アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男   作:カサノリ

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そう言えば、ミカエリスとベギルペンデを無事に確保しました。

最近は塗装にも手を出しているので、どんな色にするか悩んでます。サビーナにパーソナルカラーとかあればいいんですけど、紺色とかになるのかな?


21. 仮面の下

「急ぎなさい、マルタン! ケチャップの在庫が切れそうって、歌姫ピザから連絡があったわ! 早く詰め込んで搬入させて!!」

 

「は、はいっ!!」

 

「オジェロ! アンタもさっさと荷造り急いでっ! 業者は待たせてるから早くするっ!」

 

「ひぃいいいいっ!!」

 

「ヌーノっ! ……は、ちゃんとやってくれてるわね。あとで時給に色を付けとくわ!!」

 

「おーす、さんきゅーっ」

 

 そこは体育祭の舞台裏。

 

 祭の主役たちは、競技場で活躍しているMSやそれに乗る生徒たち。しかし、その祭を円滑に動かすために、何倍もの学生や、自治会が雇った業者が動いている。

 

 ミオリネが液晶パネルを操作しながら声を張り上げているのもその一環。彼女は自らの農園で作られるトマトやその加工品を、屋台に多く卸しており、主要スタッフである地球寮の男子たちをせかしながら業務管理していた。

 

 この時、時刻は正午になろうとしている。

 

 当然ながら飲食業としては書き入れ時であり、既に盛況を迎えている屋台たちから矢継ぎ早に追加の注文が殺到していた。

 

(はぁ……、やっぱり去年よりも忙しないわね。明日はハロの数も増やして、もっと効率よくしないと。じゃないと、あの子との約束にも間に合わないわ)

 

 ミオリネは忙しい中でも涼しい顔で、これからの計画について考えを巡らせる。

 

 元々、パワードハロをはじめとした機械を大量導入することで、少人数による経営を可能にしているが、祭本番になるとそれだけでは手の回らないところが出てくる。

 

 なので、こうしてミオリネ本人も調整に参加しているのだが……二日目はスレッタとのランチの約束がある。明日もこのように忙しくしていては、スレッタを悲しませることになってしまうだろう。

 

 おそらく、スレッタもちゃんと事情を説明すればわかってくれるだろうが……

 

「こんなことで、あの糞親父の気持ちをわかりたくなかったわ……」

 

(仕事が優先だから、プライベートのことは後回し、なんて)

 

 肝心な時に来てくれない友人だとは、スレッタに思われたくはない。ミオリネ自身が幼少のころから、デリングを相手にそんな不満を募らせていたのだから。

 

 だからこそ、今日の修羅場を乗り越えつつ、明日へ向けてさらに効率化を進める。ハロの配置や、業者の搬入時刻の更なる調整。マルタン達、地球寮生にも仕事はかなり教え込んだので、どこまでを任せるかの判断。

 

 さすがは経営戦略科のトップと言うべきか、ミオリネの頭脳はその最適解を見つけ出していく。

 

 そして、

 

「マルタン、ちょっと席を空けるわよっ! 明日の配達業者に連絡を取ってくるから!」

 

「は、はーいっ!」

 

 一時は危うかった諸々を終え、明日の準備を進めるために動きを取ろうと、作業場の外に出た時だった。

 

「……よかった。ここに来たら会えるって、スレッタに聞いたから」

 

 ドアを開けたミオリネに、そんな穏やかな声が届く。

 

 そして、ミオリネは話しかけてきた相手を見て、驚いて目を見開いた。

 

「あなたは、スレッタの……」

 

 そこに立っていたのは、グレーのスーツをまとった上品な女性。何より、その頭の上半分を覆うマスクのような、補助具のような仮面が目を引く存在。

 

「ええ。いつも娘たちがお世話になってます、ミオリネさん」

 

 プロスペラ・マーキュリー。

 

 スレッタの母であり、エアリアルの開発者とされている女性だった。

 

  

 

 機動戦士ガンダム 水星の魔女

 アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男

 

 

 

「ごめんなさいね、お仕事中に押しかけてしまって」

 

「……いえ、大丈夫です。ちょうど山場は超えたところですから、あとは現場スタッフだけで回せます」

 

「そう……しっかりしているのね、ミオリネさんは。知っていると思うけれど、私も経営者の端くれだから、あなたくらいの歳でそこまで働けるのは尊敬してしまうわ」

 

「……ありがとうございます」

 

 しばらく後、ミオリネはプロスペラと共に、競技場近くの喫茶店で席を向かい合わせていた。

 

