さてさて。菊花賞への復帰に向けてテイオーは日々頑張っております。
ある時は図書室で作戦のお勉強。
「むむむ~……ッ!あ、分かった!」
「すいません、図書室ではお静かにお願いしますね?」
「あ、ご、ごめん」
またある時は復帰後のイメージトレーニング。
「……仕掛けるならここかな?いや、それだとマックイーンには追いつけない。もう少し前で仕掛ける?でも、今度はスタミナが持たないか。なら復帰後はスタミナ強化に取り組もう。菊花賞は3000mだし、スタミナ強化は課題でもあったし」
「今日も精が出ますわねテイオー」
「マックイーン。まぁね、早くこのギプスとサポーターを取って、一日でも早く走りたいからね。そのためには頑張らないと!」
「頑張ってくださいましテイオー。わたくしも、できる限りの助力をいたしますわ」
「ありがとうマックイーン。……でも、正直主治医の人はもういいかな……」
「あら?どうしてですの?メジロ家お抱えの名医ですのよ」
「だってあの人わけわかんないんだもん!急にお注射取り出してくるし!」
そんなことがあったんですね。週末マックイーンに連れられてどこかに行ってると思いましたが。
まぁ大体こんな感じで。テイオーは日々頑張っておりますっと。
そして私の練習は休みの放課後。本来ならば自主トレでもしようかと思っていたところですがルドルフに誘われて私は生徒会室に来ております。
「忙しいところすまないねファントム。適当にかけておいてくれ」
「……別にいいよ。練習休みで暇だったからね。自主トレでもしようかと思っていたところ」
「練習が休みでも自主トレとは……まさしく点滴穿石。日々の小さな努力が君の実力に結びついているのだろう」
そんなわけで私は生徒会室のソファに楽に座ります。はてさて。ルドルフはどんな用事で私を呼んだのでしょうか?
……ジッと待ってますけどなんも言いませんね。というか。
「……」
さっきからソワソワと落ち着かない様子で私を見ています。なんですか?もしかして寝ぐせでもついてます?私。
”フード被ってんのに寝ぐせなんて分かるわけねぇだろ”
「……ごもっとも」
ま、ジョークですよジョーク。小粋なジョークってやつです。
そんなルドルフですが、ようやく口を開きました。意を決したように私に話しかけてきます。
「ファントム。君に聞きたいことがあるんだ」
「……私に?いいよ。答えられる範囲で答える」
「その……だな……」
何ですかさっきからもじもじして。そんなに恥ずかしいことでも聞く気です?いやん。
「テイオーは、その、最近どうだ?」
……なんか恥ずかしそうにしてると思えばテイオーのことですか。
「……どう、とは?」
「あ、あぁ。リハビリは順調にいっているだろうか……とか。元気にやっているだろうか……とか。まぁ色々だね」
「……まぁリハビリに関しては順調だよ。マックイーンの伝手でメジロ家お抱えの主治医とか紹介してもらってるし。体調もすこぶる元気だよ。毎日のように早く治って私と併走したいーって言ってるぐらいだから」
”ホントに怪我してんのか怪しくなるぐらいの喧しさだなあのクソガキは”
それがテイオーの良いところですよ。そして私の話を聞いたルドルフは嬉しそうに耳をぴょこぴょこさせています。
「そ、そうか!それは良かった!うん、本当に良かった……!」
別に自分で聞きに行ったり見に行ったりすりゃいいと思いますけどね。
「……なんで私に聞くの?自分で聞きに行けばいいんじゃない?」
私がそう聞くと、ルドルフは我に返ったのか1つ咳払いをして私の疑問に答えました。あ、ちょっと顔が赤くなってますね。恥ずかしかったんでしょう。
「それはダメだファントム。テイオーが私のことを尊敬しているのは知っているだろう?」
「……そうだね。テイオーはルドルフのことを凄く尊敬しているね」
「私が尋ねにいけば、テイオーは調子が良いと答えるだろう。例え調子が良くなかったとしても……だ」
「……あ~」
まぁ、そうかもしれませんね。テイオーならそうするかもしれません。
「そういうことだ。だからこそ、私が自分で聞きにいくのではなく、同じチームの先輩である君に聞こうと思ったわけだよ。君ならば、テイオーの様子もよく分かると思ってね」
「……さっきも言ったように元気そうにやってるよ」
「そうかそうか。それは良かった」
言いながらルドルフはお茶菓子を取り出して……いや、お高そうなもん出してきましたね。さっきから滅茶苦茶機嫌良さそうにしてますし。テイオーが元気そうだという言葉がそんなに嬉しかったんですかね?
