていたものだ。だからこそ、今のエクリプスの状態は非常に良くないということが2人には分かっていた。

 しかし、どうすることもできない。対処法は簡単、だがその方法が何よりも難しい。このままいけばエクリプスは恐れられ、本当に孤立してしまうだろう。

 マッチェムは悲しげに呟く。

 

 

「歯がゆいですね……。我々では彼女の本心は分かってあげられても、彼女の理解者になることはできない」

 

 

「エクリプス自身が理解されることを拒絶する。そして……奴は最後には一人ぼっちになってしまう。それだけは、絶対にダメだ」

 

 

「はい。それは……あまりにも悲しいですから……」

 

 

 2人は沈痛な面もちでいる。マッチェムは、手を組んで祈った。

 

 

「三女神様……どうか、エクリプスに救いの手を……」

 

 

 それと同じように、ヘロドも手を組んで祈る。

 

 

「いつの日か、彼女が……エクリプスが救われんことを……」

 

 

 2人は祈る。自らの同胞である、エクリプスがいつの日か救われることを祈って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時を同じくして、部屋から飛び出したエクリプスは大聖堂に来ていた。大聖堂のステンドグラスには、三女神の姿が写っている。姿を見たことがないので、本当の姿なのかは分からないが。自らの目の前には三女神像もある。

 エクリプスにはもう怒りは見えなかった。しかし、三女神像の前に立ち、ステンドグラスを見上げながらエクリプスは嗤う。

 

 

「よう三女神ぃ。相変わらず反吐が出るなぁおい」

 

 

 エクリプスは、嗤う。

 

 

「テメェらは全てのウマ娘を愛している……だったかな?まぁどうでもいい。テメェらが全てのウマ娘を太陽のごとく照らすんだったら……」

 

 

 エクリプスは、三女神像の前で宣言する。

 

 

「俺様がその光を侵食して、他のウマ娘を絶望に叩き落してやる……ッ!俺様の名前……日食(エクリプス)のようになぁ!」

 

 

 エクリプスは嗤う。その笑い声は、どことなく悲しみを帯びており……ステンドグラスの三女神も、悲しそうな表情を浮かべていた。




エクリプス(亡霊)の領域は三女神によるバフが掛かっています。走っている全員に影響を及ぼすのはそういうことです。バフが掛かってなくてもアホみたいに強いですが。
ちょっとした余談ですがモンジューが亡霊の領域を抜け出した時、最後に見えた2人のウマ娘はマッチェムとヘロドです。
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