アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男   作:カサノリ

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降り注ぐ火の玉。
舞い降りるモビルスーツ。
欲望と秘密と暴力の学園、アスティカシアが燃える。
圧倒的、ひたすら圧倒的パワーが蹂躪しつくす。
ささやかな望み、芽生えた愛、絆、健気な野心、
老いも若きも、男も女も、昨日も明日も呑み込んで、走る、ロマン、ロマン。
音をたててアスティカシアが沈む。


20. むせる

「とうとうこの日が来たな、相棒……」

 

 その日、男は暗い倉庫の中で、雌伏の時を共に耐えた相棒を見上げた。

 

 彼は一言で表すならば凡庸だ。

 

 御三家と呼ばれる企業のような強力なバックアップもなく、当然ながら専用機などという高価なものも持ち合わせてはいない。成績とて目立つことはなく、見かけとて人目を引き付けるものではない。

 

 凡庸な、どこまでも平凡な彼……

 

 だが、人は凡庸でいることに耐えられるものなのだろうか。平凡であればいいと、心の底から思えるものなのだろうか。

 

 嘘をつくな。

 

 人はみな、特別になりたいと思っている。

 

 一生に一度でもいいから自分だけの舞台の上で、脚光を浴び、大きな称賛を浴びたいと思っている。人とは競い合う定めをもった生き物なのだから。

 

 そして、今日。男は勝負に出る。

 

 相棒はMSJ-121"デミトレーナー"。彼と同じく、地味でずんぐりとした目立たないモビルスーツ。しかして、その圧倒的な汎用性と操縦しやすさから、学園を縁の下で支えてきた存在。

 

 個体を区別されることもなく、毎日の授業で使われては埃にまみれ、傷を負い、だとしてもそれが当然だとばかりに一斉にメンテナンスされてはまた授業に出てくる。

 

 男はデミトレーナーにシンパシーを抱く。こいつは俺と同じだ、と。

 

『お前も、一度くらいは日の目を見たいよな……』

 

 男は決めた。この相棒と、肩を真っ赤に染めた"レッドショルダー"とともに、自分の名をアスティカシアの歴史に刻もうと。

 

 だから、

 

「待っていろ、アスティカシア学園!」

 

 グポンと目に光が灯り、彼は相棒と共に出撃した。

 

 

 

 機動戦士ガンダム 水星の魔女

 アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男

 

 

 

 そんな男子生徒がいることを知らないまま、競技場を一望できる特設ステージでロマン男はベネリットグループを統べるデリング・レンブランと会談していた。

 

 名目上はデリングの肩書に学園の理事長も含まれているが、彼は基本的に学園へは不干渉。もちろん、運営状況などは徹底的に監視しているのだが、本人が軍人出身であり教育には門外漢だからだろうか、"ホルダー制度"など大きな方針を出した後の運営は現地の教員や学生に一任することが多い。

 

 なので、体育祭を見学に来るというのは、デリングにとっても珍しい行動であり、その一報を聞いた教員や生徒の中には厳しい言葉が飛んでくるのではないかと戦々恐々とするものも多かった。

 

 しかし、

 

「どうですか、総裁! なかなか壮観な光景でしょう♪」

 

 体育祭を開いたロマン男はと言えば、そのデリングの前で大きく腕を広げながら、彼の夢の結晶である体育祭の魅力をアピールしていた。まったく、デリングに恐れることも動じることもなく平常運転である。

 

(だって、ミオリネの父ちゃんだし)

 

 もちろん厳しいことは知っているが、吹っ切れすぎた今のミオリネを見ると『親子だねぇ』としか思えず、そんなミオリネを友人だと思っている彼からすれば、単なる友人の父親という認識が強い。

 

 ベネリットグループの一企業のCEOを務めるという立場からしても、しっかりと方向性を示して、それに見合った業績を出していれば文句を言われることもないと理解しているので、ことさらに恐れる必要はなかった。

 

 そしてその通りに、

 

「ふむ……確かに、よく統制されているな」

 

 デリングは珍しく感心するような声色で、目の前で繰り広げられている開会セレモニーを見ていた。

 

 そこに居並ぶのはデミトレーナー、デミトレーナー、デミトレーナー、さらにはデミトレーナー。100人のパイロット科生が全てデミトレーナーに乗り込み、MS競技のメイン会場を一列になって練り歩いている。

