そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

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今日も今日とて調査の日々は続く。


探求者と亡霊少女の手がかり

 

 

「……これで私の知ってることは全部なんだけど……良かったかな?」

 

 

「……ありがとうございます。お忙しい中、ご協力ありがとうございました」

 

 

「気にしないで!正直何が目的かは分からないけど……私もみんなに聞いてみるよ!」

 

 

 じゃあね、と言って、先程まで私達と会話をしていた生徒は、帰っていきます。その姿が見えなくなった後、タキオンさんは大きな溜息を、吐きます。……本人を前に溜息を吐かなかっただけ、マシかもしれません。

 

 

「また空振りか……。結局、最近は進展がないねぇ」

 

 

「も、申し訳ありません。デジたんも頑張ってはいるのですが……」

 

 

「気にしないで、ください、デジタルさん。最初の方は、いつもこんな感じだったので」

 

 

 ファントムさんの調査、あの孤児院の一件以来、頑張ってはいるのですが。あまり芳しくはありません。まぁその分、孤児院での情報は大変貴重なものだったから、その反動が来たのだと、私は考えています。もっとも、どんな些細な情報でも欲しい、というのは、変わっていませんが。

 孤児院で得た情報。ファントムさんは、孤児院時代はお面をつけていなかったということ、お面をつけ始めたのは孤児院を出た後だということ、孤児院ではいじめられていたということ、そして……ファントムさんは、小さい頃は亡霊のことをエっちゃんと呼んでいたこと。それはつまり、昔のファントムさんは亡霊は自分とは違う存在だと、明確に認識していたということが分かりました。……余談ですが、孤児院で貰ったファントムさんの小さい頃の写真は、今もデジタルさんが保管しているそうです。まぁ、悪用しそうになったら、懲らしめればいいでしょう。

 

 

「しかしあれだね。孤児院で得た情報が大きすぎて最近の情報は小物感が凄いねぇ。ここらでまた、どでかい情報が欲しいところなんだが……」

 

 

「……慌てたところで、どうにもならないでしょう。地道に一歩ずつ、です」

 

 

「ハァ……。また前みたいに逆戻りだねぇ。懐かしい感じがするから嫌ではないが」

 

 

 それから、私達は別れます。それにしても、大きい情報ですか。

 

 

”なんかないかなー?こう、ファントムの小さい頃は実はこうだった!みたいな情報がさ”

 

 

「……そう、上手くはいかないと思う」

 

 

”だね。あーあ、あの野郎の鼻を明かすことができる情報とかでないかなー”

 

 

 お友だちは、相変わらず亡霊のことを嫌っていますね。今度、理由を聞いてみましょうか。そう思いながら、私は帰路につきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あー……不味いですねぇ。デジたんとしても、凄く、凄く不味いですよぉ。

 

 

(タキオンさん達に任せてほしいと宣言しておきながらこの体たらく……ッ!いやまあ、仕方ないっちゃ仕方ないんですけどね)

 

 

 なんてったって、相手はあのファントムさんですからねぇ。インタビューも受けない、取材やテレビも学園側が拒否、ファントムさんを密かに追っていたパパラッチは謎の失踪を遂げた後更生する……最後に関してはただの噂ですけど、情報に関してそれぐらい強固なプロテクトを張っているウマ娘ちゃんですからねぇ。あたしも集めるのに苦労してますよ。

 はーあ。タキオンさん達にああいった手前、何かいい情報があると良いんですけどぉ……。

 

 

「そんな美味しい話、あるわけないよねぇ……っ?」

 

 

 ふと学園の廊下を歩いていると、ウマ娘ちゃん達の話し声が耳に入ってきました。

 

 

「……でさー、結局どうなん?」

 

 

「なにがよ?」

 

 

「いやいや、ファントムさんの話」

 

 

 ふむ、ファントムさんの話ですか。ちょいと聞き耳でも立ててみますか。なんか情報あるかも……

 

 

「あー、あの話?それだったらウチの勘違いだったって言ったじゃん?」

 

 

「でもさー?やっぱり気になんね?ファントムさん髪染めた疑惑!」

 

 

「小っちゃい頃ってファントムさんの髪色違ったんでしょ?アンタ、小さい頃のファントムさんに会ったことあるって言ってたっしょ?だから知ってんじゃね?」

 

 

「だから、やっぱ人違いだったって。今と昔じゃ性格が全然違うんだもん」

 

 

 ……ななな、なんですとぉ!?

