アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男   作:カサノリ

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54. 戦争と遊戯

『サビーナと付き合ってください♪』

 

 全校放送にレネのその言葉が流された時、一瞬だけ学園を沈黙が支配した。

 

 その直前までシャディクによる公開告白ver2が流されていたことで学生たちははしゃいだり、口々に噂を広げたりと興奮しきりであったのに、それがピタッと止んだのだ。

 

 しかし知る人は知っている。それが嵐の前触れだと。

 

 

 

「「「はぁああああああああああああああ!?」」」

 

 

 

 学園中から響き渡る大絶叫のツッコミ。

 

 それはとんでもないモノを見たという興奮から、ひそかにサビーナに恋をしていた男子の絶望の叫び、目が肥えたサビーナ親衛隊の『やっと来たか』という推しの幸せを願った歓喜の声やらなにやら。

 

 さらにその中には株式会社ガンダムチームの管制室でモニターを掴みながら取り乱す女子二人がいたりする。

 

 そんなモニターを超えて決闘の会場にまで響き渡る大爆音の中で、その当事者であるロマン男は目を白黒させながらレネに尋ねた。

 

「あ、あの、レネちゃん……つきあうってその……」

 

「えぇー、この期に及んで『買い物に付き合って』とかそういうことに解釈するなら、マジでロマンじゃないですよ? そのまんまの意味です、ロマン先輩♪」

 

「……ですよねー」

 

 言いながらアスムは頭を抱える。

 

 精神年齢十歳児。恋愛ごとには口では興味があると言っていたくせに自分がその当事者になるとはつゆとも思っていなかった男。

 

 それがとうのサビーナから告白されたわけではないという、奇妙な形で恋愛ごとに巻き込まれた結果。

 

『ぷしゅー……』

 

 直立不動で沈黙していたヴィクトリオンの頭部から煙があふれ、ポンと音を立ててブレードアンテナが吹っ飛んだ。

 

 第三回戦、アスム・ロンド敗北……なわけはない。

 

 

 

 機動戦士ガンダム 水星の魔女

 アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男

 

 

 

「どういうつもりだ、レネ……!」

 

 ヴィクトリオンの頭爆発という搭乗者の心理状態を表しているようなリアクションに学園が笑いに包まれる中、まったく笑い事じゃないサビーナが慌ててレネと回線をつなぐ。

 

 こんなことを言い出すなどとはもちろんサビーナは承諾していないし、そもそも、この恋心だって胸にしまって生涯明かすつもりはなかったのだ。

 

 だというのに、こんな場面で。

 

 しかしレネはと言えば、悪びれる様子もない。むしろ堂々とした調子で腕を頭の後ろで組むと、頭部の修復作業をしているヴィクトリオンの様子を楽しみながら言う。

 

「どういうつもりって、じれったいから尻叩いてやったのよ♪ だいたい、アンタが告るつもりなくても、知ってるやつはとっくに気づいてたんだから」

 

「なっ……!」

 

 サビーナが絶句する様子を横目で見て、レネはこっそりため息をつく。

 

 数日前に発破をかけて失敗した時から、この堅物な恋愛ヘタレを動かすには強引に行動するしかないとわかっていた。それがたまたま今日だっただけで、いずれレネはこうしていただろう。

 

 それにサビーナ本人は隠しているつもりでも、サビーナのファンクラブやらグラスレー寮生にはサビーナからアスムへの感情が向けられていることなど周知の事実だった。

 

 冷静沈着で、いつも鉄面皮。淡々と自分の役目をこなす美しくも鉄の女。

 

 それが対外的なサビーナであったというのに、あのロマン男と一緒にいる時だけは口の端を緩ませて少女のような微笑みを浮かべている。

 

 本人は無自覚だろうが、いつもの表情が氷点下の極寒だとすれば、アスムと並んでいるときは春の木漏れ日のような大きな違いだ。誰だって気づく。気づかないロマン男と気づかれていると思わないサビーナが鈍いだけだ。

 

 そんなサビーナの様子を見て、サビーナの過激なファンが『あのロマン男とサビーナ様が釣り合うわけない』などと燃え上がったこともあったが、ファンとは推しの幸せを望んでこそ真のファンという教義の元、意中の人と少しの会話の機会があるだけで上機嫌になるサビーナのいじらしい様子を見る中で『片思いしてるサビーナ様推せる』と方針転換していた。