 

 大会一日目は"デミトレの日"と言われるように、共通規格のMSを使った競技がおこなわれる。そのセレモニーなのだから、デミトレだらけになるのは必然。そして、そのデミトレも個性たっぷりで見ごたえがある内容だ。

 

 全身を真っ赤に染めて角をつけた者や、全身を青く塗装して肩にスパイクをつけた者、軍隊仕様といいたいのか迷彩柄にしたり、キラキラと輝く金色に染めた目立ちたがり屋までさまざま。それは極端な例だが、装甲の一部を塗装したり、自分の寮のエンブレムを刻んだりと誰もが少しアレンジを加えている。

 

 普段は「目立たない、地味」と言われるブリオン社が、これほどまでに自社製品を目立たせてくれるならばと歓喜して、大会に多くの資金援助とデミトレーナーの供与を行っているのも当然な光景だろう。

 

 それに加えて、

 

「デリング総裁がお越しになることは、生徒も知っていますからね。恥ずかしいところは見せられないと行進もよく練習していたようです」

 

「だとしても、普段からの教練がなければ、これほどに整然とした行動はとれないだろう。この会場への誘導も生徒が行っていたが、警備の配置から行動までも見事なものだった」

 

 デリングは表情を変えないまま、ロマン男を見て言う。

 

「お前の立ち上げた、この"合同演習"。確かに我がベネリットに有益な存在になっているようだな」

 

「お褒めに預かり、恐悦至極。そうですね……、やはり短期的でも目的がはっきりしていることが生徒のモチベーションにもつながっているんでしょう」

 

 卒業後の輝かしい進路のためと言うのは、確かに大きな目標には違いないが、そんな二、三年後のことを目標に毎日を必死になれるわけはない。

 

 その点でこの体育祭は普段は活躍の場がない者でも、競技の種目内容によっては表彰を受けることができる。戦略としても一つの競技だけに絞って練度を高めたり、複数競技にわたる活躍を目指すなど、それぞれが目標を定めて努力できる仕組みだ。

 

「私はそちらに関しては門外漢ですが、軍でも短期的な目標と中長期目標を浸透させて兵士のモチベーションを上げると聞きました」

 

「ああ、確かにそうだ……」

 

「ですので、この演習でも彼らのモチベーションが高くなっているのでしょう」

 

「それだけではないな。事実として、新入社員の成績上位者はこの演習でも優秀な結果を納めている」

 

「努力して、結果を掴んだという経験は、その人にとって自信につながりますからね」

 

 ロマン男は表情だけは外向けの微笑みを張り付けて、目の奥にキラキラとした輝きを隠しながら開会式の様子を見る。

 

 今まさに選手代表(今年はグエルだ)による宣誓が行われ、集まった観客や生徒から盛大な拍手と歓声が飛び交っていた。

 

「ロンドCEO」

 

「はい」

 

「改めて、来年度以降の開催も許可しよう。この投資に対して得られた効果は、確かにお前が示した通りに卓越している。グループとしてもなくす理由はないからな」

 

(よしっ……!)

 

 お墨付きを得たことにロマン男は内心でガッツポーズをした。

 

 体育祭を無理矢理にでも開いて浸透させたのは彼自身だが、来年には学生ではなくなる。理事として学園には干渉できるが、生徒の中で彼ほどの影響力を理事会に発揮できる人員がいないことも男は理解していた。

 

(でも、総裁の許可があるなら)

 

 後輩たちの腕次第だが、結果を出し続ければ祭を毎年行うことができる。

 

 世間では娘同様、鬼や悪魔のように恐れられるデリングだが、その実は完全な合理主義者だ。ガンダムなどのきな臭い話題に乗らなければ、対等なビジネスを行う相手として付き合うことはできる。

 

 しかし、その一方で、

 

「……だが、お前とミオリネが動いている案件については、いずれ説明を求めるぞ」

 

「もちろんです、万全の準備をして臨ませてもらいます」

 

 ガンダムを抱えて何かを企んでいることまで見抜いている。そんな洞察力と強かさをデリングがもっている点で、なめてかかれる相手ではないこともロマン男は理解していた。

 

 だからこそ、準備は万全に。そして彼を味方につけられるように、

 

「それとは別に、総裁に折り入ってお話があるのですが……」

 

「なんだ」

 

