アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男 作:カサノリ
「よっ、マイフレンド♪」
「まったくお前っていうやつは……。いつものことだけど、どうして出待ちなんてしてるんだ」
「そっちの方がかっこいいじゃん♪」
「バカに聞いたのがバカだった。……で、なんの用だい? これから決闘だっていうのに、君たちにケンカをうった当事者に会いに来るなんて」
シャディクはそう言って、壁に寄りかかって決めポーズをしているロマン男へと問いかけた。
周りに誰もいなければ、その一見王子様なルックスで"さま"にはなるのだが、周りに普通に学生たちがいる中でポーズを決めているロマン男は、控えめに言っても不審者でしかない。
ただそれもこの友人らしさだと昔に諦めたシャディクは、いつも通りという調子でアスムへと向かい合っているのだが、そのアスム・ロンドは
「これから楽しい決闘なんだから、ライバルに挨拶くらいするだろ」
とからりとした笑顔で応じた。
「ほんと、底抜けにお人好しだね」
「こういうの嫌いじゃないだろ?」
「ああ、その通りさ。お前には余計な駆け引きなんてしなくていいんだから」
シャディクは苦笑しながら本音を言う。
出会ってからもそうだった。
この男は勝手に警戒して裏を調べまくるシャディクを気にすることなく、シャディクやミオリネの周りで大騒ぎをして振り回して、しまいには気でも狂ったのか夜中に部屋に突入してきて
『シャディク、腹を割って話そう!』
だとか言い出してくる変人。しかも調べれば調べるほどに、この男は決して愚か者でも、かといって裏があるわけでもないことが分かってしまうのだ。かつてのシャディクにとっては心の底から扱いにくく、けれども彼の疑念と諦観で凝り固まった考えをぐちゃぐちゃに壊してくれる存在でもあった。
そんな彼はやはり、いきなりだまし討ちをして、決闘へと持ち込ませたシャディク・ゼネリを信じ切っているようだ。
ロマン男はシャディクの肩に手を回しながら、『昨日の夕飯なに食べた?』レベルの気安さで話しかけてくる。
「それで、そろそろ本音を教えてくれると嬉しいけど」
「本音って?」
「だからぁ、この決闘の目的だっての。約束しただろ? 俺達の間に隠し事はなしだって」
「もちろん変な隠し事はしないけれど、黙っていることは約束違反じゃないだろ? それに……」
と、シャディクはにやりと笑いながら友人へと言う。
「せっかくお前好みのピンチを用意してやったんだ。ちゃんとロマンで乗り越えてきなよ、アスム・ロンド」
その言葉にロマン男もまた歯をむき出しにして
「言ったな、この野郎」
シャディクの差し出した握りこぶしに、自分の拳を合わせながら笑う。
そんな仲睦まじく見える友人たちのやり取りの裏で、株式会社ガンダムの運命がかかった決闘がもう間もなくに迫っていた。
機動戦士ガンダム 水星の魔女
アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男
「双方、魂の代償をリーブラに……」
決闘委員会のラウンジに、今日は気弱そうな男の子の声が響く。
今回の決闘の立会人はロウジ・チャンテ、彼はずらりと並んだ一同を、ちょっと神経質そうに眺めながら、しかして声は冷静に言う。
「決闘方法は変則の三回戦形式。双方のパイロットは六名までとして、各決闘に誰を出場させるかは直前まで明かしません。先に二勝をした方が、決闘の勝者となります。
場所は第四戦術試験区域、よろしいですか?」
双方合わせて十二名、という大所帯の決闘は異例。
それに加えて、メンバーも錚々たる顔ぶれだ。
グラスレー寮からはグラスレーの御曹司"天才"シャディク・ゼネリに、サビーナ、エナオ、メイジー、イリーシャ、そしてレネと学園のアイドルが勢ぞろい。総合力で競わせるならば、ペイルもジェタークも勝ち目はないと言われるエリート集団でもある。
そして決闘を中継する大会場にはそれぞれの狂気的なファンたちが集まり、既に誰推しかで決闘より早くに別の戦いが開幕間近となっているが……それはあまりに見苦しいので世に出ることはないだろう。
