アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男   作:カサノリ

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最初にこの作品らしさを会得したのが、第一次回だったので、今回は書いてて楽しかったですね。次は第三次Ωといきたい。


39. 第二次エアリアル改造計画

 ことの始まりは、数日前。

 

 スレッタ・マーキュリーは珍しく、思い悩むような表情で、夜の学園を散歩していた。原因はその日に行われた母親からの告白。

 

『ごめんなさいね、エアリアルはガンダムなの』

 

 二人っきりの日常会話の途中で言われたその言葉を、スレッタは最初理解できなかった。

 

 前にスレッタが母に『エアリアルはガンダムじゃないよね?』と尋ねたときには、スレッタの言葉を一笑に付した母親が、一転してガンダムだと認めたのだから。

 

 エアリアルは禁忌の兵器であると。

 

 そうして茫然としたスレッタへ、プロスペラ・マーキュリーは説明をした。

 

 安全なガンダムを開発できたけれども、お披露目することができなかったこと。エアリアルは安全だと知ってもらうために、スレッタのお供として学園に送ったこと。これからもエアリアルを活躍させて、みんなを安心させてほしいということ。

 

 母が違法にエアリアルを作っていたり、それで良からぬことを企んでいたら、という最悪と比べれば、それは確かにスレッタにとって安心できる理由。なにより、説明するプロスペラの姿は、スレッタが知る"優しい"母親と差異はない。

 

 だからスレッタは笑顔でその謝罪を受け入れられた……はずだったのだが。

 

「はぁ……。どうして、最初から教えてくれなかったんだろ」

 

 どこかもやもやした気持ちが、スレッタを苛んでいた。

 

 納得はできているはずなのに、心の奥に小骨が刺さっているような感覚だ。

 

 それに加えてエアリアルの相談をしたミオリネからも、

 

『ガンダムを研究するための新会社を立てたいの。できれば、スレッタとエアリアルにも協力してほしい。この会社が成功してガンダムの有用性と安全性が認められれば、エアリアルもアンタも、何の不安もなく一緒にいられる

 ……でも、それはあくまで私の都合。この話に乗るかは、あんた自身が決めて』

 

 と突然、新会社なんていう大きな提案をされてしまったのだ。

 

 あまり深く考えることが苦手なスレッタにとっては、頭がパンクするほどの情報量である。

 

(私は、どうしたらいいんだろう……)

 

 スレッタは分からないなりに考える。

 

 自分の周りでなにか大きなことが起こっている。それくらいは分かる。だけど、その大きなことに自分はちゃんと関われていない。ただただ流されているだけという気持ちもするのだ。

 

「やっぱり、私がまだまだだからなのかな……」

 

 この間の選抜戦でも、チーム戦に慣れていないことで負けてしまったし、勉強も頑張ってはいるけれど、そんなに成績は良くない。

 

 自分には足りないものが多すぎると、最近は感じることが多いのだ。

 

 だがスレッタも、そんな状況で何もかも放っておくような弱い人間ではない。進めば二つ、なのだから。だから、まずは……

 

「もっと、つよくなりたいな……」

 

「……その欲望、解放しろ」

 

「ひゃああああああああああああああ!?」

 

 ぼそっとつぶやいた願望に対して、後ろから聞こえてきた怪しい声。

 

 スレッタが悲鳴と共に飛び跳ねると、後ろには、

 

「せ、せんぱい!?」

 

「やっ♪ こんばんは、スレッタさん!」

 

 なんて笑顔のロマン男が立っていた。

 

 そして彼はもっと笑顔を深くしながら言うのだ。

 

「悩みがあるなら、相談してみない?」

 

 ミオリネがいたなら『やめておきなさい!』というほどの、悪魔のような純粋な笑顔。

 

 そして一部始終を聞いた妖怪の提案により、エアリアル改造計画が再び立ち上がったのだった。

 

 

 

 機動戦士ガンダム 水星の魔女

 アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男

 

 

 

「うーん……」

 

 そして現在、ニカ・ナナウラはロングロンド寮の整備室で大量の書類に埋もれながら頭を悩ませていた。それらの書類は過去にロングロンド社で行われたMSコンペの資料であったり、他社のMSのコンセプトなどをまとめたもの。

 

 つまりはエアリアルを改造するにあたっての参考資料というわけだ。この時代はタブレットを使えば何でも情報を収集できるが、大量の情報を総ざらいするにはまだまだ紙が有用。なので、地球時代と異なり贅沢に使えるようになった紙に印刷して、ニカは自分のプレゼン内容を考えていた。