「これからの学園を盛り上げる、新しい"企画"についてです」

 

 ロマン男は笑みを浮かべながらある提案をした。

 

 

 

 そんな会場外での交渉事など知らず、学生たちによる体育祭が始まった。

 

 第一種目はMSレース。決闘でも時折使われる内容だが、離れたところまでMSを走らせ、その速度を競う種目だ。

 

『うぉおおおおおお!!』

 

『負けるものかよぉおおおお!!』

 

『ふっ、若者が……』

 

『ユニバ――――ス!!』

 

 レース場に響く叫び声。それは今まさに走っている四機のデミトレの中にいるパイロットの雄たけびだ。

 

 シンプルな直線レースと言えど、奥は深い。

 

 燃料や規格が制限されているので、どのタイミングでブースターを起動させるか、あるいはどれほどスムーズにMSの脚部を動かせるかなど、操縦者の判断と腕前が勝敗のカギになる。

 

 そう、肉体を使う競技と比べても、MS競技は奥が深い。

 

『スレッタの姉御! 受け取れぇ!!』

 

『わわわわっ! きゃ、キャッチっ!!』

 

 リレーではマニピュレータをタイミングよく動かすことで時間のロスを防げるし、

 

『ひけぇえええええええええ!!』

 

『『エイサーっ!!』』

 

 綱引きでは密集した中でのチームワークが試される。

 

 なにより、そんなデミトレが集まって泥臭く運動している姿は、面白い。

 

「デミトレ人形、発売中だよー!」

 

「デミトレ饅頭売り切れでーす! 準備するので少々お待ちをっ!」

 

「デミトレピザ! ミオリネトマトがたっぷりですよー!!」

 

 ブリオン社の人々がこの光景を見たならば、歓喜の涙で崩れ落ちるほど、デミトレは初日の華だった。観客たちもMSといえばデミトレと刷り込まれ、大会の記念にデミトレグッズを一つは買っていこうとする。

 

 経営戦略科の学生たちもたくましいもので、そんな消費者心理を見越してか、初日はなんでも"デミトレ"をつけて売る始末。

 

 ちなみに二日目はラインナップが変わり、選手個人のブロマイドやらを売り始め、最終日は専用機をネタにしだす。一番売れると見越してか、エアリアルのグッズがやたらと多い。

 

 そんな盛り上がりを見せながら大会は進行し、

 

『グゥレイトォ!!』

 

『狙い撃つぜっ!!』

 

『堕ちろ、カトンボ!!』

 

『こんなやつらに、負けてられるかっての!!』

 

 謎にテンションの高い射撃競技でチュチュが表彰台に立ったり。

 

『せ、先輩が背中にも目をつけるんだって言ってました……!!』

 

 障害物競争でスレッタが謎の勘の良さで独走したり。

 

『俺の人生は晴れ時々大荒れ……いいね! いい人生だ!』

 

『エンジンだけは……一流のところを見せてやるぜ!』

 

『ジェタークだろっ! 俺はジェターク寮なんだろ!!』

 

『足がぁっ、足がつってるぅうううう!!』

 

 なんてMS飛行コンテストで名言が連発したりした。

 

 その中で、かの肩を赤く塗ったデミトレと、その持ち主である青年はと言えば……

 

 

 

『来たぜ、この時がなぁ……』

 

 

 

 ハッチが開き、それは入場した。

 

 そこは硝煙と油にまみれたコロシアム。数多のデミトレが破壊され、地に伏せた呪われた会場。

 

 競技名もまさに『MSバトルロワイアル』。デミトレで戦い、最後まで残ったものが勝者となる小細工ナシの戦闘競技だ。

 

 彼の目の前に居並ぶのは、歴戦のデミトレ達。

 

 あるいは手にナイフ一本だけを持ち、あるいはなぜか鎖付きのハンマーを持ち、その他にもガトリングやら、二丁拳銃やら、トンカチやらと各々が好き好むロマン兵装を持ち寄った強者ぞろい。

 

 そして青年がもつのはシンプルなビームマシンガン。だが、それは長年使い続けて体の一部とすら思っている愛用品だ。

 

 十三機、参加するすべてのデミトレが集まったことを確認して、全員がオープンチャンネルで顔を合わせる。

 

『ふっ、どいつもこいつも、逃げずにここに来たようだな……』

 

『誰が逃げるかよ、勝つのは俺だ』

 