対する株式会社ガンダムからは、現ホルダーのスレッタ・マーキュリー、学園一の有名人にして怪人なアスム・ロンド、"大天使"エラン・ケレス、"ピンクの凶戦士"チュアチュリー、とこれまた有名どころが勢ぞろい。
先日の体育祭でオールスター戦は展開されたばかりだが、その勝者チームである三年が分裂した形にもなっているので、エンタメとしても全校生徒が見逃せない内容となっている。
そんな双方がにらみ合う中、ロウジは続ける。
「シャディク・ゼネリ、あなたはこの決闘になにを賭けますか」
「ガンダムエアリアルの譲渡、そして……そうだな、株式会社ガンダムの所有権も賭けてもらおうか。仮にもデリング総裁から投資をうけた新規事業をただ潰すというのも総裁の面子に泥を塗るだけ、グラスレーのために使わせてもらうよ」
「いきなり条件を増やすっての?」
「そう言うなよ、ミオリネ。こちらが条件を増やすってことは、君たちも俺達への要求を増やしていいということだ。君たちからすればこの決闘はマイナスをゼロにするだけのものだった。でももう一つ条件を付けられるなら、プラスにもできる。これで双方、対等だろ?」
「では株式会社ガンダム代表、ミオリネ・レンブラン。あなたはこの決闘になにを賭けますか?」
その言葉にミオリネは身じろぎしないまま言い切る。
「グラスレーが出した学生起業規則改正案の撤回、そして……シャディク、アンタの身柄よ。今後もこんな邪魔をされたら困るからね。生殺与奪、とまでは言わないけれどグラスレーに対する人質にさせてもらうわ」
などと物騒な内容に、レネやメイジーはシャディクの後ろで「うわー、こっわ」などと呆れた顔をするのだが、シャディクはと言えば「はははは、それはこまるなー」と無駄にさわやかボイスと顔を振りまきながら言うばかり。
そんな真面目なのか真面目じゃないのかロウジには判断がつかない空気感だが、双方の合意はとれた。
「ālea jacta est……決闘を承認します」
小さな手から生み出される軽い音。
それが決闘の合図。
もはや語ることはないとばかりに双方は一斉に背を向けて出ていき……
『スレッタぁ! 助っ人ならこの俺が……!』
「兄さん、落ち着いてくれ……!」
「あのぉ……グエル先輩、その恰好は?」
謎の仮面をかぶった、だけれどもバレバレなグエル・ジェタークが一歩遅く乱入し、セセリアに大爆笑をもたらすのだった。
「さて、一回戦よ。まだお互いの様子見とはいえ、ここでの勝利が全体の勢いに影響するのは間違いないわ」
株式会社ガンダムサイドの作戦室で、社長兼司令官のミオリネの号令が響く。
全校生徒の事前予想として、スレッタの一勝は固い。だが、組み合わせがよくても二勝取れるかは五分五分。全勝なんて奇跡が起こらない限り無理というのがあり、ミオリネにとってもそれは予想と大きく外れていない。
ただ相手はシャディクである。
彼をよく知るミオリネは、おそらくシャディクならばこちらが繰り出す手をすべて予想することも造作もないと考えており、だからこそ、シャディクの予想を裏切る展開と勝利をもたらさなければ勝ちはない。
シャディクが決闘を仕掛けてきたということは、それだけ向こうに勝算があるということ。
(最悪の場合、スレッタ戦に一機も出さずに不戦勝にして、バカとエラン相手にシャディク達が総当たりで来るってのもあり得るわね……)
ロマン男とエラン、そしてシャディクの技量は拮抗している。お互いに得意分野がちょっと違うので相性的な有利不利はあるが、それでも勝利が約束できるとは言い難い。
なので、どんな組み合わせになったとしても、勝利を手繰り寄せることが必要なのだ。
そして一回戦は……
「ってことで、任せたわよ! チュチュ、オジェロ、ヌーノ!」
『『『このメンバーに任せられても、困るんだけど!?』』』
地球寮の三人組が画面の向こうで悲鳴を上げた。
『さてやってまいりました、今学期最大と思われるグラスレーVSミオリネ軍団。実況は毎度おなじみ、わたくしドゥーエ・イスナンが努めます! そして解説はこちら!』
『グエル・ジェタークだ、よろしく頼む』
『はい! スレッタちゃんに贔屓バリバリな解説をしそうなグエル先輩がお越しくださいました♪ ところでグエル先輩、さっきゴミ箱に放り込んでいた仮面みたいなマスク、なんです?」
