アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男 作:カサノリ
人が生きる上で必要なものとはなんだろうか。
生物としての人を考えた時には、もちろん水と食料だ。健康に長寿を全うするには薬や医療だって必要になる。
あるいは社会の中での人間を考えた時、資本だって大事だ。時に大切なものを守り、時に誰かから奪うための武力だって、なければ生きていけない地域だって存在する。
しかし、水や食料、あるいは生きるには必要なだけの金と力を持っていながらも、命を自ら断つ人間だっているのだ。それはなぜだろうと考えて、きっとこれが一つの答えだと俺は結論付けた。
「ロマンこそ! 人が生きる糧である!!」
夢、希望、友情、努力、勝利!
空想で謳われ続けている青臭いとも評された要素たち。
だが、それを持たずして人は人にあらず。人は人として生きることはできない。
だからこそ、俺は……!!
「今日も、この学園に最高のロマンを!!」
アスティカシア高等専門学園。
この広大な宇宙を席巻する巨大軍需企業、ベネリットグループが運営する教育機関にして、将来グループを担う俊英たちが通い学ぶ場所。
そこにはある奇妙な制度がある。
理事長にして現グループ総裁、デリング・レンブランの思想によるものか、「欲するものがあれば、戦って奪い取れ」との精神を体現する決闘制度。
生徒たちによるモビルスーツによる模擬戦である。
あるいは地位を、あるいは愛を、あるいは資金を。生徒たちは互いに求めるものを賭けあい、真剣に勝負を繰り広げる。
それは一つ間違えれば、学校という健全な学び舎を破滅させることにもつながるだろう。仮想敵として互いを見やり、派閥をつくり、権謀術数を繰り出して陥れる。
それが社会の縮図だと、学生の身で体感させられるのだから。
しかし、現実として"今"のアスティカシア学園に広がる光景は……
『レディースエンドジェントルメン!! 今日もやってまいりました決闘の時間!!』
陽気な声が学園中に響き渡る。
それは戦術試験区域に隣接した、まさしく実況席ともいえる塔の上から発せられている。
『しかも! 今日の対戦カードは毎度恒例あの二人!』
『赤コーナー! ジェターク寮筆頭にして、現ホルダー!
グエル~、ジェッター―――ク!!!!』
瞬間、高らかなファンファーレが鳴り響き、一機のコンテナが荒野のど真ん中に躍り出る。
開く扉の奥から金色のカメラアイが光り輝き、巨体が一歩進み出ることでそのマゼンタに彩られた全身が現れた。
ディランザ。ジェターク・ヘビー・マシーナリーの大ヒット商品であり、重装甲とそれを感じさせない高機動を両立させた傑作機。
そしてその機体を駆るのは、ジェタークの名を冠する御曹司にして学園最強パイロット、グエル・ジェタークだ。
グエル専用にチューンアップされたディランザは、そのあふれ出る自信を顕すかのように、武器であるビームパルチザンを振りかぶり、構えて見せる。
『グ・エ・ル!! グ・エ・ル!!」
『きゃーっ! グエル様、がんばってぇー!!』
『ジェタークの誇り、見せてください!!』
観客として集った学生たちから轟く、どよめきと歓声。
ジェターク寮の学生たちは自分たちのトップが見せるだろう雄姿に期待して、そして他の学生たちも賭け事や純粋なエンタメの対象として熱い視線を送っていた。
だが、決闘とは一人だけで成り立つものではない。
当然、決闘を盛り上げるにはグエルに対する、そして匹敵する対戦相手が必要。
解説役のドレッドヘアーの学生がマイクを振りかざしながら声を張り上げる。
『続いて青コーナー!!!!
お待たせしました! 本日も何を見せてくれるのか! 予測不能、停止不能のご存じ妖怪ロマン男!!』
同じく滑り込む巨大なコンテナ。
その扉が上から順次開いていき、
『なんで経営戦略科がここにいるんですか!? 毎度おなじみ、お騒がせ!
