アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男 作:カサノリ
それはサイコロ任せよ、ほい♪
「恋バナー♪」
昼間はたくさんの熱気をまとっていた競技場は、今は眠りについたように静寂に包まれている。
夜の0時を跨ごうという時刻なのだから、それは当然だ。
様々なドラマと、汗と涙を生み出した二日目も無事に閉幕し、学生たちもMSではなく自分の体を動かしたことへの満足感と疲れを感じながら眠りにつく……わけはない。
「いぇーーーーっ!! おつかれ、ふぅーーーー!!」
「「「「いぇーっ!!!!」」」」
なんて、どんちゃんどんちゃん、と学園の各所で響きわたる歓声と笑い声。
社会に出て働き始めた大人たちは、もう思い出せなくなってしまうが、学生はエネルギーの塊だ。いくら体を動かしていようと、いくら疲れていようと、祭の間は眠れない。眠りたくない。それが学生というもの。
特に二日目となれば、もう残るのは最終日のみ。一日くらいは寝ないで無茶してもいいだろと思ってしまう無鉄砲さもまた、青春だ。
アスティカシア学園は眠らない。
たくさんの子供たちの熱を抱えながら、夜も祭は続いていく。
機動戦士ガンダム 水星の魔女
アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男
「スレッタ、チュチュ! 入賞おめでとうっ!!」
「「「おめでとーっ!!!!」」」
アスティカシア学園全体で夜通し祭が行われているとなれば、当然ながら地球寮でも同じような賑わいが続いている。
マルタンの珍しい満面の笑顔と音頭とともに、クラッカーがかき鳴らされて、中心にいたスレッタとチュチュがテープまみれになる。チュチュなんて、ボリューミーな髪にテープが絡み合い、それだけで前衛的なオブジェのようだ。
だが、そんな格好になっても二人は笑顔だった。
なにせ涼しい顔をしたミオリネはともかくとして、他のメンバーも全員が楽しそうな笑顔を浮かべているのだから。
「へへっ、さっすがスレッタの姉御! あんだけいろんな競技に出て活躍するなんて、やっぱあーしが見込んだ女だよっ!」
「ちゅ、チュチュちゃんだって、えっと……力比べ、すごかったよ!」
「うんうん、ハンマー片手にぶっこわすわ、ぶっこわすわ……」
「マジゴリラ。俺、チュチュには絶対にケンカ売らねぇ……」
「いま、売ってんよなぁ!?」
オジェロとヌーノの軽口に、チュチュはこめかみに青筋を浮かべながら、競技で使っていたデカい木槌を振りかぶる。当然ながら後輩の迫力に、男子二人が土下座で謝ることになった。
とはいえ、地球寮生が活躍した。水星出身のスレッタだけでなく、一年生のチュチュまで。
それは地球寮全体にとっても全員でお祝いすべきことであり、彼らの前には喜びを示すようにピザを中心としてドリンクやらお菓子やらがたくさん山積みされていた。
特に寮長であるマルタンの喜びようと言ったら相当なもの。涙すら浮かべながら、こう言うのだ。
「うぅっ……僕は、僕はうれしいっ……!! 先輩たちも頑張ってきたけど、これまで全然活躍できなかったし……!!」
「うん。運動が得意な先輩、少なかったからね……」
「MS競技でも、メカニックとしては私たちは働けるけど、パイロット科がいないとどうしようもなかったからね」
マルタンの気持ちも分かると、ティルとアリヤがその肩を叩きながらねぎらう。
体育祭で活躍するというのは、地球寮にとって小さな、だけれど大切な悲願だった。
とある男の方針のおかげで、活躍できなかったとしてもバッシングされることはないし、それで不利益を被ることもなかったが、やはり『アーシアンはダメだな』みたいな目で見てくる学生はまだいるにはいる。
かといって地球寮が活躍できるように、実行委員会から下駄をはかせるというのは不公平になってしまうし、地球寮への反感が逆に広がってしまうことになる。
