アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男   作:カサノリ

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ハッピーバレンタイン!


35. めぐりあい宇宙

『うぉおおおおおおおおお!!!!!!』

 

「うおっ!? な、なんだっ!?」

 

「鳥か!?」

 

「飛行機か!?」

 

「いや、ロマン男だ……!!」

 

 そんな学生たちの悲鳴じみた声を聞きながら、ロマン男は爆走していた。

 

 文字通りに爆走である。

 

 いつぞやにエランへ見せてさんざんな評価を受けた次世代型パワードスーツ"鉄男"Mark.II、その改良型であるMark.IIIを着込んで、足と手からジェットを噴射しながら学園の中をすっ飛んでいた。

 

 いまだに人が乗るにはあまりにも危険すぎる試作品で、変に横回転したり、方向転換をしようとするにはイチイチ何かにぶつからなくてはいけない代物だが、今の少年には関係ない。

 

 こうして走っていることもまたロマンで、自分がやろうとしていることもうまくいけば最高のロマンになる。

 

 だって女の子の笑顔を取り戻しに行くのだから。

 

 そう思っているうちにテンションが振り切れた少年は、学園へ向けて叫び続けていた。いろんな生徒が自分へ向けてカメラをパシャパシャ向けてたり、録画したりしているがむしろ好都合。

 

『なーなーうーらーさーーーーーーん!! どこだーーーーーー!!!!』

 

 変な格好でロマン男が"ななうらさん"を探している。

 

 それは学内ネットで早々に話題になり、正体不明の"ななうらさん"への興味も高まって捜索の目が広がっていった。

 

『ロマン先輩がななうらさんって人捜してるって!』

 

『誰それ?』

 

『ksk』

 

『知らんけど空飛びながら叫びまくってるのよ。目立つってあれ……あ、校舎にぶつかった』

 

『閉会式のゲストとか?』

 

『あ……! その人知ってるかも! 受付でビジターパスを渡した人なんだけど、黒い髪に青いインナーカラーで……あとめっちゃ可愛い子!!』

 

『マジかあのロマン野郎!? ちゃっかり外でやることやってんじゃねえか!!』

 

『その子ならさっき見たよ! たしか宇宙港のほうに向かってた!』

 

『修羅場か!? 修羅場来たか!?』

 

 なんて、尾ひれをつけながら噂は一人歩き。とうとう

 

『ロマン男が体育祭の運営にかまけて外で作った恋人をほったらかしにしていたから、愛想をつかされて逃げられた。今、必死においかけてるとこ』

 

 なんてゴシップなネタが拡散されたので、そりゃもう情報は集まる集まる。

 

 ロマン男のパワードスーツのモニターにピコンピコンと通知が届くは届くは。ろくなAIを積んでいないので、機体の負荷を高めながらメッセージが殺到する。

 

「なんかめっちゃメッセージがくるんだけど!? って、これナナウラさんの情報じゃん! 宇宙港……? よっしゃあああああああ!! かっとビングだ、俺!!」

 

 勢いよく噴かされるブースター。

 

 そして機体の情報処理が追い付かず、漏れ出した燃料に着火して文字通りの火の玉になりながらロマン男はニカの元へと吹っ飛んで行った

 

 

 

 機動戦士ガンダム 水星の魔女

 アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男

 

 

  

「あーっ、あっちぃ……! あとで開発部のみんなに言っておかねえと。耐火スーツ着てねえと即死だったって。それで……」

 

 数分後、到着した宇宙港の入り口で、制服に焦げ目を作ったり、背中から煙を上げたロマン男は、怪訝そうな目で前を見つめる。そこには、待ち受けるように彼の幼馴染が立っていたからだ。

 

「なにやってんの、シャディク」

 

「それはこっちのセリフだって……いや、ほんと、なにがあってそんな燃えてるんだ」

 

 その隣に立つサビーナも少年を心配そうな、いや、心配するべきことなのかを迷っているような微妙な目で見つめてくる。

 

 彼らとしても落ち込んでいると聞いた少年がいきなり空から墜落してきて、大事故かと思ったらぴんぴんしてはい出てきたのだ。そんな顔にもなろう。

 

 ペイル社の超人薬とやらの被検体になって、本当に人間をやめたとかいう与太話を信じてしまいそうになる。

 

 とはいえ、その事実を追及する前に、

 

「……まあ、お前がこっちに飛んできた理由は察しがついているけど。あえて聞くよ。どうするんだい?」

 