アスムー!!!! ロンドぉー!!!!!!』
瞬間、コンテナが爆散した。
それは鮮やかな赤色を振りまきながら、計算されつくしたよう機体のバックを彩る。真正面から見ているならば、往年の地球圏で人気を博した正義のヒーロー活劇をオマージュしているとわかる者もいるだろう。
兵器として存在するMSにしては派手すぎる登場。そして爆炎の中から現れる機体もまた、珍奇の一言で片づけられない造形だ。
ディランザが質実剛健と機能美を体現しているのなら、その機体、『ヴィクトリオン』というふざけた名前を冠したMSは機能美など一つもないほどのゴテゴテ具合。
無駄に造形が作りこまれた、年少の子供たちが一度は夢想するようなとげとげした頭部に始まり、全身が過度な装飾で埋め尽くされている。
しかも本来はマニピュレーターとして繊細な操作を果たすためにつけられた腕部はずんぐりと大きくまともに火器を持てるようには見えない。
だがしかし、それは兵器としての合理性から見た時の話。
これが空想の産物だとしたら、かつての子供たちがお茶の間のテレビの向こう側で見たとしたら、応援せずにはいられないだろう。
妄想と空想が具現化したような、ロマンの集合体がそこにいた。
『てめえ、相変わらずふざけた登場しやがって……!』
そのヴィクトリオンのコクピット内モニターに、対戦相手であるグエルの顔が映し出される。
ヘルメット越しでもその目が挑発的な、好戦的な色に染まっているのが見て取れる。
一方でそれを受けた少年といえば、笑顔だった。
「そりゃあ、グエル・ジェタークとの一大決戦なんだ! ド派手に! ド迫力に! 大爆発で! 盛り上げないと嘘だろ!?」
なぜなら、
「それがロマンだから!!」
誰もが兵器企業の傘下として学ぶ学園において、その宣言は変人以外の何者でもない。
だが、それに憤る段階はもう過ぎている。この少年が入学してから、一度たりともまともにふるまったことなどないのだから。
だからこそ、彼をよく知るグエルはバカにもせず、侮りもせず、真剣勝負相手として少年を見据えるのだ。
『その余裕、いつまでも続くと思うなよ! 今日も勝つのは俺だ!!』
「何度敗北しても立ち上がってきた! 宿命のライバルに勝つために! ならば、勝利の女神が微笑むのは俺に決まってる!!」
そして向き合う二人へと、立会人を務めるシャディク・ゼネリが割って入り、
『まったく、やることが派手なのは二人とも変わらないけどね。今日は試験場を半壊させないでくれよ? 一応それも決闘委員会の責任になっちゃうんだからさ』
「その時は反省文よろしく!!」
『ああ! こいつとの戦いに、そんな雑念はいらねえんだよ!!』
『はいはい。それじゃあ、お好きにどうぞ』
シャディクがへらへらとした顔を一転、真剣な面差しで二人を見やり、
『両者、向顔』
二人の決闘者が宣言する。
『勝敗はモビルスーツの性能のみで決まらず!』
「操縦者の技のみで決まらず!」
『「ただ、結果のみが真実!!」』
「フィックスリリース!」
そしてシャディクの言葉と同時に両者の機体が突貫した。
『KP001! グエル・ジェターク! ディランザ、出るぞ!!』
「KS002! アスム・ロンド!! ヴィクトリオン発進!!」
発進口上と共に観客のボルテージは最高潮に達する。
それはパイロットである二人も同じ。グエルは自身がもつトップパイロットという称号を奪い合うに、このふざけつつも確かな実力を持つ同級生を認め、そしてアスムという少年も良きライバルと雌雄を決さんというロマンあふれる舞台に熱く血をたぎらせる。
そして、その迸りを学園中に、いや宇宙全体に広げんと、ロマンを満載にした必殺技を放つのだ。
「これが必殺!!!!」
「ロケットぉおおおおお!! パァアアアアンチ!!!!」
機動戦士ガンダム 水星の魔女
アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男