そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

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テイオー視点のプロローグ


帝王と目標

 ──ボクには2つの目標がある。

 1つは勿論!カイチョー……シンボリルドルフと同じ、無敗の3冠ウマ娘になること!カイチョーみたいな強くてカッコいいウマ娘になるってことを目標にしているんだ!

 無敗の3冠ウマ娘になる為の第一歩。皐月賞は無事に負けなしで制することができたよ!これで負けなし5連勝!ふふん、やっぱりボクってば天才かも?でも、ボクは油断はしないよ。無敗の3冠ウマ娘になるためにも、ボクは負けるわけにはいかないからね!

 ……まぁ、最近、というか、チームに入ってからはずっと負けっぱなしなんだけど。誰に負けてるのかって?そりゃあ勿論……。

 

 

「……あいあむうぃなー」

 

 

「ムッキー!また負けたー!」

 

 

「良かったなテイオー。記念すべき100回目の負けだぞ?」

 

 

「うるさいやい!次こそは勝ってやる!」

 

 

「よくもまぁ懲りませんわねあなた……」

 

 

 同じチームの先輩であるファントム!ファントムにず~っっっっと負けっぱなしなんだよ!一度だって勝ったことない!だから、ファントムに勝つこと、それがボクのもう一つの目標!

 ファントム。トレセン学園に通う、多分学園で一番謎が多いウマ娘。誰も素顔を見たことがないらしいし、何より普段からゴルシと一緒に奇行に走っていることが多いんだ。正直何してんのとは思うけど……ファントムはそれだけじゃない。

 ファントムはとんでもない強さを誇っている。今もトゥインクル・シリーズを現役で走ってるんだけど……いまだに無敗を貫いているんだ。ただ、クラシック3冠のレースには出走してなかったみたいだけど。ファントム自身称号みたいなものに拘りはないみたい。あくまで自分の出走できるレースに出走し続けた結果、って言ってた。

 そんなファントムを、一部の人達は無敗なのは強い相手とは走らないから~なんて言ってる人達がいるけど。ボク達からすれば絶対にそんなことはないって分かる。ファントムの強さは圧倒的だ。併走で100回も走ってるボクが断言できるのは勿論のこと、一緒に模擬レースをしたことがあるらしいカイチョーも言ってた。ファントムの強さは異次元だって。

 正直ボク自身、最初はファントムにあまり良い印象を抱いてなかったんだよね。なんでって?そりゃあ、ボクの憧れでもあるカイチョーから聞いた話のせいだよ。

 ボクはスピカに入る前、カイチョーが一番強いウマ娘だって思ってた。ちょっと憧れっていうフィルターが掛かっていたのもあるけど、何よりカイチョーはそれを裏付けるだけの強さがあったから。でも。

 

 

『やっぱりカイチョーは凄いな~。きっと敵なんていないんじゃない?』

 

 

『ありがとうテイオー。でも、恥ずかしながら私でも勝てるかどうか分からないウマ娘がいるんだ』

 

 

 その言葉を聞いた時は本当にビックリした。カイチョーがそんなことを言うなんて珍しかったから。だからボクはそんなことはないってカイチョーに言ったんだ。でも、カイチョーは首を横に振った。

 

 

『彼女の強さは異次元だ。私には3つの黒星がある。だが、彼女は17戦走っていまだに黒星を刻んでいない』

 

 

『で、でも戦績だけだったらカイチョーも……』

 

 

『それだけじゃないよテイオー。一度彼女のレースを見てみると良い。彼女の走りは……圧倒的だ』

 

 

 カイチョーが見せたファントムに対する憧れのような目。それが何だか気に食わなくって、ファントムとの初対面では結構刺々しい反応しちゃったんだ。アレは今でも反省すべきことだなって思ってる。

 でも、スピカに入部して、ファントムの走りを見るようになってからカイチョーの言ってることが分かったんだ。ファントムの強さは圧倒的だって、カイチョーが勝てるかどうか分からないって言ってた意味が、よく分かった。

 特にスズカとの対決になった秋の天皇賞は凄かった。あんなハイペースで逃げてたのにそのまま逃げ切って勝っちゃうんだから、ファントムのポテンシャルの高さが伺える。……でも、ちょっとあのレース疑問があるんだよね。

 最後の直線。2番手以下を突き放すぐらいに凄いスピードでファントムは走ってたんだけど……丁度2番手のエルコンドルパサーが上がって来た辺りだったかな?失速したように感じたんだ。ボクの気のせいかもしれないけど……結局差は縮まってたわけだし、気のせいなんかじゃないと思う。

 ……まぁスタミナ切れだよね!あんなハイペースで逃げてたんだから、スタミナが切れてもしょうがないと思う!