 

『エアリアルをもっと強化すること』

 

 それがニカに与えられたテーマ。

 

 期間は一週間だが、なにも本当に装備の製造まで行えというわけではない。

 

 ニカが考えるのはあくまで、強化のコンセプト。

 

 自分が考える理想のエアリアルを表現して見せろと言うわけだ。

 

 だがそれはとても漠然的で、おおざっぱなオーダーだ。

 

「強くするって言っても、火力を上げればいいのか、機動力を上げればいいのか……。もしかしたら、戦う以外の方向性かもしれないし……」

 

 一応のヒントとして『精一杯ロマンを表現して』とはロマン男から言われているが、そもそもロマンという考え方が一人一人違うので、ヒントになっていない。

 

 学業の合間を縫っては依頼を果たそうと頭を悩ませているのだが、まだまだ答えの片鱗もつかめない状態でニカは悩んでいる。

 

「そもそも、なんで私に任せたんだろ……?」

 

 入社試験でもなんでもないから、気楽にやっていいよとは社長からも他の技術者の先輩からも言われているが、じゃあなぜ自分なのだろう。

 

 だって、対象はあのエアリアル。

 

 体育祭でも大活躍してニカも憧れた不思議で美しいモビルスーツだ。仮に自分の案が採用されたとしたら、このアド・ステラのMS業界に少なからず反響が出るだろうし、気楽にやりたくてもできるわけがない。しかも実はガンダムでしたなんて、機密情報まであっけらかんと言われてしまった。

 

 それにあそこまで完成された機体に手を入れるということ自体、難しい課題だ。

 

(エアリアルの特徴は、攻防一体のビット……)

 

 強力なバリアを展開でき、機動力にも変換でき、さらには全方位から火力も担保できると、いたせりつくせりな欲張り兵装。

 

 しいて欠点を上げるとすれば、全体的に最高レベルでまとまっているので、突出したものがないことくらい。大火砲や、他を置き去りにする機動力、特殊な戦術用途にも対応はしていない。

 

「でも、どこかを特化させようとしたら、せっかくバランスよくまとまっているところを壊しちゃうよね」

 

 エアリアルを美しいと思っているニカにとって、それはとても嫌なこと。例えば国宝のような匠の絵に、一本でも余計な線を入れるようなもので、文字通りの蛇足だ。

 

 だが課題は課題。

 

 拾ってもらった恩もあるし、これから新しい人生を歩んでいくのなら、挑んでいかなければいけないことでもある。

 

「なにか……、なにかヒント……!」

 

 机に突っ伏しながら頭を抱えて、ニカは悶える。

 

 昨日も同じようにして一日を無駄にした。

 

 これ以上、無為に時間を過ごすことはできない。

 

 そう思っていたところに、

 

「あれ? あなたは……」

 

「……え?」

 

「やっぱり、ナナウラさん……だよね?」

 

 駆けられた声に振り向くと、ニカは少しだけ緊張で体をこわばらせた。なぜなら、彼女の視線の先にいたのは、"あの時"地球寮で彼と親しそうにしていた少女、アリヤだったのだから。

 

 

 

「もう学園の生活には慣れたかな?」

 

「……ま、まだ教わってるばかりで、あんまり」

 

「そっか……、まあ、君の場合はアスムのせいでいろいろ憶測とかもついて回ってるし、大変だろうね……」

 

「……そんなに変な目では見られてないですけど。時々、あたたかい目で見られるというか」

 

 悪意はないけど、ちょっと胡散臭い目というか。某青いネコ型ロボがやっているような目だ。

 

 ニカがそう言うと、アリヤはなんともコメントしづらそうな顔で苦笑した。

 

(はぁ……、やっぱり気をつかわれてるよね)

 

 ニカは内心でため息をつく。

 

 自分から蒔いた種ではあるが、アリヤはニカが酷い暴言を吐いた場所に居合わせた人だ。しかも、同じ地球出身者で、ニカのバックボーンもある程度は推測できているはず。

 

 こうやって彼女の方から話題を振ってくれている状況のほうが不思議で、本来なら罵詈雑言を投げられてもおかしくない。逆境の中でもまっとうに生きているアーシアンにとっては、ニカがいたテロリストのような集団は、余計に自分たちの立場を危うくする邪魔者でしかないのだから。

 

 それに……

 

