アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男 作:カサノリ
あと感想機能が少しおかしい?(記載してくださっていた感想の一部が、見られない不具合)ようです。なるべく返信はしますが、そのような状態であることはご認識いただけると。
「ね、ねぇ、シャディク? シャディクを疑うわけじゃないんだけど……本当にこんな"合体"とかしてくるのかなぁ?」
ちょっと理解できなくて、と決闘の前日にイリーシャはおどおどしながらシャディクに尋ねた。
リーダーとしてシャディクに全面の信頼を置いていることは変わらない。
ただ、そのシャディクが渡してくれた決闘での敵方の戦術予想とそれに対抗する策。第一回戦を単身で任されたイリーシャに渡されたそれに書かれていたのは紛れもなく"合体MS"という、イリーシャの常識の範囲内からは理解できないものだった。
すると尋ねられたシャディクは苦笑いしながら淡々と語り始める。
「まず前提として、ミオリネは一回戦に地球寮の三人組を出してくると思う。アイツはリスクをとってでもリターンを大きくする、思い切りのよすぎる傾向があるからね。先の決闘を考えると、アスムや水星ちゃんの足手まといにはなっても、助力にはならない地球寮組は後々に残さないだろう。彼等の相手をさせることでこちらの消耗を狙うはずだ」
ルールとして一度出場したパイロットは出てこないのだから。一人一人がエース級のグラスレーチーム。例えるなら序盤のLV1キャラにLV50のキャラを当てるようなもの。それでいて使ったキャラは再登板できないとなる。
この決闘をゲームのように見れば、いかに自分の手札を押さえて、相手の損耗を高めるかという駆け引きなのだ。
イリーシャも兵士さながらの軍事教練を受けた身、そこまでは理解しやすい。
「う、うん……それは私にもわかるよ」
「だがミオリネは一回戦を捨てて勝てると断言するほど、俺を舐めてはいない。ミオリネの理想は俺が一回戦をとるために二人でも三人でも投入して、なるべくアスムや水星ちゃんが一対一で戦える状況になることだけど……まあ、この通り俺に予想されているからね。こちらが一機だけを投入するという最悪のパターンも想定しているさ」
そしてその場合、ミオリネにはピンチとチャンスが同時に訪れる。
ピンチは二回戦など後の戦いで、数的不利な状況に勝ちを見込めるパイロットを放り込んでしまうこと。そしてチャンスとは、たとえエース級でも一人なら勝ちを拾えるワンチャンスが生まれること。
ただ後者を狙うとすれば、機体性能でも戦闘技能でも勝るグラスレー側のパイロットを、地球寮組で撃破する必要がある。
だからこそ……
「だからこそ、合体だ」
「………………えーっと、シャディク熱ないよね?」
シャディクは言い切り、イリーシャはそっとシャディクの額に手を当てた。しかしシャディクはといえば、
「俺はいたって冷静だよ?」
『むしろなんでわからないんだい?』というきょとんとした表情になる。シャディクの得てきたこれまでの常識からすれば、この予想は確実に起こりうる事態なのだ。
シャディクは至極まじめに、敵のロマンに染まり切った思考をトレースしていく。
「地球寮のチュアチュリーちゃんはなかなかの技能があるが、機体性能と本人の技能がかみ合っていない。イリーシャ相手なら数十秒も持たないだろう。他のメカニック科二人はもっと早い。
かといってロングロンド社にチュアチュリーちゃんがすぐに使えるハイエンド機なんてないから、デミトレーナーを戦えるレベルまでに強化するのが一番現実的かつ、こちらの意表をつける方法だ」
そしてその方法が
「合体なんだよ」
「…………うぅ、メイジー、シャディクがおかしくなっちゃった」
「いや、なんで半歩退いているんだい……」
これでも理解されないかとシャディクは考え、確かにそれもそうだと思いなおす。
なぜなら一般常識として三機を一機にまとめるというのは悪手に他ならない。戦いは数だよと有名な戦略家が叫んだとも伝わる。……が、今回に限っては別だ。
1/3人前が三人そろって、ようやく一人前になるという足し算。
「メカニック科二人も照準を合わせて引き金を引くくらいはできるだろうし、メインパイロットを視覚的に補佐することができるだろ? チュアチュリーちゃんもサポート付きで実力をいかんなく発揮できる状態になる。
つまりアスムのロマン主義とミオリネの現実主義のどちらも満たしている案なんだ。あの二人がやらない手はない」
そしてシャディクは三度断言する。
「だからこそ、合体だ」
「も、もしもし、医務室ですか……? えっと、グラスレー寮で診察をお願いしたいんですけれど……」
「どうしたんだい? 誰か風邪でも引いているのか?」
「う、うん……たぶん手遅れだと思う」
機動戦士ガンダム 水星の魔女
アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男
そして現在、イリーシャの目の前でガチャガチャとデミトレにパーツがドッキングして、ごつくでかく、なんとなくつよそうなスーパーデミトレーナーが組みあがった。
それはドッキングの時に謎の白煙を噴出している威圧感たっぷりだけれど、やっぱり顔はどこか愛嬌のあるデミトレーナーというアンバランスな姿。
なにより、シャディクが事前にイメージ図として示したものと全く同じ。
(ほ、本当にシャディクの予想が合ってた……けど、シャディク大丈夫かなぁ?)
