アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男   作:カサノリ

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38. 魔窟

 声が聞こえる。

 

『ニカ、スペーシアンを憎め。宇宙を憎め。母なる地球を汚す奴らを許すな』

 

 声が聞こえる。

 

『私は地球のために戦います。母なる大地をスペーシアンから守るために、この身を捧げます』

 

 それは傷の男の言う通りに復唱する、ニカ自身の虚ろな声。

 

 そしてまた声が聞こえる。

 

 今度は血にまみれた亡者たち。それがニカへと手を伸ばしながら呪いの声をかけてくる。

 

『裏切ったな……?』

 

「っうぅ……」

 

『お前も裏切ったな……?』

 

「やだ、やだ……!」

 

 亡者たちの手がニカの首へとまとわりつき、そしてニカの隣では、あの金髪の少年がバラバラになって散らばっていて……

 

「いやぁああああああああああああああ!?」

 

 ニカ・ナナウラは悲鳴を上げてベッドから飛び起きた。

 

「はぁ……はぁ……、また、ゆめ……?」

 

 ニカは思わず周りを確認する。

 

 もうそれは夢の景色とは違う。あのいたるところがひび割れた廃墟でもなければ、銃弾や血が無造作にばらまかれている凄惨な景色でもない。

 

 真新しくて、どこまでも綺麗なニカの部屋。まだ物はほとんどないけれど、安心できる場所。

 

「よかったぁ……」

 

 ニカは安堵とともに大きく息を吐き、布団へと顔をうずめる。その布団も、地球にいたころとは違う。とても柔らくて優しい匂いがするものだった。

 

 

 

 機動戦士ガンダム 水星の魔女

 アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男

 

 

 

 ニカ・ナナウラが保護されて一週間ばかりが過ぎた。

 

 今のニカの立場はロングロンド社の預かりであり、アスティカシア学園のメカニック科一年生。

 

 本来の年齢なら二年生になるべきだが、それまでの教育環境が良くなかったのもあり、基礎から学べる一年生への編入となった。

 

 そもそもが年齢自体、ニカ本人の自己申告以外に確認できるものがないので、ごまかすのはそう苦ではなかったと世話をしてくるロングロンド社の女性が言っていた。

 

 当初はアスム・ロンドのことは信じたくても、周りの思惑でどうにでも立場は変わってしまうと警戒していたニカ。

 

 だが、あれよあれよと市民ナンバーが交付され、ロングロンド寮に部屋が用意され、長距離通信はできないがプライベートにも使っていい通信端末まで用意されるといういたせりつくせりぶりに、少なくともロングロンド社の人々を疑う気持ちは薄れている。

 

 それもこれも、おそらく"あの人"が力を尽くしてくれたのだろう。

 

(だから、少しでも恩返ししたいのに……)

 

 そんな充実した立場のニカが、悪夢に悩まされるようになったのは、ここ数日のこと。これからの将来に期待を抱けるようになってから。

 

 理由は分かっている。不安があるからだ。

 

 ニカをこの学園へと送り込んだテロ組織の情報について、ニカは知っている限りをアスム・ロンドへと提供した。

 

 それは自分の保身でなく、どちらかと言えば、彼なら同じように兵隊にされようとしている同世代の子供たちも保護してくれるんじゃないかという期待を込めたもの。

 

 そしてその情報をもとに調査が行われた時、彼女がいたアジトはもうもぬけの殻だった。

 

 数日前まで人がいた気配があったとあるので、ニカが宇宙へ上がった段階で引き払ったのだろうと推察されている。

 

(……結局、私は捨て駒として宇宙に上げられた)

 

 あの傷の男を始め、大人たちはニカが成功するとも無事に帰ってくるとも思っていなかったのだろう。あるいは思想に染まり切らないニカをこれ幸いと切り捨てる意図が、命令にはあったのかもしれない。任務の成功の可否すらも確かめないまま、彼らは姿をくらませていた。

 

 そんなニカが今も生きていて、それもスペーシアンに保護されていると知られたら、彼らはどうするか。あるいは同じ境遇だった子供たちにどう伝えるか。

 

「っ…………」

 

 夢で見たように、何人もの憎悪が自分へと向けられるのは、もう確定している。

 

 自分だけならまだいい。どうせ捨てた命だ。

 

 だが、そんな自分を拾い上げてくれた彼にも危害を加えられることになったら。それがニカを苛む大きな悩み事でもあった。

 

 過去も自分の経歴も、そう簡単になくなってはくれない。その事実を改めてニカは感じている。

 