(きっと、この人も社長のことが……)

 

 ロマン男自身がアリヤのことをとても親し気に語っていたのもあるが、アリヤが彼の名前を出すたびに、どこか温かい感情のようなものが伝わってくる。

 

 そんな彼女があの言葉を聞いてどう思ったかなんて、考えるまでもなく、それゆえにニカはアリヤに対して肩身の狭い思いを感じていた。

 

 だが、

 

「気にしなくていいよ」

 

 アリヤはそう言って微笑んだ。

 

「……え?」

 

「君の顔を見ていたら、それくらいわかる。あの時のことを後悔しているんだろう?」

 

「…………それ、は」

 

「私だって、あの時は自分でも説明できない感情になったし、言った君自身が感じたことはもっと大きかったと思う」

 

「でも、言ってしまった事実は変わりありません。それに、私がやってきたことも……」

 

「うーん、そうだね……。私もその辺は詳しくは知らないし、踏み込むべきじゃないと思うけれど。

 でも、他でもないアイツが大丈夫だっていうなら、それでいいんじゃないかな? アイツはあれで人を見る目もあるしね」

 

 だから君だって悪い人間じゃないはずだ、と。

 

 そう言われたニカは、嬉しいような、でも悲しいような気持ちになる。

 

 そう言って自分のことを認めてくれる人がいるのは嬉しい、だけれど、そんなことを言ってもらうほどのことを自分ができるとは思えずにいるからだ。

 

 思い出すのは悪夢のこと。それに事実として自分はお荷物で疫病神以外の何者でもないということ。

 

 今になって思えば、仮にシャディク・ゼネリとの協約に従って学園にニカが潜入したとして、地球寮に入ってアリヤともよい先輩後輩になれたとして、でも最後には裏切り者として、その心を大きく傷つけることになっていただろう。

 

 あの時は学園に行けなくなったという気持ちが先行して悲しみに暮れていたが、どちらにせよ、未来は明るくはなかったかもしれない。

 

 すべてがバレているうえにやり直しの機会をもらえたことはとても幸運だけど、その幸運に見合ったことをこの世界に返せるのだろうか。どんな選択を選んでも、ニカ・ナナウラは他の人を傷つけるだけじゃないのか、と。そう思わずにはいられない自分がいる。

 

 するとそんな気持ちが表に出ていたのだろうか、アリヤはニカの肩に手を添えながら言う。

 

「何かを返したいなら、それこそアイツが一番喜ぶことを返してあげたらどうかな?」

 

「社長が一番、よろこぶこと?」

 

「分かっているだろ? ロマンだよ」

 

「そ、そうですけど。でも、どうやって……?」

 

「あはは……そ、そこまでは私も分からないけど。うん、きっと君がなんの悩みもなく、悲しみもなく、好きなことを好きって言えるなら、それがロマンなんじゃないかな?

 ……私もメカニックの端くれだからわかるけど、例えば、自分の"好き"をMSで表現したりとかね」

 

 つまりは、

 

「何にも気にせず、欲張ればいいんだよ」

 

 アリヤが思うに、この学園で一番の欲張り者はあのロマン男だ。いつのまにやら自分好みに決闘の色を変えてしまうは、差別を少なくしてしまうわ、体育祭を一大イベントにしてしまうわ。いい意味でわがままでマイペース。

 

 だから、そんな彼についていきたいなら、ニカ自身だってわがままにやってしまえばいい。

 

「わが、まま……」

 

「実は私だってわがままでね……、今日はロングロンド社のインターンに備えて、無理言って設備を見せてもらったりしてたんだ。そうしたら、社員の人たちも"ロマンだ"って言って二つ返事で了承してくれてね。

 ここは、そういうわがままが許されるし歓迎される場所なんだと思うよ?」

 

「ふふ、そうですね……」

 

 確かにそれはニカにも腑に落ちた。

 

 本社で出会った人たちは、みんないい意味で子供っぽくて、自分の夢や欲望を押し通すのに必死だった。ニカ自身もその熱量に押されっぱなしだったけれど、そこにテロリズムに走るような暗い感情はなくて、心の底から願いに一生懸命だった。

 

 それが、あの社長が求める社員像で、ニカもそういう資質があると認めてもらえているなら。

 

 ニカは胸の前できゅっと手を握って、力を籠める。

 

「ありがとうございました! えっと……」

 