 ちょっと話が逸れたね。スピカに入部してそんなに経ってない頃、ファントムの走りを見てボクは早速行動に移したんだ。何をやったかって?そりゃあ勿論……。

 

 

『勝負だー!ファントム!』

 

 

『……はい?』

 

 

 ファントムに勝負を挑んだんだ!勝負の内容は勿論併走!でも、ファントムは最初の方は全然受けてくれなかったんだよね。

 

 

『……私とテイオーが走るのはまだ早いよ。だからまた今度ね』

 

 

『今度っていつさ!?何日何時間何分何秒!?』

 

 

『……少なくとも今じゃないよ。もっと強くなってからね』

 

 

 そうやって軽くあしらわれてたんだけど……何度も何度もお願いしているうちに根負けしてくれたのかボクは挑み続けるようになったんだ。結果?……言わせないでよ!ゴルシの言うように100連敗!100回挑んで100回全部負けてるよ!なんか文句ある!?

 でもボクは絶対に諦めない!挑み続ければいつかは勝てる、そう思ってファントムに挑み続けてるんだ!ボクが一番強いウマ娘だって証明するために、皇帝も亡霊も越えた、帝王になる!それがボクの最終的な目標!

 あ、でも普段はファントムとは仲良くしてるよ。ファントムはレースではおっかないけど、普段は優しいし。ボクもフォームの修正だったりトレーニングを手伝ってもらったりいろいろしてもらってるんだ。後は良くデザートとかお菓子とかもらったりしてる!まぁ貰うたびにマックイーンから恨めしい視線を送られるんだけど……なんでだろ?よく分かんないや。

 もうすぐクラシックの2冠目、ダービーの季節がやってくる。ボクは気合を入れて練習してるよ!

 

 

「気合入れろテイオー!ダービーのラストはこんなもんじゃねぇぞー!」

 

 

「ッフ!」

 

 

「あなたには負けませんわよ!テイオー!」

 

 

「なにをー!ボクだって負けるもんか!」

 

 

「子供ねぇ2人とも」

 

 

「……良いんじゃない?切磋琢磨しあえるライバルって感じで」

 

 

 負けられない相手は沢山いる。今ボクと競っているマックイーンだってその1人だ。マックイーンはボクより先にデビューしたけど……負けるつもりはない。一緒に走ったらボクが勝つ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから月日は経って。ダービーを明日に控えた今日。ボクは神社に来ていた。ネイチャと同じチームの……ツインジェット?に宣戦布告されたり、ファンの人達からの応援の声を直に聴いたり。後はオープンキャンパスでボクに憧れてるって言ってくれたキタちゃん!色んなことがあったなぁ。

 

 

『わ、私!トウカイテイオーさんの大大大ファンなんです!』

 

 

『え?そうなの?』

 

 

『はい!この前の皐月賞……!本当に凄かったです!今度の日本ダービーも、絶対に勝ってください!』

 

 

 応援の言葉は純粋に嬉しい。それに、キタちゃんは何というか……他人の気がしなかったんだ。

 

 

『私!テイオーさんみたいな強くてカッコいいウマ娘になります!』

 

 

 キタちゃんの姿は、カイチョーに憧れていた時のボクそのものだった。そんな子が応援してくれるんだ。日本ダービー、絶対に勝たなきゃね!

 さ~て、お参りお参り~っと。……あれ?

 

 

「マックイーン?」

 

 

「あら、テイオー。奇遇ですわね」

 

 

 神社に行くと、マックイーンが1人でいたんだ。息が上がってる……さては自主トレしてたな?

 

 

「偶然だね。マックイーンは自主トレ?」

 

 

「えぇ。宝塚記念がありますから。テイオーは……いよいよダービーですわね」

 

 

「……そうだね。いよいよ明日はダービーだ」

 

 

「緊張していますか?」

 

 

「少し、ね。でも、ボクは負けないよ。小さい頃からの憧れだったし……マックイーンは、ボクのライバルであるキミは天皇賞を勝ったんだ。だったら、ボクが負けるわけにはいかない」

 

 

「ライバル……ですか。そうですわね。しっかり勝ってくださいまし。わたくしのライバルとして、情けないレースを見せるのは許しませんわよ?」

 

 

「む!何その上から目線!そんな調子だと足元掬われちゃうよ~?」

 

 

 ボク達は笑いあう。その後は普通に帰って、明日のレースに備えて蹄鉄のメンテナンスをして……。いよいよ、ダービー当日を迎えた。

 ボクの枠番は8枠。この8枠はダービーにおいて不利と言われている枠番だ。東京レース場の外枠は基本的に不利だからね。ボクは運に恵まれていない……なんて、みんな思ってるかもしれない。でも、関係ないもんね!

