アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男 作:カサノリ
「いいかぁ! 貴様らがモビルスーツを動かすんじゃない! モビルスーツが貴様らを動かすのだ! 一にロマン、二にロマン、三四もロマンで、五もロマン! その身はスパロボの理想を体現するためだけにある!」
『ひぃ……! ひぃ……!』
『こんな特訓、意味あんのかよぉ……!!』
「はははは! メシ食って映画観て寝るッ! 男の鍛錬は、そいつで十分よッ!!
つまり……意味がないっ!!」
『『じゃあ止めろーーーー!!』』
アスティカシア学園の演習場にむなしい悲鳴が響き渡る。
悲鳴を上げるのは慣れないモビルスーツ、量産型ヴィクトリオンαとβに乗ったオジェロとヌーノであり、そしてそんな二人に向かってあほみたいな激を飛ばすのはアスム・ロンドであった。
その手には私物の竹刀を握り、なぜか『鬼コーチ』と背中に書かれたジャージを肩にかけ、目にはグラサンをしている。
そんなロマン男に振り回されながらオジェロたちは、MS演習場を岩を担ぎながらぐるぐると走らされていた。
そしてさらに離れたところでは、
「……あのぉ、ミオリネさん? あれって何をやってるんでしょう?」
「いつも通りバカの考えることをまじめに受け取ったらだめよ、バカなんだから」
「ま、まあ、機体に慣れるという理由はあるから……」
「あれでモノになると思う?」
「……たしかに」
ミオリネが呆れたように言い、アリヤが取りなそうとするがその言葉にも説得力がなかった。
哀れな生贄である男子二人が特訓を始めて早二時間ばかり、なんとかヴィクトリオンを動かせるようにはなっているが、デミトレよりははるかに難易度が高い機体なので、かろうじて走らせることはできるという現状。
「……控えめに言って、やばいわね」
開業を控えた株式会社ガンダムに、早くも解散の危機が迫っていた。
機動戦士ガンダム 水星の魔女
アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男
ことの発端は、シャディク・ゼネリによる株式会社ガンダムへの宣戦布告。
グラスレーの権力を使った根回しの結果、学生起業規則が改定されようとしており、それが通ればミオリネ達の起業は泡と消える。なのでそれを解除したければシャディクと決闘しろというのが向こうの要求だったのだが……
「シャディク・ゼネリからの要求は変則的なチーム戦です。参加人数は合計六人まで、三回戦行われる決闘のうち、一人一回まで出場可能。ただし、パイロットをどの戦いに何人を投入するかは私たちが決めて良いことになっています」
ニカがタブレットを操作しながら、隣に立つ鬼コーチスタイルのアスムへと言う。
それは学園の決闘の中でもかなり特殊な方式だ。
たとえば一回戦に六人全員を投入することもできるが、そこで勝ったとしても次の二、三回戦には出場させることができず不戦敗。その場合は二勝をしたグラスレーが勝利となる。
ではバランスよく二人ずつを投入するという手が最善に思われるが、それにはグラスレーの有するパイロット層の厚さが立ちはだかる。
「サビーナたちも学園で有数のパイロットだし、チーム戦においてはほぼ無敗だからなぁ……。俺でも二人がかりで来られたらきついって」
「……これってつまり、相手はエアリアルに勝てなくても、勝利できるっていうことですよね?」
いくらシャディクやグラスレー寮の選りすぐりでも、エアリアル相手に勝つのは厳しい。
それは客観的な事実だ。事実としてあの学年選抜戦でも、シャディクは作戦勝ちこそしたものの一対一の状況では追い詰められていた。
なので一勝は株式会社ガンダムが取れる公算が高い……のだが、仮にエアリアルが勝っても、残る二戦全部に負ければその勝利も意味がないものになる。起業は取りやめの上にエアリアルは奪われ、ホルダーもシャディクのもの。
ならばもう一勝すればよいのだが……
「俺とエランはグラスレー女子にも互角には戦える。けど、残り三人は地球寮から出さなくちゃいけない。チュチュちゃんはまともだけど実力が秀でているわけじゃないし……残り二人は素人の付け焼刃だ」
