アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男 作:カサノリ
ざわざわ……
『えー、今回の体育祭はたくさんの生徒が活躍しまして……』
ざわざわ……
『えー、特にジェターク君が目覚ましい成果を……」
ざわざわ……
『えー、エアリアルとスレッタさんも、とってもよくできましたというか……」
ざわざわ……!
『あーっ! お前ら、うっせーっ!! ちょっとは落ち着いて話をきけぇえええ!?』
「「「聞けるわけねえだろが、このバカ!!!!」」」
壇上でマイクに吠えたロマン男。それに対して、全校生徒から当然のごとくツッコミが入った。
あの学園中を騒乱の渦に巻き込んだロマン男の告白(と思われるもの)から少し経ち、現在は体育祭の閉会式が行われているところ。
もちろんロマン男は実行委員長なので壇上に立ち、がんばった地球寮や、これまたがんばって笑いと感動を届けてくれたグエルをほめたたえたりするはずだったのだが……。
いつも騒動を引っ提げてくるお祭り男が、自分の恋愛スキャンダルという鴨葱状態で出てきたのだから、生徒はそういう話を聞けるテンションではない。
四方八方から、
「せんぱーい! こんど彼女さん紹介してくださいよーっ!」
「いつから付き合ってたんですかー!!」
やら、
「アリヤ先輩のこと、どうするんですかぁーっ!?」
「ちょ、ちょっとリリッケ!?」
やら、
「せんぱぁーい♪ サビーナのこと、どうおもってたんですぅー♪ やっぱりあそびですかぁ♪
……って、アイタっ!? 顔にグーとかマジ!?」
「……黙っていろ」
やら、
『『オマエモ』』
『『コチラ』』
『『ガワダ』』
『『ウェルカム』』
と、どっかの男子二人が満足げな顔でジェスチャーをしつつ、ロマン男を仲間に迎え入れたりしている。
一応、スタンド席などにはベネリットグループの関係者などが集まっているのだが、御三家の御曹司までそろってそんなテンションなので、この光景を怒ればいいのか、呆れればいいのか、それとも笑えばいいのかわからない状態である。
そして、あんまり真面目に聞いてくれない委員長挨拶を勢いで乗り切ると、ロマン男はやけくそになって叫んだ。
『あーっ、もうっ! 体育祭、お疲れ様でしたぁああああ!!!!』
「「「うぉおおおおおおおおお!!!!」」」
機動戦士ガンダム 水星の魔女
アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男
その後、別の委員によるまじめな講評が改めて行われたり、各種目の入賞者が表彰されたり、ついでにやっぱり二日目の副賞付きMVPはグエルであったり、おおむねつつがなく閉会式は終了。
観客も徐々に帰路についた現在、学生たちのものに戻った学園では体育祭の打ち上げという名の大宴会が開かれていた。
そしてその一角では、
「アンタ、ほんとのバカね!?」
「ふ、フフ……燃え尽きたぜ、真っ白にな」
ミオリネはその一角で、白く灰になったロマンバカを叱責していた。
ミオリネは頭に青筋を立てながら、うずくまっているバカへと容赦ない言葉を浴びせる。
「ふ・つ・う! あんなこと言ったらそういう意味になるって分かるでしょ!? っていうかわかんないからアンタはいつまでもバカなのよ、この精神年齢十歳児! いいえ、十歳でもまだ分別つくからそれ以下ねっ!!」
「ミオリネだって、エアリアルとスレッタさんを呼んでくれたじゃん……!」
「あんな告白をしろだなんて、誰も言ってないわよ!?!?」
「み、ミオリネさん……! そろそろ、それくらいで許してあげても……」
「許せるわけないでしょ!? せっかくこれからビジネスパートナーやってくはずなのに、こんなしょーもないスキャンダル起こすんだから!!」
「もともと私がミスしちゃったのが悪いですし……!」
「…………スレッタは悪くない」
「そ、そうですか?」
「ええそうよ。アンタはまーったく悪くない」
「ずりぃぞミオリネ……! そりゃスレッタさんは悪くねえけど、贔屓だ贔屓! アイタっ!?」
「うっさい、このバカ!!」
最後にミオリネはバカの尻を文字通り蹴っ飛ばして、けじめとした。
ミオリネとしては、テロリストの疑いがあるニカ・ナナウラをそのまま帰すというのもリスクであるし、あの感情的な様子を見て懐柔できる余地があると思ったからロマン男を行かせたのだ。
それが学園に広がる告白騒動になるとは思っていなかったし、結果として変な注目をされてしまうのだから、怒りもやむなしと言ったところ。
そして、妖怪を完膚なきまでに尻に敷いている女帝というか肝っ玉母さんじみた姿を見て、周囲の学生は震え上がるのだった。
とにもかくにも、そんなロマンバカの告白騒動も、この学生たちの打ち上げの中では単なる宴の肴でしかない。
一応、学生記者からの質問には『テンション高まって言ってしまっただけで、誤解です』なんて余計に誤解を招くような言葉で弁明したが、『ロマン男が恋をしてすげえ告白をした』という方が話のネタとして圧倒的に面白いので、学生たちは勝手に話を広めていく。
それは御三家の御曹司という立場でも同じで、
「まったくアスムらしいというかなんて言うか……って、どうしたんだいグエル?