『んなっ!? う、うるせえ! 黙ってろ!!』
『はい! ということで実況にまいりましょう。今回の会場は第四戦術試験区域、廃墟の街での市街地戦想定です。遮蔽物も多く、スムーズな動きをするには熟練の腕前が必要な戦場ですね』
『そうだな、シャディクやあのバカ、それにエランやスレッタには造作もないだろうが、地球寮のメカニック科たちが即席で対応できる地形じゃねえ』
『ということは、株式会社ガンダムが圧倒的に不利だと?』
『くっ……あと一分、俺がはやく到着できていれば……!』
『なぜか猛烈に悔しそうなグエル先輩は置いておいて、パイロットの入場です! えーっと株式会社ガンダムからは地球寮のバーサーカーことチュチュちゃん! 他二名! そしてグラスレーからは……おおっと、これは!』
実況の驚きの声が響く中、
グラスレー側のハッチから、紫の機体が飛び出してくる。
グラスレー社からシャディク達に提供された最新型。あのドミニコス隊にも正式採用が決まったバリバリに軍用カスタムされた次世代量産機ベギルペンデ。
そしてそれは……たったの一機。
「LP012、イリーシャ・プラノ……いきますっ……!」
成績のわりに気弱な二年生、イリーシャの乗る機体だ。
三対一、という状況にミオリネは舌打ちをする。それは決して勝ち目があるからというものではない、むしろ逆。
「シャディクのやつ、やっぱり読んでたわね……!」
ミオリネもあまり言いたくはないが、地球寮のオジェロとヌーノはパイロットとして期待することなんてできない、もちろんバカお得意の奇策はあるが勝てるかどうかで言えば勝率は一割もないだろう。
だからこその一回戦で、まずは負債をリリースする。あとはシャディク側から二機でも三機でも引き出せれば、負けたとしても敵との戦力差を縮められ、収支としてはプラスとなることを狙っていた。
しかし結果、敵は一人。
(予想していたとはいえ、的確な読みすぎて腹が立つ)
三対一でも、機体差技能差でイリーシャの方が圧倒的に有利。
相手の手札を削ることもできずに勝利だけを与えてしまえば、株式会社ガンダム側が大きく不利に傾く。
なので……
「チュチュ、こうなったら他に方法はないわ。嫌だろうけど、やってちょうだい」
『あーもーっ! しゃあねえなぁ!!』
ミオリネの言葉にチュチュが頭を抱え、けれども最近になってデミトレのコクピット内に増設されたボタンをポチリと押す。
そして……
『な、なんだアレは!?』
『ぜってえあのバカの仕業だろ……』
解説の二人と、それに合わせて大きくざわめく観客席。
『くっ……おれ、こんな形で注目あびたくねぇ……』
『これに懲りたらギャンブルやめろよ』
『うっせーぞ、おめーら! こうなったら地球寮の力を見せてやるんだよっ!』
横に並び立った量産型ヴィクトリオンα、β、そしてチュチュ用にカスタムされた型遅れのデミトレーナー。そのあまりにも勝算がなさそうな姿が、今変わる。
『音声認証必要とか……!』
『あの先輩、やっぱあほだわー』
『『ちょ、超、モビルスーツ合体……!!』』
男子二人の諦めた掛け声をきっかけにヴィクトリオン達のパーツが分離、デミトレーナーの四肢や各部にドッキングしていく。それはまさしく、往年の戦隊ロボやスパロボのような合体に他ならない。
頭部だけはあの愛嬌があるデミトレ顔のまま、増強されたパーツで一回りデカくなり、四肢はごつくなり、背中にはヴィクトリオンの有する出力だけはでかいバーニアが二機分増設されて……
『うらぁああああ! これがあーしらの、スーパーデミトレだぁああああ!!』
チュチュの叫びとともに、背中から爆炎が巻き起こる、謎の巨大MS。
(三人寄れば文殊の知恵、だっけ? ほら三本の矢とかあるし、一本一本弱くても集まれば強くなれる! それが……スパロボの醍醐味だろっ!!)
そう宣言して、いつかやってやろうと量産機に分離合体機能を実装していたロマン男は、この光景に自機のコクピットで静かに涙を流したという。
そしてそんなゲテモノと対峙することになったイリーシャはと言えば……
『ほ、ほんとにシャディクの予想、当たってた……』
と、この変態的な敵の作戦を予想できてしまっていたシャディクのことが、とても心配になるのだった。