アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男 作:カサノリ
『君はエラン・ケレスだね』
『そういう君は、アスム・ロンド』
アスティカシアに入学してすぐ、ロマンバカとそうやって初めて言葉を交わした。それをエランは覚えている。忘れられるわけはない。あまりにもエランにとって衝撃的すぎたから。
なにせロマンバカはいきなり寮の前で出待ちして、かっこつけた様子で話しかけてきたかと思えば、エランの返答を聞くなり、
『くぅっ……! いいね、いいよ、その返答!! 今までいろんな奴に試したけど、誰も乗ってくれなかった!!』
と謎の涙を大量に流しながら、エランの手を握ってきたのだから。
同じ人間か? と本気で疑うほどに、いや今でもエランは疑っているのだが、ロマン男は奇人だった。
エランがしたのはただ相手の名前を確かめただけ。しかも不愛想と鉄面皮を張り付けて"メンドクサイ"と言外に示していたというのに、なにに感動をしているのか。そして、それをバカに尋ねると、バカは驚いた顔をして、
『えっ!? 漫画だけど知らねえの!? 宿命の二人の最初の挨拶として有名なんだけど!?』
などと言いだした。どうやら、こんなやり取りがバカの好む作品にあったらしい。
『知らないよ。……それ、どんな漫画なんだい?』
『出会った二人は吸血鬼と能力者に別れて、最後は殺し合うんだ』
『……最悪じゃないか』
エランは訳が分からなくなった。そんな敵対する二人の出会いを再現しようだなんて、こちらに喧嘩を売っているのかと思った。なのに、ロマン男ときたらなぜか楽し気にエランの肩を引き寄せ、こう言ったのだ。
『いやいやっ! 確かに敵同士だけど、それが壮大な冒険のきっかけになるんだよっ! 個人的にはそういう運命の出会いって、超ロマンだと思うんだよなっ!』
『ロマン……?』
『そうっ! 空想を夢を、理想を! このアド・ステラに生み出そうっていう情熱だっ!!』
なので、とバカはなれなれしくエランへと笑顔を向けながら、
『偶然? いやいや、これは必然だ! きっと君とは一緒にロマンを追いかける大切な仲間になる! だから……俺と友達になろう!!』
などと誘いをかけてきたので、エランの返答は決まっていた。
『…………断る』
『えぇええええええええ!?』
結局、断ったというのに次の日もバカはエランの元に現れたし、学園をめちゃくちゃにしながらもエランとの一方通行な友情は続いていった。
(まったく、こいつは最初から最後まで……)
そんな出会いだった、とエランは目の前に大写しになったバカの顔を見ながら思い出す。
エランからは一度たりとも彼を友人などと言ったことはないし、思ったこともない。もっと言ってしまえば直前に絶交を条件にして決闘をして、それが果たされていたというのに。結局、こいつの中ではエラン・ケレスは本当にただの友人だったのだろう。
誤算だったのは、その友人を助けるために、
『助けに来たぜ、マイフレンド!!』
『なぜかって?』
『それがロマンだからだっ!!』
ここまでするバカだったということ。
機動戦士ガンダム 水星の魔女
アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男
そんなロマン男の乱入から、少し経ち。
「……これはいったいどういうことなんだい?」
エラン・ケレスはロングロンド社の輸送船の中で、目のハイライトを消しながら、目の前の面々へと問いかけていた。その手には拘束用の手枷もなく、別に幽霊だということもない。エラン・ケレスとして五体満足のまま無駄に装飾された椅子に座りながらの質問だ。
それはつまり……エラン・ケレスの命は助かったということ。
だからこそエランは知りたかった。知りたいことが多すぎた。
その一つ目としての疑問。ロマン男だけならわかる。考えなしでバカで向こう見ずだから、突拍子もない行動をしてもまだ理解できる。だが、
「ミオリネ・レンブラン、シャディク・ゼネリ……君たちまでどうして関わっている?」
