インフィニット・ストラトス~~メタルウォーリアー~~   作:結城

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遅くなり、大変申し訳ありません。現在はカクヨムというサイトをメインに活動していて、こちらの事は他の作品も含め、殆ど凍結状態でした。


第2話 模擬戦開始

 ISと呼ばれる存在によって女尊男卑が横行する世界。その世界で、一人の少年が男たちの狂気によって人の形をした兵器へと仕立て上げられてしまった。何とか救助されたものの、少年は既に人の心を失ってしまっていたのだった。

 

 

 千冬らによって施設が制圧された数時間後。ザ・ワンは彼女達によって、政府の極秘施設へと連行されてきた。そして今、彼はとある一室で監視されていた。

 

 ザ・ワンを監視する管理室。そこには数人の女性がおり、その中には真耶の姿があった。彼女は先ほどから悲痛な表情でカメラに映るザ・ワンの姿を見つめていた。

 

「どうだ、例の少年の様子は」

「あっ、織斑先生」

 そこに、上への報告を行い終えて黒いスーツに着替えた千冬がやってきた。

 

「部屋に移されてから数時間が経過しますが、ずっと部屋のベッドに腰かけたままです」

「この数時間、何もしていないのか?」

「はい」

 千冬はまやが座る椅子の脇から、彼女の手元にあるモニターを覗き込む。

 

 そのモニターに映っているのは、ただベッドの淵に座り微動だにしないザ・ワンの姿だった。 その時千冬はモニターの端に映っているテーブルに置かれた食事と水のコップに気づいた。

 

「食事にも手を付けてないのか?」

「はい。今から1時間前に私が持って行ったんですが、彼は私の事を見るだけで、何もせず」

「腹が減っていないのか?」

「いえ。どうやらそうじゃないようです」

 

 千冬の言葉に、部屋にいた真耶とは別の女性が答えた。

「どういうことだ?」

「あの施設から回収したレポートを確認していたんですが、どうやら彼、見た目こそ普通の少年ですが、中身はもはや生物と呼べないレベルまで変化、いえ。改造されてしまったようです」

「つまり、奴は人の姿をした人ではない、と?」

 

「……非常に酷な話ですが。その通りです」

 女性は、苦虫を噛み潰したような表情のままに頷く。

「どうやら、彼の体組織の全てが例の特殊金属、ナノメタルと融合してしまっているようで。このナノメタルには、周辺にある物質、それこそ空気中の塵だろうが何だろうが全てを同化、取り込んでエネルギーに変えてしまう機能があるようで、連中はこれを同化能力と呼んでいました」

「食事を必要とせず、取り込める物さえあればそれがエネルギーになる、か」

「えぇ。更に彼の胸部、人間で言う心臓に当たる部位は一種の増幅装置になっているようで。同化能力で得たエネルギーをここに収束して増幅させる事が出来るようです。更に彼に融合しているナノメタル自身も、微小な太陽光発電としての機能があるようで」

 

「あらゆる物をエネルギーとして取り込むだけの力があるから、食事など要らない、と言う事か」

「おそらくは。……正直、恐ろしいですよ」

「何がだ?」

 少し恐怖を覚えたような表情の彼女に、千冬は歩み寄り小さく問いかける。

 

「あんな子供を生み出してしまった男たちの狂気もそうですが、こんな事が出来る、人間の技術にです」

「そうだな。……技術と言うのは、正しく使えば我々人類の生活を豊かにする。だが扱いを間違えれば、それは我々人類そのものを破滅へと導く原因となる。……本当に、人間と言う種族はこれからどこに向かっていくんだろうな」

 

 千冬はそう言って、モニターへと目を向ける。その先にいるザ・ワンへの、憐憫の表情を小さく浮かべながら。

 

「あの、織斑先生」

「ん?どうした真耶」

「あの子は、結局どうなるんですか?それにあの子のご家族は?」

 真耶はどこか悲しそうな表情で千冬に問いかけている。

 