「アリヤでいいよ。それと数少ないアーシアン同士、これからも何かあったら頼ってくれていいし、敬語にしなくてもいい。うちの寮は、割とそこらへんおおらかだから」

 

「は、はい……! えっと、よろしく、ね、アリヤ……」

 

「こちらこそ、ニカ。それじゃあ、私はここで失礼しようかな。

 キミも考えがまとまったみたいだし、集中が必要だろ? じゃあ、お仕事がんばって」

 

「……うん」

 

 手を振るアリヤに、ニカも控えめに手を振り返して。それで再び一人になった部屋で、ニカは考える。

 

「……わがままに、好きなことを」

 

 自分がこのエアリアルにどうなってほしいか、そして、そのMSという存在から世界をどう変えたいか。

 

 それを本当に思い描いていいのなら、実現していいのなら。

 

「私がやりたいことは……」

 

 ニカは白紙のキャンバスに、望む未来を描き始めた。

 

 

 

 そして約束の一週間後、ニカはロングロンド社の格納庫にいた。

 

 今日だけ運び込まれたエアリアルと、その足元に設置された巨大なスクリーン。目の前にはでっかく"審査委員長"と書かれた名札を付けているロマン男に、作業服姿のロングロンド社社員たち。さらにロマン男の隣には、なんだかドキドキと緊張しているようなスレッタが背筋を伸ばしていた。

 

 ニカも初めてのプレゼンという機会に心臓が飛び出しそうなほどの緊張を感じているが、それでも恐怖はない。少なくとも自分にできるだけのことは考えてきたのだから。

 

 そんなニカを見て、ロマン男は笑顔で言う。

 

「良い顔をしてるね、ナナウラさん! それじゃあ、君のロマンは形になったのかな?」

 

「……はい、私の理想のエアリアルができました」

 

 静かに、だけれど堂々と言うニカに、社員からも『おぉ……』と感心したような声が漏れる。次いで『よくあの社長の無茶ぶりに……!』『彼女もまた強者……!』『ふっ……面白くなってきたな』などなどと妙なオーラがあふれ出しているが、今のニカは気にしない。

 

 そしてニカの答えに満足げに頷きを返したロマン男は、手を広げて宣言するのだ。

 

「では……

 ロマンはすべてに優先する……。Vivere est militare……、さあ己の望みを告げよ!」

 

 そんな彼の前でニカは大きく深呼吸をして……

 

「私が考えるエアリアルの強化案、最高のエアリアル……! それは……!!」

 

 

 

「ぜんぶ乗せ、ですっ!!!!」

 

 

 

「「「おぉおおおおおおお!?」」」

 

 大声で言い切ったニカに、社員一同からどよめきが起こる。

 

「ぜんぶのせ、だと……!?」

 

「まだ七話になっていないのに!?」

 

「ふっ……だが、ただのぜんぶ乗せではなぁ……!!」

 

 などなど、やっぱり別の時空に耳と目が接続しているんじゃないかという声も混じっているが、少なくとも一声目で度肝を抜くことには成功した。

 

 そんなニカに笑みを深めるロマン男は、だがしかし、ラスボスエミュレートをしながら言うのだ。

 

「ふふふ……! さすがはナナウラさん、俺が見込んだロマンある少女!! だが、まだぜんぶ乗せの詳細を聞いてはいないぞ?」

 

「分かってます。ぜんぶ乗せにもいろいろありますから」

 

 例えば第一次改造計画で提唱されたフルアーマー案も"ぜんぶ乗せ"には変わりない。そしてどんな兵装を乗せるかによって機体のコンセプトは大きく変わる。

 

 では、ニカが求めるぜんぶ乗せとは、なにを意味するのか。

 

「実は、案を考える前にスレッタさんに聞いてきたんです。あなたはエアリアルにどんなモビルスーツになってほしいかって。

 だって、エアリアルはただのMSじゃない。スレッタさんの大切な家族ですから!」

 

「なるほど……」

 

「それで、スレッタさんの出た選抜戦の映像もこれまでの決闘も見せてもらって、決めました!」

 

 ニカはそう言って、スクリーンに映像を映す。

 

「スレッタさんが求める力……!

 それは大切な家族も傷つけない、そして彼女に期待してくれる人を裏切らない、最高の家族!」

 

 そんな一つのMSに求めるには欲張りすぎる願いを実現するには、これしかない。

 

(私にとっても同じ。小さいころに、本当の家族と一緒にいた時に見た昔のロボットみたいに。

 悲しみを、憎しみの連鎖を断ち切ってくれる頼れるヒーロー……!)

