アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男 作:カサノリ
「三機でかかれば、さすがのグエル先輩も……!」
一年の乗るザウォートがビームマシンガンを乱射する中、二年男子のハインドリーとディランザがグエルの元へと突進していく。
場所は二チームがぶつかり合う最前線。
既にグエルの周りには後輩チームのMSが二機漂っており、それ以上に多くの装甲が散逸している。どれもグエルのディランザによるものではない。今攻撃を行っている三機も、肩の装甲が外れたり、腕の一本をもがれている。
それら全て、グエルの反撃によって生じた被害だ。
(スレッタちゃんに負けたって言っても、この人はバケモンだ……!)
後輩はその事実に背筋を凍らせる。
三機が迫っているというのに、グエルに焦りや動揺はない。むしろ、
「三機で十分だと、思ったか……!?」
俺を倒したいなら全員でかかってこいと言うように、後輩たちへとまっすぐに向かってくる。気迫だけでも鬼が見えそうな、そんなオーラじみたものさえグエル機の背後にはあった。
そして敵は当然、グエルだけじゃない。
「俺のことも忘れんなよっ!!」
「うわぁあああ!? ロマンがきたぁあああ!?」
「ハハハハ! そんなバケモノみたいに、言うなって!!」
上空からとびかかるように落下してきたヴィクトリオン。それがザウォートへとアンカーを発射して胴体へとワイヤーを巻き付けると、そのまま敵機を振り回してハインドリーとディランザの元へと飛ばす。
そしてアンカーを外すと、敵機が固まっているところへと突撃。
ロマン男とグエル、両方に攻撃を受ける後輩たちに、なすすべはない。
「悪いな! これはチーム戦なんだよっ!!」
「うぅ……グエルが本当に大人になった。スレッタさん、ありがとう……!」
「あ、あいつはかんけーねぇだろ!?」
などと軽口を言いながら、敵機のブレードアンテナを一瞬で破壊するヴィクトリオンとディランザ。
これで新たに後輩チームの機体は三機がリタイアとなる。
グエルは後輩たちが機体を停止させたのを確認すると、戦場全体を俯瞰した。
(残る敵は、スレッタを入れて八機……。俺たちはエランを入れて同数。……いけるな。さすがのエアリアルも八機で囲めば倒せるはずだ)
さらにシャディクは対エアリアルへの戦術も考えていて、エアリアルが飛び出してきたときのパターンもグエル達は理解して動いていた。
もっとも、スレッタがエランに負けた時にはその警戒も無意味になるが……
(エランには悪いが、あいつが一対一で負けるのは想像つかねぇな……)
実際に最新鋭機のダリルバルデで戦ったグエルだからこそ、エアリアルという機体がもつ、ある種の不気味さは分かっていた。
おそらくはまだ、真価すら発揮していないだろうと。
一方で後輩チームの中枢では、メイジーとイリーシャが表情を悩まし気に歪ませている。
「…………まずいね」
「水星ちゃん、まだかな……」
「一年生二人を送ったし、たぶん、そろそろ……のはず」
だがそれは希望的観測でしかない。
誤算だったのは、思った以上に敵チームのフォワード二人が強かったこと。
いつも決闘ばかりしている二人だが、組み合わさったときのコンビネーションはそれゆえに抜群だった。
(水星ちゃんを中心に作戦を考えたのが問題だった……? ううん、他に手はなかったし、あの状況を招いたのはそもそもが私の想定ミス。水星ちゃんが悪いわけじゃない。
ちゃんと数的有利を活かし切れていれば、ここまで追いつめられることもなかった。私の弱さだよね……)
メイジーの頭に弱気が浮かぶ。
だが、それでも冷静な表情は保ったまま。
作戦指揮官として、動揺を見せることなどあってはならない。そうした瞬間に他のメンバーも崩れて、スレッタを出迎えるどころか一人で敵陣に取り残すことになってしまう。
だからこそ、メイジーは希望のあることをあえて考えた。
「……水星ちゃん、いい子だよね」
ぼそりとメイジーはイリーシャへと話しかける。
「う、うん……私たちのこと、信じてくれて」
「いつもサリウス代表とかシャディクとか、いろいろ考えてる人と会ってるからかな。すごく素直で純粋で、かわいがってあげたくなるよ……」
そんな同級生が『一緒に勝ちましょう』と自分たちに無条件の信頼を寄せているのだ。