 しかし、悩みにだけひたっている時間はない。

 

「あっ……! も、もうこんな時間!?」

 

 既に時刻は朝の七時を超えていた。学校に出るのならもう少しゆっくりできるが、今日はそれとは別に大事な要件がある。

 

 ニカは飛び起きると急いで身支度を整え始める。嫌な汗をたっぷり吸った寝間着を脱ぎ去って、シャワーを浴びて、乾かしたら軽く化粧を施して。そんなに食欲はわいてなかったので、常備している栄養バーをくわえながら学園の制服を着ていく。

 

 まだまだ固くて、ニカにはフィットしていない制服。

 

 だけれど、それは部屋や市民ナンバーより何よりもニカにとっては嬉しいプレゼントだ。

 

 それを姿見の前で確認して、どこか変なところがないかを再チェックして。ようやく人前に、というよりも彼の前に出ていい恰好をした時、ニカの部屋のチャイムが鳴らされた。

 

「は、はーいっ! ちょっと待ってください!」

 

 ニカは声をかけながら慌ててドアへと向かう。

 

 二重ロックの扉を解除するとそこには、

 

「おはよう、ナナウラさん!」

 

 朝から声の大きな少年が笑顔で立っていた。

 

「お、おはようございます! 社長!」

 

 ニカは思わずぺこりぺこりと頭を下げる。すると少年は一瞬きょとんとして、苦笑いしながらニカに頭を上げるように促した。

 

「あはは……、そんなにかしこまらなくていいから。もうナナウラさんだってアスティカシアの生徒だし、ついでにうちの社員候補でもあるんだから」

 

「で、でも、それなら余計にちゃんとしないとダメですっ! ……あなたは私の上司になるんですから」

 

 ロングロンド社が責任をもってニカ・ナナウラという不審人物を預かる。

 

 それがニカの存在を上層部に黙っておくためにこの社長とシャディク・ゼネリが交わした条件だったらしい。ここでいう責任とは、文字通りの一生分の責任だ。

 

 身分が怪しいどころか過激派だったと確定している人物を牢につながないというなら、なにかがあったときの責任は、ニカを助けた張本人がとれというわけである。

 

 ただ、これも見方を変えればニカにとって都合のよすぎる条件。というより元から彼はそのつもりだったのだろう。

 

 今後、行く当てもないニカの一生をロングロンド社がサポートすることになる。しかも話によれば、ゆくゆくは社長の側近になれるように教育体制を整えてくれているとか。

 

 ニカにとっては恐縮するしかない厚遇ぶりだ。

 

(もしかしたら、周りの人たちは"あのときのこと"を誤解しているのかもしれないけど……)

 

 もちろんそれは、例の告白騒ぎのこと。

 

 社長の想い人であるならば、粗末な扱いはできないと思っているのかもしれない。

 

 けれども問題は……

 

「むぅ……」

 

「ん? どうかした?」

 

「……いえ、なんでもないです」

 

 とうの社長自体が告白のことなど、まったくおくびにも出さないこと。

 

(私は、こんなに意識してるのに……)

 

 勢いで変なことをしてしまう変人のたぐいだということはアッスー君として出会った時からわかっていたが、それでもあんなにストレートな告白をされて何とも思わない女子なんていない。

 

 しかも文字通り、体を張ってニカの命を救ってくれたのだから。

 

 だが告白じみたことをした変人自身が、なんにも意識していないようにふるまうので、ニカは感情をどこへもっていけばいいのかわからない。助けられた身でありながら、有言実行してくださいなんてことは言えないし、自分もこうした感情を整理しきれていない。

 

 今のニカにできるのは、さりげなく"意識しています"と目線で伝えたり、朴念仁ぷりに頬を膨らませるくらい。

 

 だがそれもあまり効果はなさそうで、ニカはため息を吐きながら"社長"と一緒に行う今日の予定を確認することにした。

 

「えっと、これからロングロンド社の本社に向かうんですよね?」

 

「そうそう! 学園内の寮とか整備施設には多少慣れてもらったから、今度はうちの本体を見てもらわないと! 学園から二時間ぐらい宇宙船で行ったところにあるフロントだけど、すごいんだよ♪」

 

 社長の口ぶりは、自慢のおもちゃを見せる子供のように弾んでいた。

 

 ニカはそんな純度百パーな笑顔にまた頬が熱くなるのを感じる一方、この寮以上に"すごい"という本社がどれほどのものかが不安になる。

 

