そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

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皐月賞の後。


亡霊少女とお友だち

 皐月賞から明けて次の日です。私は今日もカフェテリアでぼっち飯です。1人で寂しくないのかって?べ、別に寂しくなんてありませんからね!勘違いしないでくださいね!

 

 

”誰に言い訳してんだテメェは。後なんだその台詞”

 

 

「……ツンデレ、というやつらしい。流行ってる、らしいよ?」

 

 

”世間様は変なもんが流行ってんなぁ……”

 

 

 もう一人の私とそんな会話をしていると、私のところに誰かがやってきました。いえ、顔を上げなくても分かります……ッ!私のところに来てくれる女神様は……ッ!

 

 

「ファントムさん。ご一緒しても、いいでしょうか?」

 

 

 やっぱりカフェさんです。こんな私と一緒にご飯食べてくれるとかカフェさんは女神様か何かでしょうか?カフェさんから後光が差してますよ。

 

 

「……勿論、大丈夫」

 

 

「では、失礼します」

 

 

 カフェさんは私の対面に座りました。そのまま手を合わせてご飯を食べ始めます。程よく食べた後、私達はお話を始めました。

 

 

「……スペシャルウィークさん、皐月賞、残念でしたね」

 

 

「……そう、だね。でも、思ったより大丈夫そうだったから心配は、してないよ」

 

 

「そう、なんですか?」

 

 

 せっかくなのであの後のことをお話しすることにしましょう。私はお互いにガンを飛ばしあっているカフェさんのお友だちともう一人の私を無視しながらカフェさんに皐月賞後の話をすることにしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皐月賞の後、私は珍しくスペちゃんやスズカと一緒に帰っていました。同じ寮ですからね。帰る道中、急にスペちゃんが思い出したかのように言ったんです。

 

 

『わ、私忘れ物しちゃって!スズカさん、ファントムさん。お2人は先に帰っててください!』

 

 

『スペちゃん?』

 

 

『……』

 

 

 私とスズカが何か言う前にスペちゃんは来た道を戻っていきました。……どう思います?私。

 

 

”バレバレの嘘だな”

 

 

『……同感』

 

 

『ファントム?何がかしら?』

 

 

『……スペちゃん、忘れ物したって言うのは多分嘘だな、って』

 

 

『……そうね』

 

 

 やっぱりスズカもそう思いましたか。なら、やることは1つです。

 

 

『……後、尾けてみますか』

 

 

『そうね。やっぱり、心配だもの』

 

 

 考えが一致したということで、私達はスペちゃんの後を追うことにしました。幸いにもまだ離れてはいなかったので後を追うこと自体は簡単でした。

 スペちゃんの後をつけていくと、スペちゃんは学園の大樹のウロへとやってきました。……まぁ、ここに来ますよね。私とスズカは身を隠しながらスペちゃんを見守ります。

 スペちゃんは辺りを見渡して誰もいないことを確認してから、大樹のウロに向かって悔しい気持ちを吐き出していました。そして、スペちゃんは泣いていました。

 

 

『弥生賞の時みたいに走ったのに!お母ちゃんに、勝ったところを見せてあげたかったのに!』

 

 

 それは、皐月賞の悔しさからきたものでしょう。

 

 

『私!調子に乗ってたんだ!気持ちが浮ついてたんだ!だから負けちゃったんだ!私のバカバカー!うっ、ううっ!ひっく!』

 

 

『スペちゃん……』

 

 

『……』

 

 

”ハッ。なんで負けたのか、自分でもよぉく分かってんじゃねぇか棒立ち娘”

 

 

『……そうだね』

 

 

 余程悔しかったのでしょう。スペちゃんは大樹のウロに向かってずっと悔しい気持ちを吐露しています。そんなスペちゃんを、私とスズカは見守ることしかできませんでした。

 そんな時です。私達とは違う方向から、トレーナーがやってきました。スペちゃんのいるところ、大樹のウロへと歩を進めています。スペちゃんもそれに気づいてか、キョトンとしたような表情を浮かべています。私達には気づいていないようです。

 トレーナーは、スペちゃんと同じように大樹のウロに向かって叫び始めました。

 

 

『クッッッッソォォォォ!俺の指導不足だァァァァァ!俺のせいで、スペシャルウィークを負けさせちまったァァァァァ!クソォォォォォ!』

 

 

 トレーナーも、悔しさを爆発させるように大樹のウロに向かって叫びます。私達はその光景を黙ってみていました。

 ひとしきり叫んだ後、トレーナーはスペちゃんの方へと視線を向けます。

 

 

『スペシャルウィーク、負けてどんな気持ちだ?』

 

 

『……悔しいですッ!』

 

 

 トレーナーの言葉にスペちゃんは涙を拭いて答えます。

 

 

『だったら、ダービーだ!』

 

 

『ダービー……ですか?』

 

 

『あぁ。お前の次走、日本ダービーでセイウンスカイにリベンジするぞ!負けを知って強くなれ!スペシャルウィーク!いいな?』

 

 

『……ッ、はい!』

 

 

 スペちゃんは力強くそう答えました。

 

 

『……行こうか、スズカ』

 

 

『ファントム……』

 

 

『……スペちゃんはもう前を向いてる。心配は、いらないよ』

 

 

『……そうね。帰りましょうか』

 

 

 私は、スズカと一緒に帰りました。少しの嬉しさを覚えながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は事の顛末をカフェさんに話しました。

 

 

「……そうですか。でも、スペシャルウィークさんの気持ちが前を向いたようで、何よりです」

 

 

「……そうだね。負けた悔しさを知って、スペちゃんはきっと、今以上に強くなる」

 

 

「嬉しいですか?ファントムさん」

 

 

「……えぇ。後輩の成長は、嬉しいですから」

 

 

 カフェさんとそんな話をしています。もう一人の私は……いまだにカフェさんのお友だちと言い争ってますね。

 

 

”目上に対する口の利き方ってもんを知らねぇようだなぁ!塵ィッ!”