そのままお茶菓子を取り出して。ルドルフは私の向かいのソファに座ります。
「……テイオーがルドルフのことを尊敬しているのもそうだけどさ」
「うん?」
紅茶に口をつけているルドルフに私は尋ねます。
「……ルドルフも大概テイオーのこと気に入ってるよね」
「ッ!?ゴホッ!ゴホッ!」
「……大丈夫?」
なんかむせてますけど。そんなに変なこと言いましたか?私。
「……失敬。虚を突かれてしまったよ。どうしてそう思うんだい?」
いや、どうしても何も。今の動揺を見たら一目瞭然でしょうよ。
「……私にテイオーの様子を尋ねてくるのもそうだし。テイオーの調子が良いと分かるやいなや凄く機嫌良さそうだし」
「驚天動地。自分ではそういうつもりはなかったんだが……」
嘘でしょ。
「……まぁいいんじゃない?それに、こういう一面を出した方がルドルフの受けも良くなると思うよ?」
「……そうだろうか?」
「……会長の意外な一面を見れて、親しみやすさ上がると思うよ」
私がそう言うと、ルドルフは真面目に検討しだしました。狙ってやるのはまた違うと思いますけどね。それは心の中に閉まっておきましょう。
はてさて、それからもルドルフとは楽しく話していきます。
「ファントム。最近思うようになってきたのだが、やはりジョークだけでは親しみやすくはならないのだろうか?」
「……どうだろう?なんでそう思ったの?」
「エアグルーヴからも言われたんだ。会長のはジョークだと分かりにくい、と」
「……ルドルフには特別なフィルターでも掛かっているのかな?私はクスってなるけど」
「だが、他の者たちはそうじゃないらしい。難儀なことにね」
それは残念ですね。
「……ルドルフはこんなに茶目っ気があるのに」
私がそう言うと、ルドルフはお茶菓子に手をつけながら言います。
「フフッ。そう茶化すものではないよ」
「……でも、そうなるとどうやって親しみやすさを出すか」
「うぅん……。やはり、布団が吹っ飛んだぐらい分かりやすいジョークを言うべきなのだろうか?」
”何言ってんだコイツは。テメェがそういったところで困惑するだけだぞ三日月娘”
「……でも、結構難しくない?会話の中に小粋なジョークを挟むの」
”そもそもなんでジョークを挟む前提なんだよ。なんでテメェも大真面目に考えてんだ”
「しかし、このお茶菓子は美味だね。すいすいーと食べられるよ」
「……スイート(菓子)だけに?」
「ッ!ふふっ、やはり君は分かってくれるようだファントム」
「……それほどでも」
”相変わらずクソつまんねぇし。もう勝手にしとけ”
そんな雑談を挟みながらルドルフとの一時を過ごしましたとさ。
ルドルフとの会話も済んで、私は生徒会室を後にしました。さーて、自主トレでもしますかね……
「ターボエンジンぜんかぁぁぁぁぁぁぁい!」
「ちょっと!待ちなってターボ!」
「……うん?」
なんか、私の前から走ってくるウマ娘が見えますね。このままだと私にぶつかりますが。
「わぶっ!?」
あ、ぶつかった。私に大したダメージはありませんが、この子は無事でしょうか?