アスムの見立てでは、仮に地球寮三人とガールズ一人が戦っても、一瞬で蹴散らされてしまうだろう。それだけの機体と技能の差が彼らにはある。そうなった場合、アスムたちは数的不利な状況で戦うことになってしまう。
明らかにミオリネ達に不利な条件。だが、既に理事会に根回しされて可決直前という状態の中なので、その不利な条件を飲まなければいけないのが現実だ。
そしてニカはタブレットをぎゅっとつかみながら、シャディクへの憤りを口にする。
「やっぱり、こんなの卑怯ですよ……! 決闘だっていうなら、男らしく一対一で向かってくればいいじゃないですか!」
「それだけアイツも勝ちを狙ってるんだろなぁ」
「っ、社長のことも裏切って、だまし討ちして……! やっぱり、あの人は……!!」
「おっと、それ以上は言っちゃだめだぞ?」
怒りに顔を歪めるニカに、アスムはそっと人差し指をたてて、しーっとポーズをする。その顔にニカは思わず目を見開いて、黙る。
傍から見れば理不尽な状況だというのに、ロマン男はどこか楽しそうにも見えたからだ。
「俺もミオリネも分かってたよ。アイツが勝つと決めたのなら、どんな手を使ってでも有利な状況を作るって。だからこれは卑怯じゃない。むしろアイツが全力で向かってきてる証拠でもある」
「……でも、このままじゃ、社長たちが」
「そこはそれ♪ どんな状況でも勝ちきれないなら、俺達が未熟だったってだけさ。
それに……こっちの方がロマンあるだろ?」
そう言って、アスム・ロンドは歯をむき出しにして笑う。
「友情・努力・勝利で、策謀を打ち破るっていうのはさ♪」
それは、仲の良い友人と遊んでいるような、からりとした笑顔だった。
一方で、決闘を申し込んだグラスレー寮でも、決闘の準備が進められていた。
「以上が株式会社ガンダムが取るだろう行動と、それに対してシャディクがまとめた戦略だ。各自のタブレットに送るから、よく目を通しておくように」
サビーナの号令に対して、メイジー達がうなずきながらタブレットを覗き込み、そこに書かれた作戦行動を見た途端、全員が頭を押さえてうめき声をあげる。
「うわー……。シャディク、マジじゃん……」
「あはは……ちょっと、未来予知でもしてるのかってくらいに細かいね……」
「あ、あの、特に一回戦だけど……ほんとに、こんなことしてくると思うの?」
イリーシャがおずおずと手を上げながら、相手の行動予想として書かれている突拍子もない内容について質問する。一見するとその内容は馬鹿馬鹿しいと一笑に付すものだったが、それでも書かれている情報が細かすぎて空想と言うには具体的すぎた。
そしてそれに対して、エナオが
「やるわよ、ロマン君なら確実に」
迷いのない目で頷く。サビーナやシャディクほどに親交は深くないが、エナオも一学年からずっと妖怪ロマン男を見てきた同級生。その彼女からすればむしろやらない理由がなかった。
二年生組はその断言に苦笑いしつつ、そこまでロマン男を理解しながらも敵対することを選んだシャディクの心中を図ろうとする。
「シャディクの決定なら、もちろん従うけど……。これってサリウス代表の命令?」
「違うわよ。代表の意図にも沿っているとは思うけれど、あくまでシャディクが下した結論」
「あの二人と完全にバチバチやり合うのが?」
「そうだ。シャディクはもう腹をくくっている」
「別に文句があるってわけじゃないけど……」
彼女たちは元々、シャディクに同調してついていくと決めた身。シャディクが正しいと信じるなら迷いなく行動することもできるのだが、それでもこの敵対は彼女たちからも予想外だったし、奥歯に引っかかるようなものを感じてしまう。
「水星ちゃん、せっかく仲良くなれたのになぁ……」
「まあまあ。別に水星ちゃんと喧嘩したわけじゃないし、あとで仲直りしようよ」
「っていうか、ミオリネとロマン先輩の方が、シャディクとギスるんじゃないの? アタシ、いやなんだけど。シャディクがあの時みたいにグズグズ情けないこと言い出すのは」
「大丈夫よ、迷いがないことはその資料を見ても分かるでしょ?」
