アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男   作:カサノリ

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私事ですが、軽症なコロナにかかりまして、三が日まで部屋にこもりきりとなりました。

これ幸いとたくさん書きまくっていきたいと思います。


09. お部屋さがし

 スレッタの編入から続いていた一連の騒動がようやく収まり、アスティカシア学園は日常を取り戻そうとしていた。

 

 ただし、ここでいう日常とは比較的穏やかな日々というだけであり、しょっちゅう決闘は発生しているし、店頭からグエスレグッズや、スレグエグッズが消え去ったわけではない。それらは日常としてとうに受け入れられてしまっているからだ。

 

 そんな学園をようやくと謳歌できるはずになった転入生のスレッタだったが……ここで一つの問題が発生する。

 

「せ、先輩っ! 助けてくださいっ!」

 

 バタンと音を立てながら開かれる扉。ロマン男の居城である学生自治会の部屋へと慌てて駆け込んできたスレッタは、頼りになる、ほんとはあんまり頼りにするべきではない先輩に向かってこう言った。

 

「お家が決められません……!」

 

 

 

 機動戦士ガンダム 水星の魔女

 アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男

 

 

 

「どうぞ、スレッタさん。地球のアンデス地方産のローズヒップティーです。香りもさわやかで心身を落ち着かせる効能もありますよ」

 

「あっ、ありがとう、ございます……」

 

 涼やかな声とともに置かれたカップの中には、スレッタが見たことがない紅色の飲み物が入っていた。物資の届きにくい水星では合成飲料ぐらいしか飲み物がなかったため、これもまたスレッタにとっては初体験である。

 

 給仕をした女性、経営戦略科の二年であり、妖怪ロマン男の秘書を務めているマリエッタ・ユノ、通称マリーは、そのスレッタの不慣れな様子を見ると、斜め前の自分の席に戻ると同じようにカップに紅茶を入れ、そこに砂糖を一さじ加えて飲んでみせる。

 

 するとスレッタも勝手がわかったのだろう、おっかなびっくりと同じ動作をして、カップを口に運ぶ。そして、

 

「わぁ……♪」

 

 口に含んだとたんに甘い香りで満たされ、スレッタは顔をほころばせた。

 

 その様子を対面する席で見たロマン男は、できる秘書にうなずきで称賛を返し、スレッタへと問いかける。

 

「落ち着いた?」

 

「は、はい……! それと、ごめんなさい、いきなり来ちゃって」

 

「大丈夫、ここは元々そういう場所だからね。困ったことがある子は、いつでもウェルカムだよ」

 

 そういってロマン男は手を広げ、自分たちが活動する自治会室の姿を見せる。

 

 そこは非常に個性的な部屋だった。まず、壁には所狭しと少し古めかしいロボットや覆面をつけて奇妙なポーズを決めた人間のフィギュアが並んでいるし、極めつけは大きい掛け軸に「ロマン」と太い字で書かれている。

 

 部屋にはロマン男とマリーを除いても十人ほどの男女が和気あいあいと活動しているが、彼らの机の上も同じように人形やら写真やらが好き勝手に飾られていた。

 

 仮にもアスティカシア学園の部屋のはずなのに、どこまでも趣味に走りすぎている空間だ。『おもちゃ箱をひっくり返して、元に戻せない子供なのよ』とは部屋を見たミオリネの評である。

 

 スレッタの呆気にとられた様子に気づいていないのか、気づいていても気づかないふりをしているのか、ロマン男は壁際に行くといくつかのフィギュアを持ってきて、説明を始める。

 

「スレッタさんも興味ある? マケンライダーにスーパー連隊に、ウルトラメン。それに勇者ロボのフィギュアもあるんだよ。古い作品だからどこも販売してなくて、うちで放送権を買い取ったり、再版させるまでそれはもう、どれだけ苦労したことか……! だが、それでもあきらめないっ! すべてはロマン復権のためだから!」

 

「え、えっと……」

 

「委員長、スレッタさんが困っています。布教はまた今度にしましょう」

 

「おっとこれは失礼。今度の上映会はスレッタさんも招待するね。興味があったら来てくれると嬉しいな。

 それじゃあ……スレッタさんの悩み事、聞かせてくれる?」

 

「は、はい……!」

 