ロマン男としても、地球寮には自分たちの力で頑張ってもらい、周りを見返してもらいたいと思っていたに違いない。
だから、
「これで、少しは期待に応えられたかな……」
アリヤは静かに、今もどこかを走り回っているだろう少年の顔を思い浮かべながら、ほっとしたようにつぶやいた。
もしかしなくとも、この結果を一番喜んでくれたのは、自分たちを差別しないで仲間にしてくれた彼だと思うから。
入学して三年目にして、ようやくアスティカシア学園の一員として胸を張れるのだから。
特に三年はしんみりと、今までの大変なことも多かった日々を思い出す。だけれど、そんな雰囲気を壊す勢いでチュチュは立ち上がり言うのだ。
「なーに言ってんだよ! まだ体育祭は終わってねえ! 明日は寮対抗のMSリレーもあんじゃねえかっ! そこでも絶対に活躍して、スペーシアンの連中に一泡吹かせてやんだよっ! な、姉御!!」
「わ、私もがんばりますっ……!」
「って言っても、MSは三体必要なんでしょ? デミトレ借りれるとは言え、もう一人のパイロットはどうすんのよ?」
「うっせーな、この冷血リアリストっ! そこはオジェロが頑張るんだよっ!!」
「うぅ……賭けに負けちまったばっかりに」
「罰ゲーム扱いじゃない……」
ミオリネは頭を抱えるオジェロを見ながら、呆れたように言う。
チュチュやスレッタには悪いが、競技に参加できるとは言っても、一着は難しいというのが、ミオリネの冷静な判断だ。
寮対抗リレーでは装備の換装の手際の良さやコース取りの戦略など、メカニック科と経営戦略科の学生にも高い能力が求められるので、その点でも人材の層が薄い地球寮は厳しい戦いになる。
相手はチーム戦に秀でたグラスレー寮に、グエルだけでなくラウダという優秀なパイロットがいるジェターク寮、さらにどうせ違法薬物パワーだかなんだかでとんでもないことをしてくるペイル寮と強敵ぞろい。そうそう一位を奪える相手ではない。
とはいえ、悲観することもないとミオリネは考えていた。
(ま、エアリアルがいるからビリは免れるでしょうけど……それだけでも立派な結果よね)
少なくともこの祭をきっかけに、地球寮だからと甘く見る学生は少なくなるだろう。そうして、地球寮の地位が上がれば、その先の構想についても選択肢が広がる。
(下手に御三家の力を借りなくて済むから、この子たちを味方にするのが安全なのよね。農園で教えられるところは教えたし。……きな臭いところに関わらせるのは気が引けるけど、いざとなったらあのバカを生贄にしましょ)
そのどこかのバカが聞いたら『鬼悪魔! ミオリネ!!』とか叫びそうなことを考えながら、ミオリネはピザをほおばる。やっぱり母の味は今日もおいしかった。
その後も男子たちが酒に酔ったように踊り始めたり、チュチュとスレッタが対抗して下手なダンスで盛り上げたりと、夜が更けても宴は続く。ミオリネにとってもこうした騒がしい場所は得意ではないが、バカが変なことをしてこないという点でも、地球寮でのパーティーは気易かった。
そして、だんだんと夜も更けてくると、普段は話せないような話題も上り始めるもの。
「アリヤ先輩は、ロマン先輩のどんなところが好きなんですか?」
「……っ! ごほっ、ごほっ!!」
唐突に、本当に唐突に、地球寮の一年生で恋愛ごとに興味津々なリリッケがアリヤに尋ねたのだ。その質問を予想していなかったアリヤは思わずせき込み、慌てた様子でリリッケに聞き返す。
「な、な、なにを言ってるんだリリッケ! 私とあいつが……」
「えーっ? でも好きなんでしょう?」
「そ、そんなことは一言も……!!」
「言ってねーけど、顔に出てるよな」
「うんうん」
「オジェロ、ヌーノっ! 君たちまでそんなことを!?」
「……本音を言えば、そろそろじれったいからはっきりさせてほしい」
「ティル!?」