「でも、エナオちゃん、サビーナちゃん……」
なおも躊躇いの表情を浮かべるイリーシャへと、サビーナは静かに言う。
「話すことは以上だ。そして私たちがやることも変わらない。シャディクの目的のために、勝利をつかむ……そうだろう?」
「う、うん……」
そのサビーナの顔は、いつも通り感情を読ませようとしない冷静なものだったが……レネだけは心の底から不快そうな顔をしてサビーナをにらみつけていた。
そして、その場が解散となってすぐに。
「ちょっと待ってよ、サビーナ」
「……レネか。言いたいことがあるなら早くしろ、私も暇じゃない」
感情なく呟くサビーナへ、ぶちっと堪忍袋の緒が切れたレネ。そしてサビーナが何か反応するよりも早く、その肩を掴むと、至近距離で顔をにらみつけながら吐き捨てた。
「アンタ、いつまで我慢してるわけ?!」
「……なんのことだ」
「とぼけてんじゃないわよ。……サリウス代表から言われたんでしょ?」
「ロマン先輩をおとせって」
その言葉に、サビーナの顔がわずかにしかめられる。
何も知らない他人からすればその変化は分かりにくいものだが、レネにはそれだけで内心が分かった。日ごろから対立ばかりしている二人だが、長年家族のように過ごしてきた仲間でもあるのだから。
レネは本音かウソか、おどけたように言葉を続ける。
「よかったじゃない♪ 好きな男にハニトラできるなんて。この間のダンスパーティーでも、それで良い雰囲気にもっていけたんでしょ?
あーあ、うらやましい♪ キモイ奴を相手にしろとか言われたら死にたくなるけど、ロマン先輩ならかっこいいし優しいもんね」
同意でも怒りでも、どちらでもいい。
この鉄面皮が少しでも本音を漏らすことを期待したものだったのに、
「くだらない……、私は行くぞ」
サビーナの顔は変わらず、それが却ってレネの反発を招く。
「っ、話はまだ終わってないっての! アタシが聞きたいのは、アンタがなんでそんな陰気な顔してるのかってこと! そりゃ捉え方によったら酷い命令かもしれないけど、逆にチャンスでもあるでしょ!?
ここぞとばかりにロマン先輩に味方して、好感度上げればいいじゃん!」
サリウスの意図がどうであれ、代表直々の至上命令。ならばサビーナには拒否権などはなく、アスム・ロンドとさらに深い仲になることが要求される。
シャディクの今の行動はそこから外れるものだが……それを利用してでも動かなければならない。
そしてレネの言う通りに、その相手が嫌悪するような男ならためらいも生まれるだろうが、レネはサビーナが一年時の"あの決闘"からずっと、アスム・ロンドへ深く懸想していることを知っていた。
本来結ばれるはずのない相手と、"親"公認で結ばれることができるのだ。
こんなところで敵対する策を練っているくらいなら、その情報を手土産に向こうと距離を近づけた方がいいし、シャディクもそれを許容するだろう。それで勝ちを譲ることはないとしても、サビーナ自身の立場をシャディクが慮らないはずがない。
なのにぐだぐだと何をためらっているのか。姉のようでもあり、ライバルでもあるサビーナの情けない様子を見ているのは、レネには我慢ならなかった。
そしてサビーナはといえば、
「サリウス代表にもそう言われたな……」
と自重するように薄く笑みを浮かべた。
脳裏に浮かべるのは、あのパーティー会場でサリウスに淡々と言われたこと。
『お前がアスム・ロンドに対して好意を抱いているのは、私も知っている。だから、それを許可しよう。方法は問わんし、スパイを働けと言うこともない。だが、奴の楔となれ』
『楔、ですか……?』
『ああ、お前もアレの孕んだ危険性は理解しているだろう? 奴には行動をためらわせるものがない。奴にとってはその会社も、友人も、心情さえもすべてが理想を果たすための道具だ。そのどれもを大切と言いながら、平等に目的の下位にしかないのだ。
だからこそ、あれは自分の命が危険だろうと止まることはない。止めるほどの重しが何も残っていないからな。そしていつか必ず、奴はそれで命を落とす』
だからこそ、