「あの少年の処遇に関しては、当面保護しつつ様子を見るという事で決定した。ただしその存在は極秘事項。万が一にも女性権利団体にあの少年の存在が知られてみろ。連中にとってはISこそが最強であり、自身の立場を絶対の物にする存在だ。そんな立場を揺るがすあの少年を生かしておく事などしない。確実に命を狙われる」

「ッ。そんなのっ!あの子だって望んでこんな事になった訳じゃっ!」

 

「連中はそんな事情など耳を貸さないだろう。……連中はそういう奴らなんだ。同じ女として、へどが出るがな」

 千冬は吐き捨てるようにつぶやく。

 

「とにかく、当面は保護する事が決定した。それと同時に彼の親族についても探してはいるが、今のところ発見は難しいだろう、と言うのが上の見解だ」

「どうしてですか?」

「あの少年の名前が分からないからだ。施設のデータベースにも、被検体番号かザ・ワンの名称しか記されていなかった。と言って本人も既に名前を忘れているから探しようがない。行方不明者リストに、ここ数年で行方不明になった少年と言う条件で検索をかけたが、彼と一致する少年は無し。遺伝子の方面から調べようにもあの少年は体組織がナノメタルに浸食されているため、遺伝子配列などバラバラで人間のそれですらないのが現状だから分からない、だそうだ」

 

「じゃあ、彼は……」

「今のところ、家族の存在は不明。生きているかさえ分からない。酷な話だが、現状あの少年は、天涯孤独となる可能性が大のようだ」

「ッ。そ、そんなのっ、あんまりですっ!あの子が何をしたっていうんですかっ!どうしてっ!どうしてまだ、家族の元で幸せなまま成長していくはずの、あんな小さな男の子が、どうしてこんな地獄みたいな環境に身を置かれなきゃいけないんですかっ!!」

「………」

 

 ここで千冬に当たっても、何にもならない事は真耶だってわかっていた。分かっていたが、叫ばずにはいられなかった。それ程までに彼女は、やるせなさを覚えていたのだ。現に彼女は、怒りの表情を浮かべながらもその眼に涙をためていた。

 

「……お前はどうしたい、真耶?」

「え?」

「確かに今、あの少年は地獄のような環境に置かれ、心まで破壊され、肉体は汚染されてしまった。そしてそれをしたのは人間だ。だが、ならばこそあの少年を救えるのもまた、人間なんじゃないのか?」

「ッ。じゃあ、私が?」

 

「そこまでは言わん。だが、あの少年を救うのは簡単な事ではない。それだけは私でも分かる。真耶、もしお前があの少年に対して何かをしてやろうというのなら、私も手を貸そう」

「あ、ありがとう、ございます」

「気にするな。……あの少年も、言わば私たちの被害者だからな」

「え?今なんて?」

「何でもない。私は一度失礼する」

 

 千冬はそう言うと部屋を後にした。彼女を見送った真耶は、視線をモニターへと戻す。そこでは相変わらず、微動だにしないザ・ワンの姿があった。

「私、が……」

 そんな彼を見つめながら、真耶はポツリと声を漏らすのだった。

 

 

 ザ・ワンが保護されて、数日後の事だった。真耶や千冬たちは、彼女達の職場である『IS学園』へと戻っていた。

 

 IS学園。 それはISを操縦する女性パイロットやISのメカニックを育成するため、日本国内に作られた人工島にある学園だ。千冬と真耶はここで教鞭をとる教師なのだ。だが、ある日の事だった。

 

「真耶、明日時間はあるか?」

「えっ?ありますけど、何か?」

 放課後、職員室で明日の授業の準備などをしていた真耶の所に千冬がやってきた。しかし、千冬の静かながらもどこか険しい表情に真耶は少し戸惑っていた。

 

「ど、どうかしたんですか?」

「あぁ。先ほど、日本政府から連絡があった。例の少年、ザ・ワンの性能評価試験をしたいとの事だっ」

「ッ!?どういうことですかっ!?」

 千冬から聞かされた話題に真耶も声を荒らげながら立ち上がる。

 