「……大丈夫?」
「ぜ、全然へーき……」
「あぁ!ご、ごめんなさい!ウチのチームの子が迷惑かけちゃって……ッ!ほらターボ!アンタも謝りなって」
ターボと呼ばれた子……青い髪をツインテールにしたオッドアイの子が私に謝ってきました。
「ゴメンなさい!」
あら、良い元気だこと。別に気にしてませんし、早いとこ答えてあげましょうか。
「……別にいいよ。次からは気をつけてね」
「うん!次からは気をつける!」
「アンタはもうちょっと落ち着きなさいなターボ。本当にごめんなさいウチの子が……って、ファントムさん!?」
「ファントム?ということはもしかして……テイオーと同じチームの!」
「あ、あわわわ……!特徴的なお面にパーカーのフードで顔を隠しているスタイル……間違いない、ファントムさんッ!?」
おや。ターボと呼ばれた子の保護者っぽい……鹿毛の子は私の姿を見てビックリしてますね。まぁビックリしない方がおかしいんですけどね。HAHAHA。……目から塩水が。
「ごごごご、ごめんなさいごめんなさい!?本当にごめんなさい!だから命だけはどうかご勘弁を!」
「さすがに傷つくんだけど」
何ならぶつかった痛みよりもクリティカルヒットですよ。私の精神に一撃必殺並みの威力を叩きこまれましたよ。
”で?誰だこの塵共は?”
「……さぁ?会ったことないし」
「うん?誰と話してるんだ?ここにはターボ達以外はいないぞ?」
「……幽霊」
私がそう言うと、ターボは慌てふためきました。顔を青くしてあたふたしています。ちょっと可愛いですね。
「おおおお、お化け!?なんでお化けがここにいるんだ!?」
「……あなたを食べるため」
「やだぁぁぁぁ!ターボ美味しくないもん!」
ちょっと面白いですね。とはいえ、これ以上は会話が進まなくなるので早めに切り上げましょうか。
「……冗談だよ。ただのひとり言。あなた達の名前は?」
私がそう言うと、平静を取り戻したように目の前の2人は自己紹介をしてくれました。
「ターボはツインターボ!スピカのトウカイテイオーとは終生のライバルだ!」
「……へぇ、そうなんだ」
ということはこの子結構すごかったり?……うーん、このあふれ出るアホの子っぷり。ちょっと大物っぽさを感じますね。
「何言ってんのよアンタは。テイオーに名前すら覚えてもらってないくせに。あ、アタシはナイスネイチャでーす。チーム・カノープスに所属してまーす。……あの、本当に魂取られませんよね?」
「……どこからその噂が出たのか知らないけど、私にそんな力はない」
ナイスネイチャ……ネイチャは親しみやすさを感じる挨拶をしてくれました。そして私の魂を取られるという噂が嘘と分かるやいなや即座に謝ってきました。というか、どこからそんな噂出たんですか全く。
「……まぁ次からは気をつけてね。走ったら危ないよ」
「はい!それはもう……この子には良く言って聞かせますんで……」
ネイチャはターボを見ながらそう言います。うーん、保護者みを感じますね。そしてターボはというと……私に指を突きつけながら宣言します。テイオーといい、みんな好きですね指を突きつけるの。
「ターボはファントムにも勝つもんね!首を洗って待っておけ!」
「ちょ!?アンタ何言ってんの!アンタがファントムさんに勝てるわけないでしょ!」
「テイオーにも勝って、ファントムにも勝ーつ!誰が相手でもターボが最後まで逃げ切って勝ってやる!」
……ネイチャはターボを諫めますが。ツインターボは……成程、いい眼をしていますね。私に本気で勝とうとしている目です。嫌いじゃありませんよ。
”ハン。勇気と無謀の区別がついてねぇ大バカか……それとも本気で言ってやがるのか……どっちにしろ面白そうだなコイツは”
もう一人の私もターボのことを面白いと評しています。今度、レースを観に行ってみるのも良いかもしれませんね。
「……そう、楽しみにしてるよ」
私はそう言って立ち去ります。さてさて、ターボはどんな走りをするのか楽しみですね。場合によっては……アリかもしれません。
ルドルフとの雑談と新たな出会いを経て。私は上機嫌で自主トレをしました。
来週はシンデレラグレイとブルーロックの最新刊が発売するのでテンション上がってます。