だったら、自分たちもスレッタを信じて、少しでも有利な形で彼女の活躍の場を用意してあげなければいけない。
そのためにできることは何か。
メイジーは決断を下す。
「みんな、二手に分かれて。片方は私と一緒に……グエル君とロマン君を何としても落とす。もう片方はイリーシャを中心に敵陣に切り込んでシャディクのフォーメーションを崩す。もちろんシャディクの護衛機をできる限り削りながら、ね」
エアリアルが出てきたときに問題になるのは間違いなくフォワードのやりたい放題二人組。そして万全で出迎えた場合のシャディク。
片やエアリアルと接戦を演じた組であるし、もう片方はエアリアル対策も考えている敵指揮官兼フラッグ機。
スレッタにとってリスクになりえるものを排除する。
自分たちが何機減らされても。
「私から言うことは変わらないよ……絶対に、私たちが勝つっ!!」
「「「コピー!!」」」
承諾の返答を聞いて、後輩チームは一斉に動き出す。
「くそっ……、あと少しだったのにっ!!」
「どこをどう見たらそうなる……」
「うっさいなぁっ! ほんっとにむかつくっ!」
それはサビーナと死闘を繰り広げていたレネも同じ。レネはシャディク達に近い位置にいるから、イリーシャと合流しての切り込みだ。チャフを巻いてサビーナの行動を阻害すると、全速力で勝負の場から離脱する。
また別の場所では、
「今度こそグエル先輩に……!」
ダメージを受けた機体をかばいながらも三年チームの機体を一機落としていたフェルシーも、グエル達と決着をつけるべく向かっていく。
シャディクもその行動を見て自陣を固める動きをし、とうとう二陣営の最後の衝突が始まった。
まだ余裕のある三年チームと違い、それぞれが大なり小なり破損を抱えている後輩チーム。
だが、気合は負けていない。
「先輩だからって、余裕ぶるな……!」
「スレッタちゃんは来てくれる……!」
「むしろ、俺達が出迎えてやる!」
一機、また一機と被弾し、破損し傷ついていくが、それでもブレードアンテナを折られるまでは負けていないと三年機へと食らいついていく。
けれども気合だけで勝てるのならば、戦術はいらないし、操縦技術というものは重視されない。
「いい気合いだ、ロマンだぜっ!」
「だが気合だけじゃなあ……!!」
グエルとロマン男は破れず、また一機のハインドリーが敗れた。
シャディク達もサビーナが帰還したことで陣形はより強固となり、イリーシャとレネ達による猛攻を寄せ付けない。
観客もその様子に、
『後輩チームも頑張ったけど、そろそろ終戦だな』
とあきらめの色を濃くした……その時だった。
「っ……!」
「来たのか!?」
「遅ぇんだよ!!」
「待ちかねたよ、エアリアル!!!!」
三年チームそれぞれの"ようやくか"という声。そして、
「スレッタ・マーキュリー! エアリアル、行きますっ!!」
無数のビットを従えて、スレッタが戦場のど真ん中に戻ってきた。
「水星ちゃんっ!!」
「よ、よかったぁ……!」
「みんな、ごめんなさい……! それと、ありがとうございますっ! もう、みんなを傷つけさせませんっ!!」
スレッタは状況を見て、申し訳なさと、それ以上の喜びを感じる。
誰がどう見ても味方はボロボロだ。一機として傷ついていない者はない。
だけれども、それでも勝負を捨てずに戦ってくれて、しかも自分を出迎えるためにと踏ん張ってくれていたのだ。
スレッタにもメイジー達のメッセージは届いていた。
だからなおのこと、
「私は……負けられないっ!」
スレッタの勝利への気持ちは、かつてないほど高かった。
自分の意思とは関係なく始まってしまったグエルとの決闘とも、またも巻き込まれた先輩との決闘とも違う。この戦いははじめて、自分の意思で、自分たちのために勝ちたいと願った戦いなのだから。
「みんな! お願いっ!!」
スレッタの呼びかけに応じて、ビットが二軍に分かれる。それらは先行してグエル達の方と、シャディク達の方面へと向かっていき、
「っ! またビットの動きが、複雑になりやがった!!」
「ハハハハ! いいね、いいロマンだ!!」
「喜んでる場合か! っく……!」
四方八方を超スピードで飛び回りビームを乱射するエアリアルのガンビットに翻弄され、しかもその合間を縫って後輩たちの機体まで飛んでくる。
(予想はしていたが、エアリアルがいると数的不利がとんでもねぇ!)