 シャディクは事情は知っていると態度で伝えながら友人へと尋ねる。

 

 彼はここにロマン男が飛んできた以上、ニカ・ナナウラを引き留めに来たのだと確信していた。

 

 だが、問題は彼女を引き留めてどうするのかということ。

 

「彼女はテロリストの一員だ。そしてお前の家族を奪った組織の一員……おそらくただ拾われて生きるためだったとは思うけど、お前の仇だ。他の地球寮生とは違う」

 

「あー、やっぱり?」

 

「それを知ってて、なんで追いかけるっていう発想が出るんだい? あの子はお前を拒絶したし、このまま遠くに行ってしまえば、もう出会うこともない。

 手を差し伸べたところで、それを掴むとも限らない。いや、掴むどころかもっとお前自身へ敵意を燃やすかもしれない。……そんなリスクを負ってまで、アスム・ロンドが彼女に固執する理由はなんだ?」

 

 シャディクの声は冷たく、それでいて正確だった。

 

 一つ一つ、ニカを追わない方がお前のためだと、事実を列挙しながら問い詰めていく。

 

 けど、そんなリアリストな親友へと、少年は笑って言うのだ。

 

「いつもありがとな、そういうこと真っ先に言ってくれて……。でも、わかってんだろ? 俺はこういう時に止まらないし、止まりたくない。そりゃ、リスクを考えたら追わない方が得策なんだろうけど、そんな俺だったらお前とも友達になれなかった」

 

「答えになっていない。どうして彼女を?」

 

「ナナウラさんだけじゃないって。ロマンを理解してくれる人だったし、できればもっと仲良くなれたらとか思ったけど。スレッタさんとかエランの時と同じだよ。

 ……泣いてる女の子をただ帰すなんて、俺がやりたいことじゃない」

 

「…………考えは、変わらないってことか」

 

「とーぜん!!

 常識? 普通なら? そういうのをぶっ壊して新しいことを目指すのがロマンだからな!!」

 

 自信満々にロマン男は笑う。

 

 シャディクは知っていた。アスム・ロンドという少年がそういうやつだと。彼自身がそこに惹かれて変わったのだから。

 

 どんな困難があっても、常識やルールが立ちふさがっても、ロマンがあれば打破できると信じてる特大のバカ。もちろん、それはいい意味で。……いや、半分ぐらい悪い意味も込められてはいるが。

 

 それをわかっているシャディクは髪をかきながら、心から呆れたような声で言う。

 

「まったく……ほんとにお前ってやつは。そこまで言うなら、止めはしないよ。ちょうど彼女も頭を冷やして後悔しているところだろうから、行ってロマンでもなんでもやってあげるといい」

 

「っていうか、ぜってーなんか変なことナナウラさんに言っただろ、お前」

 

「さあ、どうかな?」

 

「やめとけよ、そーいうの。自分が悪役をやるとか、憎しみは俺一人でじゅーぶんだとか。さすがにお前がどっかの誰かに刺されたら泣くぞ?」

 

「それはそれで珍しいから草葉の陰で見てみたいけど……わかったよ。今後は控えるさ」

 

「おうっ! それとサビーナも、心配してくれてありがとな!」

 

「っ……私、は」

 

 言い淀むサビーナと愉快そうに苦笑いを浮かべるシャディクへと手を振って、ロマン男は宇宙港へ向かっていく。

 

 中は当然ながら体育祭から帰ろうとしている訪問客でごった返していた。

 

 見渡す限り人、人、人。ニカのような黒髪の少女もいくらでもいて、本人を見つけるのは困難。

 

 アニメとか漫画なら、ちょうど走り回っていたらばったり出くわすなんてこともあるが、そうそうリアルはうまくいってくれない。

 

 なので、委員長やら理事やらの権限で裏技を使って、

 

「もしもし! ニカ・ナナウラさんの搭乗便を調べたいんだけど……はぁ!? も、もう出た!?」

 

『は、はい……! つい十分前に月へ向かって出発しました』

 

 ニカ・ナナウラを乗せた輸送船がとっくに発射していたことにロマン男は愕然とした。

 

 時間で言えばちょうど宇宙港に到着した時間。文字通りタッチの差で逃がした形。

 

 実際にその出発所へと走って向かってみると、そこには何も残っていない。

 

 少年は頭を抱えながら考える。

 

(どうする……? シャトルに連絡、ってそれで止まるわけねぇし、向こうについたら追跡は不可能だ。なんとか、なんとかここで追いつけないと……!