 ニカが所属することになったロングロンド寮。

 

 その外観は他の寮と違って、まんまロボットの頭部のような形状をしていた。しかもロビーには巨大な映像観賞用のモニターが置かれ、絶えずロボットアニメが垂れ流されているわ、エレベーターは指紋認証するたびに『Standing by』やら『Complete』やら無駄に美声なナビゲート音が流れる仕様。

 

 徹底してなにかの秘密組織のような造りになっている。

 

 学園内の寮でこれなのだから、本社はいったい……

 

 ニカの苦笑いをどう受け取ったのか、少年は文字通り子供のように笑う。

 

「期待してて、すごいから♪」

 

「はぁ……」

 

 

 

 そしてしばらく後、

 

「…………す、すごい」

 

 ニカは宇宙船の窓から見えたロングロンド社の姿に、ロマン男が言ったようなリアクションをしていた。

 

 その本社フロントの規模は、ベネリット本社や御三家の運営するものとは規模で勝るものではない。このアド・ステラ世界の標準的なフロントと同じくらい。

 

 だが、

 

「すごいでしょ♪ コンセプトは夢の再現! そりゃ宇宙に浮かぶ秘密基地なんだから、これくらいしないと!!」

 

 それは往年のSF特撮で見たような、巨大な基地のような形をしていた。

 

 フロントとはアド・ステラ世界における宇宙の人工的な居住空間であり、基本的には小惑星を基盤にしてその外周部に居住用の施設を建設している。

 

 おそらくはこの本社フロントも核の部分には小惑星が入っているのだろうが、外周全部を構造体が覆って、その痕跡が見えない。結果、巨大な厚底鍋のような形状の、宇宙基地ができていた。

 

 ただニカにはどこか遠い記憶でそんな基地を見た覚えがあり……

 

「あの、社長?」

 

「どしたの、変な顔して……」

 

「私の記憶が正しかったら、あんな形の基地がウル〇ラマンで丸呑みされてたような……」

 

「ソンナコトナイヨー。M〇C全滅とかシラナイヨー」

 

「やっぱり、アレですよね?!」

 

 とんでもない棒読み具合にニカは思わず大声を出してしまう。しかも、その基地の内部の人は全滅したりと散々な目に遭っていた記憶がある。

 

「だ、だってさ! マジでショックだったから、再建したいじゃん! 今度こそハッピーエンドを迎えたいじゃん!?」

 

「その前にバッドエンドを再現しそうなんですけど!? よく反対されませんでしたね!?」

 

「ふっ……、うちの社員の胆力をなめてもらっては困る……」

 

「うぅ……なんだか、あそこに入るのが怖くなってきました」

 

 とはいえ、見た目だけはワクワクする形なのは本当だ。

 

 特撮や往年のSFアニメで描かれていた未来予想図は、それは夢やロマンが詰め込まれている素敵なデザインだったが、実際に宇宙に進出した時代になると利便性や合理性が貴ばれるようになってしまい、デザインは最低限のものになっているところが多い。

 

 だがこの本社フロントはそんな流れに逆行して、最大限のロマンを表現しようとしている。確かにこの社長の率いる会社の社風がよく出ていると、一目で理解できるものだった。

 

 そんな風に感心すればいいのやら、不安になればいいのやらわからないままでニカ達を乗せた宇宙船は本社のドックに入港していく。ちなみに述べておくと、その発着ゲートの扉の開き方まで、どこぞの銀色宇宙人TのOPで出てきたようなものだった。

 

 そして二人してシャトルを降りたところには、長い金髪の女生徒が待機していた。

 

「おはようございます、社長、ニカさん。お待ちしていました」

 

「お待たせ、マリー。ナナウラさんは、もうマリーにはあっているはずだよね?」

 

「は、はい……! 寮の案内とかしてもらいました!」

 

 ロングロンド寮の副寮長であり、学園内での社長秘書も務めている二年生のマリエッタ・ユノ。彼女は先行して今日の"社会科見学"のための準備を行ってくれていたようだ。

 

 マリーはロマン男とニカを引き連れながら、つらつらと会社の沿革を話していく。

 

「先日、ある程度は説明しましたが、わが社『ロングロンド・ホールディングス』はベネリットグループ所属の複合企業です。初代社長、現社長の曾祖父様がMSを含む宇宙開発機器の製造メーカーとして立ち上げました」

 

「それがなんやかんやあって、父さんの代に兵器企業に舵を切って、それでまたなんやかんやあって今は兵器販売は辞めて作業用MSや、その装備開発。それにコンテンツビジネスを両輪に運営してるんだ」

