アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男 作:カサノリ
後々、ライオンやらもつくかもしれませんが。
「すまない、スレッタ・マーキュリー」
「え……?」
「本来、この決闘は君と関係がなかったはずなのに、私たちの問題に巻き込んでしまった」
地球寮の整備室の中で、アリヤはスレッタへと謝罪した。
「正直に言うと、今回の件は私たちが八割は悪い。オジェロもヌーノも、少しばかり浅はかというか……マイペース過ぎるところがあるし、チュチュはあの通りに激しい性格だ。私とマルタンがうまく抑えられればいいのだけど、性格上、うまくいかなくてね」
はぁ、とアリヤはため息をつきながら言う。
ちなみにその二年男子たちは、スレッタを巻き込んだ責任を取って、エアリアルを隅から隅までメンテナンスしている最中。アリヤにとってかわいい後輩なのには間違いないが、ギャンブル好きに喧嘩早さといい、もう少し大人しくしてほしいとも思ってしまう。
「できれば二年にもう一人、しっかり者の子がいてくれればいいんだが……いや、これはないものねだりか。とにかく、この決闘も君が嫌だというなら、断ってくれてもかまわないんだよ?」
アリヤがスレッタに伝えたかったのは、今からでも決闘から降りるという手があるということだ。
スレッタは今回、本当にとばっちりで巻き込まれただけ。
かといって、負ければホルダーはロマン男の手にわたってしまうし、そのことでエアリアルがまた難癖付けられてしまうかもしれない。大人しくこの決闘の場から降りるのも、選択肢として考えてもいい。
だが、
「だ、だいじょうぶ、です……!」
「本当に、いいのかい?」
「はいっ! 私も、ミオリネさんに言いたいこと、ありますから……!」
スレッタにも戦う理由はある。
ミオリネは確かに正しいのかもしれない。商才もあり、行動力があり、どこまでもその身一つで貫こうとしているのもわかる。
だとしても、寮探しの件や農園のことを振り返ったことで、スレッタからミオリネに伝えたいこともできたのだ。
決闘の勝者となり、それをミオリネに伝える。
決闘とはお互いの主張を堂々とぶつける場所。グエルとの戦いで決闘をそう理解したスレッタにとって、もっとミオリネと仲良くなるいい機会だと考えていた。一つ不安材料があるとすれば……
「そういえば先輩って、どんな戦い方をするんですか?」
「そんなの見れば……って、そうか。君は来たばかりで、彼の戦いを見たことはなかったか」
「は、はい……」
スレッタがロマン男の戦いを見たのは一度だけ。学校に来た初日に大人たちのMSに囲まれたスレッタをかばってくれた時のことだけだ。
それも暗がりでのことで、彼がどんなMSに乗るのか、そもそも経営戦略科なのにMSに乗っているのはなぜなのかすら、スレッタはよく知らない。
「グエルさんと、ライバル……っていうことだけは知っているんですけど」
するとアリヤは少しだけ言葉を選んで、
「そうだね……。一言で言うなら……無茶をするやつだ」
「む、無茶……?」
「そう。さらには無茶苦茶だ。アドバイスしようにも、なにをしてくるかわからないから対策の立てようがない」
「……そ、そんなに、ですか?」
「そんなに、だよ。アイツは昔からね」
アリヤはそこで、過去を懐かしむように笑った。
「少し昔話をしようか。私が入学したころの学園は……言葉を選んでもかなり荒んでいてね。企業同士の小競り合いは激しいし、その空気のせいで学生に余裕もなかった。……なにより、アーシアン差別はひどいものだったよ」
「同じ、学生なのに、ですか?」
「そう言えるのは君が善良だからだね。地球と宇宙、経済の格差が生まれて幾年月。地球を対等だと思うスペーシアンはもういないし、学生であってもそう」
アリヤたちは貧困にあえぐアーシアンの中でもかなり恵まれた方だ。教育の機会が与えられ、こうして大企業のおひざ元で生活できている。
だとしても、周りのスペーシアンからすればアーシアンには変わりない。むしろ子供であることで残酷さには歯止めがかからない。学園全体でアーシアンは虐げていいと、そんな暗黙の了解さえあるほどだった。
「毎日毎日、嫌がらせだらけ。寮にいるとき以外、心が休まるときは来ないんだろうって、そう思っていたんだけど……」
アリヤは目を閉じる。
そして、あの"バカ"が無茶苦茶をしていた日々のことを思い出す。今でも、彼女の耳にはあの底抜けに元気な声が響いてくるようだった。
『差別なんてめんどくせえ! それより青春しようぜ!!』
なんて、わざわざいじめられているアーシアンの女の子の元へ飛んできては、いじめていた上級生に青春とロマンを布教しはじめる不審者。そんなことを毎日するものだから、ついたあだ名が妖怪ロマン男。