グエルもロマン男も、その猛攻を前に被弾していく。
そしてシャディク達のところも、
「エナオ! 私たちでガンビットを引き付けるぞ! 残る機体はエアリアル本体の迎撃を!」
「コピーっ! って、うわぁああ!?」
「ご、ごめんなさい……! 不意打ちしちゃってごめんなさいっ!!」
「っ、イリーシャか!」
「あの子、ちょっと怖いところあるわよね……。私が行くわ」
「頼む、エナオ!」
サビーナはハインドリーで飛び回りながらガンビットをけん制、シャディクの周りにガンビットが飛来することを防ぐが、はじめて体感するビットによるオールレンジ攻撃に次第に削られていく。
そしてシャディク達が相手をしなければいけないのはガンビットだけじゃない。
「はぁあああああ!!」
スレッタの乗るエアリアルが、意志を持つような動きで切り込んでくるのだ。
この瞬間にも一機、三年チームの機体がエアリアルのビームライフルで頭部を撃ち抜かれリタイア。それによりシャディクへの道が開いた。
「今なら……!」
「来るか、水星ちゃん……!」
加速してシャディクの護衛機の間を抜けて肉薄するエアリアル。高機動型に改造してあるハインドリー・カスタムに乗るシャディクはそれを出迎えるが、
「っ……! これが、水星ちゃんの実力かっ!」
「私たちの、力です……!」
元々操縦技術ではグエルに劣り、乗っているのも専用機とはいえ最新鋭ではないシャディクは、目的意識も何もかもが明確でノリにノっているスレッタの勢いを殺すことはできない。
「がっ……!」
エアリアルから逃げるように後退するが、その脚部をビームライフルの狙撃により破壊されると、大きな隕石の上に不時着する。
そして、そこに。
「これで……!」
ガンビットを伴わず、だけれども純粋な機体性能と技術で圧倒したエアリアルが到着し、ハインドリーへとビームライフルを突き付け。
「私たちの、勝ちです……!」
決着を告げる攻撃がシャディク機の頭部へと向かおうとした時だった。
「……まずいわね」
それを見ていた観客席のミオリネが眉をひそめ。
シャディクがうっすらと笑みを浮かべ。
「ああ、俺たちの……勝ちだ」
「…………え?」
一閃。
エアリアルの頭部を黄色いビームがかすめ、そのブレードアンテナを破壊していた。
『勝者 三年チーム』
一瞬。ほんの一瞬の出来事。
スレッタも、メイジーも、後輩チームの誰もが何が起こったのか理解できない。
彼らの頭上に勝敗を示す文字が現れるが、読んでも頭が追い付かない。
一方でその全てを理解していたシャディク、そして三年チームはそれぞれ戦闘をやめて、緊張を解くように大きく息を吐いた。
そしてシャディク機も立ち上がり、遠くで合図を送る後衛の三年機、スナイパー型に改修されたディランザへと手を振る。
スレッタが会ったこともない三年生、彼が勝利の一撃を決めていた。
シャディクは自分の策が結実したことを認めると、薄く笑みを浮かべながらつぶやく。
「確かにエアリアルは脅威だ。機体性能だけなら、俺達の誰も勝てやしないだろうさ……」
そんな魔法使いのような機体に存在する弱点。それは、
「だけれど、乗っているのは機械じゃない。人間なんだ」
シャディクは前日に行われたミーティングで、チームメンバーへとこう告げていた。
『水星ちゃんはとてもいい子だ。グエルが惚れるのも分かるくらいにまっすぐだし、正義感も、義務感もある。だから本当に申し訳なく思うけれど、そこを叩く』
『みんなはまず、水星ちゃんの周りの味方を潰して回ってくれ。彼女にとっては、初めての味方、そしてチーム戦。むこうが仲間割れでもしない限り、水星ちゃんみたいな子はチームへの情が厚くなる。
そしてそんな味方がやられたとなれば、水星ちゃんの勝利への欲求は高くなるだろう』
『そうなったら次の段階だ。あえて、エアリアルを引き込んでくれ。ただし、あの奇妙な動きをするビットは各自で引き付けながら。
