アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男   作:カサノリ

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19. 来訪者

 正式名称『アスティカシア学園学生自治会主催"合同演習"』。

 

 とはいえ、そんなベネリットグループや理事会へ向けてそれっぽく作成された名前を呼ぶものなど誰もいない。学生の間で呼ばれるイベント名は、

 

『アスティカシア学園大体育祭』

 

 学園全土を巻き込んで繰り広げられる、三日間の青春の祭典である。

 

 

 

 機動戦士ガンダム 水星の魔女

 アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男

 

 

 

「わぁ♪ これが体育祭なんですねっ、ミオリネさん!!」

 

「まあね、っていうか……今年は去年よりもだいぶ派手になってるわね。観客も呼んで、外にも配信するっていうし、スポンサーもけっこう入ったみたいね」

 

 体育祭前日、授業を終えたスレッタとミオリネは並びながら体育祭一色に染まった学園を回っていた。スレッタがどうしても祭りの空気を味わいたいと、ミオリネを誘い出したのだ。

 

 そうしてスレッタが見るのは、校庭から戦術試験区域の一角にまで食い込んだ広大な競技場。前日となれば当然、祭の前の騒がしさが最高潮になっており、至るところで学生やデミトレーナーが動き回り、最後の準備を行っているところだった。

 

 かつての世界で行われていた運動会などと比べると、破格の人員と規模。

 

 だが、それもある意味では合理的だ。学生の祭といえど、ベネリットグループが抱えた学生の質や技術力を内外に示すためのもの。ライバルグループへのけん制も含めて、やるのならば大いに力を入れるというのが理事会の方針でもある。

 

 そしてミオリネは、そんな年々派手になる景色を見ながら思い出す。

 

(……ほんと、よくここまでデカくしたものよね。それだけはあのバカでも認めてあげるわ)

 

 ロマン男のある意味で独断と欲望を垂れ流して始まった体育祭。

 

 だが、初年度はそれまでのアスティカシア学園と異なる行事だということで、上級生を中心に反発が大きかった。シャディクを含めグラスレー寮が参加を表明し、それに対抗したジェターク寮生もまた多く参加したが、他は様子見も続出して、全校生徒の1/3以下の参加率。

 

 なので、ここまで大規模な施設も建造されなかった。

 

 そんな体育祭の様子を、入学前のミオリネも見学していたが、お世辞にも学園全体を巻き込む祭になるような出来ではなかったというのが彼女の評価。

 

 だが、

 

(けっきょく、子供は娯楽に飢えているのよ……)

 

 自分を棚に上げながらミオリネは考える。

 

 今ほどに洗練されてはいなくとも、あの初体育祭は傍から見ても楽しそうに思えた。そして、学生らしく大いに騒ぎ、汗水を垂らしながら活躍する参加者たちを見ていると、自分も楽しみたいと思ってしまうのが若者の心というもの。

 

 そうして去年は参加学生が1/2を超え、今回はとうとうパイロット科はほぼ全員、バックスタッフや何かしらの形でかかわっている生徒も含めれば九割の学生が祭に参加することになっている。

 

 名実ともにアスティカシア学園で一番のイベントだ。

 

 ミオリネがかつて語ったように、ロマン男を嫌う学生も学園には半分ほどはいるが、個人への好き嫌いと、祭に参加したいかどうかは別。そして、ここまでの規模へと発展し、ベネリットグループ総裁までもが現地視察を行うほどになった。

 

 ミオリネは脳裏に父親の姿を思い描いた途端、顔を苦々しくさせながら小声でつぶやく、

 

「でも、あのバカがわざわざ糞親父を呼んだってことは……またなんか企んでる気がするのよねバカが」

 

 それこそ総裁を呼び出さなければいけないことを。

 

 そんな嫌な未来を想像しないように、ミオリネは競技場に飾られたフラッグや、準備が行われている様々な屋台に目を輝かせているスレッタに話しかけた。

 

「それで? スレッタはどの競技にでるの? 地球寮の子からは、いろんなのにエントリーしたって聞いたけど」

 

「は、はいっ! えっと、初日はMSリレーと、MS綱引きと、MS障害物競争ですっ! それから、二日目は、100メートル走と、寮対抗リレーと、えっと、それから……!」

 

「あんた、ほんとによく体力がもつわね……」

 

 ミオリネは指を折りながら出場競技を数えていたスレッタに、少しだけ頬を引きつらせた。どうやらスレッタは出られそうな種目に片っ端からエントリーしたようだ。

 

 スレッタが挙げた競技のように、三日間の体育祭の間、一日ごとに違ったテーマでの競技が開催される。

 

 初日は通称"デミトレの日"。専用機の使用を禁止した、共通規格MSを使っての競技がメインだ。これはパイロットやメカニックとしての純粋な技能を競い合うことができるからと、特に御三家以外からの熱量が高い。