 

「えっ……? 兵器販売していないんですか? 学園の決闘の映像だと、ミサイル撃ったりしてましたけど……」

 

「販売はしていないだけで、最新技術の実証のために兵器研究は行っているんですよ。残念ながら最新技術の多くは兵器として世の中に現れますから、世界に置いていかれないようにという考えです」

 

「あとヴィクトリオンを活躍させるのはアニメの販促とか、装備品販売の広告にもなるからね。なにより、そういう武器もロマンの一つ!! 追い求めずにはいられないっ!!」

 

 ただ、とロマン男は真面目な顔になって。

 

「……人の命を奪うのは、やっぱ嫌だからね」

 

「……はい」

 

 ニカは頷きを返しつつ、少年の葛藤を思う。

 

 おそらくコンテンツビジネスに舵を切ったというのも、ロマンを追い求めることはもちろんだが、兵器産業から撤退するために別の収益源を得たいという考えがあったのだろう。

 

 そして今はその道で成功を収めて、世界をロマンで変えようとしている。

 

(そういえば、あのアニメも……)

 

 ニカは地球圏でも時折流れていたアニメ『機工戦士ヴィクトリオン』の内容を思い出す。

 

 物語は一人の少年がスーパーロボットのヴィクトリオンと出会い、侵略者であるデビロイドと戦うところから始まる。

 

 一見すると単純な暴力の賛美や勧善懲悪に結び付きそうなものだが、回が進むにつれて、敵にもやむに已まれぬ事情があったり、徹底的な正義の名のもとに分かり合えそうな敵を滅ぼしたジャスティリオンと出会い、戦ったり。

 

 最後には敵も味方も手を取り合って、世界を苛む大きな問題を解決していこうという考えさせられる内容で終わっていた。

 

 その後もシリーズは初代から、ヴィクトリオンV、Ω、νやらタイトルを変えたり主人公を変えたりしながら継続しているが、争いだけでは何も解決しないという根底のテーマは変わっていない。

 

 かつてはニカ達のアジトでも大人たちの目を盗んで、子供たちが視聴していたが、そんなテーマの作品を見ることを大人が許すわけがなく、そのアニメを見ることは禁止されるようになった。

 

(やっぱり、ちゃんと考えているんですね……)

 

 ニカは少年の背中を見ながら、胸に温かいものがあふれるのを感じる。

 

 この人は自分と同い年くらいなのに世界を少しでもいい方向に変えようと努力している。そんな人と出会えたことが奇跡のように思えて、また憧れが……

 

 などとロマンチックなことを考えそうになった時だった。

 

『はぁあああああああああああああ!? てめぇ、ふざけてんじゃねえぞぉおおおおお!?』

 

『お前のほうこそ、ざっけんなぁああああああああああああああ!?』

 

「ひぃっ!?」

 

「おー、またやってんなぁ……」

 

 大きすぎる怒声が聞こえてきて、ニカは思わず飛び上がった。それはちょうど通り過ぎようとしていた扉の奥からのもので、そちらを見ると殺気だったオーラのようなものが漂ってくる。

 

「な、なな、なんなんですか!?」

 

「大丈夫です、ニカさん。いつものことなので」

 

「いつものこと!?」

 

 それのどこが大丈夫なのかとニカが戸惑う中、ロマン男はと言えば気軽に扉を開けていく、するとそこには、

 

「このブレードアンテナはVの字にするのが王道だろ!?」

 

「いーやっ! 王道とは打破するためにあるっ!! 一本だ!!」

 

「それじゃ悪役っぽく見えんだろがぁ!?」

 

「その常識を壊すのが、クリエイターってもんだろ! 王道以外でも勝負するんだよっ!!」

 

 などと大の大人が取っ組み合って叫んでいる。

 

 彼らの周りに散らばっているのは何やらMSの設計図のようなもの。どうやら二人はMSのデザインについて激論を交わしているようだった。

 

「しゃ、社長っ!? あの人たちはいったい!?」

 

「うちのメインデザイナーの二人なんだけど、あの通りに仲悪くてねーっ! でも殴り合った分だけ良いものつくってくれるから、大丈夫!」

 

「大丈夫じゃないですよ!?」

 

「ニカさん、これくらいで驚いていたら、うちの会社ではやっていけません。……慣れてください」

 

「そんな!?」

 

 果たしてマリーの言ったことは正しかった。

 

