アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男 作:カサノリ
とても励まされましたので、まずは体育祭編を最高な形で仕上げてみせます!
「シャディク、水星ちゃんをエランが引き付けたわよ」
「ああ。だけど、水星ちゃんがああいう動きをとるとは思わなかったな……」
エナオのハインドリーとともに、三年生チームの中央にいたシャディクは、スレッタの動きに感心する。
彼の計算ではエランの奇襲によってメイジーは討ち取られ、後輩チームは大混乱となるはずだった。
実力はあるとはいえレネもイリーシャも指揮官タイプではなく、この二十人という規模のチームを率いられるのはメイジーだけ。彼女を倒せば、あとは烏合の衆となるだろうと。
しかし、スレッタはそれをとっさに阻止した。
(フラッグ機としてはあの行動は誉められたものじゃないけれど、あの瞬間に動かなければ後輩たちの敗北は決定していた……。やはりあの子の危機察知能力、勘は恐ろしいものがあるな)
シャディクはヴィクトリオンとの戦いや、その前のダリルバルデ戦でもエアリアルがとっさの判断で危機を抜け出したり、勝利を手繰り寄せていたのを思い出す。
水星の過酷な環境と、そこで人命救助の経験を積んでいたというスレッタの前歴を知るシャディクは、そこにこの判断の巧みさがあると考えていた。
「とはいえ……」
シャディクは微笑みながら周囲の機体へと合図を送る。
まだ三年生チームで動き出しているのは前方に突出したフォワード二人のみ。後衛の二機を除いて四機もの友軍がシャディクの周りで待機している。
それはエアリアルを警戒しての初期配置。
だが、そのエアリアルが主戦場から離れたのだ。
「中衛、押し出すぞ。敵は数に勝るが、質では俺たちが上だ。複数機で連携を取りつつ確実に削ろう」
「「「コピー!」」」
一方でその動きを見た後輩チームも作戦を変更する。
「こっちの中衛も前に出すよ! 数的優位を崩さず、二機以上で相手を囲むことっ! 水星ちゃんが戻ってくるまでに相手を消耗させるよ!」
メイジーの指示に後輩チームの機体もやる気を出したようにバーニアの火を吹かせる。
「了解っ! スレッタちゃんだけに頼りきりなんて、男が廃るからなっ!」
「スレッタ先輩に、かっこいいところ見せますっ!」
意気込みとともに次々に前方へと出撃するモビルスーツたち。
一二年とはいえ彼らもまた、同学年ではトップのパイロットたち。勝利のカギはエアリアルだと理解していても、それに依存するほど自分に自信がないわけではない。むしろ自分たちにも活躍の場ができたとやる気は十分だった。
そして、後輩チームがじわじわとラインを押し上げていくその先は、既に熱戦の只中である。
ガツン、ガツンと、空気があるならばそんな打撃音が響き続けているだろう接近戦を繰り広げているのはグエルとフェルシーだ。
最初はフェルシーが意地と特訓の成果を見せていたが、戦闘開始から数分がたち、次第に形勢はグエルに傾いていた。
「くぅっ!? やっぱりグエル先輩、つよいっ!!」
「フェルシーも少し見ないうちにやるようになったなぁ!! だが、まだジェタークのエースは譲らねえ!!」
そう言って、各部に損傷を負ったフェルシーの水色のディランザを弾き飛ばす。しかも態勢を崩したところでビームパルチザンをくるりと突き上げながら回転、フェルシーの得物をからめとって放り投げてしまった。
それはグエルらしい、力強さとテクニックを伴った操縦。フェルシーではまだ到達していない段階だ。
「うぅ……! 武器がもうっ……!」
フェルシーはビームサーベルを取り出すが、マニピュレータの動きはおぼつかない。
その様子を見てグエルは考える。
(このままいけば、フェルシーは落とせる……)
だが、グエルは目先の獲物ではなく、その先を見た。
彼は戦いを楽しみながらも、戦況を十分に観察していたのだ。
「ちょうどいいじゃねえか! わらわらと潰されに出てきやがった……!」
「あっ! ちょ、グエル先輩、まだ私との戦いが……!」
「悪いな、フェルシー! 俺の役割はあいつらを潰すことなんだよ!」