 

 

「そそそ、その話!詳しくお聞きしても!?」

 

 

「うわぁ!?で、デジタルさん!?」

 

 

 し、しまった!気づいたら情報に飛びついてしまいました!?いえ、それよりも!この機を逃すわけにはいきません!

 

 

「ファントムさんの小さい頃のお話……!詳しく聞かせてください!」

 

 

「う、うん……まぁ、良いけど……」

 

 

 そうして約束を取りつけて、明日を待つことにしました。これはもしかして……もしかするかもしれません!

 寮に帰って寝る時も、あたしは笑い声が抑えきれませんでした。

 

 

「うひひ……」

 

 

「デジタル君?ウマ娘としてあるまじき笑い声をあげているが大丈夫かい?」

 

 

 ……タキオンさんにやんわりと窘められましたが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……なぜだか、やたらとテンションの高いデジタルさんに呼ばれて、私とタキオンさんは旧理科準備室で待機しています。デジタルさん曰く、進展があるような情報が得られるかもしれない、とのこと。

 

 

”昨日の今日で何があったんだろうね?カフェ”

 

 

「分かりません。ですが、それだけ重要な情報なんじゃないかって思う」

 

 

「さてさて、一体どんな情報が飛び出るのやら。今から楽しみだねぇ」

 

 

 あのデジタルさんが慌てる……いや、割と慌ててますね、デジタルさん。まぁいいです。

 そうして待つこと少し。デジタルさんが、今回情報を提供してくれる方を、案内してきてくれました。

 

 

「うわぁ……初めて来たけど部屋の中暗いね。って、アグネスタキオンさんとマンハッタンカフェさん?」

 

 

「やぁやぁ待っていたよ!さてさて、君は一体我々にどんな情報をもたらしてくれるのかな?」

 

 

 扉を開けて部屋に入ってきた葦毛の方に、タキオンさんがテンション高く迎え入れます。しかも、かなり詰め寄っています。葦毛の方は、ビックリしていますね。……ハァ。

 

 

「な、何々!?もしかして変な情報だったら……ウチ実験台にされる!?」

 

 

「……驚かせて、すいません。そんなことはしませんし、させませんのでご安心を」

 

 

 私は、タキオンさんの首根っこを捕まえて引きはがします。抗議するような声が聞こえますが、知りません。悪いのは、タキオンさんですから。

 葦毛の方の後ろから、デジタルさんが姿を現しました。

 

 

「この方が!なんと小さい頃のファントムさんに会ったことがあるのだとか!」

 

 

「……小さい頃の、ファントムさんに?」

 

 

 少し疑問に思っていると、謙遜するように葦毛の方は言いました。

 

 

「いやいやいや!だからそれは人違いなんだって!全然見た目と性格が違うし!」

 

 

「それでも構わない。君の持っている情報を教えてもらえないだろうか?」

 

 

 タキオンさんが、先程とは違い、真面目な表情でお願いしていました。真っ直ぐと葦毛の方を見据えます。

 

 

「う、う~ん……まぁ、良いけど……。ガッカリしないでね?」

 

 

 真剣さが、伝わったのでしょう。葦毛の方は、ファントムさんのことについて、話始めました。

 

 

「まずそうだね……今のファントムさんの髪色ってさ、赤黒い色してんじゃん?」

 

 

「そうですね。尻尾の色と、天皇賞でフードを脱いだ姿が確認できたので、間違いありません」

 

 

「そそ。ウチもそれは知ってるんだけど……だから人違いだって思うっていうか……。ウチの知ってるファントムさんってさ、青白い髪してんのよ」

 

 

 ッ!青白い髪……ッ!もしかすると!