『お前が奴の楔となれ。奴という才能をこのまま失うのは惜しい。
……下世話な話ではあるが、よくあることだ。深い仲の者が現れたとき、人は心にブレーキを作ることはな。奴にはそれが必要だ』
もっともその言葉はおそらく真実ではなく、ガンダムへ向かって突き進むアスム・ロンドをけん制する目的もあるだろうし、将来的にアスム・ロンドという人間をグラスレーの発展のために取り込んでしまおうという目的も透けて見える。
だが、
『それがお前の幸福になるのならば……ためらう理由はないだろう?』
それは確かに正論であり、同時に残酷な話でもあった。
だがレネはそれをサビーナにとっての、渡りに船と考えていた。どのみち、一生を会社に縛られている身。それを理由にこれまで距離を縮められない現状からしたら、大手を振って結ばれるのは最上級のあがりなのだから。
なのに、サビーナは態度をはっきりと現さず、むしろ精彩を欠いていくばかり。
レネははっきりと言う。
「いいじゃない、割り切れば。それでロマン先輩とくっついて、一緒に幸せになれば。別に、もうアタシ達も死ぬ覚悟をしたり、誰かを裏切ったり殺さなくてもいい。
シャディクがそうしていいって、言ってくれたじゃない。
なのにいつまでもグズグズと……今のアンタ見てるとイライラすんのよっ!」
見た目だけは気高く装って。
内心では心の底から大事に思う相手にも、怖がるように近づけない。
まるで一時期のミオリネに対するシャディク、いや、それ以上にひどくもどかしい。
サビーナの強さを理解しているレネだからこそ、その情けない姿には我慢ならなかった。
だけれどサビーナはそのレネの強い視線から目をそらすと、年頃の少女のように小さく呟く。
「……たとえどんな結末が待っていようと、私からロングロンドに近づくことはもうない。十分に、大切なものはもらった。
なにより……自分を殺そうとした女と、誰が恋仲になれる?」
それはレネにも寝耳に水な言葉で、
「は……? アンタ、もしかして一年の時の事故って……」
目を見開くレネへと、サビーナは最後に寂しげな笑みを浮かべて言うのだ。
「私の手も体も、とうに血で汚れている。私のような女は、アイツに近づくべきじゃなかったんだ」
そして同じように彼も決闘の準備をしようとしていた。
「やあ、水星ちゃん。少し話、いいかな?」
「シャディクさん……」
地球寮の買い出しに出ていたスレッタへ、タイミングを見計らったようにシャディクが声をかける。時刻は夕方になり、照明はオレンジに染まっている。その中で悠然と歩いてくるシャディクはどこか不思議な圧力を放っているようで、スレッタは気後れしそうになる心に鞭を打って、その顔を直視した。
「私も、シャディクさんに聞きたいことがありました……」
「へえ? いいよ、先に君の話を聞こうか」
「な、なんで、ミオリネさんと先輩に、決闘なんて挑んだんですか?!」
その言葉はスレッタにとって真剣な問いかけだったのだが……シャディクは一瞬ぽかんと口を開けると、こらえきれないようにくすくすと笑った。
「いや、なんでって理由は説明したじゃないか? 俺は二人にガンダムは危険だから手を引いてほしい。そしてグラスレーにとってエアリアルは有益な研究材料だから奪いたいし、ミオリネのホルダーの座もほしい。すべて、本当のことさ」
「う、嘘です……! そんなの信じません! だって、だって……! シャディクさんはミオリネさんたちの大切な友達じゃないですか!?」
ロマン男からシャディクに対する気安さはそれはもう一目瞭然であるし、ミオリネも口ではなんだかんだと言いながらも隠し切れない親愛の情がにじむときがある。何よりシャディク自身が、彼らと接しているときは自然体で、お互いの絆を大事にしているのだとスレッタにだってわかる。
そんな三人が敵味方に分かれて戦うなんて、と。
しかしシャディクは落ち着いた顔で、スレッタへと問いかけるのだ。
「逆に聞くけれど……なんで、友達相手で決闘しちゃダメなんだい?」
「……え? だ、だって、そんなの悪いことで……」
「ああ、つまり君にとって友達同士で戦うのは悪なんだね? じゃあ、もしお互いに譲れないものがあったとき、大切な仲間が相手だったらいつでも譲歩しろと?」