おそらく水星ちゃんは残っている味方を守りたがるだろうから、自然とビットを散らばらせることになるはずだ』
そうしてエアリアルが単独でシャディクの元へとたどり着いたら、あとはチェックメイト。
『目先の勝利につられた時こそ、人に最大の隙ができる。水星ちゃんの注意はハインドリーのブレードアンテナへと向かうだろう。そこで彼女の意識外から狙撃してくれ』
最後の言葉は、後衛の役割をする三年生へと。
『エアリアルが魔女のMSだろうとなんだろうと、相手の中身は人間。……だからこそ、勝てないわけはないのさ』
策士はそう言って笑った。
その策はかつての自分ならば絶対にしないであろう、自らが囮となって仲間に託すというやり方だった。
そして現在、あれだけ賑やかだった戦場には静寂が戻っていた。
三年チームも結局は危惧した通りにエアリアルによりあと一歩というところまで追いつめられたので、大きな声で喜ぶようなことはない。一方で一二年チームもエアリアルだけでなく全員が一丸となって努力したことへとある種の満足感のようなものを感じていた。
後輩たちもエアリアルがいなければ、ここまで先輩を追い詰められなかったとわかっていたし、最後の決着も紙一重でシャディクの戦略が上回っていたからというもの。もっと言えば、後衛の存在を意識してそこまで対処できていればよかったのだから、全員の責任だ。
静かな戦場と違い、もちろん観客席は大盛り上がり。
観客が見たかったエアリアルの無双も、グエルの活躍も見れたし、推しの学生の活躍もまんべんなくある良試合だったのだから。
あとは選手が引き上げて、閉会式へ向けた長めの休憩をとるだけ。
試合終了でようやく自由になったファラクトも含め、各チームはそれぞれの運搬船へと戻ろうとして……そこでロマン男が気づいた。
「……スレッタさん?」
エアリアルが動かない。
ブレードアンテナだけが破壊されているだけで、機体はほぼ無傷と言っていいはず。なので、彼女たちも撤退する分には問題ないはずだったのに、ピクリとも動こうとしない。
その異常を後輩チームも、三年チームも認識し、心配になったロマン男がスレッタへと回線を開いた。
「スレッタさん……? 大丈夫かい?」
すると、流れ来たのは。
「……うっ、ぐすっ……うぅ……!」
しゃくりあげるような、泣き声だった。
いつまでもいつまでも涙が止まらないというような、そんな泣き声。
それはこの試合にスレッタが賭していた思いの強さでもある。『みんなで優勝しよう』というちょっと的外れだけど真摯な言葉を聞いていた後輩チームなどはつられて泣き出してしまう女子も出るほど。
三年チームとしても、その涙を笑う者はいない。ただ、その中で、
「…………スレっ」
「やめておけ、グエル。俺たちは勝者で、あの子は結果的に敗者になった。下手な慰めは逆に酷だよ」
グエルが乗っているディランザが、エアリアルへと向かおうとしたのをシャディクが止める。
多かれ少なかれ、勝敗には喜びも悲しみもつきもの。そして悲しみを与えてしまう覚悟をもって、戦いには臨んでいるはず。だから敗者の悲しみに寄り添えるのは勝者ではない。そういう戦士としての心構えをグエルもまた知っている。
だからグエルは静かに、
「ああ、わかってる……慰めなんてしない」
「だったら早く戻ろう。あとは、メイジーたちが……」
「っ、だがな。言いたいことは俺にもあるんだよ……!」
「グエル……!?」
静かに意思をたぎらせて、ディランザでエアリアルの元へと飛んで行った。
そしてその頃、スレッタはコクピットの中で自分を責め続けていた。
(私のせいだ……、私が油断したから、その前にエランさんの誘いに乗っちゃったから、みんな頑張ってくれたのに、信じてくれたのに、応えられなかった……!)
