アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男   作:カサノリ

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まだできんだろ?やればできるやればできる、あきらめんな、お前はもっとやれるやれる!パワーっ!!!!!



23. もっと熱くなれよ!

 体育祭二日目。

 

 それはアスティカシア学園には珍しく、MSを使わずに力の競い合いが行われる日。

 

 前日にデミトレが大暴れしたMS用競技場は大きなダメージを受けており、さらに激しい体育祭三日目を迎えるには全面的な応急処置が必要。そのような理由でMS競技場を使わず、一般的な体育祭さながらに生徒たちはMSから降りて競技に参加することになる。

 

 競走やリレー、玉入れに各種球技、さらにはトライアスロンやクレー射撃といったオリンピックのような種目がそろえられているので見ごたえは十分。

 

 特にパイロット科には眉目秀麗で文武両道な学生が多いのもあって、そういった学生の活躍を期待する観客も多く訪れる。

 

 中でも今年の注目株は……当然ながらグエル・ジェターク。

 

 全世界で中継された決闘&プロポーズのせいで、その人気は学園外にも広まっている。本人がジェターク寮の気質のためか体を鍛えるのを日課にしていることもあって身体能力も高いことも知られており、少なくない数の観客がグエルと、あるいはその意中の人であるスレッタとのツーショットを見たいと思っていた。

 

 そしてそのグエルはと言えば……

 

「ぐぉおおおお……」

 

 二日目の朝、自室でうめき声をあげていた。

 

 

 

 機動戦士ガンダム 水星の魔女

 アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男

 

 

 

「俺は、俺はまたやっちまったぁ……」

 

 ジェターク寮の一角に響き続ける苦悶の声。

 

 グエルはもう間もなく二日目のプログラムが始まるというのに、ろくに着替えることもできずに後悔に打ちのめされていた。

 

 だが、それも仕方ないだろう。なにせ、彼の目の前には、

 

『グエル 公開告白2nd』『グエルに学ぶ漢の背中』『スレッタLOVEに込められた思いは?』『徹底討論 スレミオVSスレグエ』

 

 などなどなど。彼の自室のディスプレイに一日目のグエルの活躍する映像と共に、そんな題字が並びまくっている。すべては、あのデミトレバトルロワイアルで、グエルが高まったテンションと共に言ってしまった本音たちのせいである。

 

 おかげで、寮の外からも。

 

『きゃーっ! グエル様ぁ、早く出てきてぇ!!』

 

『スレッタちゃんとの仲、応援してるわよぉ!!』

 

『グ・エ・ル! グ・エ・ル!!』

 

 と押し寄せた観客による黄色い歓声が飛び交っている。しかもそのほぼ全員がグエルの応援パネルやら応援ハチマキやら、応援うちわやらを手に持っているのだから、旧世代のどこかのイケメンアイドルさながらの扱いだ。

 

 なのでグエルはらしくなく胃痛とともに『休みてえ……』と考えてしまっていた。

 

 このままでは一挙手一投足がネタにされ、無限にグエルがトレンド一位に上り続けることになりかねないからだ。

 

 そして同じ意見の者がもう一人。

 

「お願いだ兄さん! もう水星女と妖怪に関わるのはやめてくれ!!」

 

「ラウダ……」

 

 ラウダは縋り付くようにしてグエルに懇願する。

 

「このままじゃ兄さんの未来は大変なことになるっ! 昨日の放送のせいで、ずっとトレンド一位が兄さんだし」

 

 じゃらじゃら……

 

「ジェターク社はMS製造よりも兄さんのファンクラブ窓口みたいになっているし!」

 

 じゃらじゃら……

 

「昨日だけで兄さんのグッズが数えきれないほど作られているんだ!! このままじゃ……」

 

 じゃらじゃら……

 

「貯金が消えてなくなるっ!!」

 

「じゃあグッズを買うなよ……」

 

 グエルは全身をグエルグッズで埋め尽くし、変わり果てた弟の姿を見て正気を取り戻した。人間、自分よりも取り乱している者を見ると、案外いけると思うものである。

 