当然、上級生はアーシアンの味方をする裏切り者だと、ロマン男も攻撃しようとするが、この学園で小競り合いが起これば解決方法は一つだ。
「彼はすべての決闘に勝利したよ……私たちのために。そして決闘の勝利と、自分の会社の力も使って、一つ一つ学園を変えた。自治会を立ちあげ弱者の受け皿にし、理事にもなって仕組みを変え、学生らしい楽しみを増やしては、私たちも中に入れるようにした。おかげで今、この学園の差別は驚くほど少ない」
スペーシアンへの対抗意識が強いチュチュが、スレッタに素直に頼みごとができたのも、その影響が大きい。これで日ごろから嫌がらせを受けていたら、手の付けられない狂犬になっていただろうとアリヤは思う。
「彼はそれを理想のロマンを実現するためだと言っていたけれど、私にとっては……そうだね、控えめに言っても返し切れない恩がありすぎるな」
アリヤはそこで、少し語りすぎたとばかりに頬を赤く染めると、こほんと咳払いをした。
「そういう無茶を通す力を彼は持っているし、グエル・ジェタークまでとは言わないが操縦技術も一級品だ。戦うなら、最初から全力でいくことを勧めるよ」
「……はいっ! わかりましたっ!」
機動戦士ガンダム 水星の魔女
アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男
そして決闘の日が訪れる。
決闘委員会のラウンジにて、向かい合うスレッタとミオリネ。両者の近くにはそれぞれ地球寮の面々とロマン男が控えていた。
それらを見て立会人のグエルは呆れるように言う。
「よりにもよって、スレッタとお前が決闘かよ。これでそのバカが勝ったら、ホルダーもバカのものになるが、いいのか?」
「その時はこのバカに毒を盛って存在を消してから、スレッタをホルダーにするわよ。あくまでこれは事業を円滑に進めるための決闘。ホルダーの話は関与させないわ」
「そうか、ならいい」
((((いいんだ……))))
毒を盛るやらとんでもない話がさらりと出たことに、様子を見守るセセリアまでが愕然とするが、当のミオリネとグエルは平然として、決闘を進行させていく。
「双方、魂の代償をリーブラに」
「スレッタ・マーキュリー、お前はこの決闘になにを賭ける?」
「わ、私は……! ミオリネ農園のみなさんの、待遇改善ですっ!」
「ミオリネ・レンブラン、お前はこの決闘になにを賭ける?」
「従業員たちが、今後は一つも文句を言わずに働くことよ」
そして、
「ālea jacta est……決闘を承認する」
パンと打ち鳴らされた掌によって、決闘が正式に認められた。
緊張が解けたのか、ほっと息を吐くスレッタ。するとそこへ、
「よろしく、スレッタさん!」
などと顔を煌めかせながらロマン男がやってくる。
「せ、せんぱい……? な、なんでそんなにうれしそうなんですか?」
負ければひどい目に遭い、勝っても毒が盛られるとか言われているのに、完全にピクニックに行く前日の子供のようなウキウキっぷりである。
するとロマン男は楽し気に言うのだ。
「いきなり俺が決闘に出ろって言われた時は驚いたけど、考えてみたらスレッタさんと戦えるちょうどいい機会だからね! 成長した後輩と、先輩とがぶつかり合う……。悲しいけれど、これが運命……!! なんてロマンだっ!!!!」
「は、はぁ……」
テンションが上がって、なにやら変な妄想までしている妖怪にスレッタもさすがに理解が及ばない様子。すると、そこに険しい顔をしたグエルが顔を挟みこんできた。
「おい、てめえ。スレッタ相手に変なことしてみろ。俺がただじゃ済まさねえぞ……!」
「ぐ、グエルさん!?」
「よかったわね、スレッタ。グエルの奴、べたぼれよ?」
「ち、ちげえっ! 俺は友人として、こいつの安全を心配しただけだっ!!」
「はっはっはっはっ! 安心しろ、グエル! 俺はロマンを追及するが、もちろん安全第一!! 見ていろアスティカシア学園! 最高で健全なロマンとエンタメで決闘を盛り上げてやるからなっ!!」
しかし、その宣言を聞いたグエルも、ミオリネも、その表情は冷めたものだった。
「一つも安心できねえ……!」
「それだけは同感ね……」
そしてスレッタは、
「先輩……」
高笑いする妖怪ロマン男と呼ばれる、とてもとても世話になった気がする男のことを考える。改めて近くで見ても、どこまでも子供っぽく、なんだか自分たちとは違う世界を見ているような気さえしてくる人。だけれども、
『彼はすべての決闘に勝利したよ……私たちのために』
(誰かを守るために、ずっと戦い続けてきた強い人……!)