彼の幼馴染までもがこの企てに参加していたのは、エランにとって大きな疑問だった。
そんな彼の問いかけを、視線の先に居並ぶ面々はそれぞれの反応で受け止める。得意げな顔を輝かせる妖怪ロマン男に、すました顔のミオリネ、さらにはシャディクは"どうしてだろうね……"などと少し疲れた顔で。
どうやらシャディクは、ミオリネとロマン男に巻き込まれたようだと、その様子で想像がつく。ならばと疑問なのはミオリネだ。
学園一の経営アドバイザー、将来の女帝、身内にいれたら怖すぎる女。そんな彼女とエランとの接点はゼロに等しい。冷徹に利益を重んじる彼女が、わざわざエラン救出に絡むなどと、想像ができなかった。
(いや……僕が本当に"エラン・ケレス"なら、そうするだけの利益もある)
将来のペイル社を率いる人間に、恩を売れるのだから。
しかし、それはあり得ない。なぜなら、
「アスム・ロンド……いつからだ? いつから僕が"エラン・ケレス"じゃないと気づいていた?」
自分が影武者だということを、この面々は知っているからだ。
エランは疲れたため息を吐きながらロマン男へと言った。
「……おかしいと思ったんだ。あれだけ僕を友達だ、友達だと連呼していたお前が、あんなにあっさりと絶交を受け入れるなんて」
にもかかわらずエランの絶体絶命のピンチにはわざわざ殴り込みに来ている。決闘のルールが全てではないが、明らかに絶交など知ったことではないという態度に他ならない。
だが、その疑問の答えに、エランはもう見当がついていた。決闘でエランが提示した条件は、
『この男がエラン・ケレスに関わらないこと』
なのだから。
「つまり、僕がエラン・ケレスじゃなければ、関わってもいいっていうことだろ。……いつから替え玉だと気づいていた?」
「うーん、実を言うと……結構最初から?」
「……なんだって?」
ロマン男はあっけらかんという。
「いや、オリジナルっていうのも変だけど、元のエランってやつを見たことあってね? なんか今と雰囲気違うなーって。それになにより……」
「なにより……?」
「あの婆さんたち、どう考えても悪役だろ!!!!」
「…………はぁ、バカにまともな答えを期待した僕のほうがバカだった」
ロマン男はあの共同CEOたちが胡散臭い恰好をしていたから、悪事を企んでいるに違いないと思い込んで調べまわったという。それは仮に間違いであったならとんでもない名誉棄損だが、結局は正解。そしてエランの素性には怪しいところがあると、早めに気がついていたのだという。
ただ、ロマン男はそれを明かすことはしなかった。
「だって、ばらしたところでお前が学園から追放されるだけだろ? だから黙ってたけど、さすがに今回のはなぁ……」
エランの命の危機だから、なりふり構っていられなかったと。そう言って、妖怪は苦笑いした。
ならばこそ、最初の疑問に戻る。
なぜ、そんな替え玉を助けるために、ミオリネは参戦したのか。するとミオリネはエランにはそんなに興味がなさそうな顔をしながら、
「あくまで私に得があるビジネスだからってだけよ」
と言い切った。そしてシャディクも同じように理由を告げる。
「俺は二人の頼みだからっていうのもそうだけど……ペイル社の弱みを握っておけるのは、ありがたいからね」
そうまでして得たミオリネの言う"ビジネス"とは……
「これで私はペイル社の"ガンダム"を手に入れた」
冷静に、禁忌の力へと手を伸ばした女帝の姿。
それに空恐ろしいものを感じながら、エランはあの交渉の場を思い出す。
エランへの死刑宣告が下される直前に、いきなり会議室に大写しとなったロマン男。それはベルメリアやエランを十分に驚かせるものだったが、CEOとして巨大組織を束ねる魔女たちは、その程度でうろたえたりはしなかった。
なにせいくらでも言い逃れはできるし、ロマン男の行動自体が非合法。他社へのハッキング行為に重要な"会議"の盗聴・盗撮。仮にエランの処刑を執り行っていたならば別だが、場面としてはあくまで失敗したパイロットへの口頭での叱責だ。
だからこそ、この狼藉を逆にロマン男への攻撃材料とできることを、魔女たちは理解していた。