『強い言葉を使うなよ、弱く見えるぞ』

 

『ヒャヒャヒャヒャヒャ!! 血だぁ血の匂いがするぞぉ!!』

 

『……祭の会場は、ここか?』

 

 なぜか全員の顔の彫が深くなり、声もごつくなるが気にしてはいけない。戦いの場とは、そういうものなのだから。

 

 そして、最後に。

 

『……てめえら、このグエル・ジェタークを忘れていないだろうな』

 

 闘技場の絶対的なチャンピオンが口火を切る。

 

 そうグエル・ジェターク。

 

 彼もまた専用のディランザでもダリルバルデでもなく、紫色に塗装したデミトレに乗って参戦していた。盾にはフェルシーとペトラがグエルに内緒で『スレッタLOVE』などとエンブレムを刻んでいるが、あんな告白をしたからには、もう恥ずかしいことはないと堂々たる漢ぶりである。

 

『くっ、やはりオーラが桁違いだな、グエルは』

 

『あんな盾を持ってくるなんて、俺にはできねえ……』

 

『ああ。男の中の男だ、グエルは』

 

 そしてレッドショルダーの青年は、

 

『だとしても、俺と相棒の敵じゃないっ……!!』

 

 敵意をグエルへと向ける。

 

 そう、彼が目指すゴールとはこの場でグエルを倒すこと。

 

 スレッタ・マーキュリーには負けたとはいえ、依然として技量ならば学園一位を疑われないパイロットを、デミトレという同じ土俵で倒すことができれば、全校生徒からの賞賛の的。なにより、

 

『そうすればきっとレネちゃんもっ!! キープ君十三号から格上げしてくれるっ!!』

 

 やはり青年も俗物だった。

 

 愛しいアイドルが自分をほめてくれるかもしれないという欲望を胸に、寝食をレッドショルダーとともにし、毎日その金属の感触がなじむまでメンテし、夢にまでレッドショルダーが出てくるほどにレッドショルダーにつぎ込んだ。

 

 ちなみにその間、レネへの連絡をすっぽかしまくったせいで、今の彼はキープ君二十号であるが、それをまだ彼は知らない。

 

 とにかく、この場にいる全員は同じ気持ちだ。

 

 グエルを倒し、学園一のパイロットとなる。

 

 そして、開始を告げるスリーカウントが上空に現れ、

 

 3……

 

『いくぜ相棒』

 

 2……

 

『ディランザのないグエルなら』

 

 1……

 

『俺たちにもチャンスが……!!』

 

 0、

 

『『『『うぉおおおおおおおお!!』』』』

 

 開始と同時に四機のデミトレがグエル機へと向かって突貫した。

 

 四方から同時攻撃、しかも相手は専用機がなく弱体化しているグエル。いかにグエルが学園一だろうとも、これならば一気呵成に潰すことができると。

 

 しかし、

 

『勘違いしてねえか……?』

 

『なん、だと……?』

 

『俺が弱くなったところで、てめえらが強くなったわけじゃあ……ねぇだろ!!』

 

 グエルのデミトレが大きく背をかがませる。

 

 すると、四機のデミトレの武器はグエル機の頭上をかすめて、そしてお互いの頭部や胴体に突き刺さり、四機はもつれる形となった。そしてすかさず、卓越した技能で回転しながらグエル機が起き上がり、回転の勢いで振るわれたビームジャベリンが四機すべてのデミトレのブレードアンテナを叩き折って見せたのだ。

 

 グエルは倒れ伏したデミトレ達を一瞥すると、武器を構えて残ったデミトレ達に宣言した。

 

『スレッタも見てる……秒で片を付けるぞ』

 

 彼もまた、愛に生きる男。会場で見ているはずの赤毛の少女のためにかっこいいところを見せたいと思うのは当然だった。

 

 そうして始まる、血で血を洗う男の戦い。

 

 巻き上がる砂埃、地上戦だからとばらまかれる薬莢、漏れる油に、燃え盛る大地。

 

 ハンマーが、サーベルが、ガトリングが、それぞれの武器がぶつかり合い、はじけ合い、そして一つ、また一つとデミトレが地に伏せていく。

 

 大観衆が見守る中での、あまりにも泥臭い戦い。

 