アリヤの言葉を思い出し、スレッタはぐっと拳を握りしめた。
決闘の場所は、第11戦術試験区域。もちろん、形式は個人戦。
そこは月面を模した、遮蔽物が少ない平坦なステージだった。
(私とエアリアルにとっては、かなり戦いやすい場所、だよね?)
エアリアルとともに降り立ったスレッタは、コクピットから周囲の状況を確認し、そう結論付ける。
エアリアルの特徴的な武装であるエスカッシャン、そしてそれを構成する11のガンビットを使うには理想的な環境だ。
なにせ、相手は遮蔽物に隠れることもできず、全方位からのビットの射撃にさらされることになるのだから。
どうやって先輩の機体を追い詰めていくか。その戦い方を頭の中でゲームのようにシミュレーションしていたスレッタ。そこへチュチュたち地球寮の面々から通信が入る。
「は、はい、もしも……」
『スレッタの姉御っ! あーしたちの運命、姉御に託したかんなっ!』
「あ、あね……!?」
『頼むぅ! 俺たちの自由のためにっ!』
『今後、俺達をただでこきつかっていいからさぁ』
『あはは、ほんと迷惑かけてごめんね。でも……お願い』
「は、はいっ! 頑張りますっ!」
スレッタはなんだか嬉しくなって元気に返事をする。
この間の決闘の時も、観客席で少なくない学生たちが自分を応援してくれているのを知ったときは、とても温かな気持ちになって、力が湧いてきた。
今回もそう。きっとこれなら戦えると、考えた時。
『仲間からのエール、それにこたえるヒロイン!! いいぞっ! いいロマンだっ!!』
「え……? えぇえええええええ!?」
スレッタが上空を見ながら、驚きの声を上げた。
ロマン男の声が響くと同時に、試験区域の上空からコンテナが地面に向かって射出されたからだ。
轟音と共に巻き上がる砂埃。少しだけそれが晴れると、中から謎のオーラを放つコンテナが現れる。そして、
『来いっ!!! ヴィクトリォオオオオオオオオン!!!!』
声帯が焼ききれんじゃないかというロマン男の大声とともに、コンテナが開き、異形のMSが姿を現した。
それは全身ゴテゴテの重装甲。機能性より見栄えだけを重視したことがまるわかりの、子供の空想から出てきたようなロボット。そしてなにより、スレッタが子供の頃に水星で見た、古いアニメの主人公機そのまんまな姿。
ロマン男の文字通りの愛機、ヴィクトリオン。
それが派手な音とポーズ、そして謎の爆発とともに姿を現したのだ。
『待たせたなぁ、スレッタさん! およびとあらば即参上! 見敵必殺ヴィクトリオン、ただいま現着!!』
ロマン男がしゃべるたびに、なぜか頭部のツインアイがピカピカと光る。しかも謎の口上を言っている間の動きときたら、あまりにもぬるぬるとしていてエアリアルよりもよほどGUND-ARMを使っているんじゃないかというほどだ。
「はわわわわわ……!」
一方、それを目の前で見させられたスレッタはと言えば、混乱の極みにあった。
当然である。
決闘に来たと思ったら、こんなアニメみたいな展開に巻き込まれるなんて想定外だ。水星で数々の修羅場をくぐったスレッタといえど、こんなことは経験したことがない。
しかし、これはアニメじゃない。ほんとのこと。
そしてスレッタが混乱している間にも、決闘は進行していく。