 ヴィクトリオンで飛べば……いや、今から格納庫に行っても間に合うわけがない)

 

 浮かんでいく、数々の不可能の文字。

 

 だがそれで諦めるわけがない。そうして何か手を見つけないとと知能をフル動員していた少年へ、頭上から大きな声がかけられた。

 

『先輩! 乗ってください!!』

 

「……え?」

 

 少年は顔を上げる。同時に、周囲の人々もどよどよとどよめきの声を上げながら同じ方向を見ている。

 

 なぜならそこには、

 

「エアリアル……!! スレッタさん……!!!!」

 

 人気ナンバーワンな白と青のモビルスーツが、出発ハッチに乗り込んできて、手を振っていたのだから。

 

 エアリアルはロマン男が自分たちを認識したことを確認すると、人間らしい動作でひざまずき、手を差し伸べる。『乗れ』とそういう仕草だ。

 

『ミオリネさんから聞きました! それで先輩ならぜったいにこうするってミオリネさんが!! 私とエアリアルで送ります!!』

 

「スレッタさん……! キミって最高だっ!!」

 

『ミオリネさんにも、お礼、お願いします!』

 

「おうっ!」

 

 少年は笑顔で走り出す。

 

 彼自身が憧れるロマンの体現のようなモビルスーツの元へ。

 

 それを見ていた人々は、訳が分からないまま、だけれどどこかの物語で見たような光景に不思議とワクワクするものを感じていた。

 

 

 

 そして、そんな彼らが向かう輸送船の中では、

 

「…………」

 

 ニカが窓際の席に座って、外を見つめていた。

 

 黒い黒い宇宙の中で光輝いていたアスティカシア学園。それがだんだんと小さくなって離れていく。見ていると心がざわついてしまうのに、でも目を離さずにはいられない。

 

(こんなところ、来なければよかったって……そう思えたらいいのに)

 

 この三日間で、自分の価値が揺らいで、こんなに心がボロボロになって、もう絶望しかない道へ向かっていかないといけなくなった。こんな場所に来なければ、流されるままにあの環境で生きながらえたかもしれない。

 

 でも、来なければなんて考えるのは無理だった。

 

 むしろ考えるのは、もしも自分がテロリストとは何の関係もない一般人として生まれたらなんてIF。

 

 もしテロ組織なんかに拾われなければ。

 

 もしあの時、彼に全てを明かしていたら。

 

 もし彼へとあんな言葉をかけないでいられたら。

 

 どうしようもなくわがままだとニカ自身でも思っているのに、もしあの学園の一員になれたらと思わずにはいられない。

 

 そうすれば好きなモビルスーツを目一杯さわることができて、新しい知識を得て将来の世界をもっとよくできて……

 

 いや、そんな大それたことできなくてもいい。友達を作って学ぶことができる。それだけでとっても贅沢なことなんだから。

 

 そしてあのシャディク・ゼネリが言う通りなら、

 

(あの人が、本当に私を恨んでいないなら……)

 

 でもそうはならなかった。

 

 ニカは少年のことをよく知らないままに傷つけてしまった。正真正銘、テロリストと同じ穴の狢。それも今更になって後悔するなんて、虫が良すぎるし、そんな自分へとあんな優しい言葉をかけてくれることも、手を引いてくれることもない。

 

「……ごめん、なさい」

 

 口からこぼれるのは謝罪の言葉。

 

 こんな絶対に届かないような場所からしか言えない自分自身が嫌になる。

 

 そうしてニカの視界が歪んでいき……その目の錯覚がありえないものを映したように見えて。

 

「…………え?」

 

 瞬きをした瞬間に目の前をかすめて飛んだエアリアルに、涙を引っ込めながらニカは唖然とした。

 

 

 

「うぉおおおおおお!? こ、このG、やばすぎぃいいい!?」

 

『先輩! だからなんで手につかまっているんですか!? 中に入っていいのにっ!!』

 

「こういう時は手に乗っかるのがマナーだろぉおお!?」

 

『そ、そうなんですか!?』

 

「そうだよっ!!」

 

 少年はエアリアルの加速に耐えながら叫んでいた。少年がいるのはエアリアルが差し出した手の上。ちょうどマニピュレータにとっかかりがあったのでそこにしがみついている形。

 

 確かにアニメなんかではそこに人を乗せたまま人が飛んでいる絵が出てくる。おそらくは人間の味方であったり優しいロボットだと表現するのにちょうどいいからだろうが、現実でやれば当然、加速の圧がもろに来て、体が吹っ飛ばされそうになる。