 もちろん女子の中にはその惨状に『男子ってバカね』と呆れ果てる者も出始めるが、最強を目指してこそが男だと、男子生徒たちは一様に顔の彫を深くしながら応援の声を上げ続けた。

 

 むせかえる程の男の気配が充満する中、最後に二機が残る。

 

『はぁ、はぁ……とうとう、ここまで来たぞっ!』

 

 レッドショルダーの青年がグエルへとビームマシンガンを向ける。

 

 その機体は度重なる攻撃を受けたことで、トレードマークだった赤い肩も半分は剥げているという惨状。対するグエル機はさすがと言うべきか、大きな損傷は見られない。

 

 機体の状況から見れば、青年は不利と言えるだろう。

 

 だが、青年は吠える。

 

『倒れていないなら、互角だ……!』

 

『いいことを言うじゃねえかっ! そう、戦いは決着がつくまでわからねぇ!!』

 

 両者が動く。

 

 グエルは接近戦でケリをつけようと蛇行しながら距離を詰め、レッドショルダーは引き撃ちの形でマシンガンからビームをばらまいていく。

 

 しかしながら、デミトレらしからぬ高機動を実現するグエル機をうまくとらえることはできず、あくまでけん制程度にしかならない。

 

『くっ、ならば……!』

 

 青年はマシンガンを腰にマウントすると、ビームサーベルを抜き取ってグエルへと向かっていった。接近戦はグエルに分があるとわかりつつも、じり貧な状況を打破せんとの行動だった。

 

 そうしてサーベルとジャベリンがぶつかり合う、機体が同じなのでパワーは互角、直接的な力の張り合いでは同程度にお互いがはじけ飛ばされ、それを二回、三回と繰り返していく。

 

 接近戦こそロマンと、かつて妖怪が叫んだように、それは泥臭くも戦いの中で互いを称賛するような行為。観客のボルテージとともに、グエルの顔にも楽しそうな笑みが浮かんでいる。

 

『やるなっ! てめえとその赤い肩、覚えておいてやるぜっ!!』

 

『余裕ぶるなっ! お前の最強伝説もこれが最後だっ……!!」

 

 青年は叫びながら大きくサーベルを振りかぶる。だが、それはグエルにとって、あまりにも見え見えな隙だ。

 

『そこだっ!!』

 

『っ……!』

 

 ビームジャベリンがくるりと一回転し、サーベルを腕のマニピュレータごと切り落とす。これで、レッドショルダーの武装はゼロ。

 

 そのまま返す刀でジャベリンがブレードアンテナを両断しようと迫り、

 

『こんなこともあろうかと!!』

 

 青年のデミトレが、残った腕を背面へと回し、ビームマシンガンの銃身を掴んだ。

 

『死ねよやぁああああ!!!!』

 

 そう、青年はこの時のために準備をしていた。

 

 接近戦でサーベルを使ったのも、このマシンガンを打撃武器として使おうという奥の手を意識させないため。

 

 サーベルと比べて威力が低くとも、打撃武器としてブレードアンテナをへし折るくらいは容易なのだから。

 

 そうして、グエル機の頭へとマシンガンが迫り、

 

『なっ……!』

 

 グエル機が後退して、その攻撃が空振りとなった。

 

 グエルは静かに言う。

 

『悪いな、俺は負けるわけにはいかねぇんだ……惚れた女が待ってるんでな』

 

 それは戦いのテンションが生み出した、グエルをトレンド一位へとまた押し上げるセリフ。しかし、自分が何を言っているかわかっていない中での言葉は、同じく愛する者のために戦っていた青年に突き刺さる。

 

『ふっ……大した漢だよ、アンタは』

 

 その後の結末は語ることはない。

 

 敗者が敗者として地に伏せたなどと、この名勝負の前には蛇足なのだから。

 

 こうして体育祭初日は数多のボロボロデミトレと、名場面を生み出しながら閉幕する。

 

 中でも、この戦いの模様はロマン男の監修のもとで"グエル 愛の戦い"として放送されて世界中で大人気となるのだが、それはまた別の話。




炎熱のアスティカシアが、狂気をはらむ。
グエルの望み、スレッタの運命。
せめぎ合う欲望と、絡み合う愛。
弾幕をくぐり抜けたとき、突然現れた一刻の安らぎ。
沈みゆくフロントに、二つの影が重なる。
だが、思いは、切なくすれ違う。

次回「アスティカシア炎上(嘘)」



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