『両者向……って、おい! しっかりしろ、スレッタ!!』
「ぐ、グエルさん!? あ、あれ、あれって何なんですか!?」
『うろたえんな、あれはバカだっ! まずは冷静になれっ!』
「は、はいっ!」
『ふふふふ、スレッタさんも見惚れてしまったか。このヴィクトリオンのかっこよさに』
『てめえは少しでも現実を見ろっ!! もういいな? ……両者、向顔!』
『いくぜぇ! 勝敗はモビルスーツの性能のみで決まらずっ!!!!』
「そ、操縦者の技のみで決まらず……!」
『「ただ、結果のみが真実!!」』
『フィックスリリース!』
「LP041スレッタ・マーキュリー! エアリアル、行きます……!」
『KS002! アスム・ロンド!! ヴィクトリオン発進!!』
砂埃を上げながら起動する両MS。そしてもちろん、その模様は全校に公開されていて、特設された観覧席では両者の応援団が気炎を吐いていた。
そんな全校が見守る中で始まった決戦。
スレッタは事前の想定通り、まずはエスカッシャンからガンビットたちを独立させる。相手は謎の多い機体だけれど、この間のディランザのように重装甲のMSへの戦い方は理解していた。
どんなに堅い敵でも、関節部は弱点。
だからそこを狙おうと、ガンビットが宙を泳ぎ、照準を定めようとしたのだが、
「…………え?」
『ヴィクトリオンンン、ゴォオオオオオ!!!!!!』
その前にバカの叫びを伴いながら、ド派手にバーニアを吹かせたヴィクトリオンがエアリアルへと突っ込んできたのだ。真正面から。なんのためらいもなく。
「えぇええええええ!?」
慌てたスレッタは、後退しながらビームライフルで応戦する。
同時に、スレッタの指示を受けたガンビットたちも、四方からヴィクトリオンを狙撃した。狙いは関節部と頭部のブレードアンテナ。しかし、ただでさえ最大出力の爆走で迫ってくる相手。しかもその動きが土煙をまき散らしてのど派手なものとなれば難しい。
狙ったとおりの関節部には照準が合わず、見かけ通りに分厚い装甲に当てて傷をつけることはできても肝心の関節部やブレードアンテナを破壊することはできない。
直線の機動力と膂力は相手のほうが圧倒的に上。
巻き上がる砂煙、噴射熱だけでゆがむ背景。
そうして迫る様は、スレッタが見てきたどのMSよりも恐ろしさに満ちていた。そして、
『最短で、最速で、まっすぐにいいいいいい!!!!!!』
バカが嬉しそうに叫ぶ。
ヌンっ、と。とうとう攻撃を潜り抜けてスレッタとエアリアルに肉薄したゴテゴテロボット。
しかも、それは既に右こぶしを引き絞ったような奇妙なポーズをしており、バカは待ってましたとばかりにそれを叫ぶのだ。
光る拳、轟く炎、火花散らす回転の先に現れる、ロボットといえばな伝統の技。
『ひっさぁああああああああああつ!!』
「えっ、なにっ!? なにっ!? なんなんですかぁ!?」
『ロケットパァアアアアアアンチ!!!!!!』
声とともに、ヴィクトリオンの拳がうなりを上げて、エアリアルの頭へ発射された。
ぎゅんぎゅん回転し、謎の光を発しながら迫るマニピュレーターにしてはでかすぎる腕部。
そんなものを打ち出してきたヴィクトリオンと、なにより戦闘中にずっと叫んでいるロマン妖怪に対して、スレッタとエアリアルは思う。
((なにこのひと、こわい……!!))