 

 

 辛い現実が待っている。しかしグエルは逃げたりしない。そして、目が死んだままのグエルも迎えて二日目が始まった。

 

 人間用の競技場と言っても、そこはアスティカシア学園。これまた旧世代のサッカースタジアムほどの大きさの施設が作られ、陸上競技などはいくつもの種目を同時に行えるようになっている。当然ながらその競技場の周りには屋台が立ち並び、さらには注目選手のブロマイドやサイン色紙なども並んでいた。

 

 よく見るとスレッタの書いたと思われる慣れないがほほえましいサインや、シャディクの書いた無駄に凝られたサインなども中にはある。シャディクは自己プロデュースに余念がないし、スレッタは求められたから流されるままに書いてしまったという事情があった。

 

 とにもかくにも、初日に勝るとも劣らない熱気の中にいるグエルだが、

 

(なんとか、なんとか今日は大人しく乗り切るぞ……)

 

 なんてらしくないことを考えていた。

 

 スレッタにアピールするのが嫌でも、ましてスレッタのことが嫌いなわけではないが、ここまで自分の預かり知らないところでも話題になると、どうしても恐怖のほうが勝ってしまう。なので専用機もちとして否応なく目立ってしまう三日目の前に、少しでもファンたちを落ち着かせておきたいと思っていた。

 

 最近はグエルに干渉するたびにジェターク株が急落するのでめっきり連絡を取らなくなってきた父親も、こうも悪目立ちすると何を言ってくるかわからない。

 

 なるべく目立たず、さりとてさりげなく活躍する。

 

 そうグエルは決意して……

 

『えーっ、ここで突然の連絡ではございますが。本日のMVP選手には大会スポンサーより特別な副賞が授与される事が決まりました』

 

(ん……?)

 

 開会式の中、檀上の実行委員会二年が言い出したことに顔を上げる。

 

 去年もMVP選手の表彰などはあり、立派なトロフィーが贈られていたが、副賞などは初めてのことだった。しかも事前連絡もなくいきなりである。

 

 当然ながら期待や困惑に生徒たちがざわめくが、グエルは平静を装う。

 

(バカ野郎どもが。どうせ副賞だなんだといっても、ろくな……)

 

『副賞はアスティカシア貸し切り男女ペアチケットですっ!!』

 

「なにっ!?!?」

 

 しかしその平静は、副賞の中身を聞いた途端に脆くも崩れ去った。

 

 なにせそれは伝説のアイテム。

 

 一日だけアスティカシア学園の様々な娯楽施設、レストランを無料で使うことができる魔法のチケットであり、導入以来そのチケットを使ってデートをした男女は必ず結ばれるという噂が付きまとう縁結びのチケットでもあるのだから。

 

 グエルの脳内はとたんに赤毛の少女でいっぱいになる。

 

 おしゃれなショッピング街をグエルと並んで歩くスレッタ。グエルと腕を組んで照れ笑いを浮かべるスレッタ。おしゃれなレストランで着飾って食事をとるスレッタ。最後には夜景の見える場所でその距離は接近し……

 

「だぁあああああ!? な、なにを考えてるんだ俺はっ!? あいつでこんな不埒なことを……!!」

 

 叫び、衆目をはばかることなくグエルは悶絶する。

 

 目立たないようにすると決めていたのに、既にこの惨状である。

 

 だがわかってほしい。彼もまた思春期を生きる少年。好きな女子のことを思うなど日常茶飯事なのだから。

 

 しかし、まだここでもグエルには理性があった。

 

 副賞が魅力的であることは確かだが、それを狙って本気で動いたら、どれほど自分が見世物になってしまうかの冷静な計算ができていた。誤算だったのは一つだけ。

 

 グエルが大げさに動いているのが見えたのだろう。たまたま近くの女子の列に並んでいたスレッタがグエルを見つけて、

 

「グエルさんっ! 今日は一緒にがんばりましょうねっ!」

 

