戦闘シーン習作   作:はりい

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李信 潜入、破壊工作、暗殺のプロ。革命を目指している組織のもとで戦う。

王托 政府の暗い仕事を請け負う部隊の隊長。元李信の弟子。旅の途中で、ある事情が          
あり政府軍に加わる

林清 李信とは同じ系統の別の軍を率いる。李信をライバル視

宋入中 政府の実権を握るおとこ






中世中国 包囲突破

 

 

 宋入中の屋敷を正門から出てすぐに李信は違和感に気づいた。囲まれている。右、矢。とっさに抜き放った短刀で叩き落とすと、独特の拍子で笛が吹かれるのが聞こえた。町全体から自分に向かって何か大きなものが駆けて来ている感じがする。周りに展開させていた隊は出てくる気配がない。全員打ち倒されたようだ。罠だったか。いや、これは間違いなく本物の神器。ではなぜ囲まれている。

数人が屋根の上から振ってくる。わけもわからぬまま、一人にぶつかっていきそのまま切り結ぶ。そのまま駆けぬけ、前方に積まれている荷から反対側の屋根の上に飛び移る。屋根の上で待ち構えていた者の襟首をつかみ、入れ違うようにして着地。

今宵は月明かりがない。人より夜目は効く。まだ機はある。何とか脱出できるところを探さねばならない。町全体に包まれているような気配を感じる。おそらく敵の闇の兵総出で自分を消そうとしてきている。李信は舌打ちし、短刀を逆手に駆け出した。

 

 

 

 仕留められなかった。あえて本物の神器をつかませ、、油断して出てきたところを完璧なタイミングで射させたはずだった。それを外しても、屋根の上からの不意打ち。それで仕留められるはずだった。やはり一筋縄ではいかない。

 町全体に伝令を飛ばした。追い込め、殺すな。この男を無理に殺そうとすると、敏感に殺気をとり、最悪同士討ちに持ちこまれる。あの男なら可能である。あの男に小細工は通用しないことを確認できただけでもいいとみるべきだろう。

 こちらの兵力は総勢500人。およそ10名単位で動くように訓練されており、獲物はそれぞれの得意なもの持たせている。自らの直属の部下にだけは50人でも、1人でも動けるようにしてある。町のいたるところにひそませておいた兵に、李信を追うよう伝令を走らせる。自分の隊のうち、30名を各隊への伝令、20名を指揮下に置いた。20人が交代であの男を捕捉し続け、自分が他の隊に伝令を出し、ぶつからせる。それで確実に疲弊させることができる。

李信は屋根から屋根へ縦横無尽に飛び移り、なんとか此方を撒こうとしている。動きを予測し先回りさせ、また時にぶつからせることで動きを操作した。そして最終的にはこの手であの男をこらさなければならない。自分でなければあの男を殺しきれない。ほかのものであれば50人でかかってもあの男を殺せないだろう。それはわかっていた。

 

 

 一体何刻かけ続けたのか。李信はとうに限界を超えて逃げ続けていた。恐ろしい相手である。駆けながら、李信は相手の指揮官の力量を認めていた。闇の軍を指揮する天武があると。それは、いままで1人で任務を遂行してきた自分とは正反対の人間だ。面白い。自分の才とどちらが上か試してやる。

思えば今までずっと一人で戦い続けてきた。昔は弟子を取ったこともあったが、それだって任務に関わらせたことはない。名前は何だったか。当時持っていた技をすべて教えた後、自分のもとを去らせ、旅に出した。その後の行方は知らない。何故今まで生き残ってこれたのか。それは自分に一人で状況を打開する天武があったからだろう。

 今、自分の人生のすべてを試されている。なんとしてでも切り抜ければない。

自分という男の、誰にも知られることのなかった生涯を、自分自身に証明するために。李信はそう決意した。

 ふと正面をみると、自分の背丈の5倍はあろうかという高い壁があった。しまった、と思った時にはもう遅く、李信は囲まれてしまっていた。来るなら来い。100人でも200人でも切り抜けてみせる、と思っていたところに自分を囲む集団から一人の男が突出してきた。この男がこの軍の指揮官だと直感的に察する。おそらくこの男は自分が100人でかからせても殺すことはできないと、これまでのぶつかり合いで理解している。そこで自分の手で殺そうと出てきたのだ。

 この男が、先ほどまで自分を追っていた軍を指揮していた。そう考えると李信の心に何か熱いものがよぎった。これまで自分の才能に追いついて来たものなどいなかった。しかしこの男は今、自分を追いつめている。それも、自分とは正反対の才能をもって。李信は運命に感謝した。この男こそ、自分の生涯を試すのにふさわしい。感動の涙すらたたえて、李信は相手に向かって構えた。

 最初にもっていた短刀は、ぶつかり合いを切り抜けるうちにとうに刃がつぶれたため、敵の獲物を奪って戦ってきた。今手にしているのは、刃長がおよそ2尺(60㎝)、おそらく日本の刀。それは皮肉にも、自分が最も得意であり、そして自らに使うことを禁じざるを得なかった武器種であった。長い刀は、一般に潜入や暗闘で不利であり、任務を確実に遂行するためいつからか持たないようになっていた。運命はまだ、自分に味方している。