 

 さらにシャディクがあんな公開告白してまで背中を押そうとしているのだ。

 

 周囲はとっくに『さっさと告ってくっつけ』モードに入っている。

 

 加えて、

 

「っていうか、サリウス代表からの命令、果たさないといけないんでしょ? なにかしらのアクションしておかないと言い訳もできないじゃない」

 

 サリウスからのアスム・ロンド篭絡命令が出ている以上、少なくとも接近しようという姿勢を見せなければサビーナの進退にも関わる問題。

 

 私的にも公的にも、逃げ道などとうにふさがっているのにサビーナの往生際が悪すぎた。

 

 これで本人が心底嫌がっているならレネ達だって妨害のために全力を尽くすが、本人は相手が好きすぎて手が出せないという、何度も言うがヘタレ極まる状態。

 

 むしろ背中を蹴り出さない理由がない。

 

(ま、アタシらの境遇もあるし、素直に言い出せなかった気持ちは分かるけどさ……。でも、アンタが惚れた男なら受け止めてくれるわよ)

 

 当のレネだって彼への恋心はないが、それでも政略結婚で御三家や他のベネリットの重役家系の誰かを選んで結婚しろと言われたら、迷わずアスム・ロンドを選択する。

 

 見かけはどこまでも能天気で、行動は奇人そのものだが、本質的には底抜けに優しく気のいい男性だ。女性に高圧的に接したり、身分が低いからと侮ることなんて想像もできない善人。

 

 それにシャディクの見るも無残だったハリネズミ状態を解消しただけじゃなく、シャディクとともに世界を変えようとしているのだ。

 

 自分でも、他の姉妹のような仲間の誰かでも、彼に託せるというのなら文句はない。

 

 そしてそれは、他の仲間も同じ。

 

「私もレネの意見に賛成。決闘条件はそれでいいわ」

 

「エナオ!?」

 

「あはは♪ サビーナもいい加減に覚悟決めなよ♪」

 

「お、おめでとう、サビーナちゃん……」

 

「メイジーにイリーシャまで……!」

 

 きっとこの様子を聞いているシャディクも、自分たちと同意見だろうとレネは確信している。

 

 むしろシャディクなどは自分が告白してしまったこともあるし、けっこうこの状況を楽しんでいるに違いない。

 

 だが、レネも分かっている。これはあくまで、第三者の余計なお世話。

 

 当事者たちが納得しなければ、この決闘が成立するわけがない。

 

 そして……

 

「……サビーナは、この条件のことどう思ってるんだ?」

 

 ヴィクトリオンの修理を終えたアスムがサビーナに通信してきた。

 

 まだ彼自身の中でもこの状況を咀嚼できていないだろうに、あくまでサビーナの意見を聞きたいという様子。

 

 それを聞くレネ達は苦笑いしながら、

 

『やっぱり、サビーナはいい人を選んだ』

 

 と思ってしまった。

 

 レネ達は客観的に自分たちの容姿が優れていることなど、これまでの半生でさんざん理解しているし、それがために不快な思いをしたことだって数知れない。

 

 『サビーナと付き合える』なんて決闘条件を出せば、男子の九割は二つ返事で飛び込んでくるだろうに、それでも少年はレネ達や学園の熱狂に任せるではなくサビーナの心に寄り添おうとしている。

 

 そして、そう問われた意味をサビーナが一番理解できているだろう。

 

 ここで逃げればアスム・ロンドは深入りしない。だけれど、進めば……

 

「私は……」

 

 サビーナは自信なさげに、口数少なく……

 

「私も、それで、いい……」

 

「……そっか」

 

 まだ迷いの中だと誰の目にもわかる状況。

 

 仲間の思いも、相手の気遣いも、そしてサリウスからの命令違反を公然と表明できないという状況も合わさった結果だが、同意は同意だ。

 

 すかさずレネは上機嫌を装って、アスムへと言う。無理矢理に告白の土俵に引っ張り出して、サビーナを同意させたのだから、最悪の場合はレネが調子に乗りすぎて迷惑をかけたという体で場を納めるためにも必要なこと。

 

 だから、

 

「それじゃあロマン先輩が勝った時のことも考えないとですよねぇ♪ うーん、レネが言いだしちゃったことですしぃ……」

 

 

 

「レネ達五人がメイドになってご奉仕しますね♪」

 