 

 命綱はつけているし、先輩がそう言うのならそうなのだろうとスレッタも毒されているが、やってはいけない。絶対に危険だ。

 

 とにかくバカと、そのバカを乗せたエアリアルはとうとうニカのシャトルへ並走することに成功した。

 

 そんな彼の視界の先で、シャトルの中がざわつくのが見える。当然だ。いきなりモビルスーツが接近してきたのだから、これが有名なエアリアルでなければ海賊かテロリストと疑われる行為である。

 

 まだ停止していないが、シャトルのパイロットも何事が起こったのかと戸惑っているに違いない。そして……

 

「いたっ!! ナナウラさん!!!!」

 

『よ、よく見えますね!?』

 

「勘だけど、あそこ……!!」

 

『うぇええ?! ほ、ほんとにあってる!!』

 

 スレッタが、ロマン男の指さす方へとカメラを向けると、確かにそこには他の乗客と同じように目を見開きながらニカの姿も視認できた。

 

 だが、どちらかと言えば彼女の表情には警戒の色が混ざっている。

 

 その様子を聞いたロマン男は考える。Gに頭をぐわんぐわんさせながら考える。

 

(当たり前だよな。ああいうこと言って飛び出したんだから、とっ捕まえに来たと思う方が普通だし。だから、なんとか……! なんとかしてこっちに敵意がないことを伝えないと)

 

 必要なのは言葉だ。

 

 お話がハッピーやら人類の変革やらを作るというのは物語の常識。逆にお話一つを間違えるだけで戦争やら世界滅亡やらが始まってしまうので、ますます言葉選びは大事。

 

 ニカ・ナナウラという少女に、どうすれば疑われずに、こちらを受け入れてもらえるか。

 

 なので、スレッタへと少年は叫ぶ。

 

「スレッタさん! いそいでシャトルと回線を開いて! 俺がなんとか止めてみせるから!!」

 

『は、はいっ……! え、えいっ……!』

 

 先輩にせかされて、スレッタは慌てて回線を入れる。先輩を宇宙にポイ捨てしないように気を張りながらの作業だったが、いつもの決闘のようにボタンを押すことができた。

 

『先輩、どうぞっ……!』

 

「よぉし……! えっと、えっと……!」

 

 少年は言葉を選ぶ。

 

 なるべく疑われないようにストレートな言葉がいい。

 

 ぜったいに敵意がないと、マジで一発で伝わる言葉。

 

 できればこんな生涯に一度あるかないかのロマンな景色にふさわしい、なんかかっこいい感じのこと。

 

(それをなるべく大声で伝える!)

 

 そして、テンションが高まりまくってた少年は、よく考えもしないままマイクへ向かい、

 

「ナナウラさん……!!」

 

 

 

「きみがすきだぁああああああああ!!!!」

 

 

 

「きみがほしぃいいいいいいいいい!!!!」

 

 

 

 

 ストレートにもストレートすぎる、どう考えても誤解しか生まない言葉を叫んでしまった。

 

 それを聞いたスレッタは当然ながらエアリアルの中で

 

『ふぇええええ……!?』

 

 と叫び、そしてシャトルのスピーカーからいきなり憎まれていると思っていた少年からそんな言葉をかけられたニカも、

 

「え、えぇえええええ!?」

 

 と飛び上がって仰天する。

 

 確かにロマン男の思惑通り、誤解なくストレートには伝わった。別の意味での誤解は加速したが。

 

 一方でニカは逆に訳が分からない。

 

「す、すきって!? え、ちょ、ちょっと、なんのこと!?」

 

 どう考えても憎まれている方が普通なのに、いきなりエアリアルで飛んできては機内全部に伝わるくらい大声で告白なんてニカが想定しているわけなかった。

 

 しかし、戸惑うニカを他所に、なぜか機内アナウンスが入り。

 

『えー、乗客の皆様へお伝えします。当機は一時、緊急停止をします。……ふっ、こういうシチュエーション、一生に一度は見てみたかったぜ』

 

「な、なんで……!?」

 

 なんてダンディな声をした機長が言うのだ。

 

 かくして、ニカは少年の前に出るしかなくなった。

 

 ニカがしてしまった反応から彼の告白相手だと思われ、周りの観客はほっこりとした眼をしながら『若いっていいわね、うふふ』とか『お幸せに』とかそんな言葉を言われるのだから。

