アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男 作:カサノリ
余談ですが、強化エアリアルがビット合体ごん太ビーム出したところでガッツポーズしました。ついでに本作中で宇宙域戦で実弾使ってなくてよかった(ミサイルはディランザが装備しているのでOKそうですね)。
うちの話は、たぶんあそこまで地獄にはならないはず…たぶんメイビー。
GUND-ARM"ファラクト"。
ペイル社によって保護された旧ヴァナディース機関の"魔女"ベルメリアの主導によって開発された、正真正銘の"ガンダム"。
そのガンダムとしての真価はスタンビット"コラキ"を用いた敵の足止めと、GUNDフォーマットをもちいた高精度の狙撃の合わせ技だ。
スタンビットの放つ電磁ビームは、MSに直撃するとその電子制御を麻痺させて、一時的な機能不全に陥らせる。そして一時的であっても、それは戦場において致命傷。四対八機のスタンビットはその隙を見逃さず、敵MSの運動能力を根こそぎ奪い、本体が安全圏から狙撃することになる。
そうでなくてもペイル社のMSは他と一線を画す機動性を持っており、接近戦に持ち込むのは至難の技。なのに離れていても縦横無尽に動くビットによって動きを止められてしまうとなれば、これほど厄介な敵はない。
……GUNDフォーマットの利用によるパイロットへの負担という弱点も、使い捨ての強化人士を使うことでカバーしている。
そんなファラクトへの対策を立てるとすれば、より機動性を高めてビットに阻害される前に接近戦を挑むか、あるいはビットの動きを何らかの方法で阻害する、そしてもう一つ……
「面制圧……っ!!」
エラン・ケレスはファラクトのコクピットで苦悶の声を上げた。
彼の眼前に迫る、ミサイル、ミサイル、ミサイルの雨あられ。その中には他よりも巨大なミサイルまであって、それはファラクトの近くに近づくと弾頭が外れ、さらに小さなミサイルに別れるのだ。しかもそのどれもが誘導ミサイルとしてファラクトへと迫っているのだから質が悪い。
すでに初撃でスタンビットの二機は落とされ、残りは六機。
だというのに、目の前には隙間なくミサイルが迫っており、エランがゲームを嗜んでいたならば安地を探さなければ無理だと絶望するほどの弾幕となっていた。
もしこれがエアリアルのように攻撃性のビームを放てるガンビットならば、四方へとビームを放って片っ端からミサイルを打ち落とせるだろうが、
(ファラクトのスタンビットに、実体への攻撃能力はない……!)
迫るミサイルに当てたところで、誘導装置を壊して狙いをそらすくらいが精いっぱい。かといって、その場で誤爆しようものなら、ビットにも爆炎が直撃して、ビット自体が破損してしまう可能性もある。
ファラクトは遠距離からの一方的な蹂躙が必勝パターンであるが、それすら許さぬほどの圧倒的な火力で迫れば、その優位性が崩れる。
(まるで、ファラクトの性能を知っていたかのような装備だ……!)
それになにより、
「いったい、どれだけの資金をかけてるんだ、あのバカは……!!」
エランは呆れ果てながら叫ぶ。
MS規格の誘導ミサイル一発でも相当な金食い虫だというのに、それを雨あられと打ち出すなど正気の沙汰ではない。確かにど派手で見栄えもよく、ついでにファラクトへ効果的な攻撃となったが、学生の一決闘に持ち出す予算規模ではないのだ。
そしてそれを惜しみなくばらまいていくロマンバカはと言えば、
『これで来年度の予算はゼロだな。来年度があればだが……』
などと言いながらポチポチと発射ボタンを連打していた。
真偽のほどは定かではないが、とにかく金食い虫の装備を引っ提げてきたのは間違いない。
とはいえ、そのバカげた装備を出してきたのはバカのバカみたいな判断だが、エラン自身も負けるわけにはいかない。
(こんな相手にファラクトで負けたとなれば、もう僕に先はない……)
エランだって自分の未来に悲観しつつも、死にたいわけではないのだ。
新型を投入しておいて、戦果もなく敗北などすれば、強化人士としての有用性にも見切りをつけられてしまうのは必定。ファラクトを出した以上、エランには敗北は許されない。
「だから……! 邪魔をするなっ!!」
エランはらしくない叫びを上げながら、ミサイルの雨を縫うようにマニューバーを行っていく。ファラクトとエランはパーメットによって結び付けられており、その動きはまさに人機一体。巧妙にミサイルを避けていくが、
「っ……!」
近場に接近すれば爆発を繰り返すミサイルによって、機体の各部にダメージを負うことは避けられない。
だが、それでも避けられるとなれば、相手の動きを阻害することもできる。
「いけっ……!」
一対のガンビットが、ミサイルの包囲をすり抜けてロマンバカへと迫った。
それは赤い電磁ビームを放ち、ロマンバカの背面にあるミサイルポッドの機能を停止させる。これにより砲撃の勢いは弱められるというエランの判断だった。
しかし、バカは止まらないがゆえにバカである。
『ハハハハハハ!! アーマー! パァアアアアジッ!!』
背面のミサイルポッド、それ自体が分離し、火を噴いて一直線に空へと舞い上がる。電子制御など関係ない、単純なジェットの点火による飛翔。そして、それはエランとファラクトのいる高度まで到達すると、
「っ……!?」
はじけ飛び、その中から極小のマイクロミサイルが360度、全方位に向けて放たれたのだ。
「ガンビットが……!!」
耳をつんざく爆音と光の中、エランが顔をしかめる。彼の目の前で、さらに二機のビットがミサイルの直撃を受け、ふらふらと動きをなくして地上へと落下していった。これで残されたビットは四機。
(ビットは小型だから、この程度の火力でも壊すことができる……! あいつはそれを狙って……!)
