アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男   作:カサノリ

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02. 麒麟児

「ロングロンド・ホールディングスCEO、アスム・ロンド。

 貴方はプラント管理社の正当な業務に対し、モビルスーツを用いた介入、および恫喝行為を行った容疑がかけられています。……なにか反論はありますか?」

 

「行為自体は認めます。確かに私はMSを用いて介入しました。

 しかしながら、件のプラント管理社が行った業務内容について、私は正当性を欠いていたと判断し、学園のスポンサーの一人として、一学生の身の安全を守るべく介入しただけです」

 

「ほう……? ガンダムを開発、所持の禁止は評議会によって定められています。そのガンダムを操縦する学生が現れたのだから、身柄を確保する。その行為に正当性がないと?」

 

「一つ、エアリアルという機体がガンダムであるというのは状況証拠でしかありません。今現在、シン・セー開発公社代表が審問の準備をしており、その結果を待つしかないでしょう。

 もう一つ、スレッタ・マーキュリーはコクピットから外部に出ている状況であり、戦闘、あるいは逃亡の恐れはありませんでした。その無防備な少女へ向けて、銃口を向けるというのはいささか以上に過剰と考えます」

 

「……なるほど。貴方の主張は理解しました。ですが、その主張が通るかどうかは理事会での審議次第と思ってください。あのガンダム……いえ、貴方にとっては仮称ガンダムが、正式にガンダムと認められた時には、あなたにも相応の累が及ぶことになるでしょう」

 

「だとしても、私は自分の行動に一点の後悔もありませんよ」

 

 

 

 機動戦士ガンダム 水星の魔女

 アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男

 

 

 

「しゃ、しゃちょうさん!?」

 

「驚いたかい? あれでもアイツ、学生社長なんだよ。親から大きい遺産を引き継いでね」

 

 アスティカシア学園の一室で、スレッタとシャディクが会話をしていた。その傍にはミオリネも立っており、壁に背中を預けて不機嫌そうに腕組みをしている。

 

 驚き目を見開いていたスレッタだが、その身は拘束されていない。

 

 その代わりに、エアリアルはスレッタからは隔離され、スレッタ自身も保護者であるプロスペラ・マーキュリーによる弁論の後、立会人付きで事情聴取をうけることが決まっている。

 

 まずはそのことが喜ばしいとばかりに、シャディクは微笑んだ。

 

「さすがに、キミを牢屋に放り込むというのは、気が引けるからね。アイツもコネを使って根回ししたんだろうし、感謝しておきなよ?」

 

「は、はい……! ……しゃちょう、さん」

 

「ふふ、思ってるんだろう? 社長っぽくないなーとか」

 

「……っ!? そ、そんなこと、ないですっ!」

 

 あからさまに動揺する様子を見て、シャディクは朗らかにうなずく。

 

 確かに社長という言葉には固い印象がつきものだ。社員を背負い、会社を支える。ビジネスマンみたいにスーツをびしりと決めるのが一般的なイメージだろう。

 

「アイツは社長らしくない。ただ、社長には何よりも大事な資質がある。そして、アイツはそれを持っている」

 

「資質……ですか?」

 

「そう。なんだと思う?」

 

「…………わかり、ません」

 

「それはね……夢を見る才能だよ。そして、それを道しるべにできることだ」

 

 会社のトップに立つのに、複雑な金勘定や実務能力の高さは必要ない。それは他の社員に任せればいいだけのこと。それより何よりも社長に必要な資質とは、明確なビジョンの元に手助けしてくれる社員を集め、それらを一つの方向へと導けることだ。

 

 そこで、今まで静観していたミオリネが口を開く。

 

「アンタも聞いたことない? 機工戦士ヴィクトリオンってアニメ」

 

「あっ! し、知ってます! 水星でも、ときどき、古いデータで流れてきて……!」

 

「そっ、もう初代が放映されて7年目。だいぶ長寿シリーズだけど、アイツ、あの番組の生みの親よ」

 

「えぇっ!?」

 

「しかも十歳の時に。まあ、今も精神年齢は変わってないみたいだけど」

 