「そ、そんなことは言ってません! ちゃんと話し合って、どっちがいけないか決めて……」
「いけない? それも逃げたら一つ、進めば二つってことか……なるほど、水星ちゃんは思ったよりも価値観はシンプルなんだね。世の中には悪いことが存在すると思っているんだ。お母さんから教えてもらった言葉と同じで、二択で解決できる問題が多いと思っている」
だが、それをシャディクは否定する。
「でも、自分が『悪い』と思って行動する奴なんて、本当にいるのかな?」
「どういう、ことです?」
「人間なんて、みんな何かしらの正しさをもって行動しているはずだ。たとえ悪事であっても、『生活が苦しかった』や『こうしないと生きていけない』なんて自己正当化しているのがほとんど。現に俺だって、ミオリネ達にやっていることを悪いとは思っていない」
むしろ、と言いながらシャディクはスレッタをまっすぐに見ながら言う。
「君のように、いいことと悪いことを二分している考えの方が怖いと思うな。だって、誰かが君に人殺しが正しいと思わせたら、君は迷いなくそれを実行するということだろう? 正しいんだから。君の中にグレーがないのなら、ね」
「そんなことしません! 私、人殺しなんて……!!」
「本当に? 仮にミオリネたちが殺されそうになっても? 大切なお母さんがみんなを救えと言っても? 確かにそういった状況なら人殺しも許される側面があるけど、その時君は自分の正しさを守るために、ミオリネたちを見捨てて人殺しを拒否できるかい?」
「い、意地悪です……。そんな、あり得ないこと言って……」
「ふっ、確かに。ちょっと言い過ぎたよ。
とにかく、俺は友と戦うことも、一つの正しさだと思っている。そして彼らが俺と戦おうとするのもまた正しさからくる行動だ。結局、戦いなんて正しさのぶつけ合いなんだから。今回はたまたま、それを解決するための方法が決闘というだけさ」
シャディクは迷いなく言い切ると、今度はスレッタに尋ねてくる。
「じゃあ次は俺の番だけど……なんで水星ちゃんは戦うんだい?」
「……え?」
「だって、君は元々巻き込まれただけだ。ホルダーだって、レクリエーションのはずだったのにグエルに勝ってしまったから座が転がり込んできただけ。ミオリネを女性として愛している様子はないし、株式会社ガンダムだってミオリネの発案だ。
……俺には、君がただ惰性で戦っているようにしか見えない。まあ、グエルとのあの一戦だけは、エアリアルの破棄もかかっていたから、ミオリネへの恩は感じているだろうけど」
仮にミオリネとスレッタが、もっと学園で孤立していたら。
親友としてミオリネの剣となり、それを助ける道もあったかもしれない。二人は一蓮托生となって、困難を乗り越え、絆を深めていたかもしれない。
だが、この学園ではミオリネはとうに自立しているし、スレッタの周りには頼りになる先輩も仲間もいて、学園生活は順風満帆という状態だ。
「君にはあるのかい? 世界に波風を起こしてでも、どうしても勝ちたい理由が」
「わ、私は……! でも、株式会社ガンダムはミオリネさんと、みんなの夢で、エアリアルも未来の役に立つかもしれなくて……」
しどろもどろなスレッタに対して、シャディクの意思は明確だ。
「俺にはあるよ? 君とどうしても戦いたい理由が。
どうせいつかは、俺は君に決闘を申し込むはずだったんだ。ミオリネの隣に立つために、あの子の花婿の座を手に入れるために」
「っ……!? じゃ、じゃあやっぱりシャディクさんは……」
「ああ、ミオリネを心から想っている。こればかりはもう嘘はつけないし、アイツが殴ってでも俺のへそ曲がりを変えてくれたからね。それが今回のタイミングだったというだけさ」
だからこそ、その決闘相手としてスレッタに聞きたかったのだと、シャディクは言う。
「俺は人生を賭けてこの決闘に挑む。
だから……君も考えておくといい、君が戦う理由を。誰かの借りものじゃない、自分だけの意思でね」
そしてスレッタは、
「私の戦う理由……」
その言葉に返すことができなかった。