グエルは獰猛に歯をむき出しにして、機体を立て直そうとしているフェルシーを尻目に、飛び出してきた後輩チームの先頭に切り込んでいく。十二分にフェルシーの機体を損傷させて、戦力を奪っていたから十分だと判断していた。
シャディク達、援軍が来ていることも感知しているが、それを待つようなことはしない。むしろシャディクたちのために有利な戦況を作ってやろうという行動だ。
「グエル・ジェタークの首、取れるもんなら取ってみやがれっ!!」
長きにわたって学園一のパイロットを務めたグエルは伊達じゃない。
暴れまわるディランザを止めることなどできず、後輩たちは一つ、また一つと蹴散らされていった。
変化が起きたのはロマン男とレネとの戦いも同じだ。
二人が交戦するのは小型の隕石が滞留している地点だったが、珍しく細身のヴィクトリオンはアンカーを次々に射出しては移動して、レネのハインドリーからの射撃を躱していた。
それは戦場ではありえない、アトラクションで遊ぶ子供のような動き方。
しかも、
「これに勝ったらデートしてくださいよぉ♪ レネ、先輩のことずーっと気になってるんですからぁ♪」
そんな甘い声を出しながら、レネが追いかけているのだから、はたから見るといちゃついているのかと思われそうな状態。けれど、当の二人は真剣そのものだった。
「そーいうこというのなら、ちゃんと決闘でやってほしいな……っと!!」
ヴィクトリオンがくるりと大回転してレネの背後を取り、小型のビームナイフで切りかかる。
だがそれをくぐるような形で避けたレネは、取り回しのいいビームピストルを出すとヴィクトリオンへと向けて連射を始めた。
「あはは♪ ほらほらぁ!」
狙いは正確、かつ先回りがいやらしい攻撃。
エアリアルを除けばおそらく単体戦力で後輩チーム最強と目されるレネ。無邪気な少女らしく、その動きは柔軟かつ大胆だ。稚気の中にも冷静な判断があり、翻弄することにたけている。
それは奇しくもロマン男と同じような性質で、それゆえに彼女を相手することには、ロマン男も手を焼いていた。
とはいえ、仮にも三年男子で二位を張る男。軽口をたたきながらもアンカーと近接武器を巧みに使いながら互角、いや少しずつ有利な状態へと押し込んでいくのだが、レネはそれでも蠱惑な笑顔で少年を誘惑し続ける。
「こんなに強いなんて、さすが先輩♪ やっぱりレネと付き合いましょうよぉ♪」
「おぉっ! これはアレか? 告白か?! 漫画で憧れたシチュエーション! って言いたいけど、なーんかロマンがそそられないんだよなぁ。レネちゃん、なんか隠してない?」
「そんなのありませんよぉ! アタシに付き合ってくれたら、すーっごくサービスしてあげますよ♪ あのお堅いサビーナじゃできないような……きゃっ!?」
しかし、突然、上機嫌だったレネが悲鳴を上げた。
レネのハインドリーの背後からもう一機、別のハインドリーが突撃をかけていたのだ。
それは紺色に塗装されてビームジャベリンを持った、ある少女の専用機。その機体を見た途端に、レネは歯をむき出しにして叫びをあげた。
「ちっ! いいとこなのに邪魔してんじゃねえよ、サビーナ!!」
その声は少年へとかけていた糖度100%のものから一転、すさまじい攻撃性に満ちたもの。
だが彼女にはそう吠えるだけの理由がある。なにせ彼女の考える"いいところ"を邪魔してきたのは、レネがこの戦いで絶対に倒すと心に決めていた相手だったのだから。
一方で、その敵意を向けられた相手はと言えば、
「……ふん、なにをやっているかと思えば。敵に言いよるとは、くだらないな」
サビーナはそう、冷たくレネへと言い返す。
だがレネは逆にサビーナを小ばかにするような態度で言うのだ。
「はっ! そういうお前はどうなのよっ!? いっつもいっつも規則だルールだうるさいと思ったら、自分はいの一番に惚れた男のとこに飛んできやがって!! 告りもできないダブスタヘタレがっ!!」
レネはもうロマン男など眼中にないという調子でビームサーベルでサビーナへと切りかかっていく。同時に舌戦もまたフルスロットル。
ビームサーベルとジャベリンを打ち合いながらの接触回線でなければ、学園の男子たちがレネの変貌っぷりに驚愕して、顔を白くさせていたに違いない。
