十六夜神器伝   作:渋川ジュン

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第13話 登校

放課後の購買前。マンモス校にもかかわらず、昼時とは違い人は異様に少ない。

 

藤浪礼香はホッと息をついていた。藍色の髪と左目のホクロが特徴的な高校一年生。お嬢様として有名で、その美貌と頭脳はまさしく才色兼備と言うに相応しい。

……信じられない。あの鈴木千早が、火・水と二日連続で休むなんて。

 

「チョココロネをひとつ」

 

「ごめんねぇ。もうこの時間だから、メロンパンしか残ってないのよねぇ」

 

「…………じゃあ、メロンパンをひとつ」

 

保存料たっぷりの庶民料理を口にせざるを得なくなり、藤浪は少々不機嫌にそう言った。

 

他にも不機嫌な理由がある。彼女は生徒会で千早の分の仕事を手伝わなくいけなくなり、「じゃあ仲のいい藤浪さん、宜しくね」といった感じで先輩に仕事を任されてしまったのだ。

 

生徒会といえば案外雑務が多く、藤浪としては非効率的かつ面白くもない他人の仕事をやらされるのは面倒なものがあった。

 

「もしもし」

 

『もしもし──礼香様ですか。また例の男の子の件で何かあったのですか』

 

藤浪は生徒会室へ向かう途中、おもむろに電話をかけた。通話口からは秘書らしき女性の声がしている。

 

「千早くん、また今日も学校休んでるのよね〜、しかも中々密室で二人きりになれないし」

 

『随分人聞きの悪い……」

 

電話の向こう側の秘書は若干引いている。通りすがりの生徒も藤浪の方を二度見した。

 

『あの、どうして彼をそんなに狙ってるんですか?』

 

「ええとね、まず全ての魔術師は魔力を持ってるよね。その魔力が多い方が一般的に強いと言われるわけだけど……」

 

喋っているうちに、藤浪は生徒会室に到着した。幸運にも、中には誰もいない。

 

席に着くと、スマホをスピーカーに設定して、藤浪はメロンパンの袋を開けた。

 

「普通は、相手よりも魔力量で上回ってる方が圧倒的に有利なわけ。だけど、千早くんは相手の魔力を奪える。でも狙ってやってる感じはしない。これは私が身をもって体感した」

 

藤浪はくんくんとメロンパンの匂いを嗅いで、続ける。

 

「もし、相手の力を奪って、それをそのまま自分の肥やしにできる人がいたとしたら……それほど脅威なことは無いでしょ? それが出来るのが、千早くんってこと」

 

『なるほど……さすがに魔力の説明は言われなくても多少はわかってましたけどね』

 

「失礼。私の情報整理に喋らせてもらったわ。ま、彼のポテンシャルは相当凄いものがあるからね。なぜ彼に興味を示してるかって言うと、私はいつか彼の魔術師としての力量を測りたくてね。──あとは、単純に彼に興味があるってことかな」

 

藤浪は喋りたいことは一通り喋り終えた、と言わんばかりにメロンパンへとかぶりついた。

 

そして、顔を歪めた。

 

「これ、メロンっていうか……砂糖じゃん……」

 

『こちらから赤坂料理亭のシェフ監修の高級メロンパンをお持ち致しましょうか?』

 

「絶対やめて……てか赤坂って東京じゃない。ここに来るまでに腐るわ」

 

藤浪は呆れ顔で言った。秘書らしき人物はいつの間にか通話を切っていた。まさか本当に赤坂からメロンパンが学校に届くのでは──藤浪は戦慄していた。

 

ーーー

 

「じゃあ、冬町。そろそろ行くから……」

 

曇り空が無意識にテンションを下げてくるような、そんな木曜日の朝。

 

千早は玄関で、冬町に後ろから抱きつかれていた。

 

「行くな……行くな……」

 

「なんでだよ!! みんなにそろそろ行かないと怪しまれるんだよ!」

 

そう言い訳してもなお、冬町は千早の体を掴んで離さなかった。冬町も冬町で力が強いので、千早は全く引き剥がせそうにもない。

 

「だって……この状態で学校に行くのは危険だろう。もし、ほかの魔術師から命を狙われればどうする。刀も持っては行けぬだろうし。あとは……家で一人になるのは、私が寂しいからだ!」

 

「絶対理由のメインは後者だろ! ……大丈夫だ。この町にはほとんど魔術師はいない。万一襲われたりでもしたら、お前に念話するよ」

 

念話。魔力を言葉に変換し、近しい人に伝達することである。本来は血縁が近いかつ距離も近ければならないという制限があるのだが、千早は冬町の魔力を多く持っているため、例外的に念話が出来るようになっていた。

 

「ぐぬぬ……私が朝早く起きていれば、千早が念話という選択肢を頭から消していたか。我ながら浅慮だった」

 

「お前そういうこと言っといて、どうせ明日も遅くまで寝てるだろ……」

 

じゃあな、と言って千早は戸を閉めた。

 

冬町は止めようとしたが、千早に一歩先を行かれてしまった。

 

「ふぅ、危ない危ない。あいつの存在がバレれば、大変なことになるからな……」

 

千早は額の汗を拭いて、そんなことを言った。遅刻寸前だ。少し小走りで向かわねば。

 

「冬町のやつ、ギリギリまで俺を食い止めやがって……ん?」

 

千早がいつもの道を通って向かっていると、道のど真ん中でウロウロしている男性を見つけた。

 

外国人だろうか。髪は金髪で、端正な顔つきをしている。また、少々仰々しい黒い服に身を包んでいる。

 

怖い目をしていたが、千早は勇気を振り絞って話しかけた。

 

「どうしまし……!?」

 

「?」

 

千早はそう言いかけたところで、反射的に後ろに下がった。

 

なんだ……この尋常じゃない魔力量は。

 

「あっ──すまない。少し、道に迷っていてね」

 

「そ、そうですか。ええと、行先はどちらで……」

 

千早は冷や汗をダラダラと流しながら、そう答えた。耐えろ。動揺するな。無意識に危険を感じているような雰囲気で接しないと、自分が魔術師だとバレる。

 

しかし幸いにも魔術師と気づかれてはいないようだ。男は「コンビニに行きたい」と答えた。今の時代Googleマップとかあるだろ……と千早は思いながらも、セブンまでの道のりを説明した。

 

「なるほど……ありがとう」

 

男は頷いた。絶対分かってないだろと千早は思ったが、早急に男がその場を去ろうとしていたので何も言わなかった。

 

「いや、ほんとにやべえ奴がいたもんだ」

 

千早は学校へと向かう途中、まだ寒気がしていた。さっきの金髪の男は何者なのか。正直、魔力量だけで言えば冬町のそれを遥かに上回る。しかも背が高く、目つきも悪い。

 

正直、死ぬかと思った。あのような男がこの街にいるという時点で、既に恐怖だった。

 

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