 なんだかよくわからないけれど、楽しそう。という、悪徳な宗教にはまる一歩手前のような心境になりかけたスレッタだが、まずは自分を取り巻く問題を解決するのが最優先。気を取り直して事情を説明しはじめた。

 

 それは、昨日のこと、

 

「えっと、エアリアルと私が決闘に勝てたので、次は寮を決めることにしたんですけど……」

 

 

 

「却下よ、却下っ!」

 

「み、ミオリネさん! そんなひどいこと言わないでも……!」

 

「アンタこそ、ちゃんとこの案内書を見なさいよ! 『一日五回の健康診断に、最新美容施設を提供します』? ペイルがそんな優しいとこなわけないでしょ!? あのババアども、アンタを実験したくて仕方ないのよっ!」

 

「じ、じっけ……!?」

 

「だから却下! ペイル寮になんか入ったらダメ!」

 

「「「何を言う! 我らは真っ当でグッドな紳士だとも!!」」」

 

「マッドでバッドの間違いでしょうが!!!!」

 

「「「ぐぉおおおおお!?」」」

 

 ミオリネの一喝に、スレッタを勧誘していた謎の白衣集団は崩れ落ちた。

 

 さらにミオリネは、ついでとばかりにビリビリとスレッタに渡された寮の案内、いかにペイル寮が素晴らしくスレッタの学園生活を豊かにするかと説明された冊子を破り捨てる。

 

 よくよく見ると、そこにはスレッタが理解できないほどの細かい文字で、実験協力やら検体提供やらの不穏な言葉が見え隠れしていた。

 

 学園一クレイジーと謳われるペイル寮。

 

 破格の条件との名目でスレッタの寮入りをもくろんでいたが、ミオリネの懸念はもっともである。

 

「ほら、次行くわよ、次! ほかにはどこからオファーが来てるの?」

 

「えっと、ぶりおん?寮に、ぐらすれー……」

 

「貸して。……って、ほぼすべての寮からじゃない。アンタ、人気あるのね」

 

 ミオリネはスレッタが抱えていたメモ帳を奪い取ると、そこに書かれた寮の名前を一瞥して呆れたような声を上げた。

 

 彼女の言葉通り、そこにはアスティカシア学園に存在するほぼすべての寮の名前が書かれている。それらはすべて、スレッタに『うちの寮に来ませんか?』と誘いをかけてきた寮であった。

 

 現在、グエルの人気と同じく、スレッタの人気も学園内ではうなぎ上りに上昇している。

 

 水星から来た謎の転校生。ホルダーの座を奪い取った強者。そして謎の美しいモビルスーツ、エアリアルの搭乗者と話題は尽きない。そうなると寮の力を上昇させるため、あるいは寮生の興味としても、スレッタとお近づきになりたいという声も当然多くなる。

 

 問題は、その数多くのオファーをスレッタがさばききれず、ミオリネに助言を求めた結果、

 

「ブリオンはダメ。あそこはセセリアがいるし、地味! ロングロンドは論外っ! どうせスレッタをロマン漬けにする気満々でしょっ! はいはい、これもダメ、こっちもダメっ!」

 

「み、ミオリネさん、ストップ! ストップですっ!」

 

 ミオリネはあまりに迷いなく、ドライだった。

 

 案内を一瞥するだけで、問答無用の一刀両断。

 

 なんとか現場を見てみたいと十か所ほどを巡ったが、どこもミオリネのお眼鏡にかなわず却下の一択である。

 

 このままでは決まるものも決まらないとスレッタの不安は募るばかりだ。

 

 先生からの説明では、実習に参加するにもサポート要員として寮生の助けを借りるのが普通らしく、今の宙ぶらりんなスレッタではまともに授業に参加することもできない状態。なので、

 

「あ、あのぉ……それじゃあ、ミオリネさんの寮はダメですか?」

 

 ミオリネ自身が所属しているだろう寮なら、ミオリネも満足するだろうと思い質問したのだが、

 

「ああ、私は寮に入ってないわよ?」

 

「……ふえ?」

 

「そういえば見せてなかったわね……ちょっと来なさい」

 

 そうしてミオリネに連れていかれたのは、アスティカシアの本校舎内、理事長室と書かれた部屋の…………隣。

 

「新、理事長室……? って、なんですか、このお部屋!?」

 

 理事長室よりも理事長室している豪華な扉に、その中に広がるこれまたどこぞの高級ホテルのような居室。そこがミオリネの部屋だった。

 

