月の獣を狩り、夢を継いだ狩人がいた。
あらゆる獣を狩り、上位者を狩り、最後の狩人を夢に閉じ込め、夜を終わらせた。

そして今、最後の獣が息絶えようとしていた。



親と切り離された子供が殺し屋やってるって?なんかブラボ味を感じるぜ!何言ってるかわからないって?啓蒙が足りないんだよ啓蒙が!
……という思いつきから始まりました。続きません。

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思いつきの単発投稿。行くぜ!



赤服のセカンド

空は澄み、白い花が一面に咲き誇る箱庭。

来るものを暖かく迎え、どんな苦しみをも夢へと還えす。

時の流れなど忘れたかのように、どんなときも暖かくて、優しくて、残酷で、不確かな夢。

 

箱庭の片隅には、草花に埋もれるようにして一軒の洋館が佇んでいた。

窓は開け放たれ、爽やかな風が吹き抜けている。

 

その中ほどには車椅子が一台、一人の老婆を乗せていた。

 

 「人形。そこに……いるんですか?」

 

嗄れた、しかし凛と澄んだ声が響く。

 

 「はい。狩人さま。」

 

車椅子の傍らに、一つの人影が姿を現す。

それは手を伸ばし、老婆の頬に触れる。

 

 「もう、よく見えないんです。あぁ。でも、あなたの暖かさを感じます。」

 「私に暖かさなどありません。しかし、あなたがそう望むなら、いつまでもこうしていましょう。」

 

人形。そう呼んだ彼女の言葉に、老婆はクスリと笑った。

 

 「いいえ。貴方は温かい。とても。とても。

胸の奥がジン、と温かいの。」

 

頬に触れる手を、震える自身の手で包み込む。

その顔はとても安らかで、しかしどこか名残惜しそうな、悲しそうな表情をしていた。

 

 「あぁ、やはり、これは夢。見るものがいなければ消えてしまう。

ごめんなさい人形。もう、この夢を見るものはいない。」

 

人形は、しばしの沈黙を置き、もう一度、言葉を紡ぐ。

 

 「私は人形。あなた達ヒトに作られた人形です。

私には、何もありませんでした。」

 

けれど。

 

人形は、もう片方の手で老婆の手を握る。

 

 「私は、満たされています。貴方の側にいることができて、貴方に愛されて、私は……そう。きっとこれは、きっと私は“幸せ”なのでしょう。」

 

閉じられていた老婆の目が見開かれ、次いで満足げな笑みが浮かぶ。

 

 「そう。よかった……。」

 

あぁ、これで安心して眠れる……。

 

老婆のその言葉を皮切りに、突如として箱庭が炎に包まれた。

まるであのときのように、獣狩の夜が終わったときのように。

主が死に、夢が終わる。

 

 「おやすみ。人形。」

 「はい。おやすみなさい。」

 

老婆の体が霧に紛れ、まるで初めからそこには何もなかったかのように、空の車椅子だけが残される。

 

夢の主が消え、それから幾許の間もなく箱庭は炎に包まれた。

 

轟々と燃える炎の中、一人残された人形。

彼女は体が燃え落ちていくのも構わず、両の手を合わせて祈っていた。

 

 「行ってらっしゃい。狩人さま。

あなたの目覚めが、有意なものでありますように。」

 

夢が覚めれば、目覚めは訪れるものだ。

 

 

◇◇◇

 

 

赤い。

 

あたり一面が、真っ赤に染まっている。

 

美しく、どす黒く、思わず目をそむけたくなるような、残忍で鮮烈なその景色の中に、うごめく影が一つ。

 

 「我ら血によって人となり」

 

鼻歌でも歌うように、弾んだ声色で言葉を紡ぐ。

その手には、怯えきった顔の男が髪を乱雑に掴まれていた。

 

 「やっ、やめ……」

 「人を超えーー」

 

ドチュリ。

 

 「がっ……」

 

影は男の腹に右の手刀を突き入れ、

 

 「人を失う。」

 

ブチブチと音を立てて、腸を引きちぎりながら腕を引く。

また、赤い色が増えた。

 

 影は、小さく息を吐きながら天を仰ぎ、血と油でベッタリと張り付いた黒いロングヘアをかきあげてその顔を晒す。

 

そこに見えたのは、年半ばも行かぬ少女のものであった。

 

 「知らぬ者よ」

 

すくり、と立ち上がる少女。

元の色すら判別できない程に、彼女の服は血と臓物に濡れた赤い色に染まっている。

 

 グロテスク、スプラッタ。この場を言い表すための言葉は様々あれど、彼女はその光景を見てクスリと笑う。

その笑みは、狂気的で、猟奇的で、妖艶で。

 

そして少女は、最後の言葉を口にする。

 

 「兼ねて血を恐れ給え。」

 

血を払うようにその手に持っていたナタを振るう。

するとどうだろう。そのナタはガチャリ、と重々しい金属音を奏でながら半ば折れ曲がり、反対側に揃えられたギザ刃のノコギリが顕れた。

 

 「ちょっと派手にやりすぎましたかね。」

 

 また修理しなくちゃ。

少女はそう呟いて面倒そうに顔をしかめると、背負っていた鞄にその得物を突っ込んで軽く伸びをする。

流石に、爆弾を持ったテロリストの相手をするのは疲れた。

 

 「?」

 

ふと人の気配を感じ、視線を流す。

柱の陰に、人影。

狩り残しだろうか?