 当然ながら、周囲は学生だらけ。その中で奇妙な風貌をしたプロスペラは目立ってしまうが、そこに興味を抱いて覗こうとした学生は、ミオリネを見つけるなりぎょっとして立ち去っていく。触らぬミオリネに祟りなし。祭の最中に面倒ごとに巻き込まれるのは、生徒たちも望むところではない。

 

 そんな中でプロスペラは、ミオリネに穏やかな調子で話を続けていく。

 

「それにしても、この体育祭の盛り上がりはすごいわね。私もスレッタの入学資料で確認したけれど、現地に入ると熱気も盛り上がりも段違いよ。本当にこのお祭、生徒さんたちが中心で運営しているのかしら?」

 

「ええ。グループ内外の作業人員を入れたりはしていますが、根幹部分は実行委員会が主導で動いています」

 

「たしか……あなたの幼馴染さんよね? その実行委員会の委員長さんって」

 

「バ……アスム・ロンドのことでしたら、そうですね」

 

 思わずいつもの調子でバカと呼びそうになるのを抑えながら、ミオリネはプロスペラの様子をうかがう。

 

 先ほどからこんな調子で続けるのは世間話。

 

 学園の生徒の活気やら、普段の授業の様子やら、そしてスレッタの学園での様子やら。仮面をかぶっていなければ、娘の友人に娘の様子を聞く母親という様子からは乖離しない。

 

 それがミオリネにとっては不気味だ。

 

(本当に……本当に、普通のいいお母さんに見えるけど。……この人は、ガンダムを生み出した魔女)

 

 もう一人の魔女がエランへした処置を考えると、何も知らないスレッタにエアリアルを持たせて学園に送り込んだプロスペラもまた、禁断の技術に手を染めていると考えるのが妥当。

 

 だけれども、その様子がまるでない。

 

 声色だろうか。とても穏やかで品があり、聞くものすべてが安らぐようなきれいな声。それが仮面をかぶっているという違和感をもってしても、プロスペラへの安心感を抱いてしまう要因になっている。

 

(どうしようかしら……)

 

 ミオリネは考える。

 

 いずれにせよ、エアリアルの問題には踏み込まなければいけない。だが、この場面で自分の手札をさらしてみるか、それとも、まだここでは隠しておくか。ミオリネはそのタイミングを計ろうとして、

 

「ふふっ、有名だものね。あなたたち三人のうわさ話は水星にも届いていたもの。十代前半であんなことを成し遂げるなんて……おかげで私も安心していたの。あなたたちがいる学園なら、あの子も"エアリアル"も任せられるって」

 

 その言葉に『はぁ……』とミオリネはため息をついた。

 

(誘ってくるなら、乗ってやるわよ)

 

 だから、ミオリネは言う。

 

「ええ、私もスレッタという大切な友人ができて幸せです。それに個人的にも……ガンダムにはとても興味がありますから」

 

 その言葉に、ミオリネの眼が間違っていなければ、プロスペラは面白がるような微笑みを見せた。

 

「ガンダムって、なんのことかしら? あなたのお父様……デリング総裁にもお話したけれど、あれは新型のドローン技術を使って……」

 

「……ベルメリア・ウィンストン」

 

「…………」

 

「その名前を、ご存じですよね? 彼女の身柄は、私たちが預かっています」

 

 ミオリネは言いつつ、プロスペラの反応をうかがう。

 

 言外に、下手な嘘をつくんじゃない、証拠はこちらが掴んでいるのだと告げるように。

 

 ベルメリア・ウィンストン。ペイル社にかくまわれていた旧ヴァナディース機関の技術者。そして、エランをはじめとする強化人士とファラクトを作った魔女。

 

 彼女もまた、ペイル社のガンダム部門を買収するにあたり、ミオリネの元へとくる手筈になっている。そしてそのベルメリアが調べれば、エアリアルがガンダムであることなど、すぐに明確になる。

 

 それを突き付けられたプロスペラに……動揺の色は見えなかった。逆に、彼女は安堵するようなジェスチャーをしながら、ミオリネに言う。

 

「そう、ベルが……。懐かしいわね。あの子も生き延びることができたんだ……」

 

「否定されないんですね……」

 

「否定してほしかった? でも、事実は事実だもの。ええ、私はかつてヴァナディースに所属していたわ。その時の名前は……申し訳ないけれど教えられない」

 

 だけれど、と。

 

 プロスペラが言葉を置きながら行った行動に、

 

「なっ……!」

 