さっきから変な顔をして」
「くっ……! あのバカの告白文句に、一瞬でも憧れちまった俺が悔しい」
「……『スレッタ・マーキュリー、俺と結婚してくれ』」
「ぐぅっ!?」
「僕には十分どっちも恥ずかしいと思うけれどね」
「エランっ……! ぜってえに、お前にも恥ずかしい告白させてやる……!」
「ふっ……僕は人を好きになったりしないよ。絶対に」
「それはこういう時に言うセリフじゃないと思うんだけどなぁ……」
一次会と称された大宴会の会場。その中央のテーブルで男子三人が談笑している。
それはグエルとシャディクに、エランという、学園の有名人たち。お互いに浅からぬ縁の三人。だが、この大会前には一緒に食事をするというのはあまり見られなかった景色でもある。
企業同士が強力なライバル同士であるし、ホルダーの取り合いやらで、同じ決闘委員会所属であっても、仲良しこよしとはいかない間柄だったのだから。
だが、そんな三人も今はテーブルを囲むことに抵抗はない。
例の障害物競争やら選抜戦などを一緒に経験し、一種の戦友のような気持ちさえ感じている。むしろ後輩たちの忖度やら尊敬やらがない分、なんでも気やすく言い合えるような雰囲気だ。
シャディクの音頭と共に、グラスを打ち付け合い、三人は乾杯を交わす。
「まあ、ともあれ体育祭お疲れ様。グエルは総合MVPとデート券の入手、おめでとう」
「確かに、あの活躍ぶりはすごかったね」
「おう。賞賛は素直に受け取っておくが……そのデート券っていうのはなんなんだ、デート券っていうのは」
グエルは釈然としない様子で言う。それに対してシャディクは苦笑いをしながら言うのだ。グエル自身も言われた意味は分かっているだろうに、ここにきてごまかそうというのだから。
「デート券に間違いはないだろ? まさかラウダを誘ってフリーパスで遊ぶわけもないし」
「君がデートをするというなら、相手はスレッタ・マーキュリーだ。まあ、僕にはあまり関係ないけれど、トレンド入りだけは注意したほうがいい」
「くっ……! 俺に平穏は訪れないのか……? せめてデートくらいは静かに……!!」
「いいじゃないか、まだほほえましくて。僕なんて……ふふふ、あのファラクト、これからどうすれば……」
「ま、まあまあ二人とも、せっかくの打ち上げなんだから湿っぽい話題はやめておこう」
「お前はいいよなぁ……。なんだかんだうまくやってて……」
「君も一度、変なMSに乗せられればいいんだ」
「だから道連れを増やそうとするのはやめよう、な?」
仲良くなったというよりも、ロマン男の被害者として傷をなめ合う仲になったというかなんというか。
だが、それは実際の御三家同士が繰り広げている血みどろの勢力争いとは全く違う、子供の友情の延長線上。逆にこんなことを言い合えるようになっただけ、彼らの関係は進んでいるといえるだろう。
シャディクはそれをほほえましく思いながらも、少し表情を暗く落とした。
(それでも……。アスム、お前が……俺達が望んでいる世界にはまだ遠い)
シャディクは誰にも見えないように、大きなため息をつく。
彼には一つ、大きな懸念があった。
それはニカ・ナナウラを派遣した組織の存在。そしてその組織に情報をリークした情報源かつパトロン。
しかもその正体が不明だからこそ問題視しているのではなく、正体がつかめそうだからこその懸念だ。
シャディク達が流したダミー情報。それはリーク元を辿れるよう、流した会社ごとに情報のいくつかに差異を作っていた。体育祭という場にかこつけてよからぬことを考えたのは誰かをあぶり出すために。
そしてニカをあの場所へと導いた情報から、デリング暗殺を依頼した、あるいは共謀したと思われる会社が明らかになった。
それは、
(……ジェターク・ヘビー・マシーナリー)
シャディクは何も知らずにスレッタとのデートを心配しているグエルを見ながら考える。
(おそらくグエルはなにも知らないだろう。だが、まさかジェタークがこんな短絡的な手を使ってくるとは思わなかったな。ヴィム・ジェタークもグエルがコントロールから外れて焦っているのか?