一方で、ヴィクトリオンとロマン妖怪がさっそくの見せ場を作ったことで、実況席もヒートアップしていく。
『おぉっと!! 避けた避けた!! スレッタちゃんとエアリアルきゅん、間一髪でロケットパンチをよけたぁああああ!! 解説のシャディク先輩、今のはいかがでしょうっ!』
『うーん、水星ちゃんが見事っていう他ないね。あの距離からロケットパンチを出されると、たいていのパイロットはシールドや腕で防ごうとするんだけど、そのまま装甲ごと貫通してブレードアンテナを折られちゃうんだよ。
だからエアリアルが態勢を崩しながらも直撃を回避したのはいい判断だね。水星っていう過酷な環境での操縦経験が危険を察知したんじゃないかな?』
『なるほどっ! しかし、ピンチはまだ続いていくっ! 逃げるエアリアル、追いかけるヴィクトリオン!! 距離は……っ、だめだっ! 離せないっ!!』
『おやおや、完全にアスムのペースだね。水星ちゃんも何とかしないと、このまま押し切られちゃうかもしれないよ?』
そんな解説がされていることを、当然、スレッタは聞く余裕がない。
実況の通り、ヴィクトリオンとロマン男はエアリアルとの至近距離を保ったまま、攻勢を続けていた。
ごつい腕よりも当然さらにごつい脚部でのキックや、残った左手の袖から出てきたビームサーベルによる斬撃だ。
スレッタとエアリアルも、ビームサーベルを背中から抜き出して捌いていくが、膂力の違いもあって、押されるばかり。ならば、得意のガンビットを用いた射撃を行うべきなのだろうが、
「この距離だと、エアリアルにも当たっちゃう……!!」
そう、あまりにもヴィクトリオンが接近しすぎていた。接近戦で激しい動きを強制されている状態で、相手だけを狙って撃てというのはあまりにも難しい。生半可な射撃を加えたとしても重装甲の相手を数発で倒せるはずもなし。
スレッタは考える、
(先輩、やっぱり強い……!)
あのグエルとライバルだというのもはったりじゃない。
最初の突撃時も機体のデリケートな箇所への攻撃は巧妙に防いでいたし、大仰な必殺技を打ち込むためにも高度な機体制御が必要だ。本当にどこが経営戦略科だという操縦技術である。
(接近戦を選んだのも、きっとみんなが攻撃しにくいように……)
『ハハハハハ!! 接近戦こそ男のロマン! やっぱりロボはこうでなくっちゃっ!!』
(……ちがうかも)
本人の真意はどうあれ。状況はロマン男有利に傾いていた。
だがスレッタとエアリアルとて、まだ見せていない手はたくさんある。
「みんな! 集まって!!」
『合体だとぉ!? くぅっ! 良いロマンだなっ!』
スレッタの呼びかけに応じてガンビットたちがエアリアルの各部へと集まり、接続されていく。ビットオンフォームと呼ばれる、高機動形態。しかし、二機のビットだけは接続させないまま置いておき、
「しつれいしますっ!」
『っ!?』
エアリアルとヴィクトリオンの間、そのわずかな隙間へとビームを連射したのだ。
地面すれすれからの地面への射撃なら、万が一にも誤爆の危険はない。しかし、それで起きる効果は絶大だった。衝撃と巻き上がった砂埃は確かにロマン男の行動を一手遅らせ、その隙にエアリアルは全スラスターを最大出力で展開、ロマン男の魔の手を逃れ、宙へと舞い上がった。
「はぁ……! はぁ……!」
ようやくと息をつこうとするスレッタ。
距離がとれたなら今度こそビットで攻撃を、と考えるが……しかし、ロマン主義者は止まらない。
『ヴィクトリーカノンっ! 展開っ!!』
「…………へ?」
デカく、アツく、カッコよく。それがスーパーのつくロボットの鉄則だと信じてやまないロマン男に、小休止などというものはない。
ヴィクトリオンの背中からガチャガチャと派手な音を鳴らしながら、ロケットパンチで失われた右腕部へとパーツが展開されていく。質量が偏りすぎて、直立するのが難しくなったのだろう。片膝をつき、全身で右手を支える姿勢になるヴィクトリオン。
『フルチャージっ!!!!』
その右手に現れたのは、それを行ってもなお支え切れるか不安なほどの大口径の砲身。しかも見ている間に、ぎゅんぎゅんと音を立て、砲身へとパワーが集まっていく。
それは兵器としての利便性や、整備性なんて最初から無視した兵装。
どこまでもアニメ染みた光景に。スレッタはまたしても、我を忘れて叫んでしまった。
「そ、そんなのありですかぁああああ!?」
『ロマンなら……ありさ!!!!』
『ヴィクトリ―カノン、はっしゃぁあああああ!!!!』
そしてカッと目がくらむほどの光とともに、極太のビームが発射され、スレッタとエアリアルはその光に飲み込まれていった。