 

 

”お生憎様だ!アタシはテメェを上だと思ったことは一度たりともねぇ!”

 

 

”そうかそうか!だったら今すぐ跪かせてやるよ塵!”

 

 

”やれるもんならやってみろや!”

 

 

”この世から成仏させてやろうかテメェ!”

 

 

”成仏すんのはテメェだボケが!”

 

 

 ものすごく低次元な争いです。後、もう一人の私が成仏したら私も困るので止めてください。カフェさんも呆れ顔です。

 カフェさんのお友だちともう一人の私、どうやら相性がすこぶる悪いみたいでよくこんな感じで言い争っています。最初こそ私とカフェさんも宥めていたのですが触れ合っていくうちに無駄だと察して止めることを辞めました。

 ……ただ、周りに実害が及びそうになったら話は別です。

 

 

「……もう一人の私。その辺にしておいて」

 

 

「……あなたもですよ」

 

 

 なんか備え付けてある調味料類が震え始めたので私はもう一人の私にストップをかけます。カフェさんも同様にお友だちにストップをかけます。ちなみに、私とカフェさんはどちらも怒っています。激おこです。

 私達が怒っていることを察してか、もう一人の私とお友だちは大人しく引き下がりました。これ以上怒らせるのは本意ではないと考えたのでしょう。

 

 

”あんまり図に乗ってんじゃねぇぞ……ッ!塵が!”

 

 

”こっちの台詞だ……ッ!”

 

 

 お互いに捨て台詞を吐いて、そのまま大人しくなります。それに伴って、震えていた調味料類は制止しました。一安心ですかね?私とカフェさんはお互いに嘆息します。

 

 

「……仲良く、できないものでしょうか?」

 

 

「……多分、無理。もう一人の私、凄くプライドが高いから」

 

 

「お友だちも、もう一人のファントムさんを毛嫌いしているので……。難しいですね」

 

 

 でも、私とカフェさんは仲が良いので大丈夫です。何が大丈夫かは分かりませんが、とにかく大丈夫です。

 

 

「……そういえば、カフェさんは最近どう?何か、変わったことはあった?」

 

 

「……特に、ありませんね。タキオンさんに絡まれたりしますけど、目新しいことは、特に」

 

 

 タキオンさん。私は会ったことありませんけど名前だけは聞いたことがあります。主に生徒会関連で。

 

 

「……タキオンは、また実験したりしてるの?」

 

 

「そうですね……。また、変な実験をしているみたいです。あの人も、懲りて欲しいんですが……」

 

 

「……まぁ、目的のために一生懸命なのがタキオンのいいところ、かもよ?」

 

 

「……周りに被害が及ばなければ、私も、文句はないんです。でも、そうじゃない時もあるので」

 

 

 確かにそうですね。実際生徒会も頭を悩ませている時があるので。主にエアグルーヴが。

 

 

「それに、タキオンさんは、ファントムさんに興味を持っていますので。気をつけてください」

 

 

「……タキオンが?私に?」

 

 

 何故でしょうか?

 

 

「タキオンさんは、ウマ娘の身体に強い興味を抱いていますから。ファントムさんの戦績や、レースの結果を鑑みると、興味を抱くのは必然かと……」

 

 

「……そういうことですか」

 

 

「それに、ファントムさん。ご自身で気づいておられるかは分かりませんが、あなたは、かなり異質ですから。普通の人には見えないものが見えるだけではない、タキオンさんが興味を抱くのも、無理はありません」

 

 

「……私、変ですかね?」

 

 

 私しょんぼり。私がしょんぼりしているのが分かったのか、カフェさんは慌てた様子で訂正してきます。

 

 

「そういう、意味では……。それに、たとえ異質だったとしても、ファントムさんが私の大切な友人であることには、変わりありませんので」

 

 

 やだ、カフェさんは本当に女神様ですか?後光が眩しすぎて目を開けてられませんよ。おっと、私お面付けてるんでした。いやまぁちゃんと視界は開けてますよ?じゃないと歩けないですからね私。

 

 

「……まぁ、タキオンが私に興味を持ってる、ってことだね?」

 

 

「はい。なので、もし会うことがあれば注意を。何をされるか、分かりませんので。もし会ったとしても、すぐに私を呼んでください。危ないことは、止めさせますので」

 

 

「……分かった。憶えとくね」

 

 

 お昼休みはカフェさんと仲良く話しながら終えました。しかしタキオンですか。一応、注意はしておきましょうか。

 でも、そんなに会うことなんてないでしょう。彼女が根城にしている理科室に私は立ち寄りませんし、タキオンもそこから出ることはほとんどないようですし。まさか偶然バッタリ会うなんてことはないでしょう。ははは。

 

 

”だといいがねぇ。な~んか嫌な予感がすんだよなぁ”

 

 

 やめてくださいよ。そんなまさかがあるわけないでしょう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フゥン、君が噂のファントム君かい?こうして直接会えるなんて光栄だねぇ」

 

 

「……」

 

 

”秒速で回収したなおい”

 

 

 悲報。私、アグネスタキオンに邂逅しました。しかも、逃げることは不可能そうです。




超速でフラグ回収した主人公ちゃんの運命やいかに。

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