 

 

 

「ガンダムエアリアル・セイヴァー」

 

 

 

 救世主の名前を冠するモビルスーツを、ニカは高らかに宣言した。

 

 同時にモニターに映るエアリアルのCG、しかし、それは当然ながら元のエアリアルではない。もっと言えば、まともなMSの姿をしていない。

 

「この機体は、エアリアルをコアユニットとして、全身を包むセイヴァーユニットがあらゆる状況でもスレッタさんの願いを叶えていきます!」

 

 言うなれば、それは小型の戦艦のような姿。

 

 エアリアルを正面に置き、背後には巨大なブースター兼ミサイルなどの発射機構を有したフライングユニット。

 

 両手にはこれまた巨大な複合アームが取り付けられて、巨大なビームサーベルにもなれば、ライフルとしての運用もできる。

 

 両肩部には長大な砲門が備え付けられ、脚部にはこれまた巨大な推進器+拡散ロケット砲。

 

 別次元の人々が見れば、流れ星やら紫のラン科の花やら、ディープなストライカーな名前で呼びそうなほどにごつくてデカくて、てんこ盛りな欲張りセットになっていた。

 

 しかし、それだけでは終わらない。

 

「だが、ガンビットはどうしたんだ! ガンビットがなければエアリアルとは言えないぞ?」

 

 整備班の親方が声を張り上げる。

 

 ただ自分好みの武装を乗せるだけならば他のMSに乗せても同じこと。エアリアルだからこその理由がなければ片手落ちだと。

 

 そしてそれを問われたニカは、

 

「……私が、このエアリアルに焦がれつづけた私が、それを考えなかったと?」

 

「なん、だと……?」

 

 緊張に汗をかきながらも、不敵な笑いで言うのだ。

 

「見えませんか? これが、ガンビットなんです!」

 

 宣言した瞬間、画面のCGが動き出す。

 

 フライトユニットのブースター部はそのままに、両腕の長大な複合アームや、脚部のロケット砲、ミサイルポッドや砲門が一人でに分裂していく。

 

 そう、それはまさに個々が意思を持っているように。

 

「ま、まさかぁ! それぞれがガンビットになっているのか!?」

 

「はい! エアリアルの意思をもったように動かせるガンビット! それを各ユニットのコアとして使用することで、各部の独立機動を可能にします!」

 

 そうして分離形態となったセイヴァーユニットは、それぞれの兵装の特徴を生かして戦場を駆け巡る。

 

 まさにそれは、エアリアルという名の群体。一個一個が通常のMSに匹敵するほどの性能をもったビットによる軍団だった。

 

 それを見て戦慄する社員一同。なによりロマン男はニカの吹っ切れっぷりに涙すら浮かばせて頷きを返す。

 

 彼にはさらにその先のビジョンが見えていた。

 

「すばらしい、すばらしいよ、ナナウラさん……! いや、ニカ!!

 俺には刻が見える! この次のスライドで、このエアリアルがどうなるかが見える!!」

 

「はいっ……! エアリアルは家族、エアリアルは友達! そして家族は助け合い、時にばらばらになっても引き合うもの!

 そして、強敵相手にはもう一度一致団結して戦うっ!!」

 

 つまりは、

 

 

 

「合体ですっ!!」

 

 

 

「「「うぉおおおおおおおおおおおおお!?」」」

 

 会場から雄たけびが迸る。

 

 初期は巡行形態として戦艦のようになっていたセイヴァーユニット。

 

 分離独立して各個がMS級の活躍をしたら、最後にエアリアルに大集合し、腕に、足に兵装がくっついていくのだ。それはビットオンモードの発展形にして、ニカが言ったてんこ盛りの真の姿。

 

 全身をくまなく装甲で覆われた、まさしく無敵の救世主。

 

 パーフェクトエアリアル!

 

「これが、私のロマンですっ!!!!」

 

 そして最後にバン、と息を荒げながらモニターを叩き、ニカのプレゼンは終了した。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 ニカは大粒の汗をこぼしながら息を吐く。

 

 もうこれ以上の大声なんて出せないほどに出し切った。予算も常識も度外視でやりたいことをプレゼンに詰め切った。

 

 そんなこと、地球では許されなかったのに、自分はやって見せることができた。

 

 思わず笑いだしてしまうほどにテンションが高ぶって、そしてそんなニカを。

 

 パチ、パチ……

 

「…………え?」

 

 パチパチパチパチ!!!!