しかし、同時に魔女たちはもう一つのことも分かっていた。
((((この場面に乗り込むのなら、それ相応の武器を用意しているはず))))
そして、それは正しい。
ロマン男はしらばっくれた挨拶もそこそこに、こう言ったのだ。
『ある事情でエラン君の指紋とDNAを調べたんですがね? 驚くことに、市民情報と異なっていたんですよ』
そんな、さも『気づいたのでお知らせしました』という親切心を装って出した情報により、CEOたちも対応を考えなくていけなくなった。
市民ナンバー。
それは強化人士4号も求めていた、この世界で人として生きていくための証。それがあることで初めて一人の人間として人権が認められ、福祉や保証を受けられる。職に就くにも、まともな住居を得るにも必要とされるものだ。
そして、それほどに重要な資格であるから審査は厳格。整形技術も発達した現在において顔写真だけではもちろん信用に足らないので、指紋から光彩、DNA情報まで登録が義務付けられる。
『だから教えてください、そこにいるエラン君は何者ですか?』
ロマン男は笑みを消すと、真剣な表情で問いかけた。
エラン・ケレスは実在の人間だ。今も替え玉に仕事を任せ、高見の見物を決めている。なので、彼には市民ナンバーが当然に存在するが……そこに替え玉の強化人士4号の生体情報など登録されているはずもない。
ならば、アスティカシア学園に通っていたエラン・ケレスは偽物……と本来はなるのだが、その結論にも矛盾が出てしまう。
『偽物をペイル社がわざわざ推薦で学園に送るわけないですよね? それでは間違っているのは、市民ナンバーの登録情報なのかな? まあ、お役所仕事ですから、ハッキングされたり取り違えもあるかもしれませんよね? すぐにそのエラン君の情報を再申請しないと!』
と、妖怪は楽しそうにうそぶいた。
つまり、選べとCEOたちに訴えたのだ。
『そこにいるエラン・ケレスを本物だと認めるか、自分たちが主導となってベネリットグループへと背信行為を行っていたと認めるか』
ちなみに、ロマン男が武器として示してきたエランの生体情報については、
『エラン君が私たち主催の体育祭に出てくれるというので、先日に身体測定をしたんです。身長、体重、指紋に声紋、ついでに耳紋と虹彩から、ありとあらゆる身体情報を記録させていただきました』
(………………は?)
『それはもう、わが社の最高の技術を使って、エラン・ケレスを文字通り丸裸にするほど!!』
(…………ちょっと待て)
『今なら1/1スケールのエラン君人形を作って量産できるほど! あらゆる場所のサイズを測りました!!』
『何をやってるんだ、お前は!?』
と、エランが思わず声を荒げるほどの無法な手段で入手したという。
とにかく、それがロマン男の提示した武器。
ペイル社も迂闊と言えば迂闊だが、元よりアスティカシアは企業の推薦がなければ入学できず、その時点で身分保証がされているのが前提。寮の筆頭ともなれば身分を疑う余地もない。わざわざ市民登録情報を調べる方が常識外だ。
そして、彼らには更に悪いことに、エランの生体情報には、ペイル社としても隠さなければいけない機密が含まれている。
パーメット流入の痕跡や、GUND-ARMに適応するための投薬。明らかに違法な改造を施されたことまで妖怪は把握していると、魔女たちには推測できていた。しかもそのデータを、生粋のガンダム嫌いが治めるグラスレーに提供するとまで言い出したのだから、交渉のテーブルに乗るしかない。
ただ、その時点でも両者に決定的な切り札があるわけではなかった。
ロマン男の目的は、あくまで4号の救出と学園への帰還。そのためには4号が替え玉であったことなど公表されては困るし、ペイル社として4号をエラン本人として認めるように願い出なければいけない。
一方でペイル社側も、不正の証拠を妖怪が抑えているとはいえ、監査が入る前に全ての研究データと強化人士を破棄することで弱み自体を消すという手段もあった。しかし、それも長年GUND-ARM研究に投資してきたペイルにとって耐え難い損失となる。