 

 

「その話、もう少し詳しく聞いてもいいかい?」

 

 

「へ?で、でも人違いかもしれない……いや、元からそういう話だったね。まぁいいよ」

 

 

 それから、葦毛の方は古い記憶を思い出すように、考え込んでいました。

 

 

「え~っと……ウチの知ってるファントムさん……いや、かなり小っちゃい時だからファントムちゃんか。ファントムちゃんって青白い髪をしてんの。今とは真逆。性格も全然違くてさ、もうめっちゃ明るい子だった!それに好奇心旺盛っていうの?知らない子でも物怖じせずに話しかけに行くんだよね」

 

 

 この辺は、孤児院で聞いたお話の通りですね。昔は、自分から話しかけに行くタイプだったと。違うのは、髪色ぐらいでしょうか。

 

 

「だからさ、ウチ学園で初めて見かけた時すっげぇビックリしたの!尻尾の色違うし、何よりあんなに明るかったのに……いや、今も明るさは大して変わらないかな?まぁその辺よく分かんねぇけどフードとお面で顔を隠すようになってさ。でも、それ以上に驚いたのが……」

 

 

 葦毛の方は、先程とは違い、途端に言いにくそうにしていました。どうしたのでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの子、行方不明で死亡扱いになってたからさ。もう本当にビックリした。幽霊になって化けて出てきたのかと思ったんだもん」

 

 

「「「ッ!?」」」

 

 

”いやいやいや!そんなことある!?確かに小さい頃はこうだったーみたいな情報は欲しいとは言ったけどさ……ッ!”

 

 

 行方不明で、死亡扱い?ファントムさんが?……ちょっと、どういうことか、分かりません。頭が、こんがらがってきました。

 

 

「それで話しかけに行ったんだけど……性格もまるっきり変わってて。急に誰もいないとこで会話し始めるし、他の子に自分から関りにいかなくなっちゃったからさ。それにウチのことも覚えてなかったし。それで確信したんだよね、ウチ」

 

 

「……何を、だい?」

 

 

 葦毛の方は、あっけらかんとした様子で答えます。

 

 

「ウチの知ってるファントムちゃんと、学園に通ってるファントムさんが別人ってこと。だって全然違うんだもん。同名の別人なんじゃないかってウチは思ってるよ」

 

 

 ……確かに、そうでしょう。そもそも、行方不明の人物がトレセン学園に編入しに来るだけでも、別人を疑うのに、性格がまるっきり違うのですから、当然かもしれません。

 タキオンさんは、思案しているように顎に手をやっています。やがて、葦毛の方に質問を始めました。

 

 

「……まず、聞かせてほしい。君の知るファントムちゃん……のことだ」

 

 

「ファントムちゃん?いいけどなんで?ファントムさんには関係ないと思うけど」

 

 

「一応さ」

 

 

「ふーん。まぁいいけど……何が聞きたいの?」

 

 

「彼女の親についてだ。例えば……そうだな、虐待とかするような人物だったかい?」

 

 

 タキオンさんがそう尋ねると、葦毛の方は肩を震わせて笑い始めました。それほど、意外な質問だったのかもしれません。

 

 

「アッハハハハ!ないない、それは絶対にないよ!まぁ知らないだろうから無理はないと思うけど……ッ!プックク……ッ!」

 

 

「そ、そんなに変な質問だったんですか?デジたん達は何分何も知らないものでして……」

 

 

「分かってるよ。知らないのに何で虐待とかそういうのが出てくるのかは敢えて聞かないけど……ファントムちゃんのご両親は虐待するような人達じゃないよ。それは間違いないね」

 

 

 そういって、ファントムちゃんのご両親について語り始めます。

 

 

「ファントムちゃんのご両親って凄く良い人達でさ。それにファントムちゃんをすっっっごく溺愛してたの!夫婦仲も滅茶苦茶良くてさ~、見てるこっちが恥ずかしくなるくらい!」

 

 

「そ、そうだったんですね」

 

 