数年前にチームの方針を大転換したときもシャディクの精神状態をめぐって仲間がそれぞれ心配したことがあった。特にサビーナは動揺して、あのロマン先輩と決闘したり入院したり、大変だったのだけれど……その後は仲間たちに良い変化も起きた。
だからこのシャディクの変化もほほえましいものだとは思うし、奇策まで予想してみせたことはリーダーとして頼もしい……のだが、それはそれでこのままロマンの深淵に潜らせても大丈夫かと心配になってしまう。
「と、とにかく、まずは決闘を終わらせないと……!」
イリーシャはおどおどしながら、カメラ向こうで気炎を吐いているチュチュと合わせて宣言する。
「勝敗はモビルスーツの性能のみで決まらず!」
「そ、操縦者の技のみで決まらず……!」
「「ただ、結果のみが真実……!」」
そして、
「うぉらあああああ! いくぜ、いくぜ、いくぜーっ!!」
『ひぃいいいい』
『こーなったら自棄だわなー』
チュチュの叫び、オジェロの悲鳴、ヌーノの諦めが混じった違法デミトレが爆炎を上げながらイリーシャに向かって突撃してきた。
それはまるっきり"あの"ヴィクトリオンと似通った戦術だが、向こうは外見もヒロイックでスーパーロボットじみているから絵になるのであって、こんな魔改造されたキメラなMSの突撃はただただ不気味で恐怖をかきたてるものでしかない。
なので、
「ひっ……! こ、こんな"変なの"と戦うのやっぱりむりだよぉ……!?」
元から引っ込み思案で自罰的なイリーシャは、チュチュの鬼のようなプレッシャーに押されて、涙目で逃げの一手を打った。
「あっ! こら、逃げんなっ!!」
「いやぁあああ……!」
チュチュの怖い声を尻目に逃げるイリーシャ。
そしてこの戦場は逃げに有利な地形だ。
都市部での対ゲリラ戦を想定しているのか、倒壊した建物や割れてねじ狂った道路など、遮蔽物はたくさん。
MSを動かすだけでも大変な地形だが、バランスがよく多局面で活躍できるベギルペンデの長所がイリーシャの優れた操縦テクニックによって活かされ、苦なく廃ビルや瓦礫の中をするすると流れるように移動していく。
その動きはまさに華麗の一言。
一方でチュチュのスパデミはと言えば、
「しゃらくせえええ!!」
ドンドンドン、と吹き上がる噴煙に轟音。どこぞのロマン男よりもなお乱暴に、膂力と火器を使って最短ルートで突進していくのだ。
猛牛の突撃でもまだ品がある。
しかしそれがチュチュの望みでもあり、このバランスが悪すぎるスパデミを運用する最適解でもあった。
装甲で膨れ上がった巨腕に取り付けられた大型ビーム砲を撃ちながら、チュチュは入学以来感じていたフラストレーションを解消していく。
元々、チュチュの気質的には接近戦が合っている。しかし貧乏所帯の地球寮にある機体は、現行機の二三世代は昔の型落ちデミトレーナー。チュチュが慣れない射撃の腕を育てて狙撃戦仕様にしていたのも、そうしなければ勝負の土俵にも立てなかったからだ。
しかし今回、ロマン男から悪魔の取引が持ち込まれる。
『思いっきりMSで大暴れしたくない?』
『のった……!!』
チュチュは即答だった。
その案こそがデミトレーナーにヴィクトリオンのパーツを無理矢理くっつけ、そしてオジェロとヌーノを両肩部にくっつけるという突拍子もない内容だが、チュチュは力を求める戦士。でかつよの欲求には耐えられなかった。
(はっ……! いいじゃねえか、この機体!! パワーが体に伝わってくる!!)