 

「みな、さん……!」

 

 ウォオオオオオオ!!!!

 

 最後は会場が震えるほどに、拍手と歓喜の叫びが空間を満たした。

 

 社員たちは全員が涙を流しているし、スレッタも社員たちのテンションに呑まれたのか、涙を浮かべてスタンディングオベーションをしている。そして、社長は涙を流したまま後光が差したように金色に輝いている。

 

 もはやニカに対する評価など、語るまでもない。

 

 誰かが言う。

 

「おめでとう」

 

「おめでとう」

 

「めでたいなぁ」

 

「おめでとさん」

 

「おめでとう」

 

「おめでとう!」

 

 口々に放たれるそれは、ニカへの歓迎の言葉。

 

 エアリアルにありがとう。

 

 悲しみにさようなら。

 

 そしてすべてのロマンに、おめでとう。

 

「みんな……! ぐすっ、ありがとう、ございます……!!」

 

 受け入れてくれた全員に、ニカは涙を流しながら頭を下げる。

 

 もう、きっと悪夢に悩まされることもないだろう。ニカには帰ってくる場所ができた。受け入れてくれる世界ができた。こんなに嬉しいことはない。

 

 そんなニカをテンション上がったロマン男が抱擁して、また学内記者からあることないこと書かれそうなことをしつつ、最後は社長らしく締めるのだ。

 

「ようこそ、ロマンの世界へ……!」

 

「歓迎しよう、盛大にな」

 

 こうして第二次エアリアル改造計画は完了を迎えた。

 

 生まれ変わったエアリアルは、今後、アド・ステラ世界を照らす希望の光になり、その名を歴史の残すことに……

 

 

 

「却下っ!!」

 

 

 

「「え……?」」

 

 とはならず、ガンダム買い取り予定の女帝によってバッサリと切り捨てられてしまった。

 

 ニカとロマン男を前に、青筋を立てたミオリネは言う。

 

「え? じゃないわよ、『え?』じゃ!

 こんなゴテゴテに最新技術開発もしないといけない改造案なんて、予算がいくらあっても足りないじゃない! 却下っ!」

 

「いやぁ、ミオリネ? そこはほら、なんとかかんとか……」

 

「なるわけないでしょ!? 何個の国の国家予算をつぎ込むつもりよ!? 私はちゃんとガンダムで会社成功させるつもりなのに、こんな負債を抱えられるわけないでしょ!? アンタバカぁ!?」

 

 とロマン男の必死の説得も取り付く島もない。だが妥当である。

 

 そして、そんな至極まっとうな意見によりエアリアル改造計画は再び凍結が決定。

 

 提唱者であったニカはさぞ落ち込むかと思われたが……

 

「大丈夫です、社長」

 

「ニカ……!」

 

「確かに現実的じゃないかもしれない。だけど私はちゃんと夢を示すことができました。ロマンを現実にしようとできました。

 だから、これからです。これからもっと頑張って、いつか本当にしてみせます!」

 

「ぐすっ……。ニカ、立派になってぇ……!」

 

 その成長ぶりに涙ぐむロマン男。

 

 だが次の瞬間、

 

「それに……!」

 

「……え?」

 

 ドゴン、と目の前に積み上げられた書類の束に目を丸くすることになる。

 

「に、ニカさん……? これは……?」

 

「エアリアルの改造プラン、どんどん考えてきました♪ いままで我慢してきた分、もう遠慮しないでおこうって! これも社長のおかげです!」

 

 ちらりと書類を見ると、そこにはツインドライブやら、精神感応波やら、ナノマシンやらこれでもかとロマンと希望を積み重ねたようなものがてんこ盛り。

 

 そしてそんなものを見せられたロマン男は感涙しながらニカの手を取るのだ。

 

 

 

 

「……ニカ。キミって最高にロマンチストだなっ!」

 

「ずっとついていきます、社長……!!」

 

 

 

 

「だから資金がないって言ってるでしょ!? このロマンバカども!?」

 

 こうして封印された提案書の中から、世界を変えるほどの発明が生まれたとか、生まれなかったとか。

 

 それは後世の人間にしかわからないが、数日後にニカはテンション高い間に行ってしまったあれこれを思い出して、悪夢とは別に羞恥で悶えることになるのだった。




デンドロビウムってロマンですよね。

実は0083が初ガンダムだったりしました。
いつかはHGデンドロビウムつくってみたい。



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