 

 

(ボクは運を自分の実力で引き寄せる。勝つのはボクだ!)

 

 

 そう気合を入れる。

 対戦相手の情報はちゃんと頭に叩き込んである。このメンバーなら……ボクは負けない。

 ゲートに入る。

 

 

 

 

《さぁ最後のトウカイテイオーが悠然とした様子でゲートに入りました。今回の日本ダービー1番人気のウマ娘。非常に落ち着いております。無敗で皐月賞を制したトウカイテイオー、シンボリルドルフに並ぶ無敗の3冠ウマ娘のためにもこの日本ダービーは負けられません。大きな歓声、大きな期待に包まれて。日本ダービーが今……スタートです!》

 

 

 

 

 ゲートが開いた。ボクは走り出す。

 

 

(っよし!好調なスタート!)

 

 

 見ててねマックイーン、カイチョー、ファントム!ボクはこのレースで勝って……無敗の3冠ウマ娘になってみせる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レースも終盤。後は最後の直線を走るだけだ。ボクは現在5番手。前には……誰もいない!ここで切ろう、ボクの……領域(ゾーン)を!

 

 

「トウカイテイオー……行っちゃうよー!」

 

 

 空の上、雲の上を軽やかに駆け抜けるイメージ。スキップするように、ステップを踏むようにボクは駆け抜ける!身体の軽さ、身体の奥から無限に湧き上がってくる力……!感じる、分かる!今のボクは無敵だ!誰にだって負けやしない!

 

 

 

 

《大外からトウカイテイオー!トウカイテイオーだ!トウカイテイオーが上がってきた!残り100mであっという間に先頭に躍り出た!これは凄い!軽やかな走り!その差を3バ身、4バ身と開いていく!他のウマ娘も上がってきているがトウカイテイオーがそれ以上の速さで駆け抜ける!これは決まった文句なし!》

 

 

 

 

 

 

(マックイーン、カイチョー、ファントム!ボクはキミ達にだって負けない!そして、証明してみせるよ!最強は……トウカイテイオーだって!)

 

 

 そしてボクは……1着でゴールした!これで2冠目!ふっふ~ん。ま、これぐらいよゆーよゆー!

 

 

 

 

《そして今トウカイテイオーがゴールイン!これでシンボリルドルフ以来となる無敗の2冠を達成!しかし圧倒的な強さ!まさに横綱相撲!最終的に2着に8バ身差をつけましたトウカイテイオー!3冠目となる菊花賞に、大きな期待がかけられます!シンボリルドルフ以来となる無敗の3冠ウマ娘が誕生するのか!?舞台は秋へと引き継がれていきます!》

 

 

 

 

 ウイニングランをしていると、会場からコールが湧き上がっていた。やっぱり嬉しいし気分が良いね!ふっふ~ん、もっと褒め称えるといいぞよ~!

 

 

「「「テイオー!テイオー!テイオー!」」」

 

 

「みんなありがと~!ボク、次も勝っちゃうもんねー!」

 

 

 指を2本掲げる。カイチョーが日本ダービーで取っていたパフォーマンス。ボクもそれを真似ることにした。

 

 

「テイオーは皇帝を越えたかもしれない……」

 

 

「天才はいるなぁ……悔しいけど」

 

 

 本当に順調だ。凄く順調に進んでいってる!

 

 

(これなら菊花賞だって……!)

 

 

 その刹那、左足に違和感を感じた。ちょっとした、些細な違和感。う~ん……脚でも挫いちゃったかな?

 ……ま、問題ないでしょ!多分領域(ゾーン)を使った時の疲労が出てきたんだと思う!ライブする分には問題ないでしょ!

 

 

「これからも応援よろしくね~!」

 

 

 このまま菊花賞を勝って、カイチョーと同じ無敗の3冠ウマ娘になって。それからそれからマックイーンやファントムにだって勝って。ボクが最強なんだって証明する。ボクの未来は明るい。そう、本当に順調に進むと思っていたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「骨折です。復帰は……来年の春になるでしょう」

 

 

「……え?」

 

 

 この時までは。




シンデレラグレイの最新刊がもうすぐ発売ですね。

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