 ミオリネは言葉を詰まらせながら驚愕する。

 

 プロスペラはおもむろに後頭部へと手を伸ばすと、その仮面の拘束を外し始めたのだ。

 

 水星の厳しい環境によって顔が失われた。そう、ベネリットグループには伝えられていたはずなのに、その仮面の中から現れたのは、

 

「ミオリネさん、あなたはとても賢いようだから、私もこうして真実をお話しすることにするわ。隠し事はなし、でね」

 

 穏やかな、美しい人の顔だった。

 

 こうして見た目だけは目麗しい美女による食事に早変わり。けれども、ミオリネは精神的に圧迫されるような感覚さえ抱いてしまう。

 

 相手が隠し事をしているならば、その隠し事を暴いて白日にさらせばいい。だが相手が積極的に真実を開示しようとするならば、主導権は相手のものだ。

 

「……それを、私に見せてもいいんですか?」

 

「スレッタは知っているもの。だけれど、もしあなたのお父様に知られたら……私の立場は危なくなるわね」

 

「安心してください。父に伝えるつもりはありません。私も、ガンダムに手を出したという点で、あなたと同じ責められる側ですから」

 

 ミオリネは方針を変えて、相手の懐を探る。

 

 自分もまた罪を背負っていると、同類だと伝えることで、相手のガードを下げようとするが、プロスペラの表情に変化はない。

 

(仮面を外したはずなのに……さっきよりも仮面みたいね)

 

 なら賭けではあるが、感情を逆なでするのも一つの手。

 

「父を、私を恨んでいないんですか? あなたはヴァナディース事変の生き残り。だとしたら、私の父によってあなたの同僚やご友人は……」

 

 ヴァナディース事変のことは、もちろんミオリネも調査している。

 

 ベネリットグループの前身組織、MS開発評議会によってGUND-ARMの所持、研究が禁止され、当時のGUND研究機関ヴァナディースとスポンサーである地球のオックスアース社に強制査察が入った。

 

 その際に、ヴァナディース機関ではGUND-ARMによる抵抗があり、やむを得ず研究員たちを武力制圧しなければいけなかった……と、それが世間に伝わっている歴史。

 

 制圧を指示したデリング・レンブランはその後、英雄としてその地位を確固たるものにするのだが……どちらが悪であったかなどは関係ない。プロスペラにとってはミオリネは仇の娘なのだから。

 

 そして、そんな揺さぶりもプロスペラはわずかに悲しい顔をするだけで、流してみせた。

 

「……恨みがないとは、言えないわね。私にとっても失うものが多すぎたもの。だけれど、もう二十年も前の出来事、今の私にはスレッタもいるし、ヴァナディースの技術はエアリアルとして残っている」

 

「ということは……」

 

「ええ。エアリアルはガンダムよ」

 

 だけれど、とプロスペラは続ける。

 

「ミオリネさんも知っての通り、エアリアルは安全なGUND-ARM。スレッタの身には何の影響もない。魔女と言われた呪いを、エアリアルは解いてみせた。……再現や量産は、残念ながらできていないのだけれどね」

 

「じゃあ、どうしてエアリアルを学園に……?」

 

「目的はエアリアルの存在を世間に示すこと。そして私たちのGUND-ARMが安全な技術となったことを知ってもらうこと。まずガンダムではないって偽ったのは、そうしないとあの子はいつまでも、日の当たるところに出られなかったから」

 

 だからスレッタとともに送り出し、グループの注目を集め、そしてその安全性を示すことでエアリアルの認可を勝ち取ろうとした。そういった類の博打だとプロスペラは言い、そしてミオリネへと慈愛のような視線を向けた。

 

「ミオリネさん……ベルのことを知っているというなら、きっとあなたはエアリアルにも踏み込むつもりでしょう? 私は、それがとてもうれしいの。あなたのような若くて才能のある人が、GUND-ARMに注目してくれた。私たちの果たせなかった夢を叶えてくれるかもしれない……」

 

「…………夢」

 

「だから、私もあなたに全面的に協力するわ。エアリアルの買収も、新会社の設立も。ああ、これは少し早とちりかもしれないけれど、きっとあなたなら考えているはずだものね?」

 

 ミオリネは考える。

 

 ミオリネがいくら聡明だろうと、相手の感情までを見通すことなどできない。だから、相手が論理的に間違っているかという観点でしか、探ることはできない。その点で、プロスペラの言葉はいささか綺麗事に満ちているが、矛盾はなかった。

 

 むしろ、今まで隠していた事実をミオリネにだけ開示して、誠意を見せた。

 