 思わず仰天しながら、スレッタはミオリネに尋ねる。

 

「み、ミオリネさんっ!? こ、これってどういうことですか??」

 

「ああ、買ったのよ」

 

「買った!?」

 

「そうよ。学園からこの部屋の権利を買い取って、自前で改造したの」

 

「改造!?」

 

 などと平然とのたまうミオリネ。

 

 そんなことが一学生にありなのかと思わないでもないが、ミオリネが言うなら、本当にそうなっているのだろう。

 

 まだ付き合いが始まって数日だが、この理事長の娘が、一般人顔負けの度胸とバイタリティを持っていることをスレッタも理解していた。

 

 一方で、そんなスレッタは部屋を見ながら、少しだけほほえましい想像もしてしまう。

 

(ミオリネさん、お父さんと仲悪いって言ってたけど……。こういうの許してくれてるし、本当は仲もいいんじゃ……)

 

 しかし、それは幻想だ。

 

「ああ、糞親父は正当な契約なら文句を言ってこれないだけ。別に親子だからとか関係ないわ」

 

「ひぃっ!? い、今、心の中、読みました!?」

 

「顔に出てたわよ。本当にわかりやすいんだから」

 

 と、そこでミオリネはスレッタへと言う。

 

「アンタは私の婚約者だし、女の子だから、この部屋で寝泊まりすることも許可してあげるけど……でも、アンタは寮に入りたいんでしょ?」

 

「は、はい……! せっかく、お友達を増やすチャンスなのでっ!」

 

「なら、面倒だけど、他のところも見に行くしかないわね」

 

 そういい、ミオリネはスレッタの手を引いて部屋を出る。あいも変わらずの強引でスレッタの事情はあまり考えてくれない仕草。だけれど、これもまたスレッタが理解し始めていることが一つある。

 

 ミオリネが本当に血も涙もない人間なのだとしたら、スレッタのことなど放っておいているはず。それをせずにこうして力になってくれるのは、ミオリネが本当に面倒見のいい人間なのだろうということ。

 

 そんな風に、ミオリネ・レンブランという人間についてだんだんと理解していったスレッタだが、だからと言って問題が解決するかは別の話。

 

「イケメンパラダイスぅ!? シャディクの奴、なに考えてんのよ!? 却下っ!!」

 

「却下っ!」

 

「ここも却下っ!!」

 

「却下っ!!!!」

 

 と、小姑のごとく難癖をつけるモードに入ってしまったミオリネによる即断即決は留まることを知らず、

 

「それで、ここが最後だけど……なんでここからも?」

 

 そうして二人が訪れたのは、グエル率いるジェターク寮だった。

 

 ミオリネとしてもここからオファーが来ていることは予想外。数日前まで敵対した相手であったことから罠かとも思い、あるいはグエルのプロポーズとその後の顛末から『あいつ脳みそまで色ボケに染まったのかしら』などとグエルに失礼な想像もしていたのだが……

 

「水星ちゃん! いや、スレッタちゃん! お菓子もっと食べな? ほらほら♪」

 

「ジェターク寮はいいとこだよぉ♪ グエル先輩は頼りになるし、みーんな仲間だから!」

 

「もぐもぐっ、これ、おいひいれふ♪」

 

「もっともっと食べていいよぉ♪」

 

「かーわーいーいー♪」

 

「アンタら何やってんのよ……?」

 

 どうやら寮生の強い要望があってのオファーだったらしい。

 

 寮に入るなり、女生徒がこぞってスレッタを囲い込み、ミオリネから引きはがすと接待祭り。見るからにおいしいお菓子や飲み物をスレッタに食べさせまくっている。

 

 フェルシーとペトラも、普段のグエルの後ろで偉そうにしている様子はどこへやら、スレッタを小動物のように愛玩……もとい懐柔しようとしていた。

 

 もうスレッタを離さないと言わんばかりの溺愛っぷりにミオリネがさすがにうろたえると、フェルシーとペトラは必死の形相でスレッタに頼み込むのだ。

 

「お願いっ! もうミオリネ様と関わりたくないのっ!!」

 

「そうだそうだっ! 私たちはスレッタちゃんにお嫁に来てほしいのっ!!」

 

「ほんとマジで、ミオリネはツライんだよぉ……」

 

「そうなの、ダメなのもうミオリネがもう……」

 

