十六夜神器伝   作:渋川ジュン

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第5話 騙し合い

「随分、現代の魔術師は弱い者ばかりなのだな」

 

秋風が吹き、そこには車の一台も通らない大橋が架かっている。辺りの家は廃屋と化し、一般人など誰もいない。

 

「ここに来るまで、売られた喧嘩は全て買ってきた。本当に手応えが無くて驚いたぞ。よもや貴様らも同じとは言わんよな」

 

「……木を見て森を見た気になるなよ、老害。とうとうボケちまったのか?」

 

その大橋の上で、複数の魔術師が十六夜の英雄と相見えていた。

 

双剣使いの魔術師。黒いバンドで髪をパイナップルのようにしている。左には、チャイナドレスを着た女。気が強そうだ。少し奥へ目を見遣ると、そこには二人の魔術師。赤い外套を羽織った男と、ペンギンが立っていた。背中にマントのようなものを羽織っていて、そこにはZの文字が入れられている。

 

「あれは……鳥?」

 

「そうだペン」

 

「喋っただと!? これは珍妙な生き物だな! 可愛いものは遠ざけておくものだぞ」

 

「犬やネコと一緒にするんじゃねぇ! 立派な戦力だボケが!」

 

やたらとノリのいいツッコミをする双剣の男。このグループのリーダー格である。

 

「ほう……まぁそれはどうでもいいのだが。さては貴様ら、違う勢力同士で手を組んでいるな?」

 

「あぁ、そうだよ。俺と春蘭(こいつ)が純粋な魔術師、後ろにいる奴らが『トラスト』の連中だ」

 

トラスト。魔術警察のことで、国家を転覆しようと企む魔術師を殲滅する組織のことだ。

 

本来敵対関係であるはずなのに、彼らはトラストに背中を任せられるほどの信頼を持っている──実はかなり前から手を組んでいるのかもしれない。

 

「おっと、自己紹介がまだだったな。俺は────」

 

その時。余裕じみた態度で相対する男を前に衝動が抑えられなかったのか、冬町は超人的なスピードで近づき、その刃を振り下ろした。

 

「まぁ……聞けよ」

 

「!」

 

双剣を駆使して、速攻が封じられた。顔も名前もわからないぽっと出の男に。魔力不足か、それとも実力か。

 

冬町は慌てて後ろに下がった。まさか自分の奇襲に対して余裕を持って対処されるとは。思わず舌を巻いた。

 

「俺は十文字悟。ゆくゆくはこの国、この世界を支配する男──ま、お前を召喚した馬鹿と同じさ。天下を取る、そんな夢を見てる」

 

「あの仮面男を知ってるのか?」

 

冬町が聞く。自慢の妖刀を光らせながら。

 

「さぁ? ただ一つわかってんのは、みんなナンバーワンになりてえってことだ。てめぇみてぇな大昔の人間はお呼びじゃねぇってこった……」

 

「……悟!」

 

ビクッ。冬町を前にしても動じることのない、十文字の肩が揺れた。

 

「そろそろ私に喋らせなさいよ。五月蝿いわ」

 

「す、すまん……」

 

恐怖政治。

 

二つお団子ヘアーの女に小突かれ、十文字は項垂れる。

 

冬町は男女の距離感の違い、自分の時代とのギャップに驚いた。

 

「あたしは(リャン)春蘭(しゅんらん)。ホントはあんたみたいな女お呼びじゃないんだけど……まぁいいわ。それでもさっきのポーカーフェイス女よりはマシよ、マシ」

 

「…………」

 

冬町はくだらない話を聞き流しながら、頭の中で作戦を練っていた。元々千早から『衛府は魔境』と聞かされていたゆえの行動だ。特に着いた後のことは何も考えていなかった。

 

この橋を制圧するのは、どうやら一筋縄では行かないらしい。相手は一流(それでも自分の時代の魔術師よりは遥かに劣るが)、それに加えて前衛、後衛と役割がハッキリしている。相当今日に向けて準備してきているようだ。

 