そんな両者が妥協点を探る中で、ミオリネがすべてを持っていった。
『そのガンダム、買うわよ』
といきなり会議に乱入して。
『ペイル社は不正の証拠を手元に置きたくはないけれど、これまでの成果を無駄にしたくはない。そして、このバカはエランの身分保障と、投薬の影響を受けたエランを生かすための技術も欲しい。だから、私が解決策を提示してあげる。
バカのロングロンド社と私とが共同出資して、ペイルのガンダム開発部門を買収し、しかるべき時に新会社を設立する。ガンダム研究を目的とした、ね』
こうすれば、ペイル社も自社にとっての巨大な爆弾を離すことができ、研究協力という形で、安全なGUND-ARM技術が確立された折には技術提供を受けることができる。
ミオリネがガンダムを買ったとペイル社がタレこめば、ミオリネにも大きなリスクとなるが、強化人士本人とデータをペイル社の不正の証拠として手元に置くことでリスクは限りなくゼロになるという見通しがあった。
ただ……一つ、エランには疑問があった。
思案から戻ったエランは、ミオリネに問いかける。
「ミオリネ・レンブラン……どうして君がガンダムに手を出すんだ? 君も分かっているだろう? あれは禁忌の技術だ。ペイル社が長年をかけても呪いを解けない、悪魔の兵器だよ。
新会社の設立も、ベネリットグループが認可するはずが……」
「絶対に認可されるわよ」
「……なぜ?」
「だって……」
「糞親父はもう、ガンダムに関わっているから」
ミオリネは機内の窓から広い宇宙を眺めつつ、呟く。
「今回、ペイル社の実態を知れたことで、はっきりしたことがあるわ。……エアリアルのことよ」
「スレッタ・マーキュリーの? なぜ、それがここで出てくる?」
「簡単な消去法よ。ジェタークCEOはGUND-ARMを忌避して、ダリルバルデにも搭載していなかった。グラスレーもシャディクを信じるなら関わっていない。だから、一番あり得ると思ったのはペイル社だけど……ファラクトの完成度はエアリアルより劣っていた」
つまり、
「あのエアリアルを秘密裏に開発したのは御三家じゃない。かといって、あれほどのMSを隠し通しながら製作することなんて、御三家クラスの力がないと無理。
ということはもう答えは出ているでしょ? 御三家以上の存在……糞親父が開発に絡んでいるわ」
GUNDを封印した張本人がどうしてガンダムに関わっているのかはミオリネにとっても大きな疑問だが、エアリアルへの魔女裁判でエアリアルの許可に譲歩したことからも、プロスペラ・マーキュリーと水面下では協力関係にあるとみるのが妥当だろうとミオリネは考えた。
だからこそ、ミオリネは決断した。
「私はもう当事者よ。エアリアルをわざわざ送り付けて、何を企んでいるのか知らなければいけない。ガンダムを知らないままでなんていられないの。
だからペイルのガンダムチームを引き取って、ガンダムの存在を表舞台に出すことで対抗するわ」
「それも総裁の掌の上かもって、一応警告はしたんだけどね……」
「毒を食らわば皿までよ」
そう言って、ミオリネは挑戦するように笑うのだ。
「まったく……よくやるよ、君たちは……」
エランは大きくため息を吐く。
(でも……そのおかげで命がつながった)
表向きはこの強化人士4号が、本物のエラン・ケレスということになる。ペイル社側も矛盾がないように、市民ナンバーなどを再申請することになるだろう。本物のエランにとっては、いきなり自分の名前も何もかもを替え玉に奪われることになるので、さぞ不本意だろうが……
「俺たちの同級生で友達は、このエラン・ケレス! それをどっかでふんぞり返ってるやつに奪われてたまるかっての!」
そんな言葉を聞きながら、エランは彼をペイル社まで迎えに来たロマン男へ尋ねたことを思い出す。
エランにはどうしても、わからないことがあった。
『アスム・ロンド……なぜだい? どうして僕という人間にここまでした?』
『どうしてって?』
『僕がエラン・ケレスなら近づきたいというのも理解できる。だけれど、君は僕が何者でもないただの捨て駒だと知っていた。