「社長っ! こいつがロケットパンチを金色に染めろとか言い出しましてっ!」

 

「それより戻ってくるようにするのが先ですっ!」

 

「社長っ!! 鉄男Mark.VIの開発許可を!!」

 

「そんなのより先に合体MSの実証許可を!!」

 

「ヴィクトリオンシグマのラフでご相談が!!」

 

「こいつ、悪魔の羽なんてつけるとか言い出しまして!!」

 

「社長!」「社長!!」「社長!!!」

 

 どたどたと、ロマン男がここにいると伝わったのか、扉から男たちが走りこんできてロマン男を囲みだす。

 

 そのあまりの勢いにニカは圧倒されて、マリーとともに部屋の隅でガタガタ震えるしかなかった。

 

 どうやら技術開発部とMS開発部やらコンテンツ部やらの社員がロマン男の意見を求めたくてやってきたようだが、どいつもこいつも血走った目をしているし、髪の毛を振り乱しているし、ついでに手にロボットの模型や設計図をもって振り回しているので、下手な暴徒よりも得体が知れない。

 

 熱意は伝わるのだが、怖い。

 

 一方で小動物のように涙目になるニカを他所に、ロマン男はその集団の真ん中で悠々と語り始めるのだ。

 

「みんな、静かに。ステイ、ステイ。今日は新入社員も来ているんだ、まだ、そういうところは見せるべきじゃないぞ?」

 

("まだ"なんですか!? いつ見せるつもりだったんですか!?)

 

 楽しいパーティで新入部員を誘い込んで、あとからカルト団体であるとばらす胡散臭いサークルのような言い方である。

 

 そしてそれを聞いた社員たちは、一斉にぐりんと顔をニカ達のほうへ向けて。

 

「「「新入……社員?」」」

 

「…………は、はいぃ」

 

 その目がギラリと光り、

 

「お嬢さん! ぜひともMS開発部へ!! 実物のスーパーロボットを弄れるロマン! 鉄と油と火薬のむせる匂いが君を待っているっ!!」

 

「それより技術開発部へっ!! 世の中を動かすのはMSだけじゃないっ! 目指せ猫型AIロボット! キミのアイデアで世界を変えようっ!!」

 

「コンテンツ部もいいぞぉ!! アニメや漫画、2.5次元にリアルイベントまで! 楽しい時を作る企業にしていこう!!」

 

「ひぃいいいいいいいい!?」

 

 怒涛の勧誘合戦が始まるのでニカはもう寮に帰りたくなった。

 

 歓迎してくれている気持ちは分かる。分かるのだが、熱量がでかすぎて怖い。ロングロンド寮の学生も大概暑苦しくて距離感がバグっているような子たちであったが、それがブレーキなしに進化した先がこの大人たちであるように感じた。

 

 そのまま燃え上がるような熱気に意識が飛ばされそうになるニカだったが、それを助けたのはやはりというか少年だった。

 

 勧誘の波に潰されないように壁へと背中を張り付けたニカの前に、頭一つ大きな背中が割って入る。

 

「大丈夫、ナナウラさん?」

 

「しゃ、社長……」

 

 振り返り、さわやかな笑顔を浮かべているロマン男。

 

 ニカは助けてくれたことに加えて、彼との距離の近さからも心臓がドキリと跳ねあがる。

 

 だがそれは吊り橋効果的な幻想だ。

 

 なぜなら、この少年こそがロマンという狂気の感染源であり、この血走った大人たちの元締めなのだから。

 

 少年は楽しそうに言う。

 

「まあまあ、みんな落ち着け。確かにナナウラさんは将来の社員だけど、まだまだ勉強の途中! こんなに強引に勧誘したら、安心してわが社に来れないじゃないか!」

 

 そう、途中まではまともなことを言ったのに。

 

「だが、皆の気持ちもよくわかる! この新しい仲間がどんなロマンを持っているのか、知りたいはずだ!!」

 

「…………え」

 

「ということで……!!」

 

 少年は『はい、これ』とニカへバインダーを渡す。

 

 そこにあるのは、

 

 

 

『第二次エアリアル改造計画』

 

 

 

 という文字。

 

「じゃあ、ナナウラさんに任せたから♪ よろしくぅ!」

 

「…………はい?」

 

「期限は一週間で! すごいロマンを期待してるぜぇ!!」

 

「えぇえええええええええええええええええええ!?」

 

 こうしてロマン男による善意100%の無茶ぶりが始まったのだった。




次回:待望?のエアリアル魔改造Part2

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