 

 

「「「「はぁああああああああああああああああああああああああああああ!?」」」」

 

 

 

 またも放たれた衝撃発言に学園の男子全員が怨嗟の声を上げた。

 

『レネちゃんと……!』

 

『エナオさんと……!』

 

『イリーシャちゃんに……!』

 

『メイジーちゃんも……!』

 

『『『『そんなことしたらロマン男、マジ〇す!!!!』』』』

 

 地獄のような声に、アスムも慌てるしかない。

 

「ちょ、ちょっと待て!? 俺はその条件は望んでないし……!」

 

「えぇー、レネ達じゃダメって言うんですかぁ……くすん、ロマン先輩がレネ達じゃご褒美にならないって言ってますぅ。……レネ、かなしいなぁ」

 

『『『『それはそれでロマン男、〇す!!!!』』』』

 

「どっちだよ、お前ら!?!?」

 

「珍しいな、キミがツッコミ側に回らされるなんて……」

 

「エラン、教えてくれ……! 俺はどうすればいいんだ……」

 

「笑えばいいんじゃないか?」

 

「笑える状況じゃねえだろ……!!」

 

「少なくとも僕はけっこう笑える」

 

 まだ決闘が始まっていないというのに既にわちゃわちゃと収拾がつかない状況。

 

 このままでは双方が条件を飲むまでに何日かかるかわからないという有様。

 

 だが、それが心底メンドクサイと思っている女帝もおり。

 

 

 

「もうどうでもいいから、その条件でさっさと始めなさいよ」

 

 

 

 とロマン男の生死などみじんも考慮しないミオリネの英断によって決闘の条件が整えられることになった。

 

 ヴィクトリオンの中で、改めてアスムはうなだれながら愚痴る。

 

「はぁ……どうしてこんなことに」

 

「真面目にやってこなかったからだろ。

 それで? サビーナ・ファルディンとのことはどうするんだ? さすがにお前が決闘に集中できないというのは僕としても困るんだけど」

 

「……まずはちゃんと決闘する。話はその後だ」

 

 言いながらアスムは肩をぐるぐると回し、手を組んでパキパキと鳴らしてから操縦桿を握る。

 

 顔を上げた時には、その瞳はらんらんと輝く妖怪のものに早変わり。

 

「よぉし! それじゃあ、行くぜエラン! よくわかんねえけど、ロマンのために!!」

 

「僕は平穏な学園生活を取り戻すために」

 

 そしてサビーナたちも。

 

「サビーナ、いける?」

 

「誰のせいでこうなったと……」

 

「それには百回くらい反論したいけど。なに、そんなに嫌だった?」

 

「…………私はどうすればいい?」

 

「終わった後のことは終わった後に考えろっての」

 

「そう、だな……」

 

 サビーナもまた冷静に心を落ち着けるために、目を閉じて一定のリズムの深呼吸。軍隊でも使われる精神安定のテクニックの一つだが、それをこなした時にはもうその表情は冷徹なものに変わっていた。

 

「全機、わかっているな。すべてはシャディクの勝利のために……いくぞ」

 

「「「コピー!」」」

 

 そうして四対二の全機体が揃い、代表してアスムとサビーナが画面越しに向かい合う。

 

 

 

「勝敗はモビルスーツの性能のみで決まらず……!!」

 

「操縦者の技のみで決まらず……」

 

「『ただ結果のみが真実……!』」

 

 

 

 フィックスリリース

 

 

 

 瞬間、サビーナたち四機は一斉にアスムの駆るヴィクトリオンへと向かった。

 

 当然ながらこの戦いの組み合わせもシャディクが事前に予想したものであり、特にロマン男の取るだろう行動は詳細に共有されている。

 

(ロマン君のことだから……)

 

(まずは初手で……!)