……どうして、そんな僕のためにこんな危ない橋を渡った?』
すると、問われた少年は朗らかに笑いながら、当たり前のように言うのだ。
『だって俺達、友達だろ? 友達のために命かけるのなんて、当たり前じゃん』
なんて。
そしてその場にあった監視カメラと、それを通して見ている"誰か"へ言ってのけた。
『青春もロマンも、一瞬一瞬が特別なものなんだよ! それを高みの見物しながら奪おうなんて許せねえよなっ!』
だから、
『元"エラン・ケレス"! おめーの席、アスティカシアにねぇから!』
その顔は、いたずらに成功したようなとても純粋で、得意げなものだった。
そんなロマン男のことを、エランはまだ理解できない。
命を助けられたことに違いはないが、やり方はエランの今後の学園生活に大きな支障を残しそうだし、ロマンをまだ理解できないエランには行動原理も不明な妖怪でしかない。
ついでに言えばエランの危機を察知した情報網に、ファラクトのことまで予想していたような用意周到ぶりには言い知れない不気味さも感じる。……この男の場合、ロマン脳による直感と答えてきそうなところも含めて。
ただその不安すら、エランとなった少年には先があるという証明。
(未来を考えられることは、こんなに幸福なんだ……)
裏ではペイル社の魔女たちが"これはこれで面白い"と邪悪な笑みを浮かべていたり、ミオリネがガンダムへと一歩を踏み出し、シャディクが内心で彼女への心配を深めたりと不穏の火種はくすぶっている。
だけれど、エランという少年にとって初めて、彼の人生というものが始まった。
そのことに感謝がないというのは、あり得ない。
だから諸々の気持ちを込めて、エランは自分を友達だと呼んだバカへと、珍しく穏やかな顔で言うのだ。
「アスム・ロンド……。キミって、ほんとにバカだよね」
「ありがとう、最高の誉め言葉だ!!」
こうして黒いガンダムをめぐる騒動は、一つの終幕を迎えた。
エランはこのままペイル寮にはいられないということで、ロマン男の率いる寮へと転属したが、あまりに頭痛がする程のロマン汚染ぶりに『ペイル寮へと帰りたい』と思いながら、ロマン男とその眷属たちによる洗脳に日々耐えることになる。
そして学園にとっても、一人も生徒を欠かすことなく体育祭を迎えようとしていたある日、
「ん? なんか人だかりがあるんだけど。今日ってイベントあったっけ?」
「君が企画していないなら、あるわけないじゃないか」
「じゃあ、誰か有名人でも来てるのか……?」
なんとなく並んで散歩していたエランとロマン男は、なぜか女生徒がキャーキャーと叫びながら集まっている場面を見つけた。ロマン男が面白半分に向かっていくと、そこでは、
「ねえねえ! エラン様とどういう関係なの?!」
「うーん、いとこですね♪」
「顔そっくり!」
「血が濃いんです♪」
「名前もおんなじ!」
「いい名前でしょう?」
「みんなイケメンなんて、嫌いじゃないわ!!」
「あははは、ありがとうございます♪」
などと無駄にさわやかな声が聞こえてくる。
それはロマン男にも、そしてエランにも聞き覚えがある声。
というよりも、エランそっくりな声であり……
「おい、まさか……」
「その、まさかだね……」
妖怪までも顔を引きつらせる中で、"それ"は姿を現した。
「あ! 先輩、初めまして♪」
「今度編入するエラン・ケレスです♪ 一学年下だけど、よろしくお願いします!」
エランに瓜二つな、ついでに胡散臭すぎる笑顔を張り付けた少年が出てきた。エランにそっくりだけど、明らかにロマン男が知るエランではない存在。その正体は明白だろう。それまでの業績をエランに奪われたオリジナルは、学暦諸々を取り直さなければいけないのだから。
ふとロマン男は、そんな彼へとカメラ越しに
『おめーの席ねぇから』
などと煽り散らしたことを思い出した。
彼もまた、その発言を忘れるはずがない。
「これなら、僕の席も学園にありますよね?」
そして、元エランは笑顔のままロマン男へと近づくと、すれ違いざまにこういうのだ。
「それじゃあアスム・ロンド先輩♪ いつか必ず……」
「……お前を殺す」