信じられる味方だと思っていたティルまで冷静にぶちまけ始めたので、状況はもうアリヤに不利だった。マルタンも言わないが察している風でもあるし、チュチュは『興味ねー』という態度だが、聞き耳だけはしっかり立てている。
唯一、まったく気づいていなかったのはスレッタくらいだろう。
「こっ……!!」
と謎の一言を発したまま、顔をこわばらせてアリヤを見ている。しかし両手ではしっかりとハートマークを作っており、『恋バナですかっ!?』と言いたげな様子。
友達と恋バナをするなんて水星にいたころからあこがれていたシチュエーションであるから、スレッタの興奮がキャパシティオーバーになってしまったのだろう。
と、そんな状況を生み出してしまったリリッケだが、気にしない様子でアリヤに畳みかける。
「ほら、もうみんなにばれていますし、せっかくだからお話ししましょうよ♪ 先輩のどんなところが好きなんですか? 告白するつもりなんですか? デートとか、プレゼントとかもらったことあります?」
「すっげー勢いだな、リリッケ」
「俺達でそういう話が出るの、アリヤくらいだもんな……。聞きたくてしかたなかったんだろ」
男子がドン引くほどのキラキラオーラで迫られるアリヤ。アリヤも何とかごまかそうと頭を巡らせるが、もう言い訳は効きそうにないし、そもそも自分で自覚して久しいから何を言っても嘘になってしまう。
それにアリヤもまた、祭の中で秘密をぽろっと言ってしまいそうなテンションにはなっていた。
アリヤは赤くなった頬を押さえながら、小声で言う。
「……ぷ、プレゼントなら、誕生日プレゼントをもらったことがある」
「きゃっー♪ さすがロマン先輩、ポイント高いですねっ! それでそれで? なにをもらったんですか?」
「こ、このペンダント……」
「わぁ♪ いつもつけてるやつじゃないですかぁ! アリヤ先輩、すごいアピールしてるじゃないですかぁ♪」
「べ、別にアピールとかじゃなくて……!」
「アスムが来るときは、いつもアイツから見える位置につけてるよ」
「だから、ティルはばらさないでっ!!」
とうとう大声を出して顔を真っ赤にしてしまうアリヤを見て、さすがに恋愛に疎いスレッタやチュチュも『ベタ惚れだ……』とわかってしまった。
けれど、とチュチュはソファに寝そべりながら言う。
「他人の恋だかにとやかく言うつもりはねーけど、あのロマンパイセン、そんなにいいか?」
チュチュからすればアリヤが彼へと懸想する理由がよくわからない。
確かに自分たちを気にかけてくれる先輩だが、それと同じくらいにはトラブルを持ち込んでくる厄介者でもあるし、恋愛対象にはならないと思ってしまうのだ。
それは二年の男子二人も同じようで、指折り数えながらロマン男の特徴を上げていく。果たしてどこを好きになるのか、と。
「えーっと、あの人って男子としてみたら……」
「顔は……わりとイケメンだよな。童顔だけど、あのシャディクとかと並んでも違和感ねえし」
「タッパもあるよなぁー、あんまり気にしたことないけど、近くに来るとでけーぞあの人」
「運動も、今日もいろんなところで爆走してたし、できる方で」
「MSの操縦もグエルとため張れるくらいにつえー」
「「…………」」
言いながらオジェロとヌーノは顔をしかめながら言い淀み始める。
なんだか特徴を上げていくうちに、自分たちの知っているロマン男との乖離が激しくなってきたからだ。事実なのに、その特徴で生み出されるのが超絶高スペックのイケメン野郎で、バカ呼ばわりされる男とは結び付かない。
「……あ、頭のほうは」
「あの人、三年の経営戦略科で二位だぞ」
「……か、金」
「社長やってるやつに、なに言ってんだ」
「しょ、将来性……!」
「……三年で体育祭を大成功させてんだから、これからもっと伸びんだろ」
「それ、あの人と同一人物か……?」
「いや、ちげーよなぁ」
そこまで言って、男子二人は苦い顔をしながら、いつも高笑いを浮かべている男の姿を思い浮かべる。
((あの人が完璧超人……?))
