橋の上、一人対四人。英雄と魔術師・警察連合の戦いも佳境を迎えていた。
「…………」
「魔力切れで動けねぇのか? にしてもしつけぇ奴だ……」
二刀流の赤髪・十文字悟。チャイナドレスの格闘家・春蘭。外套の魔法師・ウィザード。謎多き魔力供給者・ペンギン…………彼らの連携の前に、冬町は魔力切れの状態にもかかわらず立ち向かっていた。
既に袴は焦げ付き、血痕が到るところに付いていた。冬町自身も肌を焼かれ、剥がされ、既にボロボロだった。
「なのに……てめぇ……どうして倒れないんだよ」
どれだけ斬っても、蹴っても、焼いても。
彼女は倒れない。ボロボロでも、両足で立っている。
繰り返すが、魔力はない。やはり黒魔術師や平良との戦いを経て体力を消耗したのか、魔力量が足りていないのだ。
だが、それがどうした。
「必ず…………お前たちを……倒す」
根拠はなかった。
誰がどう見ても、勝敗は明白であった。
十文字を始めとした四人は多少の怪我こそあれど、そう尾を引くようなものではない。
一方、冬町は今にでも倒れそうな具合だ。しかしあまりにしつこい。
「…………粘ったって、無駄だぜ。こっちは無限に魔力のストックがあるようなもんだ」
この長期戦の原因は、ペンギンにある。彼は魔力を半永久的に供給できるため、十文字サイドの攻撃は滞ることを知らなかった。
しかしいつまでも相手を倒す機会を逃していると、それ相応の仕打ちが待っている。彼らも多少なりとも実力者であるから、それくらいのことは分かっていた。
「…………十文字くん、春蘭くん。半径100m以内、結界への侵入者だ」
「!?」
ウィザードが低い声でそう告げた瞬間、二人は動揺する。
グズグズしている暇はない。本気に近い力を出して、今すぐ目の前の女を討ち取るのみ────。
しかし意外にも、その侵入者の到着は早かった。
「──冬町!! 大丈夫か!」
その声は、自然と結界の中に響いた。冬町にとって優しく、けれども激しく溶けていくような、そんな声がしたのだ。
「千早……」
冬町の方に駆け寄ると、目立った外傷がないのを見て、千早は少しばかり安堵した。
しかし十文字たちの方へその目を向けると、顔を歪ませて言った。
「お前ら、ふざけるな! 寄ってたかって女の子を虐めやがって!」
「てめぇ。この女の仲間か──」
十文字は歯ぎしりをする。邪魔しやがって。冬町の横に現れたのは、刀に手をかける男。
安っぽいジャージに身を包んでいる。高校生だろうか。当然、魔力は微塵も感じられない。しかし、一流の魔術師四人を前にしても怯まないその精神力──それには光るものがある。
「雑魚が一人来たところで何も変わらないわよ。ましてやその魔力量、一般人かしら?」
春蘭が得意の毒舌で千早を煽るが、彼は応じない。
千早はずんずんと進んでいき、ボロボロの冬町の前に代わって立った。
「次は
「あ────?」
刹那。一筋の光が、戦場を横切る。
やがてその光は、炎と氷に分かれた。それぞれ半端ではない速さでもってそれぞれウィザード、春蘭の方へと向かっていく。
「…………!」
「また会ったわね!」
カシアはウィザードへと刃を突き立てた。遠距離に特化する炎の魔法士は、一歩も動けない。
「さっきはよくもボコボコにしてくれたわね──立場逆転よ。物事には相性ってのがあってね」
カシアは不敵な笑みを浮かべると、剣に纏う炎を滾らせて言った。
「タイマンならあんた、私と相性最悪よ?」
炎剣士は銀髪を揺らすと、その剣を振りかざした。ウィザードは避けることしか出来ない。なるべく距離を取ってからの反撃を試みるが、カシアの素早い詰めがそれを許さない。
ズルズルとウィザードは後ずさりしていく。それを猛然とした勢いで、カシアが追っていた。
「……生意気な口を。先程、格の違いを示しただろうが」
「それはさっきの話ね。今は、助けに来てくれる仲間もいないわよ?」
ウィザードは辺りをちらりと見る。
誰もいない。逃げ回っていたからだろうか。気がつけば、十文字と春蘭、そしてペンギンはどこかに消えていた。
「数的同数よ。──あなたは技の発動が遅いようね。私の妹と同じだわ」
カシアはウィザードに向かって刃を突き立てると、不敵な笑みを浮かべて言った。
「あらら、心意気もないみたいじゃない。さっ、その腐った根性まで燃やし尽くしてやるわ。覚悟!」
刹那、空気の鼓動が震えた。
炎を纏っていたその剣が、ウィザードに向かった振り下ろされた。
「先から逃げ回ってばっかじゃない! 口も動かさないし!」
炎の剣を振り回しながら、カシアは言った。
ウィザードはその手に炎を滾らせながら、反撃の機会を伺った。しかし、カシアの詰めが早すぎて攻撃に移れない。
「まだまだー!!」
炎剣士の一振は、ウィザードの頭をかすめた。少しでも反応が遅れていれば、彼は即死だっただろう。
なおも攻撃の手を緩めないカシア。肩で息をするウィザードに対して、口撃する。
「運が良かったわね。でも、これだけ防戦一方じゃ時間の問題なんじゃない?」
カシアは軽く挑発した。だが、ウィザードは何も言わない。
「……随分と喋らないわね、あんた。うんとかすんとか言ったらどう?」
「────」
それでも、ウィザードは口を閉ざした。思わず、カシアは苦笑する。
「まぁいいわ。特にプライドも大義もない奴ってことで……」
「────ふっはは!!」
刹那。カシアが煽っている途中で、突然ウィザードは手を叩いて笑い出した。
カシアは剣を構えたまま、困惑していた。
「え?」
「未熟な人間の発する言葉は総じて未熟……君と対峙して、それがよく分かった」
ウィザードは不敵な笑みを浮かべた。
感情が希薄な人が上振れた時、そのギャップは凄まじい。
こいつ、情緒不安定か──カシアも漏れなく、少しばかりの不気味さを感じた。
「何よ。今更強がったって無駄よ」
「魔力は十分に溜まった。……せめて殺さないでおいてやる、小娘!」
ウィザードはそう言うと、拳にその火を宿した。カシアの太刀筋からスルリと逃れて、彼女の懐に入る!
「え……?」
先程までとは桁違いの速さ。100キロの球に目が慣れていたのに、突然150キロのボールが飛んでくるのと同じだ。
──その拳に、カシアは反応することすらできなかった。
目の前が真っ暗になった。