一方、そんなレネの本性も良く知るサビーナにも、どこか剣呑なオーラと怒りの色が見えていた。
「お前にあいつを押さえられるのは、戦略上好ましくないというだけだ。そんなことも分からないのか?」
「あっそ! いい子ぶるのと、言い訳は達者ってわけね!」
「よくさえずるな、レネ……!」
「今日こそ決着をつけてやるっ! それでロマン先輩も手に入れて、お前の悔しがる顔を見てやるわよっ!!」
「っ、舐めるな……! こいつがお前程度に靡くわけがないだろう……! お前はここで私が止める!」
「このナイト気取り……!!」
「感情も処理できない未熟者が……!!」
もはやその戦いは競技でもレクリエーションでもなく、女と女のプライドをかけた本気のものに変わっていた。
しかし、女子二人がそんな話をしているとはつゆにも思わない少年はと言えば……
「えーっと、俺はどうしたら……」
「「むこうに行ってろ(行ってて)!!」」
「は、はい……!!」
珍しく二機の鬼気迫る雰囲気と『絶対に手を出すな』というオーラに追い出され、慌ててグエルが暴れまわっている方へと飛び出していった。
双方、いろいろな事情があるが、三年チームのフォワードは二人とも自由の身となった。当然、彼らは後輩チームの最前線へと到達して攻撃を始めて……
「メイジー、もう二機がやられちゃった……! 私も前に出た方が……!」
「ううん。ダメだよ、イリーシャ。まだイリーシャを投入するタイミングじゃない」
メイジーはそう言いつつ、ヘルメットの奥で歯噛みする。
彼女も予想していたことではあったが、自由に動き回り始めたグエルとロマン男は脅威だった。グエルは猪武者と思いきや、しっかりと引き際をわきまえて囲まれることを防ぎ、ロマン男は相変わらず行動を読ませずに翻弄する。
しかもそれが抜群のコンビネーションで動く上に、三年の中衛のサポートも手厚い。
数では有利と言いつつ、既に五機目がやられた。三年の中衛も一機を損失したが、九対十五。差は縮められていて、その状況はさらに続いていくだろう。
(……水星ちゃん)
だからこそメイジーは三年と一対一で戦えうるイリーシャを温存しながらチャンスを待つ。
スレッタとエアリアルが戻ってくれば、たとえ同数にされたとしても状況を有利にできると信じていたからだ。
そして、その期待を寄せられるスレッタはと言えば、
(先輩の時よりも、はやいっ……!)
エランの駆る白いファラクトに翻弄されていた。
エアリアルのガンビットは既に分離してファラクトを追いかけているが、白い流星のしっぽすら捉えることができていない。では、ビットオンモードで追いかけるかと言われれば、それも難しい。
相手は圧倒的に早く、それでいて鳥の飛行のような滑らかで自由な動きをしていて、特別なブースターでも装備しなければ肉薄することができないことは明白だ。
一方でファラクトを操るエランも、コクピットでらしくなく苦々しい顔を浮かべる。しかし、それはGUND-ARMを使っていた時の苦痛によるものではない。
「まったく、なんでこんなに使いやすいんだ……!!」
エランは頭の中で高笑いをするロマン男とロングロンド社のメカニックたちに毒づく。
GUND-ARMを使っているわけでもないのに、この機体はエランの操縦への追従性が高すぎる。エランの思ったとおりに加速し、滑らかな旋回や急カーブでもなんでもござれ。
(このブースターだけなら、ペイルの技術を超えている……)
とはいえ、あくまでそれはブースターのみの話。そしてファラクトというペイル社が多額の開発費をかけた最新鋭機がなければ、ブースターに機体がついていけなかっただろう。
ヴィクトリオンのあの性能にも納得だ。フレームやMS自体は一世代前だし、革新的なドローン技術は持っていないが、旧来の装備ならどの社よりも洗練されている。
これでファラクトやダリルバルデを研究し尽くし、一からMSを製造できるようになれば、御三家としても無視できないほどに発展することができたはず。
「だったら、なんでまじめにやらないんだ、あいつらは……!!」
あのふざけた技術者やそのトップのバカが、その見た目の通りにバカな装備を出して来たら素直に怒れるが、こうも見た目だけ最悪で中身が最高の装備を贈られるとエランも怒っていいのか喜んでいいのかわからない。