 

(大爆発♪)

 

 そしてその言葉の通りに、

 

「必殺! ロケットパァアアアアンチ!!!!」

 

 雄たけびと共に発射された右拳が、向かってくるベギルペンデの手前に着弾。瓦礫を吹き上がらせるほどの勢いで爆発した。

 

 だが……

 

「やっぱ、みんなすげえな……!」

 

 アスムが牙をむき出しにして笑う。

 

 砂煙の向こうから飛び出してきたベギルペンデに隊列や動きの乱れは一つもない。

 

 初手のけん制目的かつエランのファラクトが上空に飛び出すまでの時間稼ぎだったが、動揺の一つも引き出せなかったことに、改めてこの女子たちが一流のパイロットであることを認識する。

 

 先頭になって盾を構えたサビーナが言う。

 

「フォーメーション、g-24!!」

 

「「「コピー!」」」

 

 ベギルペンデの大きな特徴として、その全身を覆い隠せるほど巨大な盾がある。

 

 縦一列。それぞれがお互いを被弾からかばう様に盾を配置させれば、突撃形態の完成だ。

 

 アスムもビームライフルを構えて撃ち込んでいくが、あっさりと盾にはじき返され、接近を許してしまう。

 

「ロマン先輩、もーらいっ!」

 

 そして接近した瞬間、四機は一気に散開。すべるようにヴィクトリオンの四方を囲むと、背後を取ったレネが一息にそのブレードアンテナをサーベルで切り落とそうとして……

 

「頼んだ、エラン……!!」

 

 ロマン男が叫びながら地面に向かって打撃。ヴィクトリオンの大質量で撃ち込まれた廃墟ビルにはぽっかりと穴が開いて、そこからスポッとヴィクトリオンが下へと逃れる。

 

 空振りとなったレネの攻撃。そこへお返しとばかりに……

 

「……ターゲット、ロック!」

 

 上空で巨大な大口径ライフルを構えたエランのファラクトが、極太のビームを発射した。

 

 試作型バスタービームライフル。

 

 なぜかロマン男が『綺麗で美しい機体にはごついビームが似合う』と言い張って開発された、ファラクト・ブランシュの新装備。

 

 それはグラスレー四人がいる地点を根こそぎ破壊するほどの威力で襲うのだが……

 

「散開!」

 

「「「コピー」」」

 

 これまたシャディクがそこまで読んでいたので、着弾の前に避難することに成功する。

 

 初手はお互いに必殺とならないが、それまた互いが理解していたことだ。

 

(……あのファラクトの機動力と、それによってイニシアティブをとられながら撃たれる大火力、やっかいだな)

 

 サビーナは冷静にファラクトの脅威を推定する。

 

 一方でMSサイズに積める推進剤には限度があり、重力下戦闘では短期的にしか飛行できないと弱点も看破していた。

 

 エランの役目は密集して動くサビーナたちを散らして、各個撃破させるための下ごしらえと言ったところだろう。

 

 その各個撃破の役目をもつヴィクトリオンが初手ロケットパンチで右手を喪失している状況だが……

 

「はーはっはっは! ふっかーつ!!」

 

 ビルを蹴飛ばして出てきたバカの機体にはなぜか右手が生えていた。

 

「こんなこともあろうかと、今日は予備パーツを背負ってきたんだよ!!」

 

 自信満々の言葉に『そもそもパンチを飛ばさなければいいだろ』というのはロマン男以外の全員が思った感想である。

 

 だが、この状況をロマン男も冷静に考える。アスムの頭は情熱で爆発しながらも、思考はクリアだ。いつでもロマンできる瞬間を見逃さないようになっている。

 

(初手ロケットパンチも、エランの空中からの一撃もマジで読まれちゃってるなぁ。さすがマイフレンド……どこまで読んでる?)

 

 開戦前にいろいろと考えていたプランはある。

 

 背負ったバックパックの中にはまだロケットパンチの残弾がいくつかあるし、そうでなくてもびっくりどっきりな仕掛けも準備済み。

 

 だが……

 

「やーめた」

 

 アスムはその用意していたプランを全部捨てた。

 

(あいつは俺のことを全部わかってる。そのつもりでやるしかない。その上で、シャディクが予想しなかった方向から崩す!)

 

 そのためにも……

 

「さあ、こい!!」

 

 ヴィクトリオンは向かってくる四機に対して、仁王立ちになった。

 

 一応構えているにはいるが、漫画のように見栄だけある実践的じゃない構え。それを見ていぶかしむ四人だが、そこに罠を予想するほどの危機は感じない。

 

「あのバカは……! そんな無防備に……!」

 

 むしろ慌てたのはエランだ。

 

 アスムに早々にリタイアされたら四人相手に勝てるわけもなし。だというのに隙だらけなアスムを援護するためにバスターモードから通常モードに変形させたビームで攻撃を行うが、それは巧妙に盾で防がれ、通らない。