ヴィクトリオンのベース機自体も最新鋭機と比べると型落ちな一世代前の機体。だが、あのジェターク社を潜在敵と定め、一時期はその牙城を崩しかけた傑作機だ。
その二機分のスラスターが背面につき、装甲まで追加されているのだからパワーは十分。ボロボロの廃墟など拳一つで突き抜けることが可能だった。
「おらおらおら! いつまでも背中向けてんじゃねえ!!」
「ひゃあっ!?」
デミトレが太くなった腕で瓦礫を掴み、ベギルペンデへと向かって投げる。さらには全身に増えた重火器を撃ちまくり、暴れに暴れまくるデミトレーナーと、ぴょんぴょんと跳ねながらスマートに逃げていくベギルペンデ。
ついでにイリーシャはコクピットで涙目になりながらか細い悲鳴を上げており、これで追走側が男性パイロットであれば学園中のイリーシャ守り隊から命を狙われていたはずの犯罪的な光景でもあった。
永遠に続くとしたら、チュチュたちが有利な追いかけっこ。だが、それはできない。チュチュはこの機体のリスクを知っている。
(ちっ……! もうデミトレーナーにガタが出始めやがった!)
わかり切っていたことだが、ヴィクトリオン二機分の出力にデミトレーナーのフレームが耐えられるはずがない。イリーシャが逃げの一択を選択しているのも、その弱点に気づいているからだろうとチュチュは予想する。
「そりゃそうだとしか言えねえけど!」
元々がデリケートな操縦などできない魔改造品。このまま長期戦を挑まれたら、機体が自滅して終わりだ。
なので、チュチュは早々に決断した。
自分たちは有利な状況にあり、相手はどう見てもこちらにビビッて逃げまくっている。そしてこのまま自壊などでやられては、もったいない。
せめてやりたいことは全部済ませてから、勝敗を決めたいとチュチュは決めた。
機体の影響か、どこぞの先輩のようにロマンに身をゆだね始めたチュチュが叫ぶ。
「二人とも、あれやるぞ……!」
『『……いえっさー』』
男子二人の諦めの境地が入った声を聞きながら、デミトレーナーが両腕を前に突き出した。
そして展開していく装甲と、両腕の中に生まれる巨大な砲門。それはかつてスレッタとの決闘でロマン男がエアリアルへと打ち込んだヴィクトリーカノンの発展型。いや、二機分が合わさってそれよりもなお、でかくごつい。
「はっしゃよーい!!」
チュチュの号令でチャージされていくエネルギー。
凶大な威力ゆえに発射までのシークエンスは長いが、そこはメカニック科二人がカバーする。
「デミトレーナー、キャノンモードへ移行……!」
「パーメット循環オーバロード。ヴィクトリオンリアクター、一番、二番、直結……!」
砲門に体に悪そうな光がたまっていく。
「ランディングギア、アイゼン、ロック!」
「チャンバー内、加圧中!」
「ライフリング回転開始!!」
「「撃てるぞ!!」」
そしてチュチュが、不本意でも磨いてきた狙撃の腕を使って逃げるベギルペンデをロック。
叫びとともに引き金を押し込むのだ。
「スーパーデミトレキャノン、はっしゃああああああ!!」
瞬間、暴れ狂う暴風のように。
砲身すら焼き付かせながら発射された極太のビームは、周辺のビル群をさらに細かい破片に変えながらイリーシャへと向かっていく。
その光景に観客席ではイリーシャファンたちが血の涙を流しながらイリーシャの無事を祈り、シャディク以外のグラスレーチームは『いくらなんでもやりすぎだろ』と冷や汗を流し、オリジナルのヴィクトリオンのコクピットではバカが目を輝かせながら映像記録を撮っていた。
株式会社ガンダムの名誉のため、これでも決闘用のレギュレーションを守った出力であることは明記しておく。
そんな中で狙われているイリーシャはと言えば、コクピットの中で震えながら……
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……!」
ブツブツとおびえる女の子のようにつぶやき、
「こんなすごいの壊して、ごめんなさい……!」
そしてベギルペンデが、宙を舞った。
「…………は?」
その光景にチュチュが目を丸くする。
あと少しでビームに捉えられようとした矢先、ベギルペンデが腰を低くして高く高く空へと跳躍したのだ。それはあの全速力で逃げていると見えた時より速い。
バク宙の姿勢になり、反転した視界の中、イリーシャはなんども謝りながら
(シャディクの言ったとおりに……!)