そんなわけないし、どっかに欠点があるはずだと必死に考えて、
「でもロマン狂いってとこでスリーアウトだろ」
「「それだぁあああああ!!」」
チュチュの言葉に全力で二人は同意した。
確かに客観的には大会社の社長で成績もいいイケメン野郎(=男子が嫌いなタイプ)だが、普段の行動すべてが胡散臭いロマンに汚染されているのだから、その利点のすべてが消え去っていく。むしろ黙っていればイケメン野郎(=男子が本当に嫌いなタイプ)なのに、そんなことをしている時点で危険人物だ。
だから恋愛対象にはならないというけれど、恋愛に詳しいリリッケはと言えば、
「もー、わかってないですねー。そういう人だから、いいんじゃないですか! ねー、アリヤ先輩?」
「…………うん」
「「「……あ、そっすか」」」
チュチュと男子二人は、その言葉に理解をあきらめた。
とかく恋愛とは奥が深いものらしい。
一方で、そんな話を聞いていたスレッタはと言えば、チュチュたちと違って異なる価値観だからこそ興味を引かれたようだ。わずかに頬を染めながらアリヤへと席を近づけて尋ねる。
「そ、それで……! い、いつから好きになったんですかっ!!」
「い、いつから!?」
「は、はいっ……! べんきょーのためにっ!!」
「うぅ……そ、それは難しい話だね……。その、いつから、ということはないんだが……」
かつてスレッタに語ったように、学園に入ったばかりの頃は地球出身だという理由でいじめられていたアリヤ。そんな彼女を助けようと、すっ飛んできた変人というのが出会い。
だが、
「最初は……やっぱり、よくわからない人だったよ」
アリヤにとってもそれはそうだ。ロマンだなんだと口にしては上級生にケンカ売るし、社長してるくせにわざわざ学生になっているし、経営戦略科のくせに専用機をもって決闘も楽しんでいるし、とまさに奇人や変人の類だった。
「でも……、あいつはバカみたいにやさしかったから……。何度、私たちが疑っても、不思議に思っても、いつだって友達だって言って、助けてくれたから……」
だから、いつの間にか……。
「…………わぁ」
スレッタは思わず、呟くように言うアリヤの顔に見とれてしまう。
元からきれいな先輩だとは思っていたけれど、思い出を振り返りながらはにかむように言うアリヤの横顔は、いつもの何倍にも美しく見えたから。
昔に水星で読んだ本に書かれていた『恋は女性を美しくする』という言葉。まだ幼いスレッタには分からなかったその意味が、初めて理解できたような気がした。
(私も、そういう人と……)
と思えてしまうくらいに。
だが、リリッケを除く他の一、二年はと言えば、
「いきなり胃もたれしてきた……」
「あーしも、はらいっぱいだぁ……」
「……なんか、薄汚れててすんません」
なにやら勝手にダメージを食らってノックアウトの様子だ。
興味半分で突っついたら、思った以上にガチなものが出てきて、体が拒否反応を示したようである。
そんな後輩をさておき、いまだにぽわぽわして頬を染めているアリヤに、彼女をよく知るティルは言う。
「それで……告白するの?」
「こ、こくはくっ!?」
アリヤは飛び跳ねるが、ティルは至極真面目だ。
「だって、俺たちは三年生だ。もうすぐこの学園からいなくなる。……そうしたら地球と宇宙で、しかも相手はロングロンド社の社長だ。俺たちにとっては雲の上の存在になるよ」
もっとも、その程度であの男が友情を捨てるとは欠片も思っていないが、とティルは内心で友人を信じながら、だけれども応援している同級生に発破をかけることにする。
「……後悔してからだと、遅いよ?」
「……そ、そうかもしれないけど」
「アリヤ先輩なら大丈夫ですよっ! 私たちから見ても、とってもきれいですし!」
「マジ下世話だけど、アリヤとロマン先輩がくっついたら超玉の輿だよな……ロングロンドって資産どのくらいだ?」
「……オジェロ、さすがにそれは下世話過ぎんだろ」
「でも、アーシアンとスペーシアンが結婚したら、地球への風当たりもけっこう楽になるかもしれないなぁ……。僕たちの就職にも希望が見えてきたり……」
「だから人の告白を大事にしないで……!?」
はぁ、とアリヤは額を手で押さえて考える。
マルタンや後輩の話はともかく、ティルの言葉は確かに正しい。
まだ先ではあるが、そうはいっても卒業まで一年もない。卒業すれば、当然彼との距離はとてつもなく離れてしまう。そのことに対して今更ながら焦燥感が生まれ始めたのだ。
彼があの笑顔を向けてくれない、それは想像したくないほどに怖いこと。
だけれど一方で、
「……そんなことして、嫌われないだろうか?」
告白するという行為へ、恐れがあった。嫌われずとも、代名詞のごとくロマンを追いかけている彼にとって迷惑になるのではないかと思ってしまうのだ。
それを聞いた後輩たちは、アリヤの不安を一蹴する。
彼女達からすれば、告白したからといって、ロマン男の態度が変わるほうがありえないと。
「そんなことないと思いますよぉ!」
