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軍用のトランシーバーでラジオを聞いていると、小学生の朗読コンクールが流れていた。タイトルは、『僕の夏休み』。どっかで聞いた気がするタイトルだが、内容は至って普通。ただ、聞いてるだけで童心に帰る心地になる。今度自分も暇な時に、何かエッセイでも書いてみよう。そんなことをしていたら『団長』に、「気を抜きすぎだ」とか言われるかもしれないけど。
「おい、今日はごちそうだぞ」
うわさをすればなんとやら。洞窟の塹壕跡に差す光の方を見やると、銀髪のツインテール(?)を風に揺らせた艦娘、『武蔵』が立っていた。
『工兵』と『戦艦:武蔵』
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「解体をするから提督は調理の準備だ」
彼女は自分より大きい鹿を慣れた手付きで解体していく。自分は火を熾して大きめの鍋に水を汲み、団長の解体作業を手伝った。
「提督も慣れたものだな。最初は血を見ることさえ嫌がっていたのに」
「団長の指導のおかげですよ」
僕の返答に納得がいかなかったのか、頬をプクッと膨らませて彼女は僕にデコピンしてきた。そこらの人間とは違う、艦娘のデコピン。めっちゃ痛い。
「私のことは『武蔵』と呼べと言っているだろう。それと敬語もできればやめて欲しい、提督」
「申し分けございません!…いや、ごめん、武蔵」
「ふっ…いいよ、許す。提督」
彼女は僕のことを提督と呼ぶ。それはつまり、僕は武蔵の提督適正者というわけだからだ。
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元々僕たちは、世界各地を放浪する傭兵団に属していた。僕は年齢が若いことや入隊して新しいこともあって先輩たちに散々こき使われた。でも、必死に雑用をこなしているうちに、工兵としての役割を任されるほどには信頼を得てきた。僕が作った手投げ弾は、材料と威力のコスパがいいと評判だった。ただ、作り方が複雑なせいで僕しか作れないので大量生産ができないこと、それが欠点だった。
それに、複雑なのはそれだけではなかった。
『おいおい、あいつらの怯えた顔見たか?吹っ飛んだ味方の内蔵がべちょって当たって硬直してやんの。戦場でそんな暇ねーのにな』
『うっ…おぇぇぇぇぇ…』
『おい、やめてやれ。こいつはそういうのに慣れてないから戦場に居なくてもいい工兵になったんだ。新人、ここは掃除しとくから早くトイレにでも行ってこい』
『はいっ…!申し訳ございませんでした伍長!』
『律儀なやつだ。ほら行った行った。汚物の臭いが残ったら他のやつらにどやされるぞ』
自分の作ったもので人が死ぬ。頼りにされるのは嬉しいけど、自分のしていることに疑問を抱かずにはいられなかった。
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ある夜、信頼していた伍長と近くのテントの哨戒をしているときに伍長が人の痕跡を発見したらしかった。
「ブーツの足跡だ…敵陣の方へ向かってるぞ。もしかして、偵察兵でもいたってのか」
「今すぐ本部に知らせないと。目覚ましが迫撃砲なんてごめんですよ」
「新人、お前はこの足跡を追え。私は本部にこのことを伝えに行く。絶対に逃がすなよ。手投げ弾でもなんでもいいから敵陣に生きて帰すな」
「サーイエッサー」
任務時の短い返事をすると、伍長と僕は正反対の方向へ歩き出した。
でも、この時におかしいと気づくべきだった。なんで僕より追跡に慣れている伍長が本部に戻ったのか、トランシーバーもあるのに。なんで偵察兵を生け捕りにしようとは言わなかったのか、有益な情報を持ってるのに違いないのに。
(不用心だな。足跡も足音も消していない)
頼られていることに浮かれていた。弱い自分と決別したかった。敵兵の体の一部でも持ち帰って、皆に褒めて貰いたかった。
(敵影確認。手投げ弾用意…)
足音を消して、着実に距離を詰めていく。暗視スコープで敵との距離を何回も確認すると、持っていた手投げ弾を投げた。
(これなら…)