 などと張り切った声を出してしまった。

 

 瞬間、グエルの脳内にあふれだした存在しない記憶。

 

 

 

『一緒にがんばりましょうねっ!』

 

『一緒に(副賞目指して)がんばりましょうねっ!』

 

『一緒に(デートするために副賞目指して)がんばりましょうねっ!』

 

 

 

「…………」

 

 すん、とグエルの理性は停止した。

 

 そんなグエルのことを知らずラウダが話しかける。

 

「兄さん、わかってるだろ? 副賞なんて気にしないで、おとなしく……」

 

 グエルも忠告の意味を理解しているだろうと予想してのラウダの言葉。だが、グエルは澄み切った目でこう言った。

 

「ラウダ……」

 

「え?」

 

 

 

「絶対に負けられない戦いがここにはある……」

 

 

 

「兄さんっ!?!?」

 

 

 

 そして競技が始まり、グエルは弾けた。

 

『さあ始まりました、5V5サッカー決勝戦。ジェターク寮対ブリオン寮の試合です。注目選手はもちろんグエ……おっと!? グエルがいった、グエルがいった! そのままドリブルして……ゴールゴールゴールっ!! つよい、つよすぎるぞグエルっ! なにがお前をそうさせる!?』

 

 サッカーでハットトリックを決めて優勝したり、

 

『物凄い脚だ! 物凄い脚だ! 来たぞ来たぞ来たぞ! グエル来た! グエル来た!

 よぉし、グエルが先頭に立った! グエルが先頭に立った! 大歓声だ! 大歓声だアスティカシア競技場! 赤い獅子が晴天の競技場に大きく吠えた!! 体育祭史上、最速の記録が達成されました!』

 

 500m走で大会レコードをたたき出してまた優勝したり、

 

『黒鉄そびえるアスティカシアに、真っ赤な獅子が現れた。グエル・ジェターク、そのたくましい上腕二頭筋が奏でるのは勝利の凱歌か、それとも敗北か。グエル・ジェタークパイロット科三年生。『俺を誰だと思っているんだ走法』『人間ディランザ』『音速の貴公子』。夢はもちろんスレッタとの結婚。その夢がかなうか否か、いま、運命のホイッスルがなりひびくっ!』

 

 やけに熱意のこもった応援に背中を押されて、数多くの種目で表彰台を独占していった。

 

 その近くの競技場では同じく張り切って競技に参加したスレッタが、

 

「えっほ! えっほ!」

 

「スレッタちゃんはめんこいねぇ……」

 

「うちに嫁に来てほしいわぁ」

 

「いやいや、あの子にはグエルくんっていうお相手がいるんだわさ。邪魔しちゃなんね」

 

 などとけなげに頑張る様子を見せてお年寄りからほほえましい視線を浴びていたりした。

 

 

 

 そうして着々と種目が続き、午前中最後の種目になる。

 

 この体育祭は個人が望めばいくつもの競技に参加できる都合上、総合的な選手評価は加点式ではなく平均で取られている。もちろん参加種目数によって補正や加点は入るが、重要なのは総合的な運動能力。

 

 だがいくつかの大規模競技においてはボーナスポイントとして大きな評価点が総合成績に追加されることになっていた。総合MVPを取るには、それらの種目で上位に上ることが大きな近道。

 

 男子総合体育レース。

 

 午前中最後の種目がまさにそれにあたり、もとより総合MVPを狙っていたグエルも参加することになっている。

 

 しかし彼にとって予想外だったのは、

 

「……てめえらか」

 

「…………」

 

「おやおや……」

 

 グエル、エラン、そしてシャディク。

 

 御三家筆頭と呼ばれた男たちが一堂に会したこと。

 

 さらに、

 

「ハーッハッハッハ!! 俺、参上!!」

 

(((バカまで来た……)))

 

 ロマン男までやってきて、出場選手が勢揃い。

 

 何の運命の悪戯か、いや、おそらくは妖怪の悪戯による男たちの戦いが始まろうとしていた。




次回、サスケェ!!

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