あるいは、奴らのほうから自分を売り込んでいったのか……)
もちろんヴィムCEOの暴走ではなく、部下たちの企てかもしれないし、何より情報の出所がジェタークらしいということまでで暗殺を指示した証拠などない。
だが問題は、彼らの陰謀がこの学園という聖域にまで伸びてしまったということ。
今回はすんでのところで止まったが、次も同じであるとは限らない。
(まったく、ままならないね、この世界は……)
シャディクは頭を巡らせる。
自分たちが望む未来を、この築き上げた学園という場所を守るにはどうすればよいかを。
同じころ、大勢の学生がどんちゃん騒ぎをしている周縁部で。
「それじゃあ改めて、あーしらの活躍に……!!」
「「「かんぱーい!!!!」」」
と地球寮生が勝利の美酒、もといジュースで乾杯し、喜びを分かち合っていた。
そこには地球寮だけでない、雰囲気に酔ったのか陽気な顔をした他寮の学生までもが加わって、一緒に地球寮の戦いぶりをほめたたえていた。
いつもならば露骨な差別はしないまでも、どこか壁が存在したスペーシアンとアーシアン。だが、祭という無礼講の場にはそんなものは余計でしかない。
オジェロがロケットで吹っ飛ばされたレースのことやら、やっぱりチュチュ無双だとか、スレッタとエアリアルがやっぱりMVPだったとか、子供たちは自分たちの武勇伝を肴に、宴を盛り上げていく。
そして、やはりというかなんというか、
「わたし、酷いと思うんですっ! せっかくアリヤ先輩が告白したのに……!!」
リリッケを中心に恋バナが再発していた。
もちろんその言葉を受け止めるのは当事者であるアリヤだ。彼女は苦笑いを浮かべながら、ぷんぷんと怒っているリリッケをなだめようとする。
「リリッケ、そんな大声で言わなくても……。それにアスムだってあれは告白じゃないとか言ってたし……」
「だめですっ! 私にはわかるんですっ! ああいうところから恋が始まるんです! 燃え上がるんです! ハリケーンなんですっ!! このままだとロマン先輩をとられちゃいますよっ!?」
「っていうか、ロマン先輩、アリヤが告白したって分かってんの?」
「わかってねーよなぁ……。あれ、仲良かったらハグも普通とか思ってるタイプだぜ」
地球寮生たちはおそらくあの逃げ去った少女へと告白したロマン男に、呆れたような声を上げる。
一部始終を見ていた彼らでさえ、いや、彼らだからこそ、あの先輩はやはり変人だという気持ちになる。特に、告白めいたことをしてしまったアリヤは心中穏やかではないだろうと、後輩たちは考えるのだが……
「だけど……なんか、アリヤめっちゃ落ち着いてね?」
「うん、なんだか今はとてもすっきりしているんだ」
アリヤは微笑みすら浮かべて言う。
もちろんあの放送を聞いたときは胸がずきりとしたし、嫉妬のような気持ちもわいてきたが、彼女が好きになった男を思えば、変なことを言って女子を引き留めるなんてやってしまいそうなもの。
それに、彼の過去や気持ちを知った今、変に不安がる必要はないように感じていた。
「大丈夫。あの時、確かに私とアスムとの気持ちはつながっていた。お互いを大切な存在として認め合えていた。……だから、そんなに焦る必要はないかなって」
気持ちが通じ合っているのなら、いずれは関係が変わるときが来るだろう。
今は単にその時期ではなかったという話だとアリヤは考える。占いと似たようなものだ。物事には適切な時と場所というものがあったりするのだと。
それにアリヤは決めたことがある。
「今度、ロングロンド社でインターンが始まるらしいから、それに応募しようと思うんだ。もうそろそろ就職のことも考えないといけないし、地球の両親がいいっていうなら、挑戦しようと思う」
「げっ!? マジであのトンチキ会社にいくのかよ!?」
「あはは……。た、確かにかなり個性的だけど、技術力を持っているのはベネリットも認めるところだからね。それにこの気持ちとは別に、アイツの役に立ってみたいって今は思うんだ」
何かあったら守ると言ったのだから、それがちゃんと実現できるように。
そんなことを言っていると、リリッケ以外のメンバーは全員、ため息をつきながら手でパタパタと顔を仰ぎ始める。