回避行動を取らなかった敵は、確実に吹き飛んだはず。先輩たちの言っていたとおり、血や臓物の一滴でも降ってくる…と思っていた。
「ふん、手投げ弾としては上質だが、私を殺すには何個あっても足りないぞ?」
はっきりと聞こえる声は、こちらに近づいて来ている。怒りの気配で、夜の森が鳴いているのがわかる。
(追ってくるなら好都合だ。応援を要請して、蜂の巣にしてやる)
「こちらMSS。敵がこちらに進軍中。一人では手がつけられないので応援が必要。オーバー」
おかしい。返事がない。だが、追ってきているのは確かだ。
その時、別の哨戒中の部隊と遭遇した。
「敵兵がこちらに近づいてきております!手投げ弾を投げたものの怯まずに…なんで、銃を向けるんですか…?」
顔を見合わせると、3人の味方の兵士はこちらに銃を向ける。後ろから、敵『だと思っていた』人の声がする。
「喧嘩を売る相手を間違ったな。この戦艦『武蔵』に手を出すとは、貴様、生きて帰れるとは思うなよ」
知らないわけが無い。武蔵とは、僕のコードネームのモチーフで…この傭兵団の長たる艦娘だ。
「内通者だ。尋問するから拘束しろ」
「そんな、僕はっ…ぐっ!」
後ろから小銃の銃底で殴られ、僕は意識を失った。
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「ちっ…失敗しやがったか…やはり別のやつにするべきだったか」
牢には、伍長の姿があった。
どうやら、伍長は敵軍の内通者で、僕は団長を殺すための鉄砲玉にされたらしい。
しばらくして、隣の房の伍長は外に出して貰えたらしい。その後どうなったかは聞くまでもなかったけど。そして、僕にもその時が来た。
「おい、お前は休んでいい。少し二人で話したいことがある」
団長の声がした。もとよりこの牢屋には、僕と看守の二人しかいない。ということは、団長は僕と話したいと言っていることになる。団長の、ましてや艦娘に拷問されて、正気ではいられるはずがないだろう。だが、仕方がない。自分の組織の長に手投げ弾を投げるという、謀反100%の罪を犯してしまったのだから。
「顔を上げてくれ」
団長に言われたとおりにすると、彼女は房の中へ入ってきて、僕に近づいて来る。
「本当に、申し訳ございませんでした…煮るなり
焼くなり、どうか好きにしてください」
「そうか」
冷たく返事をした彼女は艦娘の所持している大口径砲を僕の方に向けると。
「それじゃあ、私と一緒に添い遂げるということでいいな?」
へ?と思うと、石垣でできた牢屋の壁は吹き飛び、鎖で繋がれていた手足の拘束も吹き飛んだ。
「傭兵団は解散だ。私は私の提督を、新しい生きる目的を見つけたからな」
団長にお姫様だっこをされながら、海へと飛び込む。だが、彼女は艦娘だ。海の上をスケートのように、水平線を目掛けて滑り出した。
「どこへ向かっているのですか!?」
波の音でかき消されないよう、大きな声で呼びかける。
「大湊だ。戦史時代の要所であったあそこなら、十分暮らしていけるだろう」
聞きたいことは色々あった。だけど、張り詰めていたことがぷっつり切れて、僕は瞼を閉じた。
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薪のパチパチ鳴る音に目を覚ますと、団長が焚き木の側で暖を取っていた。夜には、交代で見張りをするというのが習慣だった。
「すみません、今代わります」
「このまま提督の寝顔を眺めていても悪くなかったんだが…ここは休ませてもらおう」
「………あの…おやすみにならないのですか?」
いつもならのび太もびっくりな速度で眠りにつくのに今日はずっとこちらを見つめてくる。
「敬語はやめてくれ、提督」
「ごめん、武蔵」
「提督は謝ってばかりだな。もう少し提督として、自分勝手に振る舞ってもいいのに」
「そんなことはでき…ないよ。僕はあなたを、武蔵を殺そうとしたんだから」
「お前は悪くない。私の提督を騙したアイツ等が悪いんだ。まあ、私と提督の愛を引き裂けるものなんて何も存在しないんだけどな」
得意げな顔をする団長はいつもとのギャップでより一層可愛らしく感じた。でも当時の記憶を思い出す度、罪悪感を感じずにはいられない。
僕が落ち込むのを察したのか、団長は火を消すと、動物の毛皮や羽毛で作ったベッドに僕を引き入れた。