 

(な、なんでこんなことに……)

 

 ニカとしても訳が分からない。

 

 自分は嫌われるようなことしかしていないのに、なぜあの人は突然に告白なんてしてきたのか。それも『君が欲しい』とか今時の若い子が言わないコテコテの文句を、ああもはっきり言う人がいるなんて。

 

 本人としては至極当然な戸惑いを抱えたまま、ニカは機内のスタッフに促されてノーマルスーツを着用し、そして……

 

「よかった、ナナウラさん……!」

 

 二人は宇宙で再会した。

 

「なん、で……?」

 

 開口一番、ニカの口から出るのは当然ながら疑問だ。

 

 あれだけの仕打ちをしたのに、優しくしてくれた恩を仇で返したのに、こんなところまで追いかけてきて好意を伝えてきた。

 

 だが、当の少年はと言えばそこに疑問なんて持っていない。いや、告白したという気がないくらいに恥ずかしさも照れもなく、ニカへと言うのだ。

 

「お願い、ナナウラさん。俺達と一緒に学園に行こう。

 事情は聞いたし、理解した。そっちの世界に戻っても、君は幸せになれない。だから、俺達と一緒に……」

 

 それはニカが望んでいた救いの手で、

 

「っ……! だから、なんでですか!?」

 

 それが待ち望んでいたものだったからこそ、ニカは受け入れられなかった。

 

 それを受け取るべきではないと思ってしまった。

 

「なんで、そんなに優しくしてくれるんですか!?

 私はあなたとは違う! あなたのことを傷つけた! あなたのことをキモチワルイなんて言った! 今だって、あなたのことが全然わかんないっ!!

 ……あなただってそうでしょ!? 私のこと、私がこれまでどんな汚いことをしてきたか、知らないでしょ!? 私はあなたの……!」

 

 家族の仇だと、そう伝えようとして。

 

「関係ないねっ!!」

 

「えっ……?」

 

 強引にロマン男はニカの手を掴んでいた。それは体育祭で一緒にモビルスーツを見て回ったときと同じように。躊躇うニカを新しい世界へ連れ出すように。

 

「ナナウラさんが何をやってきたとか、なにを後悔してるとか、そりゃ知らない。けど、俺はそんなことよりも大事なことは知ってる!

 ナナウラさんがモビルスーツが大好きだってことも、メカニックとしてやっていけるくらいに知識も技術も持っていることも、そしてロボットへのロマンが分かってる仲間だってことも!」

 

 それを知っているから、十分なのだと少年は言うのだ。

 

「キモチワルイ? そんな言葉どうした! そりゃちょっとはビクッてしたけど、考えてみたら"バカ"とか"変態"とか"妖怪"とかめちゃくちゃなこと友達から言われ続けてきたし、気にしないって!

 あ、やべ、自分で思い返してたらちょっと涙がでてきた……」

 

「そ、それって……ほんとに友達、ですか?」

 

「と、とにかくノーダメージノーダメージ!! それよりも俺はナナウラさんをこのまま帰して、ナナウラさんが不幸になりましたって方がよっぽど嫌なのっ!!」

 

「っ……」

 

 それはどこまでも子供っぽく、駄々をこねるように。

 

 少年はニカのヘルメットへと自分のものをくっつけると、まっすぐすぎる目で言った。

 

「ナナウラさん。確かに俺はいろんなものを失ったり、悲しい思いもした。それはもしかしたらナナウラさんにも関わりがあったかもしれないけど、君だってそんな過去を後悔してるんだろ?

 だから俺の夢はね、そんなことがなくなる世界だ。みんなが明日のことに希望を持てて、この世界と未来にロマンを感じられる世界」

 

 大きな夢で、途方もない夢。だから少年はいつも思っていた。そんな世界を実現したいなら、一人の力では無理だと。ロマンあふれる物語のように、たくさんの信頼できる仲間を、友達を作って協力していかないといけないのだと。

 

「だから、ナナウラさんにも一緒に来てほしい。俺達みたいな子供が、もう出ないように。一緒に世界を変えていきたいから」

 

「わ、わたし……、でも、なにもできません……。そんな、こと……」

 

「じゃあまずは勉強しよう! 大丈夫、俺はこれでも学校の理事だから裏口入学……じゃなくて編入手続きとかで何とかなるし!」

 

「っ……、もしかしたら、そのせいで、ねらわれるかも」

 

「シャディクとか既に狙われてまくってるらしいし、別口が増えても大丈夫だって! それに友達は絶対に守ってみせるから!」

 