 

 次いで二日目は一転してMSを使わず、生身での運動能力を競い合う。初日でいろいろと破損するだろうMS用競技場のメンテナンスも兼ねての実施だが、これまたMS操縦が得意でなくとも、体力に自信のある学生に人気が高い。

 

 そして、三日目は……専用機も使った総合競技だ。

 

「地球寮のみなさんと、一緒にがんばりますっ!」

 

「そうね……今年はチュチュもいるし、地球寮もMS競技に出れるから、チャンスはあるのよね……」

 

 三日目の種目の中で、特にMSトライアスロンともいわれる総合競技は、寮生を10名まで選抜し、整備とMS操縦といった寮の総合力を競い合うことになる。純粋に寮の力を派手に示せるということで、大会の花形競技でもある。

 

 過去二回はジェターク寮がトップとなっていたが、今年はスレッタとエアリアルが参加することで地球寮がトップをとることだって夢ではないだろう。スレッタがいろいろな寮から誘いを受けていたのも、こうした競技で優位に立ちたい思惑もあったに違いない。

 

 さらに、

 

「あ、あと……! 学年せんばつせん?にも誘ってもらえたんですっ!」

 

 スレッタは頬を染めながら、照れくさそうに言う。

 

 学年選抜戦。文字通り、パイロットによるオールスター戦だ。

 

 三年生十名、一年+二年生二十名の二チームで行われる、大規模なMS演習である。

 

 これに選ばれるのはパイロットとしての成績上位者の証と言われ、ホルダーであるスレッタやグエル、ロマン男から各学年のエースパイロットまでが勢ぞろいの大会を締めくくる大トリの種目だ。

 

「えへへっ……ち、地球寮から選ばれるの、初めてって言われて……がんばらないとって、思うんです」

 

 そしてそんな競技であるから、選ばれたスレッタはとても嬉しい様子。ロマン男からもあの暑苦しい態度で褒めちぎられたそうで、それもあってか目に見えて張り切っていた。

 

 一方で、ミオリネはと言えば

 

「そ、まあ頑張りなさい。私は涼しい部屋から見学してるから」

 

「えぇ!? み、ミオリネさんは出ないんですか!?」

 

「出ないわよ……。私がなんで好き好んで運動しなきゃいけないの。経営戦略科はそういうやつも多いわよ?」

 

 とはいえ、まるっきり不参加と言うことはなく、ミオリネブランドのトマト加工品を卸したり、アドバイザーをしている企業の視察をしたりと、ビジネス関連では忙しくなる予定だ。

 

 経営戦略科の中でもロマン男のように普通の種目に参加するという学生も多くいるが、だとしても出る種目数を絞り、残りの時間は出店や大会グッズの販売などで経営の力を養おうとしている子がほとんど。

 

 しかし、それを聞いたスレッタは少し残念な様子。学生証からいつものリストを引っ張り出すと、しょげた顔で呟いた。

 

「うぅ……やりたいことリスト、"友達と一緒にお弁当食べる"が叶うと思ったのに」

 

「そんなの地球寮の連中とすればいいじゃない」

 

「み、ミオリネさんともしたいんですよぉ……! と、ともだち、ですからっ!」

 

「うっ……だから、そういう目で見るのやめてってば」

 

 ミオリネは目を潤ませるスレッタを見て、なんだか気まずくなる。

 

 先日の農園をめぐる決闘であまりにストレートに好意を伝えられてから、ミオリネはスレッタに対して強く出ることが難しくなっていた。いつも通りなら「めんどい、パス」とでも言えばいいものを、その短いセリフが言いづらい。

 

「み、みおりねさん~!」

 

「わ、わかったわよ。昼ご飯でいいなら、どっかで食べましょ」

 

「あ、ありがとうございます! それじゃあ、お疲れ様会もいっしょにっ!!」

 

「……あんた、ちょっと図々しくなってきたわね」

 

 ロマン男との決闘といい、自己主張することがよいことだと叩き込まれたからだろう、最近のスレッタはさらに押しが強い子になっていた。 

 

 

 

 

 一方で、そんなスレッタにも影響を与えたロマン男はと言えば、

 

『体育祭が楽しみかーっ!!』

 

「「「たのしみだーっ!!!!」」」

 

『張り切っているかーっ!!』

 

「「「もちろんだーっ!!!!」」」

 

『青春してるかーっ!!!!』

 

「「「うぉおおおおおお!!!!!!」」」

 

 

 

『体育祭実行委員会、ファイアー!!』

 

「「「ファイアー!!!!!!」」」

 

 

 

 主に自治会と有志によって構成される実行委員会メンバーの前で、気合を入れていた。

 

 今回の体育祭は彼の後輩である一二年生を中心に企画や準備が行われているが、当日ともなれば三年生も入れなければ人員が足りない。ということで、開催を明日に控えた決起集会が学園の一角で行われていた。