 

 先ほどと同じ縦列形態になったベギルペンデが盾の隙間からライフルを構えてヴィクトリオンを狙撃しようとする。

 

 しかし、

 

「よっと……!」

 

「なに……?」

 

 背部のブースターを吹かせたヴィクトリオンが大きくジャンプをして、先頭のサビーナ機の盾を踏み台にしながら後方へ避けた。

 

「ハハハハ! ジェットストリームアタックなら、攻略法は分かってんだよぉ!!」

 

 高笑いするロマン男。

 

 一方で、

 

「ジェット……って、なんのことかわかる?」

 

「どこぞのアニメで知った用語だろう」

 

「ロマン君、そういうとこあるよね」

 

「っていうか、そういうとこしかないし!」

 

 ガールズ四人は意味が分からず訝しむばかり。だが、そのアニメ知識で避けられてしまうならば陣形を変えるだけだ。

 

 なのに、そうはならない。

 

「包囲して切り崩す……!」

 

「知ってるぞ! 旋回活殺自在陣……!」

 

 四人で包囲して順番に切り込んでいけば、なぜか喜びながら避け。

 

 一機が突撃した影にもう一機が隠れて迫れば、

 

「フォーメーションヤマトだ!!」

 

 とまたも喜ぶ。

 

 最後には十字陣形を取ったサビーナたちを指さしながら、

 

「インペリアルクロスだ! インペリアルクロス! 初めて見た!!」

 

 と機体をジャンプさせながら大喜び。

 

 一事が万事そんな調子なものなので、

 

「「「「真面目にやれーっ!!!!」」」」

 

 サビーナたちは自分たちの攻撃を避けまくる妖怪にそう叫んだ。

 

 彼女たちもバカの戦術意図は分かる。

 

 サビーナたちがアスム主体の攻撃を読み切っていると判断しての、徹底的な受けの姿勢。

 

 だが、こんな風に相手が理解できない用語を嬉々として叫びながら、あの鈍重なヴィクトリオンで巧妙に避けられると、もうプランも何もあったものではない。

 

 今の現状を旧世代の人間風に言うならば、残り一名で四方を囲まれたドッジコートの中、やたらとうまいよけ方をする子が残っているようなもの。

 

 決して機動兵器に乗って戦っている人間がすることではなかった。

 

 だけれど、

 

「……ぷっ」

 

「あはは♪ ロマン君ってほんと……!」

 

 レネがたまらずといった調子で、次いでメイジーが口を開けて笑い出してしまう。

 

 だって彼女たちにはおかしくってたまらない。

 

 自分たちが攻撃に使っているのは、グラスレーのアカデミーで叩きこまれた軍隊の戦術だ。人を傷つけ、あるいは殺すことを目的にしたものだ。

 

 だというのに、それをかっこいいアニメの技か何かのように妖怪は言い、見るだけで喜びながらはしゃいでいるのだ。

 

 それが自分たちが血も涙もない兵士ではなく、クラスメートと遊んでいるただの学生のように思えさせてくれて。

 

「ロマン君を見てると……なんだか楽しくなるよね」

 

 エナオさえが微笑みながら言った言葉が、きっと彼女たちの代弁。

 

 彼の前では立場も何もない。スペーシアンもアーシアンも、孤児も、ハーフも何もかも関係がない。彼には自分たちもロマンを目指している友達にしか見えていない。

 

「…………そうだな」

 

 サビーナは思う。それがどれだけ自分たちにとって救いなのかを彼はきっと知らない。

 

 そして知らないからこそ、何一つ打算や裏表がないからこそ自分はここまで……

 

「だとしても、勝利は譲れないわよ」

 

「うん♪ シャディクのためにも」

 

「ここであっさり負けたらロマン先輩的にもつまんないだろうしね♪」

 

「ああ……次で決めるぞ」

 

 四機は今度こそヴィクトリオンを倒すべく新たにフォーメーションを組んで仕掛ける。

 

 これまでの動きで、アスムがどう避けるかも大方予想はついていた。あとは、その隙も無いほどに猛攻をすればいいだけ。

 

(これで……!)