冷静にチュチュのスパデミの頭部に狙いを定め、シャディクの指示を思い返す。
『ロマンに性能を振った機体、それもヴィクトリオンベースなら短期決戦以外に道はない。
チュアチュリーちゃんの性格上、接近戦での決着を望むだろうけど、その手には乗らず、まずはひたすらに逃げを選んでくれ。
そうすればいずれ、しびれを切らして大技を繰り出してくるだろうが……それこそが致命的な隙を生む』
そう、ここまですべて指示通り。
逃亡時は八割ほどにスピードをとどめ、敵が大技を繰り出した瞬間に全出力で離脱という、相手にベギルペンデのフルスペックデータがなく、どこが全出力かわからない状態だからこそのフェイント。
イリーシャを単身で向かわせたのも、臆病でありながら任務は完遂するという、イリーシャの特性を発揮するためのもの。これがサビーナやメイジー相手なら、チュチュもここまでテンションを上げずに警戒を続けていただろう。
そして……
「…………ごめんなさい」
イリーシャは静かに引き金を引き、ライフルの一閃がデミトレーナーの頭部を破壊した。
『第一回戦 勝者:グラスレー寮』
それを見た瞬間、チュチュはヘルメットを脱ぎ、悔しそうに全身を震わせる。
「はぁーっ! くそっ!!」
『しゃーねーよ、こればっかりは』
『善戦はしたほうじゃね?』
「ってもよぉ……!」
確かに当初想定されていたような瞬殺はなく、戦術試験区域に文字通りの大きな足跡を残すことができた。なにより暴れるだけ暴れることができたので、チュチュにとってもすっきりはした戦い。
だとしても負けは負けで、悔しい。
その克己心こそが、チュチュの強さでもある。
さらに、これはただの敗北ではない。
「次はぜってーリベンジしてやる……! ってことで、あーしも、やることはやっといたぜ! 社長!」
チュチュが悔しそうに連絡をした先、管制室でミオリネは冷静に頷き、次の指示を"二回戦の出場者"へと送った。
「上出来よ、チュチュ! 次は……任せたわよ、スレッタ!」
『はい、がんばります……!』
スレッタの気迫に満ちた言葉とともにコンテナがレールに乗って戦術試験区域へと出撃する。
二回戦の出場者はたった一名、スレッタ・マーキュリー。
それはある意味当然の選択だった。
一回戦で敗北することが高確率で予想されるなら、二回戦で確実な一勝を得なければ三回戦などやってこない。ここだけはどうしても負けられない戦い。
だからこそ、ミオリネは最強の懐刀であるスレッタに任せた。
だが問題はスレッタの対戦相手だ。
ミオリネは考える。
(最悪の場合、向こうはボイコットをしてくる……)
ルール上、相手をわざと不戦勝させるというのも反則ではない。無敵を誇るエアリアルに三機も四機も投入しても勝てるかどうかわからないのだ。ならば一勝を戦いもせずに株式会社ガンダムへと贈って、残る三回戦を
アスム・ロンド&エラン・ケレスVSシャディク・ゼネリ&グラスレー寮四人
という構図に持っていくこともできる。
(っていうか、私ならそうするわよ。あのバカもエランも優秀なパイロットだけど、エアリアルみたいに不可能を可能にするほどの力はないもの)
ただ……
(でも、アイツなら……)
ミオリネは一つだけ、確信していることがあった。
確かに勝つためだけなら、敵はこの戦術を選択してくる。
しかし相手のトップ、シャディク・ゼネリならば……と。
そしてその答え合わせはすぐにやってくる。
一足は早くにコンテナから出てきたエアリアルと、そのコクピットのスレッタは、反対方向からやってくる一機のコンテナを見た。
そう、一機。
エアリアルに対して一機だけ。
「っ……やっぱり、来たんですね」
スレッタが冷や汗をかきながら前方をにらみつける。
ゆっくりと開いていくコンテナの扉。その奥に眠っているのは、病的なほどの白に彩られた異形の腕を持つ機体。
『KP003、シャディク・ゼネリ……ミカエリス、出る』
そう敵は……シャディク一機。
その事実を認識してミオリネは眉を顰め、ロマン男は笑みを深くしながら
『漢じゃねえか、シャディク……!』
と呟く。
そしてシャディクはカメラ越しにスレッタと対面しながら言うのだ。
『宣言通りに奪いに来たよ、君から花婿の座を……。それで水星ちゃんは見つかったかな? 君が戦う理由を』
「はい……それが正解かどうかわからないけど。私がやりたいこと、ちゃんと見つけました……!」
『それなら結構。じゃあ言葉はもう不要だね。……始めようか』
『勝敗はモビルスーツの性能のみで決まらず』
「操縦者の技のみで決まらず……!」
「『ただ結果のみが真実……!』」
株式会社ガンダムの未来を賭けた、文字通りの決闘が始まった。