 

 「いや……違うか。」

 

脳の瞳は何も反応を示さない。

アレが敵ならば、瞳は「狩れ」と言うだろう。

 

柱の向こう側を覗き込んでみると、その人影の正体がわかった。

 

 「ヒッ……!」

 

少女だ。自分とそう年の変わらぬ一人の少女。

髪は美しい白金で、チャームポイントに可愛らしいリボン。瞳は宝石のブローチのように赤く大きい。

自身と同じ、しかし血に濡れていない赤い服を着て、恐怖をその目に浮かべている。

 

 「あぁ、生き残りがいたんですね。」

 

よかった。

そう言って手を差し伸べるが、赤い服の少女は尻を床に付いたまま一歩後ろへと下がる。

 

いくら引き抜いた臓物が体中に張り付き、頭から血を被っていたとしても、そこまで露骨に怖がられるとさすがに傷ついた。

ポリポリとこめかみのあたりを指で掻き、はてどうしたものかと考える。

 

獣との相対し方はよく知っているが、怯える子供の扱いというのは少々ハードルが高い。

というか、リボンを着けた少女とか完全にトラウマであるのだけれども。

 

ウンウンとしばらく考え……ひらめきは天から降りてくる。

 

取り敢えず、挨拶くらいはしておこうか。

問題を先延ばしにしたとも言う(うるせぇはらわた引き抜くぞ)。

 

 「作戦開始に間に合わず、申し訳ありません。少し、夢を見ていたもので。」

 

しかし、できるだけの好意的な笑みを持ってしても赤服の少女は怯えたまま。

 

 仕方がない。きっと彼女を怯えさせているのは自分自身なのだろう。ならば、ここから自分が去ってしまえば目の前の少女が恐怖に体を震わせる必要もない。

 

 「殲滅完了。帰還します。」

 

耳に取り付けられたインカムに呼びかけてみる。しかし、なぜか返事がない。

 

 「あちゃー……。」

 

取り外して見てみると、血がべっとりと着いている。どうにも中にも入り込んで壊れてしまったようだ。

この分だと、ポケットの中のスマホも同じような状態だろう。

 

 まぁ、いい。爆弾の処理も終わったし、どこかで着替えてこのままゆっくり東京観光でもしながら帰ろうか。

余計なもの(アメンドーズとかアメンドーズとか)まで見えないといいのだが……。

 

 「ねぇ。」

 「はい?」

 

この場から立ち去ろうと一歩踏み出したその時。不意に声がした。先の少女のものだ。

この場にいる生き残りなど自分と少女くらいしかいないのだから、その呼びかけは自分に向けられたものなのだろう。

 

彼女は振り返る。

少女は未だ恐怖に顔を歪めていたが、その双眼はじ、と自分のことを見つめている。

 

さて、なんと返すべきか。せっかく勇気を出して声をかけてくれたのだから、ここはなるべく柔らかく、優しい雰囲気で……

 

 「なんですか?」

 

落第点をくれてやろう。

自分の感情表現の疎さにここまで腹が立ったのは初めてかもしれない。

 

 「あなた、誰?」

 

そういえば名乗っていなかったなぁ……、と今更ながらに思う。如何せん狩人同士で名乗るようなことも、ヤーナムの住人と自己紹介をすることもなかったもので。

普通、初対面の人には名前を名乗るものだろうに、どうやら常識というものがすっぽり抜けてしまっているらしい。

 

気を改めて。

 

 「私は……あー、狩人。そう。狩人です」

 「かりゅど…?」

 「貴方と同じ、リコリスです。もっとも、セカンドですけど。」

 「え、でも、服……」

 「え?……あぁ。」

 

よく見る……いや、よく見ずとも青かったはずの服は返り血やら臓物やらで真っ赤に染まっていた。むしろ元の色を探す方が難しいかもしれない。

 

洗って落ちるだろうか?

 

 「……ま、いいです。」

 

逃避気味にそう呟き、狩人は目元にたれてきた血を払う。

どうにも興が乗ってくると周りが見えなくなってくる。以前にも支部長から苦言を呈されたことがあるが、こればっかりはどうしょうもない。

 

 「狩人、ですから。」

 

血に酔っていない狩人に、なんの価値があろうものか。

 

もう一度少女の方へと視線を向けると、何を言っているのか理解できていないようだった。首を傾け不思議そうな顔をしている。

 

その様子に、狩人はまたクスリと笑った。

知らぬほうが良いことも、この世にはいくらでもあるものだ。

 

狩人は少女の頬に手を伸ばし、その曇りなき瞳をじっと見つめる。

あぁ、美しい。啓蒙も絶望もない、澄み切った真っ赤な宝石。

こうしてずっと見ていると、あぁ。酔ってしまいそうだ。

 

 「ふふ。あなたとは、また何処かで見まえる気がします。」

 

 今度こそ、狩人はすくりと立ち上がり、歩き出す。

いい土産話ができた。

彼女にも語って聞かせよう。

 

 「さて。帰りましょうか。」

 

長い夜の微睡みの中へ。

 

 

ーーこの事件は、後に「旧電波塔事件」と呼ばれ、リコリスたちの間で伝説として語られることになる。

“たった一人の「赤い服」のリコリスの手により、爆弾を所持したテロリストは鎮圧された。”と。

 

 この噂から、当時現場に出ていた唯一の赤服の(ファースト)リコリスである錦木千束。彼女は英雄として語られることになる。

 

しかしこの日、京都支部より一人のリコリスが応援に駆けつけていたことを知るものは、極わずかしかいない。

そして、そのリコリスが青服(セカンド)であることを知るものも、あまり居ない。

 

故に彼女はこう呼ばれる。「赤服のセカンド」と。血に濡れた狩人と。

 





さー、誰なんでしょうねぇ。狩人って(すっとぼけ)

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