「ホラ、あんたらも名乗っておきな」

 

「…………本名は名乗らん。ウィザードとでも言っておこう」

 

「ペンギンだ、ペン」

 

冬町はよく観察した。おそらく、ウィザードとかいうやつはおそらくは遠距離の魔術を使ってくる奴だろう。ペンギン……だけはよく分からないが。

 

これだけわかりやすく相手の構成が見えれば、勝機はそこら中に転がっているというものだ。

 

「有象無象の名など一々覚えてはいられんが……これでも初めに比べれば随分と減ったものだ。少しは楽しませてくれよう!!」

 

「あぁ!? 仲間も大義もない奴が何を……」

 

冬町は大地を蹴り上げ、前線にいる十文字と春蘭の方へ目掛けて魔力を全身に注ぎ込み、速度を徐々に増していく。

 

「先ずは大陸の女、貴様から演るぞ」

 

冬町はそう高らかに宣言すると、刀を素早く振り下ろす。

 

しかしそれは無情にも、相殺された。

 

「舐められると困るのよね」

 

まさか。脚の硬度を魔力で強化していた──!?

 

「英雄ともあろう女が、攻撃の前に躊躇してんじゃねぇよ!!」

 

「!?」

 

春蘭は激しく太ももを露出させながら、回転蹴りを繰り出した。冬町は予想外の威力とスピードに、思わず防御が出遅れる。

 

「これだから昔の人間は……若者を舐めてるわよね!」

 

チャイナドレスが火を吹く。春蘭が冬町に蹴りを入れたかと思えば、今度は空から降ってきた双剣の男が冬町を真っ二つにせんと襲い掛かってくる。

 

「くっ……!」

 

冬町は休む間もなく攻撃を受けた。時に直接攻撃を受けながら、それでも懸命に耐えた。

 

神器を使うべきか? いや…………

 

冬町は一旦距離を置くことに決めた。攻撃には緩急をつけなければ────

 

「へ?」

 

否、休む暇などない。

 

十文字と春蘭から離れた瞬間、奥から謎の爆炎が冬町へ迫ってきていたのだ。

 

「……ッ!」

 

避ければ一つ、また一つと追いかけてくる。冬町が炎を振り払っているうちに、十文字と春蘭は血気盛んに距離を詰めに行った。

 

「くっ……『中々』な結束力ではないか!」

 

「さっさと認めたらどう? 『私たちは予想以上に強くて、あんたが予想以上に弱かった』って」

 

春蘭は蹴りを連続して放ちながら、不敵な笑みを浮かべていた。

 

「それはどうかな──平安の時代では、『中々』とは中途半端なことを指していたらしい」

 

冬町は攻撃をやめた。目を閉じて、第六感に神経を研ぎ澄ます。十文字と春蘭は一旦離れた。

 

「何言ってんだこいつ?」

 

「……!!」

 

春蘭は目を見張った。

 

十六夜冬町が、二人に分裂したからだ。

 

「まずい、ウィザードとペンギンが……!」

 

春蘭は猛攻を受けながら、後ろの方を見やる。ウィザードとペンギンが佇んでいた後方へ、もう一人の十六夜が襲いかかっていくのが見えた。

 

「どこを見ている?」

 

「!」

 

春蘭はあまりの衝撃に吹き飛ばされた。あとから襲う痛み。恐らく蹴りを入れられた。それもかなり激しく。

 

「オラァァァァ!!」

 

それをカバーするように、十文字が飛び出てきた。

 

「!?」

 

しかしそれらは無に返される。残像が見えるほどの速さだ。到底十文字にそれが見えるはずもなく、気がつけば顎に強い衝撃が走り、そのままの勢いで後ろに飛ばされていた。

 

「幻を使わせてもらった。向こうへ行ったもうひとりの私は、実体を持たんよ」

 

「くっ…………小癪な真似を!」

 

「お前たちは根本的に魔力が足りていないな。────無論、それはこちらも同じだが」

 

冬町は意味深な言葉を残す。地に伏した十文字を一瞥すると、今度は距離を取っているウィザードとペンギンの元へと突っ走った。

 

残るは一人と一羽のみ。中国の武闘家娘と双剣使いの男は魔力切れ。もはや勝ったも同然だ。放置していても問題は無い。

 

そしてこれはあくまで冬町の見立てによるものだが──ウィザードは接近戦に弱い。炎は強力だが少々時間がかかりすぎてしまうきらいがある。さっさと片付けてしまおう。

 

「油断大敵だペンね〜〜」

 

ん?