「ベネリットグループは軍事企業だ。必然的にモビルスーツをはじめとした重工業をメインにしている企業が多い。だがアイツは、そこにコンテンツビジネスという新たな収益先を生み出したんだ」

 

 

 

「ロボットはロマンだ! ……ってね」

 

 

 

 自分の機体も、番組に似せて作るとは思わなかったけれどね、とシャディクは苦笑する。

 

 忌み嫌われやすい戦闘用モビルスーツ製作は、戦争屋、死の商人として企業イメージを損ねることにつながりやすい。そしてイメージが悪化すれば、よりクリーンな企業がつけ入る隙が生まれる。

 

 そのイメージ改善に一役買ったのがロングロンド社とその若きCEOが参入したコンテンツビジネスだった。自社で製作したロボットを主演にしたアニメを制作し、かっこよく、美しく演出し、子供から大人まで虜にさせたのだ。

 

「一種の洗脳みたいなもんよ。結局は兵器だってのに、かっこいいだの、美しいだの。幻想を見せて、ごまかしているだけ」

 

「だが、それでもその影響は大きかった。事実としてベネリットグループの中でロングロンドの規模自体は中の上くらいだけど、影響力は無視できない」

 

 下手にもめごとを起こすと、自社製品が悪役扱いでお茶の間にお届けされる。それだけでイメージ悪化で株が売られるとなれば、面倒なことこの上ない。

 

「だから、とは言い切れないけれど。少なくとも君の身柄については、保証できると思うよ」

 

「じゃ、じゃあ、エアリアルも……!」

 

「それは保証できない」

 

「っ、で、でも……」

 

 納得がいかないと全身で表現するスレッタ。ミオリネはその態度に歯がゆいものを感じる。というより、なにか不自然なものを感じ取る。

 

 あのグエルとの戦闘で見せた、エアリアルというモビルスーツの性能は本物だ。圧倒的であり、違法技術であるGUND-ARMを用いていたといわれたほうが納得できる。

 

 だが、この自分の許嫁になった少女はどうだろう。

 

 まったく世間慣れしておらず、特別な訓練も受けていない。違法なモビルスーツを駆る魔女というには、純朴すぎる。

 

(なんかきな臭い……ていうか、私も巻き込まれるのかしらね)

 

 ただの田舎から来た転入生ならば、縁が続くことはない。

 

 だが、あれだけの実力を持ち、名義上の許嫁になってしまった以上、自分とこの少女の運命には確かな接点ができてしまった。

 

 そして、

 

(ほら来た)

 

 ミオリネの学生手帳にメッセージが届く。

 

「……デリング総裁からかい?」

 

「そっ! あのダブスタ糞親父、ホルダーも許嫁もなかったことにして、戻ってこいだとさ」

 

「……それはまた性急すぎるね」

 

「あのエアリアルが出てきた途端すぐよ。……冗談じゃないわ。まだ私は、アイツを潰す準備もできてない」

 

(だけど、逆に考えれば……)

 

 エアリアルとスレッタ。この二つの要素が、総裁をして学園から娘を回収する原因になるということ。今のままでは十中八九、ガンダムに認定されて廃棄処分、ミオリネは自由を失うだけだ。

 

 少女の言葉を借りるなら、進めば二つ。

 

 となれば、ミオリネが選ぶ道も。

 

「……決めた! スレッタ!!」

 

「は、はい……!」

 

「私、アンタにベットするから! エアリアルは破棄させないわよ!!」

 

「えっ!? ど、どういう……」

 

 ミオリネは困惑したままのスレッタへと宣言する。

 

 一方でその様子を見ていたシャディクは、顔をしかめる。

 

「本気かい? GUND-ARMだ。血塗られた魔女の技術だよ。その判断を撤回させるというのか?」

 

「制度に喧嘩売るわけじゃないわ。ガンダムって呪われた死を呼ぶモビルスーツでしょ? でもスレッタはぴんぴんしてる。だからアイツらの主張には納得できない。……それに、このままアイツの飼い猫に戻るのなんてゴメンよ」

 

「……わかった。ただ俺は立場上、大っぴらに味方することはできない。うちの父は大のガンダム嫌いだからね。もしもの時の準備はするけれど……悪くは思わないでくれよ」

 