「どうやら、日本政府はあの少年の戦闘力を測りたいようだ」

「戦闘力を測るって、なんでですかっ!?」

「分からん。……だが、考えてみろ。この世界でISと戦える兵器は存在しない」

「そ、そうです。だからISは、現代において最強と言われてるんですよ?」

「そうだ。だが、ならばあの少年は?」

「え?」

 

「あの少年、ザ・ワンはISを倒すために生み出された存在だ。更に言えばあの少年の実力は未知数だ。だからこそ連中はあの少年、ザ・ワンの力を確かめたいのだろう。あわよくば、女尊男卑主義に対するカウンター的存在として、な。そのために私かお前にあの少年の模擬戦相手、アグレッサーをやってほしいとの話が来ている」

「ッ!?つまり、あの子を醜い大人の争いに使えるかどうか、テストしたいって事ですかっ!?そんなの、賛成できませんっ!!」

 

「確かに私も反対した。だが、連中からすれば対戦相手の一人が断った程度だ。私たち二人がダメだと分かれば、別の相手にやらせるだけのつもりだ」

「ッ!そんなっ」

 真耶は狼狽し、近くにあったテーブルに手を付いた。

 

「どうする?お前が無理そうなら、私が行くが?」

「……分かりました。私も行きます。……でもその前に、一つだけ政府側に条件を出したいんです。連絡を取る時間を下さい」

「構わないが、何をするつもりだ?」

「あの子を、実験動物のように扱うなんて納得できませんから。だから私なりに、出来る事をやるつもりです。あの子を、あのままになんてしておけませんからっ!」

 

 真耶は確固たる信念を持った表情で千冬を見つめている。それを前にして千冬は、静かに『分かった』とだけ呟くのだった。

 