「あのねえ、心が痛いの」

 

「うん、うんうん」

 

「わかる? 最近は腰とか背中とかお尻とかまで、痛くなるの」

 

「痛いしねえ、ね、ね、寝れないんだよ。ミオリネが来ると思っただけでもう寝れないの私達。もうダメなのよ……」

 

「奥様ミオリネはきついよぉ……!」

 

「「だからスレッタちゃん、おねがいっ!! ジェタークに嫁に来て!!」」

 

 それは旧時代の地球で、どこまでも過酷な旅を強いられた二人組のような悲壮さと哀れみに満ちた願い事。ホルダーはスレッタのままでいてくれた方がありがたい、ミオリネの独裁被害に遭いたくない、むしろかわいいスレッタだけが嫁に来てくれた方が嬉しいと。

 

 だが、

 

「却下」

 

「「うそだぁああああああ!!」」

 

 ミオリネにはそんな泣き落としは通じるはずもなく、フェルシーとペトラ、そして寮生たちは絶望に沈むのだった。

 

 それが昨日行われた、ミオリネによる学生寮百人切りの顛末である。

 

 

 

 

「そ、そういうことがありまして……」

 

「やばいな、ミオリネ……。善意で迷惑を振りまいてやがる……」

 

「最近はさらにブレーキが壊れていますね……」

 

 自治委員会室にて、ことの次第を話し終えたスレッタ。それを聞いたロマン男も、傍らのマリーも、あまりにあんまりなミオリネの傍若無人っぷりに戦慄とする。

 

 エアリアルの破棄を取り下げるために父親に啖呵を切ってから、いやそれ以前から兆候はあったものの、ミオリネの女帝ぶりがさらに加速しているようだ。

 

 ただ、ミオリネにしてもスレッタを心配してのことだとは二人も、そしてスレッタも理解していた。

 

 学生同士の陰湿な諍いやいじめは大っぴらには見られなくなってきたものの、エアリアルをめぐるジェタークとの争いのように、学生のバックについている企業側は今もアスティカシアで陰謀を巡らせ続けている。

 

 学生が好意からスレッタを招いていたとしても、大人たちがその結果を利用してスレッタとエアリアルによからぬことを企んでいる可能性は消し去れないのだ。

 

 なので警戒するのも正解なのだが、警戒しすぎてもスレッタの行き場はなくなってしまう。

 

「だったらミオリネが責任取って、ちゃんと寮を探せって言いたいけど……。アイツもビジネス関係ならともかく、友達はそんなにいないからなぁ」

 

「うぅ……どうしたらいいでしょうか!?」

 

 さて、とロマン男は考える。

 

 なにをすればスレッタが安心できる家を見つけられ、ついでにロマンあふれる結果になるか。

 

 少しの間、まじめな顔で考えつつ、脳内の名作ライブラリから今の状況に合った物語を見つけ出し……

 

「よし分かった! まずはミオリネとスレッタさんが納得するまで話し合わないとだめだ!!」

 

 ロマン男はパンっ!と手を叩いて立ち上がった。

 

「話し合う、ですか?」

 

「うん。スレッタさんはミオリネの意見も無視したくない。だけど、今のままだと寮が見つからないんでしょ? だったら、ミオリネに黙ってついていくだけじゃなくて、ちゃんと話し合って妥協しないと!」

 

「あ、た、確かにそうですね……! でも、ミオリネさんがどこにいるのか、私もよく知らなくて……」

 

「大丈夫ですよ、スレッタさん。委員長がそこは抜かりなく把握していますから」

 

「ハハハ! 大船に乗った気でついてこいっ!」

 

「あ、ありがとうございますっ!」

 

 高笑いしながら胸をどんと叩くロマン男。その姿に、スレッタはやっぱり頼りになる先輩だと、目の前の妖怪に希望を見出し始める。

 

 だが、スレッタも今日、思い知ることになる。妖怪はやはり妖怪であり、その影響を受けてブレーキがぶっ壊れたミオリネもまた、同種の怪物なのだと。

 

「じゃあ、はぐれないようについてきてね。はぐれたら、多分死ぬから」

 

「………………え?」

 

「いくぞぉ! ミオリネ農園へっ!!」

 

 不穏な一言に戦慄としたスレッタを連れ、ロマン男は部屋を飛び出した。




壇ノ浦レポートに大爆笑した思い出。


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