「いやー、暑いなー」
「これが愛ってやつか……」
「あーしにはマジ分かんねー」
後輩たちは慈愛の表情を浮かべるアリヤの背後に、菩薩か観音様でもいるようなオーラを感じ取る。恋や愛は人をここまで変えるのか、と。
ただ……
「それに……うん、言っても分からないなら、ね」
「「「ひいっ!?」」」
時折その観音様の顔が阿修羅に変わるのはなぜだろうか。
ロマン男がそういう人間だと理解はしていても、まったく告白のこの字も伝わっていなさそうな様子に、思うところがないわけではなさそうなアリヤだった。
スポットが当たった学生も、そうでない学生も、誰もが平等に祭の最後を楽しんでいく。
仲のいい友人と健闘をたたえ合ったり、先輩との最後の体育祭を涙ながらに惜しんだり、あるいは祭のテンションで告白して玉砕したり、成功したり。
だけれど時間が経つのもまた平等だ。一時間、二時間が過ぎて、祭はいよいよお開きという雰囲気になっていく。
そんな中、
「あ! ミオリネさん、ここにいたんですね」
「スレッタ? アンタ、もう打ち上げはいいの? たしか一二年チームのメンバーともやってたでしょ?」
宴の会場から離れた木陰で一人静かに過ごしていたミオリネの傍に、スレッタが駆け寄ってきて、同じように腰を下ろした。スレッタの手にはドリンクやお菓子が抱えられている。明らかに一人分以上の荷物は、スレッタがミオリネと時間を過ごしたいと思っている証でもあった。
この最終日、二人はあまり話ができていない。
地球寮の宴会には少し参加したが、すぐにスレッタはメイジー達に呼ばれて選抜戦のチームでの宴に行くために別行動していたし、ミオリネもスレッタがいない地球寮に居続ける理由もなく、一人、離れた場所でのんびりとしていたところだった。
ミオリネはスレッタへと呆れたような目線を送りながら言う。
「はぁ……わざわざ、私を探しに来なくても良かったのに」
「みんなとのパーティーもとっても楽しかったんですけど、なんだかミオリネさんともお話ししたくなって……。だ、ダメですか?」
「そんなこと言ってないわ。……それ、ちょっともらっていい? お腹も少し減ってきたから」
「は、はい! どーぞどーぞ!」
二人の間にお菓子の包みなどが広げられ、それをつまみながら二人は取り留めのない話をする。
スレッタは、さすがにいろいろな種目に出すぎて筋肉痛だとか、新しくできた友達と遊びに行く約束をしたということを。
ミオリネも、自分の卸したトマトの反響がよかったことに安心したことや、スレッタの母親と会話をしたことなどを共有したり。
するとスレッタは、なんだか奇妙な表情をしながらつぶやくのだ。
「そういえば、不思議なんです。前は毎日、お母さんと電話をしたり、ちょっとしたことでも話をしたかったのに……。
このお祭りの間は、そうじゃなかったんです」
「アンタはだいぶ忙しかったもんね。でも、ちゃんと褒めてはもらったんでしょ?」
内心で、それくらいしないと母親失格よ、とミオリネは思いながら言う。スレッタはその問いにはうなずきを返した。
「は、はい! うれしかった、ですけど……。えっと、もちろんお母さんは大好きですけど、それだけじゃないっていうか、他のことをしてる時のほうが大切だったというか……」
もじもじと、そうしていた自分が不思議だとスレッタ自身が思っているような様子。
だが、ミオリネにはその理由は分かり切っていた。
「つまり、ようやくスレッタも親離れってわけね」
ミオリネは少しからかい交じりにスレッタへという。
結局、スレッタが言っているのは母親にべったりするよりも、友達や仲間とはしゃぎまわる方が楽しかったというだけ。本当なら幼少期にすましておく通過儀礼だが、同年代の友達がいなかったスレッタにとってはやっと得られたチャンスなのだろう。
ミオリネはすまし顔で言う。
「アンタのお母さんだって自分にべったりくっついているよりは、同級生と遊んでいる方が健全だって思うわよ。……じゃないと、アンタを学校に連れてきたりはしないだろうしね。そんなに気にしなくてもいいわよ」
「そ、そうでしょうか?」