だが、エランのやることは決まっている。
今こうしているときにも学園には天使なファラクトを優雅に乗りこなすエランが映し出されているだろうし、それによって変なグッズやらイラストやらが量産されているに違いない。
早く戦いを終わらせなければエランの学園生活が終わる。
だから、
「っ、倒させてもらうよ、ガンダムっ!!」
ファラクトは方向を急転換し、エアリアルへと突撃する。
GUND-ARMによる高度な機体制御がないため、かつてのファラクトのように遠距離狙撃はできない。また、スタンビットもないので、あの『塩試合製造機』なファラクトの戦闘スタイルは無理。
今のファラクトの主要な武器は翼から伸びるビームサーベル。敵に捕らえられないほどの高機動で相手を切りつける、ヒット&アウェイスタイルだ。
なので、エアリアルが選ぶ戦術も決まってくる。
追いかけても追いつけない、となれば接近してきたときのカウンター狙い。
「……みんな、来るよっ!!」
「ガンビット頼りでは……ねっ!!」
一撃、そして離脱して、さらに一撃。
海の表面に出てきた魚の群れへと突撃する海鳥のように、ファラクトはエアリアルに接触してはエアリアルの攻撃範囲の外へと出ていく。
その一方でファラクトの攻撃をエスカッシャンは確実に防いでいくので、エアリアルは健在。
「それが本物のガンダムっていうことかい? そのからくり、どうなっているのかな……!」
「エアリアルはガンダムじゃありません……!」
「そう思っているのは君だけだよ、スレッタ・マーキュリー! 無知でいることも純粋で結構だけど、何もしないままでいたら足をすくわれるだけだ!」
僕のように、とエランは自嘲する。
かつての自分だったらエアリアルとスレッタに対して嫉妬、あるいは殺意を隠すことができなかっただろう。
エアリアルのガンビットコントロールは、エランとファラクトのそれをはるかに超えている。ベルメリアが言ったとおりにパーメットスコアは4以上。通常のガンダムとパイロットなら即死だ。
しかしエアリアルにはその気配がない。
それが母親から娘に与えた愛情の結果というのなら、救いはあるが、あれだけの呪いを振りまいてきたGUND-ARMだ。どう考えてもきな臭いものがあるとエランは直感していた。
そして、その事実を知らないまま、知っていたとしても誰の助けもなく、自分から動くこともないのなら……
(この一点だけは、あのバカに感謝するべきだろうけどね……)
エランは本来、あそこで消えていた。
死ぬだけならいい。それよりもひどいのは、自分が過ごした思い出もなにもかもを別の誰かがのっとって、そこに居座ること。
きっと強化人士5号やら何やらが現れて、またゴルネリたちの陰謀のために働くことになっていただろう。だから、おそらくは同じような陰謀に巻き込まれているだろうスレッタへ、かつて4号と呼ばれた少年は言う。
「妄信こそ、最大の落とし穴だよ……!」
「っ、ビット……!?」
「いや、違うさ……!」
接近してきたファラクトに、スレッタは驚愕する。
スレッタがファラクトのビームサーベルをエスカッシャンで受け止めた瞬間、ファラクトの翼のうち、一番下の一対がファラクトから分離して飛び出してきた。
よく見るとそれは有線式の遠隔兵器となっていて、エアリアルの背後へと回り込むとビームサーベルを起動して頭へと切りかかってくる。
GUND-ARMでもドローン技術でもなく、ハロを使った簡易的な誘導兵器。
種が割れていれば避けるのも簡単だが、スレッタは度重なるファラクトの突撃で、攻撃手段はそれだと固定観念を抱いてしまっていた。
「移動だけのために翼が三つも必要だと、本当に思ったのかい……?」
エランは言う。スレッタに対して、わざわざ翼の形にして装備させたバカどもに対して。
そして翼の形をした刃は、スレッタの背後のビームサーベルラックを破壊して頭部を落とそうとするが……
「っ、ま、負けられません……!」
「そんなこともできるのか……!?」
エスカッシャンから部分的に独立したガンビットが障壁を発生させて、はじかれる。