「で、でも……」

 

 ニカの手が、口が震える。

 

 本気だった、本気でこの人は自分を求めている。自分の存在を必要だと思って手を差し伸べてくれている。そんな人はこれまで誰もいなかったから、その期待の大きさが怖くて、震えて……

 

「わた、し……うっ、もう、だめだとおもって……! もう、これで、じんせい、おわりだとおもって……!! それで、いいって、そんなこと、おもってたのに……! うぅ……」

 

「じゃあ、捨てた人生なら俺にくれよ。これからもっといい人生にして、返してあげるからさ」

 

「っ、ほんとうに、たすけてくれるんですか……?」

 

「うん」

 

「がっこう、かよってもいいんですか……?」

 

「もちろん!」

 

「すきなこと、すきっていっても……」

 

「良いに決まってんだろ! だってそれが……」

 

 その先の言葉はニカにもわかった。好きなものに、憧れに、焦がれて追い求めていく情熱こそが少年たちが求める、

 

 

 

「「ロマンだから」」

 

 

 

「そのとーり♪」

 

「っ、ふふっ……ほんと、変な人ですね……」

 

「妖怪だからね! ってことは、返事はOK?」

 

 ニカは涙にぬれた顔でこくりとうなずく。

 

 それを見た少年も満面の笑顔を浮かべて、そして二人を見守っていたエアリアルへと手を振った。

 

 これからニカを連れて学園に戻らなくてはいけない。しかも閉会式の時間まであと少し。出場選手はスタジアムに集まっているはず。

 

 そしてその少年たちのやり取りを見ていたスレッタも、

 

「ぐすっ……うまくいってよかったね、エアリアル!」

 

 なんて涙目になりながら感動していたのだが、

 

「……え? スピーカー? おーぷん? えぇえええええええええ!?!?」

 

 スレッタが突然大声を出して、エアリアルがバタバタと変な動きをし始めるのでロマン男もニカも目を丸くした。

 

「す、スレッタさん!? いったいどうしたの!?」

 

『せ、せんぱ、せんぱい……! ご、ごめんなさい……!!』

 

「だからどうしたの!?」

 

『せ、先輩たちのさっきの言葉、そ、その……流しちゃいました!!」

 

「…………え?」

 

 

 

『学園のオープンチャンネルにつながってました!!』

 

 

 

「「えぇえええええええええええええ!?」」

 

 

 

 そう、少年がせかしたせいで、スレッタは大きなミスをしていた。いつもの決闘の時のようにスピーカーを、輸送船も含めたオープンチャンネル対象にしてしまっていたのだ。

 

 つまり、 

 

『きみがすきだぁああああああああ!!!!』

 

『きみがほしぃいいいいいいいいい!!!!』

 

 そんなロマン男の大音量の告白は、学園生が集まっていた体育祭のメイン競技場で垂れ流されており、

 

「ごーがい! ごーがい! ロマン先輩が告ったぞ!!!!」

 

「おいおい相手誰だ!? ナナウラさんって誰だ!?」

 

「しかも三年のアリヤ先輩にも抱きついたとか聞いたぞ!!」

 

「二又かよ、ゆるせねえ!?」

 

「うぅ……サビーナ様、おいたわしや……」

 

「やべえよ、学園中に告白中継とか、あの人やっぱり漢だよ……」

 

 なんて全校生徒の語り草になり。

 

 とあるジェターク寮の御曹司は、

 

「やりやがった! マジかよあの野郎ッ!! やりやがったッ!!」

 

 なんて自分以上の男っぷりを見せたことへ机をたたきながら大興奮し、

 

 とあるエラン・ケレスは

 

「ぷっ、くくく……あはははははははは!!!!」

 

 なんて今までにしたことない大爆笑をし、

 

 これまたとあるグラスレーの御曹司は、

 

「何かの勘違いだとは思うけど……やっぱりお前はやるやつだよ」

 

 なんて遠い目をしながらつぶやいた。

 

 

 

 こうしてこの学園にまた一つ、伝説が生まれた。

 

 これが100年先まで語り継がれる『アスティカシア三大恥ずかしい告白』の三つ目にして、いまだに『これって結局告白だったの?』と議論の的になる、

 

 

 

 『ロマン男の告白』である。




(人間として)きみがすきだぁああああああああ!!!!

(仲間として)きみがほしぃいいいいいいいいい!!!!

こうして修羅場って生まれるんですね



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