「それに、周りの人達との交流を大切にするご両親だったね。ファントムちゃんにもいつものように言ってたよ。人には優しくしなさい、って。だからボランティアとかにも積極的に参加してたし、困ってる人は見過ごせない!ってご両親だったね~……」

 

 

 そういうと、葦毛の方は伏し目がちになって続けます。

 

 

「……だから、さ。そんな人達だったからみんな凄く頼りにしてたの。ウチの両親もそう。でも、もう何年も前に亡くなっちゃったんだ」

 

 

”……そっか。それは、酷なこと聞いちゃったね”

 

 

「……そう、ですね」

 

 

「……それは酷なことを聞いてしまったね。申し訳ない」

 

 

 タキオンさんと一緒に、私とデジタルさんも頭を下げて謝ります。すると、葦毛の方は慌てたように手を左右に振っていました。

 

 

「いやいやいや!気にしないで!もう昔のことだからさ、ちょっとは踏ん切りついてるつもり」

 

 

 ま、こうやってたまに引きずったりするんだけどね……、と続けました。申し訳なく、思います。

 

 

「丁度ファントムちゃんのご両親が亡くなった時だったかな?そんな時に自分はファントムだーなんていう子が現れたんだよ」

 

 

「ッ!そ、それで……!どうしたんですか!?」

 

 

”落ち着いてカフェ。相手の方ビックリしてるよ”

 

 

 思わず身を乗り出して聞きます。葦毛の方は、ちょっとびっくりしていました。私は我に返って、咳払いをして恥ずかしさを誤魔化します。

 

 

「でも、ウチらの知ってるファントムちゃんとは全然違う容姿だったからさ。ウチの両親悪戯だと思ったみたいで。怒鳴りつけちゃったんだよね。その子が帰った後我に返って後悔してたけど」

 

 

「う~ん……最後に1つ良いかな?そのファントムちゃんのご両親がどこで亡くなったかを聞いても?」

 

 

 タキオンさんがそう質問すると、葦毛の方は困ったような笑みを浮かべました。

 

 

「ご、ゴメン。ウチとしてもあんまり思い出したくなくてさ……あんまり覚えてないんだよね」

 

 

「……いえ、無理を言っているのは、こちらですから。言いにくいことを聞いて、申し訳ありません」

 

 

「いいよいいよ!気にしないで!思い出したらまた報せるよ!」

 

 

 それだけ聞いて、葦毛の方は旧理科準備室を後にしました。それにしても、今日は多くの情報を得られましたね。

 

 

「早速だが……どう思う?カフェ」

 

 

「……私の、推察になりますが」

 

 

 私は、自分の考えを述べます。

 

 

「おそらく、ファントムちゃんとファントムさんは、同一人物の可能性が高いかと。私が天皇賞で見た青白い髪のファントムさん……アレが、ファントムちゃんである可能性が非常に高いです」

 

 

「だろうね。ただ、それを裏付ける証拠がもう少し欲しいところだ。果たしてファントムちゃんになにがあったのか……そして、ファントムちゃんは本当にファントム君と同一人物なのか。これを調べる必要があるだろう」

 

 

”後はあの野郎の正体ね”

 

 

「……そうだね。亡霊の正体についても、調べる必要が、あるかと」

 

 

「そうだねぇ。果たして彼女達はどんな関りがあるのか……非常に興味深い」

 

 

 こうして、新たな情報を得て、今日の定例会議は終了になりました。この情報をもたらしてくれた、デジタルさんのことですが。

 

 

「いやぁ助かったよデジタル君。君が協力してくれて本当に良かった!」

 

 

 そう言って、タキオンさんが、手を握り。

 

 

「……ありがとうございます、デジタルさん」

 

 

 私も、手を握りました。感謝の意を込めて。すると、デジタルさんは。

 

 

「うひょあああぁぁぁぁぁ!!こ、ここが……天国(ヘヴン)!?」

 

 

 そう言って、奇声を上げながら倒れました。……これさえなければ、良いんですけどね。まぁ、これも、デジタルさんの個性かもしれません。




重要な情報をことごとくぶち抜いていくデジたん。幸運の値がとんでもないことになってますね。

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