 

~~~数日後~~~

「ザ・ワン。あなたに指示があります」

 ある日、ザ・ワンがいつも通り部屋で何もせずじっとしていると、女性が一人部屋に入ってきた。

 

「これからあなたの性能評価試験として、IS学園の教師である女性と戦ってもらいます。これから試験場へと移動します。付いて来てください」

「……」

 ザ・ワンは無言で『コクリ』と頷くと座っていたベッドから立ち上がり女性のあとに続いた。

 

 女性の後に続いて案内されたのは、大きな部屋だった。そこは周囲を対爆仕様の分厚い壁に覆われた、訓練用の部屋だったのだ。そしてザ・ワンが案内された時、そこには既にISスーツを身にまとった真耶と千冬が居た。

 

「あっ!」

 そしてザ・ワンが来ると、真耶は声を上げて彼の元へと駆け寄る。

「こ、こんにちはっ。あれから体調はどうですか?大丈夫ですか?」

「……はい」

 ザ・ワンは、真耶の言葉に静かながらも答えつつコクリと頷いた。

 

「ザ・ワン」

 そこに千冬が声を掛けると、彼はそちらに向き直った。

 

「これからお前の持つ力のテストを行う事になった。お前はこれから、IS、打鉄を纏った私と山田先生それぞれを相手に、1対1の模擬戦を2回やってもらう。もちろん模擬戦なので、相手への殺傷は無しだ。良いな?」

「模擬戦、了解」

「よし。ではお前が使う機体だが、ザ・ワン。貴様の中には無数の機体データがあるが、それらは資料によると、全ての機体は走攻守の3点の合計点を基準にランク付けがされているそうだな?」

「はい」

 

「ではそのランクの中で強くもなく弱くもない、中間的な機体をランダムでピックアップ出来るか?」

「可能です」

「よし。なばらまず、その機体をピックアップしろ」

「了解」

 千冬の指示を聞き、しばし目を閉じるザ・ワン。やがて……。

 

「ピックアップ、完了。機体コード、『RGM-79N』、『ジム・カスタム』を選択」

「ふむ?ジム、カスタム?なんだそれは?」

 アニメになど当然詳しくは無い千冬は珍しく困惑した様子で首をかしげている。

 

「え~っと、ちょっと待ってください」

 すると、そばに居たタブレットを持った女性がそれを操作し始めた。

「あ、あった。これですね。え~っと、RGM-79N、ジム・カスタム。元ネタはガンダムシリーズの一作。設定上は、元になった作品の中ではエースパイロット用の機体、と言う感じみたいですね。流石に主役機、って訳じゃないみたいですけど」

「ふむ?」

 説明を聞きながらも、千冬は小首をかしげるばかりだ。

 

「ま、まぁ良い」

 聞いても詳しくは分からない、と言う事もあって千冬はそうつぶやいた。

「ザ・ワン、それではお前はこれからそのジム・カスタム?と言う奴に変化して私たちと模擬戦をしてもらう。良いな?」

「了解」

 

 こうして模擬戦をすることになったザ・ワン。まずは打鉄を纏った真耶が相手をすることになり、千冬や他の面々は安全のため、訓練室内部を見渡せる場所へ移動していた。

 

≪それではザ・ワン。まずはお前の形態変化を見せてくれ≫

「了解」

 マイクを通して聞こえる千冬の声に、彼はただ頷いた。直後。

 

「システム起動。ナノメタル、休眠モードから実戦モードへ移行開始」

 ぶつぶつと彼が呟き始めると、彼の肉体がほのかに光を纏い始めた。

「ッ、あれ、が……」

 初めて見る彼の力に真耶は思わず息を飲んだ。

 

「体内コンピューターより設計図をロード。形態変化、開始」

 

 と、次の瞬間ザ・ワンの体が何と、溶けだしたではないか。

「ッ!?」

 人が溶けているように見える。そんなホラー映画のような展開に真耶は息を飲み、思わず手で口元を覆った。

 

 しかし、やがてザ・ワンの肉体が銀色の流体に変化したかと思うと、ぐにゃぐにゃと変形を始めた。着ていた貫頭衣が銀色の流体に飲み込まれ、歪んでいた輪郭がやがて整っていく。 だが、その形は人のそれではなかった。

 

 やがて形が定まった直後、ピシピシッと表面に亀裂が走り、薄皮一枚分の表面が砕け散った。砕けた銀色の欠片の奥から現れたのは、人ではない機械兵器。モビルスーツ、RGM-79N、つまりジム・カスタムだ。

 

『ッ、あれがそうか』

 現れたジム・カスタムの姿を目にして、千冬が思わず息を飲んだ。

 

 人型でありながら、人ではない機械兵器。左腕に盾。右腕にブルパップ式のマシンガンを備えた、その存在。

 

「ロード、完了。ジム・カスタム、展開完了」

 やがて、ジム・カスタムからマイクを通して少し加工したような、ザ・ワンの声が響いた。そしてそれに呼応するように、バイザーの下のカメラアイが光り輝く。

 

 ロードを終えたザ・ワン、いや。ジム・カスタムが真耶の打鉄を見つめる。

「こちらは準備完了です。いつでも、どうぞ」

「わ、分かりましたっ。織村先生」

 

 真耶は視線を、千冬のいる部屋に向ける。

「よしっ。それではこれより、ザ・ワンの性能評価試験のための模擬戦を開始するっ」

 マイクを通して千冬の声が訓練用の部屋に響き渡る。

 

「模擬戦の勝利条件は特にないっ。こちらが模擬戦終了と判断した時点でアナウンスを流すっ。それまでは特に気にせずに戦ってくれて構わないっ」

 彼女の放送が流れる中でも、ジム・カスタムは警戒した様子のまま、真耶から目を離さない。一方の真耶も、初めて戦う相手とあってか流石に緊張した面持ちだ。

 

「それでは、模擬戦、開始っ!」

 

 彼女の声と共にブザーが鳴り響いた。直後。

『ドウッ!!!』

 

 ジム・カスタムが背中のスラスターを吹かし、飛び出した。

「っ!」

 これに驚きながらも、真耶はすぐに武装の一つであるライフルを、まるで召喚するかのように取り出し構える。

 

 一方のジム・カスタムも、スラスターで飛翔しながらマシンガンを構えた。

 

 ここに、二人の模擬戦が開始された。

 

     第2話 END

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