「そ、そうですっ! 先輩は、人を嫌いになったり、しませんっ!」
「まー、アーシアンのあーしらにあんな風にかかわってくれんだから、だいじょーぶじゃねえの?」
「でも……」
となおも反論しようとして、アリヤは気がついた。チュチュの言った、『アーシアンに関わってくれた』という言葉から気づかされた。
(……そうか、私は何も知らないから怖いんだ)
被差別民であるアーシアンへと何のためらいもなく救いの手を差し伸べてくれた少年。彼自身もそれで攻撃されたことは山ほどあるし、そんな中でもアリヤの前では明るい笑顔を絶やさずに接してくれた。
彼はその理由をロマンだからだと言っているが、彼がそうまでロマンを追い求める訳をアリヤはまだ知らない。
だから、臆病になってしまう。
彼には本当に大事にしている物がある。だけれどそれを自分は知らないから、自分からこの関係を崩してしまうことで、その邪魔になる可能性が捨てきれない。
そうして彼と離れてしまうことが辛い。
「……なんで、アスムはアーシアンを助けてくれたんだろう」
アリヤは答えを自問するように問いかける。
それを聞いた周りの者は、
「それはロマン……って、そもそもロマンがなんだかよくわからないか」
「そうだね……アイツはあれで自分のことをしゃべらないし。好きなアニメや特撮の話はしてくれるけど」
三年生でもそんな調子で、後輩に至ってはロマン男が暴れまわった姿を見ていないので、よりピンとくるものはない。めいめい好きなことを言い始め、
「……改めて考えても、俺らの待遇を良くしても、ロマン先輩に得はねえよな」
「そーいう人だって、いるんじゃね?」
「あーしたちの能力を評価してくれてたとか、じゃね?」
「あっ! もしかしてアリヤ先輩のことが最初から好きだったんじゃないですか! それなら……」
「そうじゃないわよ」
ミオリネの鋭い声が、喧騒を止めた。
「……ミオリネ? もしかして、君は知っているのか?」
アリヤもはたと思い出す。この後輩の少女こそが、アスム・ロンドの幼馴染と呼ばれる関係であり、もっとも彼に近しい人間だったことを。
そんなミオリネが、この話の間に一度たりとも口を挟んだりしなかった彼女が、いきなり話を遮るように割って入った。
だからこそ、アリヤは尋ねた。
彼が自分たちを助けてくれた理由を知っているのか、と。
そしてミオリネの答えは。
「ええ、知ってるわよ……。だけど、教えるつもりはないわ」
その言葉は固く、どこか重い響きがあった。
アリヤはそれを、不思議な声色に感じた。
幼馴染の過去を詮索したことへの怒りではないし、下世話な話を繰り返した嘲りでもない、まして異性に対する嫉妬でもない。
ただただ事実として、自らが秘密を知っていることと、教えることへの拒絶をミオリネは示した。
ミオリネはアリヤを見つめながら言う。
「……別に、アイツの恋バナになんて興味はないわ。そして、あなたが誰を好きになろうとも、私とは趣味が違うのね、とかそういう話だもの。自由にしたらいい。だけど……」
言葉は静かに、だけれども重く。
「ただ助けられた友人でいられないっていうなら……覚悟はした方がいいわよ?」
「…………覚悟?」
「ええ。理由は教えないけど、ね」
話は終わり、と言ってミオリネは立ち上がる。そして『今日はもう遅いから寝るわ』と言ってすたすたと立ち去ってしまった。
後に残されるのは突然のミオリネの言葉に戸惑うばかりの地球寮生。
「……なんか、めっちゃ意味深なことだけ言って、帰っていきやがった」
「あれ、正妻の余裕とかそういうんじゃないよな?」
「ミオリネとアスムはそういう関係じゃないし……」
「……でも、きっとミオリネなりのアドバイスだと思う」
ティルはそう言って、まだ呆然としているアリヤへと言う。
「……大丈夫?」
「あ、ああ……大丈夫。すこし、考え事をしていただけだから……」
アリヤは考える。
占いを趣味としている者としてか、あのミオリネの言葉は忠告や何かを暗示しているように感じたからだ。きっと、アリヤたちの望まない答えが待っているかもしれないという警告の意味。
だけれどそれを口に出したミオリネの真意は、別のところにあるようにも感じた。
的外れなことばかりを言っているというのなら、ヒントのようなことを言う必要もないのだから。ただ黙って聞いて、帰ればいいだけ。
(なのにミオリネは、私たちに教えてくれた……)
まだ答えは出ない。
だけれど、もしかして、ミオリネは私たちにも知ってほしいと思っているんじゃないか、と。
それがミオリネの意志なら……
アリヤの心の中にはぼんやりと意思が生まれていた。
残り少ない学園生活。そして、確かにくすぶっている恋心。それを何かを"知らない"という事実だけで蓋をしてしまうのならば、きっとロマンを愛する彼に、これ以上近づくことはできない。そんな資格はない。
だからまず、彼にもっと近づく一歩として。
(私も、知りたい……)
アリヤは静かに、そう決意した。