「団長!哨戒はどうするんですか!」
「ここ一年このアジトには何も起きていない。近くにある町の御老体たちにも、随分良くしてもらった」
いつの間にか火が消えたのか、暗くて団長の顔は見ることができない。いつもは哨戒のため火をつけていたが、それが無いとこの塹壕はここまで暗いのか。
「もう、いいんじゃないか。戦場にいた記憶は提督を連れ出したあの日あの場所に置いてきた。私達は一人の艦娘と、一人の提督として、前へ進むべきだと思うんだ」
「武蔵…んっ…」
暗闇に目が慣れて来ると、武蔵の顔が目の前にあることがわかる。
「提督…ん…ふっ…」
互いに互いを呼び合いながらだんだんと舌を、そして指を絡めていく。だが、主導権を握っているのは、どこまでも武蔵だった。彼女が馬乗になろうとすると、衣擦れの音だけが塹壕に残る。
「提督よ、貴様を狙うどんな者からも私は守る自信がある。だから、今一度、あの時の返事が欲しい。私と添い遂げるのか、否か…」
「そんなの…」
決まっている。だが、過去の記憶がどこまでもも僕にまとわりついてくる。
僕が言葉を言い淀んでいると、すかさず彼女は口を塞いでくる。
「はいと言うまで、離さんからな…」
断るわけがないだろうに、彼女は怖いのか、震えていた。だから、そっと、あやすように、彼女の背中に手を回し、優しくさする。
僕も、彼女と共に前に進みたい。それが彼女の、いや、彼女と僕の望みなのだから。
「君が好きだよ。武蔵」
「よかった…提督、いや、相棒よ…」
彼女と再度口づけを交わすと、長い長い夜戦へと、二人で身を投じていった。
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洞穴の中まで日が差し込むころ、体を起こしたが武蔵は寝床にいなかった。元々、僕より起きるのが早い人だったから、いなくなってもそんなに心配はしなかった。
「何か、町の方が騒がしい」
武蔵は、水浴び後の艶姿で帰ってくるなりそういった。
「見に行くぞ」
寝ぼけながら準備をし、彼女に手を引かれながら塹壕から抜け出した。
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「おい、何があったんだ」
海岸には人だかりがあって、その最も外側にいる老人に武蔵が話を聞いた。
「どうやら、人が漂着してたらしいぞい。それもかなりの美人さんだそうで…」
「美人?いや、それよりも生きてるのか?」
「ああ、ついさっき気がついたみたいでね。わしゃ物珍しさに寄ってきたやつらにはじき出されちまった」
「ちょっと、どいてくれ」
武蔵と二人で人混みを掻き分けていくと、そこには町のお婆さんに食料を受け取りながら、質問攻めにあっている人がいるみたいだ。豊満な胸と、ブラウンのポニーテールから女性だと推測できる。
ふと僕がその娘と目が合うと、その娘は雷が落ちたように驚くと、口をパクパクさせて俯いてしまった。その俯いた姿勢のまま、僕の方に歩いてくる。でも、その様子は正直怖い。老人たちもその並々ならぬ気配にあとずさっている。
「てい、とく」
彼女はそう言うと、僕に飛びついてきた。正確には、僕の唇に。
町の老人たちや武蔵が驚いてることに目もくれず、その娘は舌を僕の口に遠慮せずに突っ込んでくる。ギブアップの意を示そうと手を伸ばそうとしても、その手すら押さえつけられてしまう。恋人繋ぎで。
「お、お前…もしかして、大和か?」
メガネをクイッとして確かめるようにして武蔵が聞いた。
大和。武蔵が属している大和型戦艦のネームシップだ。存在自体は知っていたが、容姿までは覚えていなかった。
「ふっ…んっ…ていとくっ…ていとくっ…」
「〜〜〜〜!!!?〜〜!?」
その後、僕は武蔵や老人たちが大きなかぶ方式で大和を引き剥がすまで、ずっと濃厚なディープキスをされ続けた。
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『脱走兵』と『戦艦:武蔵』
と
『戦艦:大和』
本作は『提督をみつけたら』を元にした三次創作作品ですが、本家のパラレルワールドです。
そのため、設定や世界観について本家とは異なる場合があります。