「みんなが、待っています……! 私が必要だって、言ってくれているんです……!」
スレッタは叫ぶ。
「エランさんの言う通り、エアリアルがガンダムとか、よくわかってない……! でも、でも、私が勝たなくちゃいけないってことだけは、わかっているんです!!」
「それは子供の理論だね……!」
「だ、だって、まだ、子供ですっ……!」
だから、
「だから私はここにいるんです……! わからないことも、知りたいこともいっぱいあるから、友達だってもっともっと作りたいから……! だから、学校に来たんですっ!」
「このビット……!」
スレッタの叫びに呼応するように、ビットがさらに動きを複雑化させる。
一人の人間では、ましてや幼い少女にはできない動き。それぞれが意思を持っているかのように数個の編隊に分かれてファラクトを四方から襲っていく。
「これも、私の勉強だから……! エランさんにも、ちゃんと勝ってみせます!」
「まったく、うらやましいな、君のそういうところは……!」
しかしエランとスレッタとで速力に大きな隔たりがあることは変わらない。
ファラクトは再びエアリアルから距離を取り、ビットを振り切ろうとした、その時だった。
「っ、援軍!? ……いや、違う!?」
エランが驚愕しながら斜め前方を見上げる。
そこには後輩チームで識別される二機のディランザがいた。
しかも、ただの援軍じゃない。
「スレッタ先輩のためなら……!」
「私たちの勝利のために……!」
攻撃の回避など考えていない、全速力での突撃。
一年生の女子たちが行ったのは、ファラクトへ向かった特攻だった。
「っ……!」
だがファラクトは直線的な攻撃など避けるのはたやすい。
すんでのところで突撃を回避して、返す刀でビームライフルでディランザの頭部を破壊する。
しかし、その一瞬に、確かに隙が生まれた。
「っ、アニーちゃん、カナちゃん……!」
後輩が自分のために犠牲になった。
それを認識したスレッタが悲鳴のような叫びをあげる。
そして、周囲に散開していたガンビットから、一斉に斥力が発生したのだ。ビームをはじく力場と同じ原理。だが、それはファラクトへと四方から放たれると、
「っ……! コントロールが……!?」
ファラクトの体が大きく揺らされ、コクピットの中ではモニターが明滅する。
エランもわずかな間、前方が視認できなくなり、
「わぁあああああああ!!」
スレッタが悲鳴のような声を上げ、そして、エアリアルが肉薄してファラクトのブレードアンテナを叩き切っていた。
「っ、僕の負けか……」
エランはコクピットの座席に深く座りなおすと、ほうとため息をつく。
(新しい機体に、謎のガンダム……、いや敗因はスレッタ・マーキュリーにのめりこみすぎたことか)
後輩たちの特攻をもう少し早く察知していたら、と。
一対一だという盲信。そして、ガンダムから解放されたはずなのに、やはりスレッタの在り方には思うところがあったようだ。
とはいえ、これでスレッタとの戦いが決着して、今頃は学内放送でもエランは消えている……
『おぉ……! さすがエラン先輩! やられて漂うさまも画になる!! 会場のみなさん、いまが撮影タイムですよっ!』
「……なん、だと? あ、こら、動けファラクト! 動くんだっ!!」
なにやら動かないことをいいことにあることないことを言われたりやられたりし始めた気配を感じて、エランは慌ててファラクトで会場を離脱しようとするが、ファラクトは動こうとしない。
結果、後に『天使の落日』と言われる、破損しながらも美しいファラクトとどこで撮影したのか、なぜか上半身裸になったエランとを組み合わせた名画が生まれてしまうのだった。
一方で、スレッタもまた、一つの戦いが終わったとはいえ、彼女の本来の役目はここから。
「あ、アニーちゃん、カナちゃん、大丈夫!?」
「スレッタ先輩は行ってください!」
「私たちの勝利を頼みますっ!!」
「……っ、うん!」
スレッタはそんな二人の言葉に息を呑みながら、うなずく。
(そうだ、私が戻らないと。私がみんなを勝たせないと……!)
エアリアルはスレッタの決意とともに飛翔する。
目指すのは今も遠くで瞬いている主戦場。
「……っ、私がやらないと!」
そして戦いは終局へと向かう。