(これ以上は、追及できないわね……)

 

 結論付けて、ミオリネはプロスペラへと謝意を示す。

 

「答えづらいことをお聞きして、すみませんでした。さっきも言いましたけど、スレッタは私にとって大切な友達です。エアリアルがスレッタの家族なら、私も大事にしてあげたい。だから……エアリアルを預けていただけるなら、必ず大切にさせていただきます」

 

「ありがとう……、あなたはとてもやさしい人ね、ミオリネさん。私は三日間滞在するから、また時間があったらお話ししましょう? 次はロンド君やスレッタも一緒に。

 ああ、スレッタの出番ももうすぐだったわね。早く応援に行かないと」

 

 話は終わった。

 

 プロスペラは穏やかな表情のままで再び仮面をつけると、机の上のレシートを手に取り立ち上がる。そこに気を悪くした様子や、大きな罪悪感も、緊張感もない。あくまで自然体のままで立ち去ろうとしている。

 

 良き母で、良き大人のままで。

 

 違和感は、ある。けれどミオリネにもう追及する言葉はない。

 

(私だってそうするもの。何かを抱えていたとしても、企んでいても、一度会っただけの誰かにさらけ出したりしない)

 

 だからミオリネにプロスペラを非難することも、さらに疑いを深めることもできず。

 

『ミオリネさんっ!』

 

 けれど、スレッタが自分に向けてくれる笑顔を思い出した瞬間に、

 

「ま、待ってください……!」

 

 思わずプロスペラの袖をつかんで、止めてしまっていた。

 

 ミオリネは、自分でも何をしているかわからないまま、言葉が口を出る。

 

「す、スレッタに、謝ってください……」

 

「謝る? ああ、たしかにそうね……エアリアルのこと、だまっ」

 

「違うっ! そんな余裕な、子供をなだめるみたいに謝らないでっ!!」

 

「…………」

 

 荒げた声を出したことは、ミオリネ自身も意外だった。

 

 他人の家のことだ。

 

 自分が口を出すことじゃない。

 

 ここで関係を拗らせたら、ビジネスに関わる。

 

 そんな"しない"理由はいくらでも思い浮かぶ。だけれど、ミオリネは行動してしまった。

 

(ああ、そっか……)

 

 そしてミオリネはその理由をすぐに理解した。

 

「……学園に来てスレッタは、とても怖い思いをしました。エアリアルがガンダムだって知らなかったから。ただ、学校を楽しみにしていただけなのに、銃口を向けられて、家族から離されて……。すごく、すごく心細かったと思います」

 

 誰も助けてくれない。

 

 その辛さをミオリネは知っていたから。そして誰かがいざという時に助けてくれる心強さも、知っていたから。

 

「……だから、謝ってください。一人の親として、人間として、ちゃんとスレッタに向き合ってあげてください。……私の父は、そういうことをしてくれませんでしたから」

 

 ミオリネは、スレッタには自分の感じた寂しさも、悲しみも体験してほしくなかった。

 

 プロスペラは静かに言う。

 

「そう、ね……。大切な娘だものね……。ありがとう、ミオリネさん。ちゃんとスレッタには説明して、謝るわ」

 

「私こそ、いきなり失礼しました……」

 

 プロスペラの仮面の奥は見えないまま。

 

 だけれどその言い淀みは、今までのどの言葉よりも、プロスペラの感情を反映しているような気がした。

 

 そうして会談は終わり、ミオリネは店を出てから後悔を始める。

 

(やっちゃった……。糞親父ならこんな弱み、絶対に見せなかったはずなのに……)

 

 あの瞬間だけ、ミオリネは年相応の少女の一面を見せてしまった。それは敵対する相手にとってミオリネを攻撃する材料に他ならない。

 

 あるいは、あそこまでプロスペラが余裕だったのも、ミオリネの感情を引き出そうとするエサだったのか……。

 

(わからない。そう、まだわからないことが多すぎる……)

 

 だから、今日の失敗も糧に、ミオリネは戦うしかない。

 

「……見てなさいよ、狸ババア」

 

 そしてまた、ミオリネ・レンブランと言う人間を見定めたプロスペラも、喧騒の中で笑みを浮かべていた。

 

「まだまだ可愛いものね……女狐と呼ぶには早すぎるわ」




本当はこの話と別のを抱き合わせで一話にする予定だったのに、めちゃくちゃ筆が乗ってしまいましたね。プロスペラさん、ひどい親だけどキャラクターとしては好きです。

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