追い詰められている。エランはその事実を改めて認識し、そして先ほどロマン男が言い放った言葉を思い出した。
『俺は、一つもふざけてなんていない。君と、その"ガンダム"に……勝つつもりでここに来た!!』
確かにそれは事実のようだ。
ガンダムの情報をどこからか仕入れていたのか、それとも元からペイル社製の機体ならば高速機動に秀でていると予想していたからか、あのロマン妖怪はふざけた流れで始まった決闘にもかかわらず、本気でエランを倒そうと準備をしていた。
そのことが、エランの感情をさらに波立たせる。
「……パーメットスコア、4!!」
そしてファラクトの動きが変化した。
動きはさらに有機的に、さらに激しく、さらに早く。
人間に許されたMSの挙動をはるかに超えて、ファラクトは魔法のように宙を舞う。
しかし、その分……
「はぁっ……! はぁっ……!!」
エランはコクピットの中で苦悶の表情を浮かべていた。
スコア3の段階で脳に手を入れ、かき混ぜられたような苦痛を感じるというのに、4にまで到達したのだ。全身がミキサーでかき混ぜられたような痛みに襲われてしまう。
いくら強化人士としてガンダムに最適化されたとはいえ、この状態では長くはもたないだろう。
だから、エランはミサイルの雨を潜り抜けると、
「アスム、ロンドぉおおお!!」
ロマン男へとビットを引き連れて突貫した。
それはファラクトのセオリーからは外れた戦法だったが、敵にはおそらく十分なミサイルの備蓄があり、自分には時間がないという状況下での致し方ない判断だった。
とにかく接近し、敵の動きを止めて、破壊する。
すると、ロマン男は
『いいねっ! 面白くなってきたぁ!!』
全身のミサイルポッドをいくつも射出して、ファラクトへと向かわせてくる。そうして本来のヴィクトリオンの姿に近くなると、生まれた余剰出力をもって空へと飛びあがってきた。
「おまえは、いったいなんなんだっ!?」
ビームガトリングを斉射しながら向かってくる妖怪へと、エランは叫ぶ。
「僕には何もないっ! 家族も、誕生日も、名前も、未来すら残されていないっ! 僕にはこれしかないんだっ!! なのに、お前はなんで邪魔をするっ!!」
それは自分の運命を、この世界全てを呪うような、悲しい叫び。
しかし、ロマン男は言い放った。
『はぁ、なにもない!? 友達が、ここにいんだろうがぁあああ!!!!』
「っ……!?」
ヴィクトリオンが抜き放ったビームサーベルと、ファラクトのビームサーベルが交差する。しかしガンドフォーマットによって制御されたファラクトのほうが、上手だ。ヴィクトリオンの肩口を切り裂いて、肩に乗ったミサイルポッドを破壊する。
そして再度の攻撃を図りながら、エランは叫んだ。
「僕に、友達なんていないっ!!」
この顔も、名前も、全てが偽りの学園生活。
その中で生まれた人間関係など、偽りでしかない。いつかは奪い去られ、本当の自分は忘れ去られるだけだというのに。
『だったら俺は、お前の何なんだっ!?』
「っ、ただの……バカだろっ!?」
『いいね、"バカ"っ! 立派なあだ名じゃないかっ! シャディクも、ミオリネも! グエルやアリヤ、サビーナだって!! 俺の友達はみんな俺を"バカ"って呼ぶんだ!』
だったら、
『お前もその友達だろ!!』
バカの言葉が勢いを増し、機体もそれに合わせて突撃を敢行してくる。
だが、ファラクトはそうたやすく接近させてくれない。
「おまえが、勝手についてくるだけだっ……!!」
ヴィクトリオンを引きはがすように、あるいはとどめるように、スタンビットがビームを乱射する。それはヴィクトリオンの分厚い装甲にあたって、その機能を止めようとするが、
『つれないこと言うなよっ! 俺も、この学園も、お前にはあるだろっ! それに誕生日もパーティーしたじゃねえかっ……!!』
バカはそのたびに装甲をパージし、機能不全が広がらないようにする。
「それもお前が、かってに決めた日だろっ……! しかも、一昨年も去年も、ちがう日だった……!」
『教えてくれないんだから、しかたないだろっ!!』
「だったら、勝手に祝うんじゃあないっ!!」