 

 この体育祭の実行委員会ともなれば、学園の中でも特に男の影響を受けたロマン好きが結集しており熱意とやる気が満ちて他よりも一、二℃は気温が高くなっているほど。

 

 そんな会場の雰囲気を盛り上げるだけ盛り上げたロマン男は子供のようなウキウキ顔で壇上から降りると、なぜかそこで待っていたサビーナへと話しかける。

 

「はははっ! どうだった、今の演説! アスティカシアの歴史に残る大演説だっただろ!!」

 

「声がでかすぎる。もう少し、音量を落とせないのか」

 

「こういう時は声を張り上げるのがいいんだよ♪ サビーナだって一緒にやればいいじゃん」

 

「私はそういうタイプじゃないだろ。まあいい、それよりも各寮の出場者状況をまとめておいた。何人か体調不良による欠場が出ているが、運営上に大きな問題はない」

 

「サンキュー! うーん、さすがサビーナ、よくまとまってる」

 

 サビーナだけではなく、よく見ると数人の生徒が実行委員会の雰囲気に圧倒されながら仕事をしている。彼らは主要な寮から選出された連絡役で、実行委員会から各寮への対応をスムーズにするための役割を担っている。

 

 サビーナはその中でもまとめ役となっており、グラスレー社で培った実務能力をいかんなく発揮し、大会に大きく貢献していた。

 

「物資担当のマリエッタから、当日の弁当をはじめとする食料類の搬入も滞りないと連絡が来た。来場者は事前抽選と選考を行った50000人に限定したのがよかったな。この分なら食料に関して混乱はないだろう」

 

「デリング総裁まで来ちゃうからなぁ、下手なところは見せれねーよ」

 

「はぁ……、お前はノリと勢いだけで生きているくせに、こういうところは抜け目がないな」

 

 などとサビーナは呆れたように言う。

 

 委員会で作成した書類類は、実際に社会で活動している彼女からしても良く整えられており、ロマン男とその配下が高い能力をもっていることを示していた。でなければ、数万人規模の観客を入れての祭など開けるはずはないので当然だが。

 

 それを聞いたロマン男はといえば、

 

「祭は始めるまでも始まった後も楽しいけど、事故が一個でも起きたらそれがなくなっちゃうからな。みんながロマンを感じられるように、できるところはしっかりしないと」

 

 などと珍しくまじめな顔で書類をチェックしていく。

 

(相変わらず、他人のことばかりだな……)

 

 それが男の美徳ではあるが、特にこの数日は委員会を率いる者として不眠不休で働いていたことを知っているサビーナからすれば、もう少しだけでも自分の体を心配してやれと言ってしまいたくなる。もっとも、かつての彼女が聞けば"なにをぬるいことを"と自分自身への叱責が始まりそうだが。

 

 なので、

 

「……この後は私とマリエッタでうまく回しておくから、今日は早く上がれ。当日にトップが倒れたとなれば、それこそ体育祭の運営に支障が出るからな」

 

「了解。ほんと、今回はサビーナが来てくれて助かったよ。安心して任せられる」

 

「世辞を言ってもなにも出ないぞ」

 

「ははっ、別にお世辞でもなんでもないっての。あ、そういえば……」

 

 ロマン男はサビーナを見て言う。

 

「その髪飾り、去年の誕生日に贈った奴だろ? 嬉しいな、付けててくれたんだ」

 

「っ……、そ、そんなことより早く片付けるぞ」

 

「はーい」

 

 そうして準備をする者たちも、祭を待ち望む者たちも、平等に一日を終えて……。

 

 当日がやってきた。

 

 

 

 響く花火の音、宇宙港からやってくる観客たちのざわめき、なによりそれぞれ準備を進める学生の熱気。それらが合わさって、アスティカシア学園を一つの祭の会場へと変えていく。

 

 その中を、

 

「ようこそおいでくださいました、デリング総裁」

 

「ああ。今日はよろしく頼むぞ、ロンドCEO」

 

 例えば冷徹な独裁者として知られる女帝の父が、厳格な雰囲気と表情のままでやってきたり、

 

「へぇ……かなり賑わっているじゃない。あの子たちも楽しんでいるかしら」

 

 仮面をつけた魔女が口元に微笑みだけを張り付けてやってきたり。

 

 そしてここにもまた一人。

 

 

 

「ビジターパスですね? 出身とお名前をどうぞ」

 

「は、はい。月から来ました……」

 

 

 

「ニカ・ナナウラです」

 

 

 

 こうして役者がそろい、祭が始まる。




それでは笑いあり、涙あり、ラブあり、ギャグありと、いろんな登場人物の人間関係も動く体育祭編が開始です。

完全にオリジナルの展開なのですが、こういう学生らしい話をやりたいというのが本作のコンセプトですので、お楽しみいただけると幸いです。

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