 シャディクがほうとため息をつきつつ、視線を落とす。だが、ミオリネはその様子を鼻で笑うと言うのだ。

 

「なに? いつか言ったみたいに地球に駆け落ちでもしてくれるの?」

 

「それはその時のお楽しみということで」

 

「なにそれ」

 

「……えーっと、よくわからないですけど。よろしく、おねがいします?」

 

「味方してあげるんだから、しゃきっとする!」

 

「は、はいっ!!!!」

 

 

 

 一方、そのころ。

 

 ベネリットグループ本社フロントでは、疲れ切った様子でアスム・ロンドが管を巻いていた。

 

「あー、めんどくせー、ロマンがねえ。ロマンはどこだ……ロマン、ロマン……」

 

 それは地獄の底から怨嗟を叫ぶ亡者のようで。

 

 通りがかった人々は、その負のオーラに当てられまいと、目を背けて足早に駆けていく。このままではだれにも救われず、廊下に鎮座する呪物と化すかと思われたが。

 

「社長、こちらをどうぞ」

 

 呆れたような少女の声。

 

 ギギギとアスムが首の関節を捻じ曲げて無理に頭を上げると、そこにはアスティカシアの学生服を着た少女が立っていた。滑らかな金の長髪に、理知的に整った顔。

 

 その少女が手に持った小さな紙を見た途端、仄暗い闇へと続いていたアスムの眼窟に光が灯る。

 

「うぉおおおおお!!!! エ〇ァ初号機の限定サイン付き原画!!」

 

「社長が尋問されたと聞きまして、ロマン補給用に持ってきましたよ」

 

「すんすんっ! はぁー、この保護シートの上からも漂うほのかなレトロの香り……、これであと百年は戦える。さすがはマリー、素晴らしい仕事だよ」

 

「秘書ですから、当然の仕事です」

 

 と、そこでマリーと呼ばれた少女は声を潜めて。

 

「……情勢はよろしくないようですね」

 

「うーん、そうだね。上のほうは満場一致でガンダム判定を下すみたいだし。こちらは当事者だからろくな反証用のデータはもらえないし。希望があるとすれば、スレッタさんの母親がどんな弁護をするかだな」

 

 あれだけあからさまにガンダムですって顔で乗り込んできて、何もなしっていうのはないよなーとアスムは考える。本人は陰謀論も暗闘も好きじゃないが、嗅覚自体はある。何かがあるというきな臭さ。それがあるからこそ、会社を守ってくることもできた。

 

「あえて申し上げますが、スレッタさんを切り捨てるという選択もありますよ?」

 

「それはないよ」

 

「なぜ?」

 

「俺がやりたいこと、わかってるでしょ? アスティカシア学園を卒業するときに、悔いなんて残したくない。俺は俺の友達と、最高の思い出を作って終わりたい」

 

「……その悔いに、スレッタさんがなるというのなら仕方ないですね」

 

「そうそう♪ でもさ、こういうのロマンあると思わない? それに不思議なんだけど、不利な方に肩入れするとさ、そっちの方が勝率高いの」

 

「アニメ限定の話ですが」

 

「それを現実にできれば楽しいじゃん」

 

 夢見る子供のように、大人の世界に入ってしまったはずの青年が笑う。

 

 それは一見して奇妙な、そしてはかない姿。

 

 だけれども、秘書を務める少女も、彼を支える大人たちも、そんな彼の夢見る世界を目指して会社という共同体をつくっている。

 

「それでは、社長。まずはどのように?」

 

「いざって時のスレッタさん受け入れ態勢をお願い。あとは……たぶんミオリネがそろそろ来そうな気がするんだよな。アイツああ見えてめちゃくちゃ面倒見いいから。だからアイツがすんなり議場に行けるように、案内してあげて」

 

「幼馴染のこと、よくわかっていらっしゃる」

 

「そりゃ個人資産、全ベットした仲だし♪」

 

 一歩踏み出せば、そこは血みどろで魑魅魍魎が渦巻く魔窟。だというのに、少年はどこまでも夢を見るように笑って見せた。

 

「楽しみだね、これからどうなるか!」

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