 

冬町は一瞬、動きを止めた。()()()()()()。そして、何かが迫っているような気がして、後ろを振り向く。

 

刹那。魔力切れでまともに動けないはずの十文字と春蘭が、

 

すぐそこ、目の前にまで迫っていた。

 

「「うりゃぁぁぁぁぁ!!」」

 

「!」

 

冬町は素早く体を捻った。しかし反応が遅れたのか、春蘭のハイキックを交わしきれず、奥の方まで吹っ飛ぶ。

 

「千載一遇のチャンス────」

 

冬町と四人との間には距離ができた。しかし、それは死を意味する。

 

冬町の、死を意味する!

 

「秘技────大団炎!!!!!!」

 

それまで口を閉ざしていたウィザードが、好機と言わんばかりに声を荒らげた。刹那、全てを燃やし尽くすと言わんばかりの炎の塊が、飛ばされている冬町の元へと放たれる!

 

「死ねぇぇぇぇ!!」

 

冬町はまともに食らった。全身を包み込む業火の龍。

 

燃え盛る炎。その中に、かつての英雄はいた。

 

「……ふぅー。ペンギンが居なきゃ危なかったな」

 

「結界を維持しながら魔力も供給してくれたからねぇ。あの英雄が見くびってくれて助かったわ」

 

「あとはあいつが死ねば、ゆっくりとこの街全体を結界でくくれるペンね」

 

四人は額に汗を浮かべながら、笑いあっていた。一方、冬町の炎は橋の上で、留まることを知らない。

 

くっ……!

 

私も、千早と一緒に来ていれば……!!

 

燃え盛る火柱の中で、冬町はそんなことを思う。

 

戦力が足りなかった。そこそこ実力のある魔術師四人を相手に、一人なりに完璧な筋書きを用意したはずが──まさか、珍妙な鳥に嵌められてしまうとは。

 

……私は現代の魔術師を侮り過ぎていた。

 

「魔力の譲渡、か」

 

体の中心にある魔力を特定の部位に移動させるだけでも多量の魔力を要すると言うのに、あの鳥は複数人への供与を実現してみせた。おそらくはなにか制限があるはず。発動に条件があるとか、あるいは──()()()()()()()()とか。

 

「千早……やはり、お前には来てもらいたかった」

 

燃え盛る炎の中で、密かに呟く。

 

もう、あの男のことは忘れると誓ったはずなのに。思い出してしまう。ダメだ。覚悟も力量もない奴が来てどうする。なんの足しにもならない。それならば私一人でいい。

 

「いや、待てよ……?」

 

冬町は目をかっぴらく。

 

あの男に才能がないというのは見てすぐわかった。しかしどうしてだ? 

 

どうして、あやつは私を魔術療法で治せた? 

 

本当の落ちこぼれならば、いや、並大抵の魔術師には不可能。あの時は文句を言ってみせたが、そもそも魔術治癒を行えるあの男が、家を追放されたというのも不思議な話である。

 

魔術治癒は技術を要するというのもそうだが、常人であれば必ず魔力量が足りなくなる。しかし、千早は少々荒っぽくも私の怪我を治癒した。だとすれば、あいつは……

 

「人の魔力を取り込める……? そして本人がそれに気づいていない?」

 

冬町は信じられないといった表情で述べた。耐火術の効果が切れるのも、時間の問題だ。少し遠くでは、炭になった冬町が出てくるのを楽しみにしている四人の外道たちがいる。冬町はもうしばらく燃え盛る中に混じりながら、千早のことを思っていた。

 

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