一方で、身軽になったことをいいことに、空中を旋回しながら両手のビームガトリングを乱射して、ビットを狙っていくバカ。それはスコア4に至ったガンビットの動きを止めきれはしないが、かといって正確に狙いをつけさせることを阻害して、致命的な攻撃を避けることには成功させていた。
「誕生日プレゼントに送ってきたのも、シェイクスピアの原語版で……!」
『好きな本だっただろ!』
「もう、一冊もってたんだよ、このバカっ!!」
『いえよっ!?』
「言えるわけないだろっ!?」
『なんでだよっ!?』
「だって……」
そんな刻一刻と過ぎていく戦いの中で、消耗していくエランの口をついて、今まで隠していた言葉がでてきてしまっていた。
「誕生日、祝われたのは初めてだったから……」
『ハハッ!! それは、嬉しいなぁっ!!』
「っ……お前はいつも食堂でニンジンをよこしてきたり」
『俺は苦手で、お前は好きだからウィンウィンだ!』
「誰がそんなこと言った! 僕だってそんなに好きじゃないんだっ!」
『じゃあ、貸した漫画にアニメもかよ!?』
「毎回、改造人間が出てくるの、気が滅入るんだっ……!!」
エランは考える、どうして自分はこんなに言葉が出てくるのだろうと。
痛みの中で夢を見ているように、バカが勝手にまとわりついてきたこれまでを思い出す。本当に、一つも笑い顔を見せたことがないというのに、ついでにその感情を察するデリカシーもない癖に、この男は虫のように、エランの周りをぶんぶん飛んでいた。
だから、
「お前と友達なんて、なんの冗談だっ……!!」
そしてファラクトのガンビットがヴィクトリオンのバックパックを捉える。それは残された最後のミサイルポッドであり、ファラクトに曲がりなりにも追いつくための機動力を担っていた部位。
機械というものは精密で、一部が機能不全になれば連鎖することも多々ある。この追加兵装も相当に無茶な改造を施していたためだろう、
『っ……!?』
ミサイルに引火したのか、バックパックから光があふれ、ヴィクトリオンが大きな爆発に飲み込まれていった。
「はぁ……はぁ……」
息も絶え絶えなエランは、一瞬だけ油断する。これで、あのバカでも命運が尽きたはずだと。
これだけの爆発に飲み込まれたら、下手すれば怪我では済まないはず。
だが……
(いや、だめだ……)
理屈ではなく、このバカが絡んできた毎日を思い出して、エランは目を開けた。
「バカは来る……!!」
そして、
『行くぞ、エランっ……!!』
爆炎の中から、バカが来た。
もうミサイルもガトリングも、遠距離兵装は一つとして残されていない。だが、バカの代名詞のロマン兵装が一つだけ、残っていた。
『必殺ぅうううううう!! ロケットパンチ……!!』
「このっ、バカ……!!」
ヴィクトリオンの右手から発射されたロケットパンチ。そして、ビットの動きが間に合わずにとっさに放たれたファラクトのビームライフル。
それは交差して……両者のブレードアンテナを同時に破壊した。そして、
『両者 引き分け』
エランはその結果を認めると、体力の限界を迎え、パーメットリンクを解除した。
そうして息を整えながら、自分の乗るファラクトと、相手のバカを見た。
結果を見れば、ファラクトには大きな損害がない。ビットはかなりボロボロであるし、外部装甲には爆炎による損傷もある。だが、それでも決闘ルールじゃなければまだまだ戦えるという様相だ。
一方、相手のヴィクトリオンは、考えなしに装甲をパージしまくった影響でフレームまでむき出しのボロボロの状態。この後の継続戦闘は望めないだろう。
客観的に見れば、ファラクトの勝ちに近いが……
(あの婆さんたち……どう思うかな)
それだけが気がかりだが、なんだか疲れすぎて、未来のことを心配する暇はなかった。
だというのに、
『ハハハハ! いい決闘だったな、エラン!!』
「……許可してない」
『ん……?』
「呼び捨てなんて、許可してないんだよ……バカ」
『えーっ? ダメ? せっかくこんな思いっきり喧嘩したんだし、もうこれで友達だろ?』
「どこのアニメの話なんだ……」
喧嘩をしたら友達とか、あまりに古い価値観過ぎる。
だとしても、
(僕には友達がいない。けど……バカはいる、か)
それだけは、わかった気がした。