 

 

 

 王托は自分の持てる一切の勇気を振り絞って、李信に向かって駆けた。あの男は自分が仕留めなければならない。両手には普通の短刀より少し長いくらいの刃渡りを持つ刀が逆手で握っている。部下には、下手な手を出すな、囲んでいろと指示を出している。

 相手の体格は自分とほぼ同程度。駆けた勢いでそのまま斬りつけようとした。が、刀の腹で受けとめられ、押し合いになった。押し切られる。そう思った時、ふいに、王托は直感的に大きく十歩ほどの距離を後ろに飛んだ。

 次の瞬間、先ほどまで自分がいた場所に凄まじい斬撃が繰り出される。危なかった。あれを食らっていたら胴から真っ二つになっていた。斬撃が起こした風が頬に触れる。

 命のやり取りをしている。そう強く感じた。

 

 

 

これを躱すか。李信は少なからず動揺した。渾身の斬撃だった。これを避けたものは今までいなかった。見事、と心のうちでつぶやく。この男こそ、自分の相手にふさわしい。今度は此方から仕掛ける。上段に構え、距離を詰める。間合いは刃渡りの分此方が有利。しかし、懐に入られたらあちらのほうが圧倒的に有利。あと一歩で刃が届く。打ち込んだ。躱される、が読みの上だ。相手は両手の刀を順手に持ち替え、間合いに入ると刃を重ねるようにして斬りつけてきた。咄嗟に二本とも弾いた。相手の胸のあたりが空いた。この瞬間を待っていた。手首を返し刀を倒し、心臓にむけて突きを放った。肩を咄嗟に大きく引かれ、脇の下を掠めただけだった。外した。間合いを取ろうと後ろに飛んだ。腹。二太刀ほど食らっている。見えなかった。深くはない。しかし、長引くとまずい。

囲まれているはずなのに、まるで1対1で対面しているような思考をしている自分が少しおかしくなった。そういえば、この男以外に斬りかかって来るものはいない。理由はわからないが、今はありがたかった。この男と、今はただ戦っていたい。間合いを取りにらみ合いに入る。体は限界のはずだが、不思議と思った通りに動いた。男がかがんだかと思うと、此方に向かって跳躍してきる。李信もそれに合わせて跳び、空中で斬り結ぶ。太もものあたりを掠めた。何とかよけようとしたが、目で追うのがやっとの速さですれ違い際めちゃくちゃに斬りつけられる。どれも浅いが、李信の血を失わせるには十分な量の傷だった。これは本当に長引くとまずい。李信はそう思った。

次の一撃で決める。相手も自分の気を感じ取ったのか、右手は逆手、左手は順手の独特な構えに構え直した。なぜか、李信は心のなかで相手と会話している感じがした。

それがお前の本当の構えか。そうだ、見た事がないだろう。面白い、来い。

相手が低い姿勢で突っ込んでくる。狙うは、絶対に避けられない位置での、心臓への突き。李信が最も得意とする技である。相手に合わせ自分も低く構える。相手にはきっと下から斬り上げるだろうと思われているだろう。相手は此方が刀に力を入れた瞬間、読んでいたとでも言わんばかりに急停止した。

今。

手首を返し、刀を横に倒す。先ほどの突きを思い出したのか、男は咄嗟に左半身をそらしつつ此方に低く速く跳躍してきた。まだ逸らし切っていない。心臓に向かって、必殺の突きを放った。男の胸に深々と刃が入っていくのが妙にゆっくりと見えた。勝った。そう思った瞬間、李信は膝から崩れ落ちた。下に視線を移すと、男の手から伸びた刀が、自分の胸骨の下から滑り込むように刺さっている。どうやら短刀だと思っていた男の刀は、あんがい長かったようだ。こんな刀を使う男と自分は過去に出会わなかったか。

そうだ、たしか過去に弟子に取った王托とかいう男。まさかな、と思いつつ、李信の意識は闇に沈んでいく。瞬間、自分が背にしていた壁から何十人もの人間が降ってくるのが見えた。

肩に同士の印をつけているのが見える。一人の男が自分に向かって駆けてくる。林秦。自分とはちがう闇の軍を指揮している男。助けに来たのか。だがなぜ。

「お前の隊の生き残りが近くで活動していた俺の隊の人間のもとにたどり着いてな。何とかたどり着くことができたんだ。お5刻(約二時間半)ほども逃げ回っていたみたいだな。」

「何故助けに来た」

「かねてからな、お前は死なせるなと、我らが頭領様から言われていてな。実は俺の軍が作られた理由の一つなんだ。さあおしゃべりは後だ。切り抜けるぞ。」

あのお節介な頭領様ならやりかねん。そう思ったら、急に気が抜けた。林清が自分を背負う。ゆっくりと李信の意識は再び闇に沈んでいった。

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