 

 スーパーロボットに迫る、リアルロボットという名の兵器。

 

 それは容易く、リアルという敵の土俵に紛れ込んでしまったスーパーロボットを駆逐する……はずだった。

 

「いまだ、エラン!!」

 

「まったく、こんな手をよく思いつくよ! このバカ!!」

 

 アスムとヴィクトリオンが位置どっていた大きな廃墟の後ろから、エランの声。

 

 瞬間、あの初手の狙撃に使われた極太のビームが廃墟を両断した。

 

(なっ……!)

 

 サビーナたちはあまりのことに絶句する。

 

 そもそも、ファラクトが撃ったビームはこの大きな廃墟を崩すほどの威力ではなかったはず。しかもサビーナたちよりもこの状況でピンチなのは、倒れるビルの根元にいるヴィクトリオンだ。

 

 あくまで決闘用のステージであり、MSが潰されることはない程度の強度の廃墟だとしても、この一手が打てるはずがない。

 

 けれどもそこで、サビーナの脳裏に一つの光景が浮かんだ。

 

(まさか、一戦目の……)

 

 あの合体した巨大デミトレーナーが放ったもっと極太のビーム。それは確か、このあたりで放たれて周囲の障害物に大きな爪痕を残していたはずだと。

 

 その攻撃で崩壊寸前だったビルを選んだ……いや、違う。わざと使えるように準備していた。

 

「さあ、ここからは俺のステージだ!!」

 

 そしてそのチャンスを作ったヴィクトリオンとアスムは、瓦礫が流星群のように降り注ぐ中、重MSの面目躍如とばかりに突撃を敢行する。

 

 多少の瓦礫なんてヴィクトリオンの装甲の前には意味なんてない。ここまで避けの一手をとっていたうっぷんを晴らさんと全身をビカビカに発光させながらの大爆走。

 

 ヴィクトリオンは両腕からアンカーを発射すると、まずは面食らっているメイジー機に取りつき、

 

「きゃあっ!?」

 

 忍者さながらの動きですれ違いざまにブレードアンテナを切断した。

 

 軍隊仕込みの教練でも、こんな瓦礫の雪崩のような状況は想定していない。それが対処を遅らせたのだ。

 

 さらにアスムはレネを目掛けて再びアンカーを出してターザンのように接近、

 

「このっ……!」

 

 レネはビームライフルで応戦するが、土煙と瓦礫に阻まれ狙いが定まらない。それでも射撃と瓦礫を避けながらの後退を同時に成し遂げたのはさすがの腕前と言ったところだ。

 

 だが、この状況ではもう一つ、意識しなければいけないものがあった。

 

「もらったよ……!」

 

「エラン・ケレス……!?」

 

 唯一、地形の影響を受けない上空から、そして彼が最も得意とするスナイプ攻撃。

 

 バスター、ノーマル、スナイプという無駄に三段に変形するビームライフルを用いての攻撃が、レネを戦闘不能に追い込む。

 

 そして残りは二機。

 

「……サビーナは下がって!」

 

「エナオ!?」

 

「ロマン君とちゃんと話したいでしょ?」

 

「っ……」

 

 エナオはそう言い残すと、土煙に紛れてファラクトへと挑んだ。

 

 レネを見事なスナイプで撃墜していたが、それがファラクトの最後の攻撃だったのだろう。

 

 見るからに飛ぶのが限界という様相。あんな高出力ビームを何発も撃ったり、空中にずっと飛んでいるからそうなるのが自然だ。

 

 そして倒れこむビルを駆け上がるようにベギルペンデはしなやかに動き、

 

「サビーナの邪魔はさせないわよ」

 

「まったく、君たちはおせっかいだね」

 

 ファラクトの頭部を射撃。

 

 そのブレードアンテナを破壊するのだが、そこまで。

 

「ロケット……パァああああンチ!!」

 

 眼下から飛んできた漆黒の質量弾が頭部をえぐるように破壊して、エナオ機もリタイアとなった。

 

 ずん、と音を立てて倒れこむ廃墟。

 

 そこから抜け出して、埃だらけ装甲を堂々と見せびらかすようにロマン男と愛機が姿を現す。

 

 ロマン男はふぅと息を吐くと、まっすぐにサビーナを見ながら言う。

 

「なんかいろいろあるし、俺も全然理解できてないけど……勝負はシンプルだ」

 

 第三回戦、

 

「さあ、タイマン張らせてもらうぜ? サビーナ」

 

 最後の一対一。




水星の魔女がクライマックスに向けて収束し始めましたね。

もっと投稿ペースを増やしたい……!

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