水星にいたころ、スレッタは孤独だった。今ではスレッタはそう思う。
周りに同世代の子供なんていないし、老人たちもスレッタを認めている者もいたが、それもスレッタと肩を並べるのではなく自分たちを守ってくれる存在として。尊敬している母親は一年のほとんどを外で働きに出ていたし、エアリアルも守ってくれる家族ではあったが人とMSとで、不思議な関係だ。
初めてこの学園に来て、誰かに期待された。
一緒に何かをしようと言ってもらえた。対等に、友達として信じてもらえた。
これまでは決闘であったり、体育祭での寮対抗リレーであったり、エアリアルと一緒なら勝ててきたから。
だからこそ、今度も絶対にエアリアルと一緒なら負けないと、期待に応えられると、スレッタは自然と信じてしまっていた。その結果が、この完全な敗北。
初めての、負け。
それはスレッタにとって心をぐちゃぐちゃにするには十分で、自分が次に何をやればいいのかもわからなくて……しかし、その時に。
トントン、とコクピットの外から音が響いた。
「ぐすっ…………え?」
そのノックする音に驚き、スレッタは頭を上げる。涙でぼんやりしている視界の中に見えたのは、エアリアルの外でスレッタを神妙に待っているグエルだった。
「ぐえる……さん?」
スレッタは思わず、エアリアルのコクピットを開ける。
するとグエルは静かにスレッタの前へとやってきて、
「……なんで泣くんだ、スレッタ・マーキュリー」
と、そう問いかけてきた。
「なん、で……? だって、だって、わたし、まけちゃって……!」
「…………そうだな」
「わたしが、わたしがもっとつよかったら……! みんなに、信じてもらったのに……、みんな、みんな、と……勝って、よろこんでもらいたかったのに……」
スレッタは再び両手で顔を覆う。
「ぐすっ、ごめん、なさい……、ごめんなさい……! ぐえるさんにも、こんな、なさけないとこ……」
もう消えてしまいたいほど恥ずかしくて、情けなくて。けれど、そんなスレッタへとグエルは言うのだ。
「確かにお前は負けた。そして俺達は勝った。勝敗なんてのは、決まっちまったら覆せない……卑怯な手でも使わない限りな」
だが、とグエルはスレッタの手を掴んで顔を上げさせると、真剣に問いかけるのだ。
「だが、お前は逃げなかっただろ……?」
「っ…………!」
「逃げれば一つ、進めば二つ。お前が俺に教えてくれた言葉だ。そしてこの戦いでもお前は逃げなかった。……だから教えろ、スレッタ。お前はこの戦いに進んで、なにを手に入れた?」
それを問いかけたくて、グエルはここに来た。
スレッタを慰めるのはグエルの役目じゃない。それは後輩チームがチームの仲間として行うべきこと。だから、ただ悲しんでいるというのならこの役目をグエルはするつもりはなかった。
だが、スレッタが自分を責め続けているのなら、自分のことを疑ってしまうのなら。
友人として、スレッタという人間に惹かれている異性として、そしてスレッタと出会って変わった人間として、スレッタの背中を叩いてあげられるのは自分しかいない、と。
そのグエルの問いに、スレッタは涙でぬれた目を何度も瞬いて、ゆっくりと指を折りながら数え始めた。
「ぐすっ……たくさん、友達ができました。……みんなで、協力することも、いっしょに喜べたらたのしいっていうことも、うぅ……わたしがまだ弱いことも、わかりました。それに、もっと、もっとたくさん……うぅううう!」
泣きながら、それでも自分は戦いで得るものがあったと。
それを聞きながらグエルはほっと安堵したように息を吐く。彼が愛した少女は、やはり……。
「だったら、もう自分を責めるな。お前は負けたが、負けから得るものがあったって、胸を張って帰ればいい。そして……一つだけ、忘れんな」
「スレッタ・マーキュリー、お前はとても強かった。それはこの俺が保証する」
自分が同じように敗北したときに、少女に言ってもらえて嬉しかったことを。今度は少年から少女へと。
「ぐえる、さん……うぅ、ぅうう、うわぁあああああああ!!」
スレッタはグエルへと縋り付くように、声を張り上げながら泣き出す。
けれどそれはもう自分を責めるような、罰するような籠ったものじゃない。
泣くことを、悲しむことを、一生懸命に。そしてその先へと進めるようにと、そんな全てを絞り出すような涙だった。
「まったく。かっけえな、グエル」
「ふふ……今日は生中継はしないのかい?」
「俺だって野暮な時は分かるっての。ああいうロマンは、二人だけのものだろ?」
「ああ、そうだろうね。そして、水星ちゃんはこれからもっと強くなりそうだ……」
「敗北から主人公は強くなる! ……それが、ロマンだもんな」