「そうよ。うちの糞親父とのことを考えてみなさいよ、アンタの家のほうが百倍マシでしょ?」
「えっと……それは、ちょっと答えづらいです」
(とはいえ……)
と、ミオリネは体育祭中にまみえたプロスペラ・マーキュリーのことを思い出す。
一見すると娘想いの優しい母親。だが、それだけではないとミオリネの勘はささやいている。果たして彼女がデリングと組んで何を企んでいるのか、その答えを探すために動く準備が、ようやく整い始めていた。
(……ちゃんとスレッタには説明しないとね)
エアリアルというガンダムの秘密。
それを送り込んできた真意。
運命の虜囚であることを嫌うミオリネは、ただ受け入れることなんてしない。自分の足で、手で、目で、確かめなければいられない。
でも、今は。
「ねえ、スレッタ。……体育祭、楽しかった?」
今はこの純粋な、形だけの婚約者と二人で、祭の余韻にふけるのも悪くない。
ミオリネはスレッタに語り掛けながら、まだ煌々としている祭の明かりを見る。
スレッタもミオリネにつられてその景色を見て、
「……はい。とっても、とっても楽しかったです。
でも……もう、終わっちゃうんですね。あんなに楽しかったのに、最後はこんなに寂しいなんて」
「ばーか、なに言ってんのよ。私たちには来年もあるでしょ?
それに……」
ミオリネは宴の中央で、陽気な笑い声を上げながらグエルへシャンパンみたいなものをぶっかけている幼馴染を見ながら言う。
「あのバカが、これからも大人しくしてるわけないじゃない」
そして、その言葉は正しかった。
ロマン男は実行委員会の後輩たちに高く担がれながら、マイクを片手に叫び出す。
『みんなー! 体育祭の最後の夜、楽しんでるかーっ!!!!』
「「「おおおおおおおお!!」」
『ハハハハ! いい返事だっ!! 俺も最高に楽しかった! ほんとにほんとに、楽しい思い出をありがとーっ! これで心置きなく卒業できる……』
『んなわけねぇだろ!! まだまだ満足してねぇぞ!!!!』
「「「っ…………!!」」」
ロマン男のその言葉に、学生たちは目を見開いた。
その言葉は明らかに何かを企んでいるという風で、妖怪を見つめる半分は期待を込めて、残りの半分はまた変なことをするつもりかと疑いながら。
そして学生たちの中心で少年は言うのだ。
『体育祭は楽しかったけど、満足してないやつもいるよな!? 特に経営戦略科!! パイロットもメカニックも見せ場たっぷりだったけど、運動苦手なやつも当然、この学園にいる!!
そして俺は、そういうやつにもこの学園で最高の思い出を作ってもらいたい!
と、いうことで……!』
「「「ぉおおおお?」」」
最後は大きくためを作りながら、
『アスティカシア文化祭をやるぞぉおおおおおおおおお!!!!』
「「「はぁああああああああああああああああああああああ!?」」」
叫ぶ少年の声に、全校生徒から同じくらい大きな戸惑いの声が届けられた。
「ちょ、ロマン先輩、なんて言った!?」
「文化祭!? って、なにそれ?!」
「しかも今年やるのかよ!? 準備期間、あんまねぇじゃん!?」
なんて、当然ながら不安そうな声も聞こえてくるが、
「でも……楽しそう!」
「今度こそ、俺が目立ってやる!」
「経営戦略ってことは、店を開いたりもできるんだよな!」
と次への期待に胸を膨らませる声だって同じ数聞こえてくる。
学生たちは分かっていた。この男は変人で妖怪で、ロマンの名のもとに無茶苦茶をやるとんでもないやつだが、それでもきっと、その企みは楽しみに満ちたものになるだろうと。
そして、そんな声を離れた場所で聞いていたミオリネは、大きくため息をつきながら言うのだ。
「あのバカ、また変なこと言い始めて……。でも、よかったわね、スレッタ」
「また、楽しいことが待ってるわよ」
「っ、はい……!」
スレッタ・マーキュリーは笑顔でミオリネに頷きを返す。
確かに祭は終わって寂しいけれど、悲しいけれど、だけれど不安は今はない。この学園にいる限り、きっと楽しいことはどんどんとやってくるのだから。
だからスレッタは万感の気持ちを込めて、ミオリネに言うのだ。
「ミオリネさん、私……!」
「この学園に来れて、よかったです!」